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時太山の死因は高Kって本当? [医療記事]

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今、メディア報道は、時津風部屋へのバッシングで賑やかだ。 まあ、メディアはどうして飽きもせずにこうもバッシングが好きなのだろうとただ呆れるばかりである。もちろん、暴行行為は、許されるものではなく、私自身も時津風部屋で行われた集団暴行行為をかばうつもりなんかはさらさらない。 ただ、この一連の報道で一点気になることがある。それを本日のエントリーにしてみたいと思う。今回は、時太山の死因について、複数の報道情報をもとに、自験症例の実際のデータと照合して、私なりの考察を加えてみたいと思う。

まずは、時太山の死因として、最もそれらしく書いてある報道記事を引用しておく

力士急死、前親方も傷害致死容疑 前夜の暴行が主因か
2008.01.01 東京朝刊 38頁 2社会 (全1,094字) 

大相撲・時津風部屋の序ノ口力士斉藤俊さん(当時17)=しこ名・時太山=が名古屋場所前の昨年6月26日、愛知県犬山市でけいこ後に急死した事件で、斉藤さんの血液から致死量のカリウムが検出されていたことがわかった。
カリウムは筋肉中に多く含まれ、打撲など強い衝撃で血中に流出して心停止を引き起こすが、蓄積には一定時間がかかるという県警は、前時津風親方=元小結双津竜、本名・山本順一=がビール瓶で殴ったことが発端で始まった兄弟子による死亡前夜の暴行が死亡の主な原因とみて、兄弟子とともに前親方も傷害致死容疑で立件する方針を固めた。カリウムのデータは、名古屋大の再鑑定で新たに死亡との因果関係が着目された。県警は死に至るプロセスが解明できたとみており、名大に依頼した組織の再鑑定の結果を待って本格的な捜査に着手する方針だ。調べでは、斉藤さんの血液は6月26日、救急搬送先の病院で採取された。血中のカリウム濃度を示す血清カリウム値は7・3だった。通常値は3・5~5程度で、7以上で不整脈や心停止が起きる。血液からは筋肉の破壊で現れる酵素、クレアチンキナーゼも通常より多く検出された。この症状は高カリウム血症と呼ばれ、外傷分野の専門家によると、ビルから落下して全身を強く打ちながら出血が乏しかった場合などに発症。暴行によっても、非常に強い打撃を繰り返し受ければ起きるという。これまでの県警の任意の調べに対し、前親方と兄弟子らは25日の暴行は認めたが、26日は「通常のけいこだった」と制裁目的を否定している。斉藤さんが病院に搬送された際には、半日以上は経過したと見られる内出血が、体表の広い範囲で確認されたという。カリウムのデータなどで、25日の暴行が相当に強い力で繰り返し加えられ死因となった疑いが強まったことから、県警はこの行為に傷害致死容疑が適用できるとみている。遺体の状況からは、26日の外傷が追い打ちとなり死に至った可能性が高い。県警は目撃証言や他部屋への聴取から、26日もけいこの範囲を超えた暴行があったとみている。県警は昨年7月、斉藤さんの体の組織を新潟大に出して鑑定した。同大の鑑定結果では、死亡前日と当日のいずれの打撲が死に結びついたかが特定されなかったため捜査が難航していた
 ◆キーワード
 <高カリウム血症> カリウムの濃度は腎臓が調節するが、限界を超えると徐々に血液内に蓄積され、致死量に達すると心臓が止まる。一見してわかる顕著な兆候はなく、突然死亡したように見えるとされる。高カリウム血症は多くの場合、発症までに数日間かかるが、打撃が強く広範囲にわたれば半日程度で発症するケースもある。         朝日新聞社

こんな報道です。多くの人は、ふ~んという感じで、この報道にうなづいてしまうのではないだろうか?その一方で、救急医療の現場で、心肺停止患者を診療した経験を多数持っている医師の立場からは、あれ?おかしいよ、これ~と感じているのではないだろうか?

もしかしたら、警察サイドが、なんとか犯人に仕立てあげたくて、強引な医学的こじつけをしたのではないかと私は勘ぐっている。 メディア報道の姿勢は、警察発表とあらば、批判や中立精神に立つことはなく、それはそれは喜んで、無批判にそのままうのみにして報道するという姿勢ではなかろか。そういう報道者たちの姿勢は、松本サリン事件において、河野さんをひどく傷つけることになってしまったことは記憶に新しい。(参考図書 報道被害:岩波新書

それでは、この記事の医学的におかしいところを順次解説していこう。
そのためには、2007年6月26日における時間経過をできる限り明らかにしておく必要がある。複数の報道ソースを示しておく。

午前11時10分ごろから兄弟子とけいこを始めたという。約30分後に土俵上で倒れ、しばらく近くの通路で寝かされていたが、様子がおかしいことに気付き、午後0時50分ごろ、119番通報した。病院に運ばれた際には心肺停止状態だったという。
<毎日新聞 2007.09.26 東京夕刊>

斉藤さんは
心肺停止状態で搬送され、緊急蘇生を施したが、間もなく死亡が確認された(中略)愛知県警からは死体や現場の状況、関係者からの事情聴取、CT・レントゲン検査、医師の意見をふまえ、虚血性心疾患の疑いと判断したとの報告があった。
<週刊朝日 2007.10.19>

当日の張り手などの激しいけいこが心臓停止につながったと考えられるが、直接の死因は特定できなかったという。(中略)斉藤さんは二十六日午前に約三十分間、兄弟子の胸を借りたぶつかりげいこの最中、土俵で倒れ、同日
午後二時十分、病院で死亡が確認された。
<共同通信 2007.6.28>

犬山市消防本部によると、斉藤さんは26日
午後1時15分ごろ病院に運ばれたが、心肺停止状態だった。
<朝日新聞 2007.10.15 東京夕刊>

以上のソースを元に、ようやく時間経過がつながった。

11:10 けいこ開始
11:40 土俵上で倒れた       (0分経過)
12:50 119番通報          (1:10経過)
13:15 心肺停止状態で病院着  (1:35経過)
14:10 死亡確認           (2:30経過)

この事例は、いわゆる院外発症の心肺停止(CPA)患者のケースに該当する。この経過において致命的な経過時間がある。それは、倒れてから119するまでの1時間10分という経過だ。この1時間10分という経過だけでもって、まず蘇生の可能性がないとわかる症例だ。人間の体は、心肺停止状態になった瞬間から、確実に死後の変化が始まる。その初期兆候として次のような現象がある。カリウム値の上昇だ。死後、各細胞が崩壊し始め、その結果、細胞外(血液中)にカリウムが移動することで、血液中のカリウム値は高値となるのだ。一方、ナトリウムは、細胞外の方が細胞内より圧倒的に多量に在るので、初期の細胞崩壊では、さほど値は動かないと考えられる。

時太山の場合、上記時間経過からすると、119番通報した時点で、相当の細胞崩壊がすでに始まってしまっていた状態と考えられる。つまり、時太山関が、それより前に暴行を受けていようが受けていまいが、それとは、関係なしに、カリウム値が異常高値を示すのは、ある意味当然といえる。以上をふまえて、もう一度、報道の中の次の主張を考えてみよう。

カリウムのデータなどで、25日の暴行が相当に強い力で繰り返し加えられ死因となった疑いが強まった

上記経過時間と早期死体現象の面から考察からすれば、これはとても論理的とはいえない主張だ。こんな見る人が見ればすぐばれてしまうような主張さえしてでも、とにかくなんとしてでも、犯人を作りたいとする警察の強引な意図が見え隠れする。もしそうとするならば、この国は何かおかしくないだろうか?あるいは、報道側が、警察発表の一部だけを強調して、こんな騒ぎ方をしているのだろうか?例えば、警察は「可能性の一つとして高Kもあるかもしれない」と発表したにも関わらず、メディアが勝手に「高Kが原因だった」と騒ぎ立てるという構図だ。そんな可能性もありそうな気もする。

繰り返すが、私は暴行行為を容認しているわけではない。暴行と死亡の因果関係をあまりに短絡的に結びつけてしまっていることを問題にしているのだ。

もし、時太山が、ARVDだったら? もし、時太山が、Brugadaだったら? もし、時太山山が、QT延長症候群だったら? もし、時太山が、たこつぼを発症したことによる致死的不整脈だったら?、もし、時太山が、張り手による心臓震盪だったら?もし、時太山が、Bland‐White‐Garland症候群だったら?

こんな原因は、鑑定で否定されているのでしょうか? おそらく上記すべての完璧なる否定は無理であろう。

では、今から、私の主張を補強するための、データを提示する。当院で、経験した院外発症のCPA症例を11例調べてみた。時太山の時間経過に近い症例をA群としてまとめてみた。一方、K値変動のキーとなりえる倒れてから蘇生処置をするまでの時間が短いものを対照としてB群としてみた。

その結果を以下に表にする。

<報道から推定する時太山関の病院搬送までにいたる時間経過>

 死因KCPKNa最終生存確認から119するまでの時間119覚知から病院到着までの時間
時太山??7.31:100:25

<当院CPA症例におけるカリウム(K)値の検討>

 死因KCPKNa最終生存確認から119するまでの時間119覚知から病院到着までの時間
A群 <急変対応(119要請)まで時間を要した群>
症例1不詳1314341520:390:24
症例2不詳7.319611411:290:20
症例3不詳7.32521471:000:24
症例4不詳92281370:480:38
症例5不詳9.11651343:030:22
症例6不詳7.95731561:430:27
 平均8.9768.8144.51:270:25
B群 <急変対応(119要請)が速やかに行われた群>
症例7AMI513521420:180:31
症例8AMI6.1911430:000:22
症例9不詳5.41041410:050:32
症例10不詳5.72771430:040:39
症例11不詳5.7731420:060:27
 平均5.58379.4142.20:060:30
       
t test P0.0040.181 0.286 0.0040.143

いかがであろうか? 時太山のカリウム値7.3は、同じような心肺停止患者(A群)の状況として当たり前の値であることがわかる。それでも、筋坐滅が主因と主張したいなら、A群の平均値をはるかに越えたびっくり値であることが必要条件だと私は思う。だから、このカリウム値を、坐滅症候群の結果としての死亡原因に求めるのは明らかにおかしいと私は主張する。A群とB群を比較してもらえれば、カリウム値は、倒れてから急変対応までの時間に大きく規定されているのがデータから伺える。

<結論>
時太山の高K血症は、死後の現象とみなす方が妥当


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墨東病院の報道について [医療記事]

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墨東病院は、石原都知事の東京ER構想において、その指定病院の一つです。ERの運用には、種々の問題は当然ありますが、日本救急医学会においても、その診療システム運用に関して学会発表などもなされています。救急診療においては、activityの高い病院と私は認識しています。

そんな墨東病院がメディア報道の風評被害にあうかもしれません。そんな報道がなされています。 

前エントリーのコメント欄で話題に上がったこともありますので、墨東病院の例の報道記事を今日は取り上げてみます。

メディア報道は、事実を的確に報道するものとは限りません。そもそも生情報には、何らかの加工が必ず行われます。当然そこに、各社の担当者の意図が必ず介入します。そうしてメディア報道情報ができるわけですから、加工者の意図一つで、報道印象はどうにでもなるわけです。多くの大衆を意図通りに誘導できる可能性が常にあるわけです。医療情報の場合、私達医療者からみて、極めて不適切な情報が流されることが多いとはっきりといっておきます。もちろん、報道者側の無知、無理解もあるでしょう。裏取引的な政治的かけひきもあるでしょう。ときには、悪意もあるでしょう。

メディア情報は、つねに疑義の目をもって接すること。

不適切な報道のために、メディア・リテラシーの未熟な方々が医療に対して変な誤解をしないように我々医療者は、我々からの視点を、少しでも伝え続けなければなりません。

そうしないと、医療者と患者の溝が、メディアのせいで、どんどん深くなっていくからです。

例の墨東病院の報道4つを並べてみます。

朝日はまあまあ。産経は、なんだか残念そう。最悪は、TBSです。医師の診療行為と死亡との因果関係は、密接でないという、墨東病院の名誉を保つべき一番重要な情報が抜けています。これは、意図的に抜かしたのでしょうか?不本意ながら抜けたのでしょうか? 少なくとも1月29日にTBSから追加記事がネットには上がっていません。だとすれば、やっぱり意図的? と見えてしまいます。このTBSのニュースをテレビで見た人は、どう感じるでしょうか? 

もし、本当に直接利害関係にある方々が、このTBS報道で実際的な不利益を受けた場合には、是非、BPO(放送倫理・番組向上機構)に訴えてください。

(1)朝日  http://www.asahi.com/national/update/0129/TKY200801280446.html  魚拓

「血腫見落とし」、過失は認めず 墨東病院、帰宅後死亡 2008年01月29日01時10分

 頭をけられた男性が東京都墨田区の都立墨東病院で診察を受けて帰宅した後、容体が急変し死亡した事件で、警視庁は28日、診察したいずれも31歳の男性研修医2人について「脳の血腫の見落としはあったが、たとえ入院させていても救命は非常に難しく、
医療行為上の過失は認められない」と判断したと発表。書類を東京地検に送った。死亡したのは江東区大島8丁目、作業員佐藤実さん(59)。捜査1課などの調べでは、医師2人は昨年10月22日夜、佐藤さんの頭部のエックス線検査で急性硬膜下血腫の所見を見落とし、帰宅させた。1週間後に再出血し同病院に入院したが、同月31日死亡した。

(2)産経 G-searchより検索

作業員の受診後死亡、医師立件は困難 警視庁 2008.01.29 東京朝刊 25頁 首都 (全238字) 

 〈東京〉中央区のマンション建築現場で昨年10月、社長に暴行された作業員が受診した約1週間後に 死亡した事件で、医師の診察ミスが死亡につながった疑いもあるとみて捜査していた警視庁は28日、ミスはあったが死亡を防げなかったと判断、立件困難とする捜査結果を東京地検に送付した。調べでは、佐藤実さん(59)は10月22日夕、社長の鎌倉孝之被告(28)=傷害致死罪で起訴=にけられるなどし、31日に死亡。暴行当日に病院で診察を受けたが男性医師(31)らが
急性くも膜下 血腫を見落とし。 
産経新聞社

(3)TBS(動画あり)  http://news.tbs.co.jp/20080128/newseye/tbs_newseye3765434.html   魚拓

脳内出血見落とす、医師ら書類送検へ

去年10月、建築会社社長の男が部下の男性の頭を蹴り上げ死亡させた事件で、警視庁は、男性の
脳内出血を見落としたとして、担当した都立墨東病院の医師2人を28日午後書類送検する方針です。業務上過失致死の疑いで書類送検されるのは、都立墨東病院のいずれも31歳の男性医師2人です。この事件は去年10月、中央区勝どきのマンション建設現場で、建築作業員・佐藤実さん(当時59)が建築会社の社長・鎌倉孝之被告(28)に頭を蹴り上げられ死亡したものです。佐藤さんは頭を蹴られた後、都立墨東病院で治療を受けましたが、調べによりますと、この時担当した男性医師2人は、佐藤さんの頭の中に出血があったのを見落としたということです。佐藤さんは1週間後に異常を訴え、手術を受けたものの、硬膜下血腫で死亡しました。(28日11:42)

(4) 昨年12月の時点での記事  朝日 G-searchより検索

東京・中央の建設現場で暴行うけ受診後、容体急変し死亡 病院からも事情聴く
2007.12.03 東京夕刊 15頁 1社会 (全458字) 

建設現場で作業員男性をけって死なせたとして、警視庁は3日、建築会社長の男を傷害致死の疑いで逮捕した。男性は直後に東京都墨田区の都立墨東病院で受診したがそのまま帰宅し、その後容体が急変し、9日後に死亡している。同庁は担当医師らから事情を聴くなどして、病院側の対応についても調べている 。調べでは、男は千葉県市川市南大野1丁目の鎌倉孝之容疑者(28)。10月22日午後4時ごろ、中央区勝どき6丁目の工事現場で、作業員佐藤実さん(59)=江東区大島8丁目=の頭をヘルメットの上 から安全靴でけりあげ、死亡させた疑い。容疑を認めているという。調べや墨東病院によると、佐藤さんはその夜、自ら通院。「頭を靴でたたかれ、痛い」と訴え、
CTスキャンやエックス線検査を受けた。数日後、皮膚の病気で別の病院に入院した後、容体が急変。29日朝 に墨東病院に搬送され、脳の血腫を取り除く手術を受けたが、31日未明死亡した。同病院によると、22日の来院時、救急診療科の男性医師2人が診察。医師らは「血腫はなく特段の問 題はない」と判断し帰宅させたという。  朝日新聞社

これらの情報筋から、時間経過をまとめて見ます。

10月22日 16時  頭部受傷
         夜   墨東病院受診  CT、X線検査 ⇒帰宅
                <事後的に見てこのときの所見>
                  ・急性硬膜下血腫?
                  ・異常なし?
                  ・(外傷性)くも膜下出血?
                  ・脳内出血?

10月2X日      皮膚疾患治療のため別の病院に入院
         ?時   急変

10月29日  朝   墨東病院へ転送され、硬膜下血腫の手術

10月31日  未明  死亡

さて、医学的な因果関係を考えて見ましょう。 なんだか不自然です。

急性硬膜下血腫にしては、急変までの時間が長すぎるような気がします。 脳外科の先生方いかがでしょうか?
参考エントリー:あなどれない頭部打撲

では、外傷性くも膜下出血だったら・・・・・。軽微なものは、確かに救急の現場で、後出しで指摘を受け、「あっ、しまった」ということは、比較的多くあります。 しかし、その場合は、その程度の出血なので、内因性のくも膜下出血と比べて、再出血が怖いというものではありません。 軽微な外傷性SAHは、保存的に様子をみます。だとすると、やはり、これでも、急変との時間的因果関係がすっきりしません

もしかしたら、10月2X日、急変の直前に、新たな外傷のエピソードがあったのではないでしょうか?
それに誰も気がついていないのではないでしょうか?そんな可能性が私の頭をよぎりました。

でも、それならば、本人の申告があってもいいですよねえ? 
ということで、もうひとつ、違う仮説を立ててみます。 

その仮説を述べる前に、悲しい症例をお伝えします。

4歳 女児  頭部打撲後のレベル低下

生来健康。問題なく生育していた4歳女児。2歳の弟がいた。 二人が自宅でじゃれあって遊んでいた。その際、おでこ同士がゴツンとぶつかる”ごっつんこ”の出来事があった。受傷直後、少し痛がっていたがまた遊びだしたという。その後ほどなくして3回ほど嘔吐が出現した。さらに3時間後、うとうとしだして様子が変と感じた両親が救急車を要請した。 来院時の意識レベルはJCSのⅡ群だった。 その女児のCTである。

小脳出血である。 とても今回の受傷機転程度で生じる出血ではない。では、何があるのか? 実は入院後に、女児は、もやもや病であったことが判明した・・・・・・。 残念ながら女児は死亡した・・・・・・。

さあ、死亡と外傷の因果関係はいかがですか? 仮にこれが、保育所での出来事であったならなら、”ごっつんこ”を回避できなかった保育所の管理監督責任でしょうか? 場所が自宅でなければ、マスコミが飛びつきそうな記事になりそうです。なんか割り切れないですよね。

つまり、物事の因果関係は、必ずしもシンプル、つまり一対一ではないのです。この女児の場合は、死亡原因の主因はもやもや病です。たしかに、原因の副因としては、軽微な外傷があるのかもしれませんが・・・。

クリティカルシンキング 入門編 北大路書房 P35から引用しておきます。

人は目に付く出来事や、他のすべての出来事の中から浮き上がって見える出来事だけに着目し、それが原因で即断してしまう傾向があるので注意せよ

女児の例でいえば、外傷は見える出来事です。もやもや病と診断されたという出来事は、診断がつくまでは大変見えにくい出来事です。受傷と死亡の時間関係の不自然さを考えると、墨東病院の事例も、もしかしたら、医学的にはこの女児のケースと似たようなことが起きていたという可能性も充分に考えられるわけです。

いずれにせよ、我々第三者は、メディア情報しかソースがないわけで、断定的なことを言える立場にはありません。ですが、報道では、死亡との因果関係を100%頭部打撲と断定している書き方です。

それは本当にそうでしょうか?

私は、そのような疑いの眼をもって報道記事に接することがとても大事だと思います。

だから、私のような見え方もできるということを、できるだけ多くの方々に、お伝えしておきたいと思いました。

いずれにせよ、墨東病院のこの事例は、不起訴が妥当でしょう。検察の良識ある判断を待ちたいと思います。


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決起集会参加報告 [医療記事]

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本日は、東京で開催された決起集会に参加してきました。元長野県知事で新党日本党首の田中康夫氏も来ていたのには、びっくりしました。運営側がお招きしたわけではなく、小松先生のお誘いでとのことでした。ですので、突然の来客に運営側もびっくりされていたようです。なお、会終了後に記者会見がありました。速報がすでにネットに出ています。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008011301000395.html
    魚拓 

勤務医ら新団体設立を計画 労働環境改善求め集会
2008年1月13日 19時39分

医師不足の深刻化などによる医療の崩壊を食い止めるためには医師の労働環境改善などが必要だとして、全国の勤務医を中心としたグループが新たな医師団体の設立を計画し、13日、東京都内で総決起集会を開いた。

グループは「全国医師連盟設立準備委員会」(黒川衛代表世話人)。会員は現在約420人。勤務医が中心だが、一部開業医もいるという。今年5-7月ごろに1000人規模での設立を目指す。

 集会には100人余りが参加。「医療崩壊」の著書がある小松秀樹医師が「医療費抑制政策や医療安全を求める声の高まりの中、勤務医の労働環境は限界に達している。勤務医の利害を代弁する組織が必要だ」とあいさつした。

 長崎県西海市の勤務医でもある黒川代表世話人は「医師は疲弊し、病気の人を助けたいというモチベーションが低下している。医療を再生するため、医師が現場から声を上げていかなければならない」と、新団体への参加を呼び掛けた。

別のニュースソースもあります。 http://www.cabrain.net/news/article/newsId/13981.html  魚拓

今回の参加にあたり、なんといっても小松秀樹先生と本田宏先生のお話を直接じかに聞けるというのが、魅力的でした。それと、まだお会いしていない医師ブロガーの先生方とリアルにお会いできる機会でもあるわけです。こんな二つの理由で、私は東京に向かいました。

しかし、小松先生と本田先生のお二人の話をじかに拝聴して思ったこと、感じたこと。

お二人ともすごい迫力だった。圧倒されました・・・・。でも、おもしろかった。

講演の内容は、DVDで見れるようです。 このお二人のご講演は必見だと思います。
こちらから申し込みできるようです。 http://www.doctor2007.com/dvd.html

あまりに面白かったので、私は会場で、DVDの申し込みをしました。

<小松秀樹先生の講演より>

レジメが配布され、30分程度のミニ講演でしたが、非常に聞き応えがありました。 ここでは、レジメの一節を紹介します。 例の診療関連死の厚生労働省第二次試案に関するところです。

第二次試案が実現するとどうなるでしょうか。厚労省が強大な権限を持ちます。従来の医療費決定に関わる権限に加えて、調査権と処分権を持つことになります。行政、司法、被害者代表が医療システム内に入って網羅的に責任が追及されます。脅えながらの医療になります。裁判手続と同様、調査経過そのものが、遺族の応報感情を高めます。対立は、遺族と医師の間にとどまりません。病院の管理者と現場の医療従事者の間にも疑心暗鬼が生まれます。

みなさん、いかがですか?これでいいですか? 厚労省にこんな権限を与えていいですか。 

皆で断固反対しましょう。

反対の署名はこちらです ⇒ http://doctor2007.com/ko1.html

<本田宏先生の講演より>

あまりに面白くて、ほとんどメモを取ることもなく、聞き入ってしまいました。実に広範な内容でありながら、大変分かりやすく、それなのに、笑いをとるのも絶妙でした。 会場はずっと爆笑の渦でした。TVなどから出演要請が絶えないというのも、なるほどよくわかりました。

医療は命の安全保障という主張の中で出された次のデータが、私には新鮮だったので、それをここで紹介してみます。

命の安全保障に関わる自衛隊と警察の方々の人数と医師の人数を比較してみると次の通りとのこと

27万人 自衛隊
26万人 警察
26万人 医師

しかあし、60歳以上で、現役で働いている(働かされている)の人が、ざっと数万人(確か4万くらい?っておっしゃってたような)もいるのは、医師だけ。 なんかおかしいでしょ! とのこと。

全くですね。 いかに、日本が医師をこきつかっている国であるかが、いまさらながらに大変よくわかりました。実に説得力のある話だと思いました。

他にも、このような実に面白い話が、たくさんありました。とても書き切れません。DVDを入手して一度ご覧になることをお勧めします。

講演を通して、本田先生が何度も何度もおっしゃっていたこと

「正しい情報を、医療の現場から発信しなければならない!」

まったくだと思います。私がブログを書いているのも、救急初療の現場の情報を発信したいということ。そして、できるだけ多くの方々が、今の救急医療の問題に気がついてもらうことです。そんな思いが多分にあります。

私は本田先生のパワーにはとうてい足元にも及びませんが、私の根っこは本田先生と同じなんだなあと思いました。
そして、自分達のことは、自分達で声をあげることの大切さを教えていただいたような気がします。

<黒川先生の講演より>

重点活動項目として
1 医療労働環境の改善
2 公正な医療報道と世論啓発
3 医療紛争解決と医師の自浄機能

であることとその具体的なアプローチのあり方などについて講演がありました。併せて、第二次試案に反対の声を上げるとともに、対案作成の準備中であることなども話もありました。

<フロアより>  出てきた意見を箇条書きにしてみます。

・準備委員という形ではなく、はやく、正式組織として活動を開始するべきだ。
・とにかく数が必要。
・ネットやメールを使わない医師たちも参加しやすいような工夫が必要。
・専属職員の必要性。
・本田先生からは、大学教授など医師への影響力が強い方々を発起人として、
 HP上に公表することなどが効果的ではないかと具体的な提案があった。

などなど

懇親会では、本田先生に、ご挨拶をさせていただき、私が事前に持ってきていた本田先生の著書「誰が日本の医療を殺すのか」の裏表紙に直筆のサインを快くしてくださいました。ありがとうございました

何人かの医師ブロガーの方々とは、初めて直接お会いできました。今後ともよろしくお願いします。

とりあえず、こんな感じの会で、私はこんな風に思いましたということの速報でした・・・。
最後に、執行部の先生方、本当にご苦労様でした。


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地雷疾患死は、どうなるの? [医療記事]

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Yosyan先生のブログ 新小児科医のつぶやきでの本日のエントリー 診療関連死の定義 での話題に、当ブログもあやかりたいと思います。いつも興味深いエントリーをありがとうございます。その検討と考察につきましては、Yosyan先生とそのコメンテーターたちの発言をみていただくのが一番です。こちらでのポイントは、「診療状況の具体化」ということにしておきます。

元となる資料がこれです ⇒ http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/dl/s1227-8a.pdf

この資料の中で、診療関連死の定義について、次のような提案がなされています。

医療安全調査委員会(仮称。以下「委員会」とする。)へ届け出るべき事例は、以下の①又は②のいずれかに該当すると、医療機関において判断した場合としてはどうか。(①及び②に該当しないと医療機関において判断した場合には、届出は要しないとしてはどうか。)

① 誤った医療を行ったことが明らかであり、その行った医療に起因して、
  患者が死亡した事案。

② 誤った医療を行ったことは明らかではないが、
  
行った医療に起因して、患者が死亡した事案。
  (行った医療に起因すると
疑われるものを含み、死亡を予期しなかったものに限る。)

地雷疾患死は、多分に突然死の側面があり、いわゆる予期しない死(=予期不可能な死)の性質があります。

ですので、なんらかの医療行為中の時間軸の中で、同列に地雷疾患が偶然発生してしまった場合、その医療行為と死亡との因果関係を確定することは不可能に近い難作業であると私は考えます。しかも、人間は元来、後知恵バイアス(参考エントリーはこちら)という認知の歪をもって物事を考える傾向(=習性)があるわけですから、いったん調査を開始すると、かえって因果関係ありと結論付けてしまう確率が上がると思います。つまり、医療側の責任ありと判定される確率が上がると私は考えるわけです。そう考えると、なんだか冤罪っぽくないですか?所詮、それが人間の認知の性質なのです。あるいは、因果関係がないと100%断定することは論理上不可能ともいえます(悪魔の証明)。私達は、そのようなことを知識として知っておく必要があるのです。

ですので、

私は、この診療関連死法案が今のまま通れば、医療は確実に悪い方向に向かうであろうと予言せざるを得ません。

その第一歩は、最前線の現場の医師が、その現場を撤退することから始まるのではないでしょうか? 
(外科医のあつかふぇ先生のブログをご覧下さい ⇒http://blog.m3.com/Fight/20080107/2 )

皆さん、それで本当にいいですか?

上記の②が、いかに現場ではグレーになるかについては、想定状況を具体的に皆で考えてみるのがいいでしょう。それが、本日のエントリーのお題です。そこで、地雷疾患死を心筋梗塞による突然死と限定して、様々な状況を30ほど即興で作ってみました。 

なお、②の冒頭の部分 「誤った医療を行ったことは明らかなではないが」については、ここでは、原則考えません。医療当事者がいくら誤った医療行為はしていないと主張しても、紛争が生じれば、家族は必ず疑義の念を持ちます。そうなれば、この枕言葉は全く意味を成さなくなるからです。

さあ、皆で悩みましょう。どの状況が、診療関連死に該当しないといえますか? 

医療関係者もそうでない方もどうぞご自分でお考え下さい。

そうすると、診療関連死法案が、現場の医師の感覚とどれほど程遠いところで作られているのが実感できるのではないでしょうか?

状況1 整形外科で入院中の患者が、リハビリ室で、リハビリ中に心筋梗塞を発症して突然死した。

状況2 内科外来を定期受診した患者が、その受診直後の帰りのタクシーの中で
     心筋梗塞を発症して突然死した。
     なお、本日は、患者が胃腸炎の症状をうったえたため、ブスコパン入りの点滴をしたという。

状況3 泌尿器科外来を腰痛で受診した。診察中に診察室で、心筋梗塞を発症して突然死した。
     循環器の医者とスムーズに連絡が取れず、カテにいくまでに2時間を要したという。

状況4 陳旧性心筋梗塞をもち心不全で入院中の患者が、その退院予定日に
     心筋梗塞を発症して突然死した。

状況5 自然気胸で、トロッカーの処置をうけた患者が、その5時間後、
     心筋梗塞を発症して突然死した。

状況6 運動負荷心電図を受け、negativeであった患者が、その検査の5時間後、
     心筋梗塞を発症して突然死した。

状況7 外泊中の入院患者が、自宅での昼食中に、心筋梗塞を発症して突然死した。
     その際、定期内服薬を患者に手渡すのをうっかり病院側が忘れていたという。

状況8 時間外外来で、診察待ち中の患者が、心筋梗塞を発症して突然死した。
     待ち時間が長く、40分待たされたという。

状況9 時間外外来で、まさに心電図をとっている最中に、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況10 風邪薬を誤って別の患者に誤投薬し、誤投薬をうけた入院中の患者が、
      その5時間後、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況11 時間外外来を受診しにきたが、あいにくその病院が対応不能な状況で、
      他院を受診するように言われた直後に、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況12 術後合併症の縫合不全を起こし、敗血症性ショックで集中治療中の患者が、
      ICUで心筋梗塞を発症して突然死した。

状況13 胃痛で来院した患者を、初期研修医が診察し、その診察の5時間後、
      自宅で心筋梗塞を発症して突然死した。

状況14 胃痛で来院した患者を、循環器専門医が診察し、その診察の5時間後、
      自宅で心筋梗塞を発症して突然死した。問診・診察の上、心電図検査は、
      不要とその専門医は判断した上でのことだった。

状況15 胃痛で来院した患者の緊急内視鏡中に、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況16 冠動脈のバイパス手術に成功した患者が、離床リハビリ中に、
      心筋梗塞を発症して突然死した。

状況17 冠動脈のバイパス手術に成功した患者が、抜管直後にICUで、
      心筋梗塞を発症して突然死した。

状況18 糖尿病教育入院中の患者が、心エコー検査中に、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況19 糖尿病教育入院中の患者が、運動負荷心電図検査の直後に、
      心筋梗塞を発症して突然死した。

状況20 糖尿病教育入院中の患者が、ベッドサイドで採血中に、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況21 川崎病のため冠動脈瘤をもつ高校生が、肺炎で入院中のとき、
      レントゲン室に独歩で向かう途中に心筋梗塞を発症し突然死した。

状況22 家族性高chol血症(homo型)をもつ高校生が、
      LDLアフェーレシスを受けている最中に、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況23 ブルガダ症候群が疑われ、薬剤負荷試験検査のため入院中だった患者が
      検査が行われたその日の晩、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況24 大腸ポリープ切除のため、クリティカルパスに乗っかって入院中の患者が、
      心筋梗塞を発症して突然死した。バイアスピリン中止中だったという。

状況25 大腸がん、全身転移で、余命いくばくもない患者が、ホスピス内で、
      モルヒネを投与された直後、心筋梗塞を発症して突然死した。

状況26 末期の肝硬変で余命いくばくもない患者が、レントゲン撮影室で
      心筋梗塞を発症して突然死した。

状況27 肺炎にて、自宅で往診加療をうけていた患者が、抗生物質の点滴直後に、
      心筋梗塞を発症して、自宅で突然死した。

状況28 バイアスピリン内服中であった患者が、胃がん切除の手術をうける準備のため、
      内服中止中の時に、自宅で心筋梗塞を発症して突然死した。

状況29 過去にPCIを受けたことがある患者が、胆石の手術中(ラパ胆)に、
      心筋梗塞を発症して、突然死した。
      術前に、CAGも受けて、冠動脈の状態は安定していたという。

状況30 すでにバイアスピリン中断中であった患者が、外科で胃がん切除手術をうけた。
      術後2日目に心筋梗塞を発症して突然死した。

いかがでしょうか?さあ、どれが診療関連死でないと自信をもっていえますか? 是非、皆様のご意見を伺いたいと思います。私は、よくわかりません・・・・・。防衛医療のために、全例届けるかな?って感じです。罰せられたら、たまりませんからね。 

医療者が何らかの形で医療に介入した後に発症した地雷疾患死は、すべて診療関連死ということになるのでしょうか? 

その覚悟はあるんですよね?厚生労働省のみなさま・・・・・・

自分で対案も出せないまま、文句をいっていることは、自覚しています。その点はご容赦ください。
ただ、政治家の皆様に、拙速な判断をしてほしくない・・・・ もっと時間を!! と言いたいのです。


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AED訴訟がついに発生! [医療記事]

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ついに残念なことが、報道されてしまいました。私がずっと前から怖れていた訴訟です。ネタ元は、いつも拝見させていただいている中間管理職先生の勤務医開業つれづれ日記の中のコメントからです。

http://www.shinmai.co.jp/news/20080109/KT080108FTI090011000022.htm   
魚拓

胸に打球、救命措置遅れ後遺症と県を提訴     1月9日(水)

 2005年に下伊那農業高校(飯田市)1年の野球部員男子=当時(15)=が練習試合で
胸に打球を受け、「心臓振とう」を起こして今も後遺症があるのは引率教員の救命処置が遅れたためとして、男子とその両親が8日までに、県を相手に慰謝料など総額約1650万円の損害賠償を求める訴えを地裁飯田支部に起こした。

 訴状によると、05年6月に名古屋市内の高校で行った練習試合で、守備についた男子は打球を胸部中央やや右寄りに受け、倒れた。脈を打っていなかったため下伊那農高の生徒が心臓マッサージをし、その後に到着した救急隊員が除細動を実施、心拍が戻った。この心臓振とうの後遺症で現在、介助がなければ日常生活を送ることができない体の状態としている。

 原告側は、野球では球が当たることやそれによる心臓振とうは予測できたのに、
引率教員は自動体外式除細動器(AED)を持ち運ばず、救命処置が遅れたと主張。代理人は「胸に打球を受けて倒れた場合、心臓振とうとみて、引率者が人工呼吸や心臓マッサージなどをすべきだったのにこれをせず、安全配慮義務を怠った」としている。

 被告側は「対応を検討している」(県教委高校教育課)としている。下伊那農高の上沼衛校長は「訴状を見ていないのでコメントできない」と話している。

過去のエントリー 転倒と訴訟. で述べたことを再掲します。

養老孟司氏の著書「自分は死なないと思っているヒトへ」の中で、興味深い一説があります。現代社会を「都市化」というキーワードで捕らえ、その中での人々の変化の一つに、次のようなことを指摘しているのです。

戦後の日本人で、一番目立つのは、何事も人のせいにする人間が出てきたことです。人間の作ったもので世界を埋め尽くしていけば(=都市化)、それだけが現実になっていく。その「現実」にないはずの不都合は、すべて人のせいにする。(中略) 自然の中で暮らしているときに、不幸な出来事が起ると、「それは仕方がない」となる。一方、都会の中で不幸な出来事が起きると「誰のせいだ」ということになる・溝に落っこちたら、誰かがその溝を掘ったのですから当然のことだが、やはり、「誰かのせい」というのが都市です。

以上、再掲部分。

医療は、多くの人を救うべく、進歩をし続けています。 その結果、その進歩の恩恵を受ける人もいるでしょう。しかしながら、その進歩も影の部分があります。進歩の恩恵を受けられずに、不幸な出来事が生じた場合、それを誰かのせいとしてしまうことです。養老孟司氏が端的に指摘したことの医療版です。

AEDの普及は、最近の医療の進歩の一つとして、大きな出来事だと思います。この数年で、多くの人がその恩恵をうけていることでしょう。

当ブログでも、2回ほど話題に上げています。Commotio cordis(心臓震盪) 心臓しんとうを予防しよう

「AEDさえあれば、救命処置さえあれば・・・」というパターンの訴訟は、ずっと前から怖れていました。いつか来るだろうって・・・・ずっと思ってました。AEDさえなければ、決して起きなかった紛争です。

ご家族のお気持ちとしては、無理もないことでしょう。ですが、こういう訴訟を多くの人が知ってしまえば、善意の気持ちで救命しようという気持ちには、とうていならないでしょう。その結果、これから恩恵を受けるであろう人たちにとって、とてつもないマイナスとなるでしょう。つまり、医療訴訟が原因で医師が現場から逃散するのと同じ理屈です。善意で救命行為を行う人が激減するでしょうということです。

医師患者関係は、訴訟問題がその間に入り込むことにより、防衛医療化します。その結果、医師患者関係は、信頼より緊張となり、ぎこちなくなります。味気なくなります。

この訴訟を契機に、同様のことが、教育現場にも波及するでしょう。スポーツ現場にも波及するでしょう。

悲しいことです。まさに、医療の発展の影の部分です。

それにしても、私は、引率教員の方がとても心配です。ものすごく自分を責めていらっしゃるのではないでしょうか?心のケアが必要かもしれません。

本当に残念です。弁護士レベルで止めてほしかった・・・・ 本当に残念です。

私は、この記事を知りたくなった・・・・・。弁護士で無理なら、報道レベルで止めてほしかった

医療の進歩は、新たな苦しみと新たな紛争をもたらす

これも真実です。

医療の進歩はもうこれ以上不要と、私は個人的に思っています。むしろ、死をとりまく環境を社会整備した方がよっぽど暮らしやすい日本社会になるだろうと確信しています。

院内でAEDを備えている医療関係者の方々、次に訴えられるのは、あなたかもしれません。
BLS+AEDのトレーニングをしておいた方が賢明でしょう。


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・・・で死亡という見出しに注意! [医療記事]

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今日も、またこんな記事が・・・・。朝、テレビのニュースでもやってましたね。本当に、こんな報道をすればするほど、救急の現場はやりにくくなるばかりです。マスメディアは、自分達が医療崩壊促進に多大な貢献をしているという自覚をお持ちなのでしょうか?今日は、そんな疑問をエントリーにしてみました。

救急たらい回しで男性死亡 東大阪

産経ニュース 2008.1.3 23:51
http://s04.megalodon.jp/2008-0104-0021-00/sankei.jp.msn.com/topics/affairs/2701/afr2701-t.htm
大阪府東大阪市で2日夜、交通事故に遭った男性が、府内の5つの救命救急センターで「満床」や「治療中」などを理由に搬送受け入れを断られていたことが3日、わかった。男性は事故から約1時間後に、現場から約15キロ離れた同府吹田市の千里救命救急センターに運ばれたが同日午前、死亡した。男性が断られた5施設は、いずれも生命の危険に瀕した人が運ばれる3次救急医療機関で、最終的な受け入れ先にまで断られた格好だ。

【記事詳細】

産経さんは、相変わらず、たらい回しという言葉が好きですねえ・・・。
見出しで目を引こうという意図なのでしょうか。紙面と異なり、ネット上では、こっそり表現を変えるのはいつでもできます。今回も、見出しをこっそり変えています。 私は、こんな産経新聞が大嫌いです。

好みは人それぞれですから、私のことは、これくらいにして、できるだけ、多くの人にメディアリテラシーの心を持ってほしいので、その視点から、一言だけ言っておきます。

記事の見出しのみで、事の因果関係を読み取ってはいけない

この視点を十分にお持ちでない方は、

救急たらい回しで・・・・・・・・・・原因
男性死亡・・・・・・・・・・・・・・・・結果

と理解してしまい、 一気に、 次のように解釈し、その人の心の中に医療に対する悪感情が芽生えます。

この原因がなかったら・・・・・・・たらい回しがなかったら
結果は起こらなかった・・・・・・・男性は死ななかった
             ↓
       病院はけしからん!!!

見出しというのは、読者の目をひきつけるのが目的です。見出しでひきつけておいて本文を読んでもらおうということです。だから、今回のこの記事も、たらい回しという表現で、とにかく読者をひきつけようというのが目的なのです。どうかその点をふまえて、医療記事をお読みください。ミスリードを誘う見出しをつくる新聞社の性質は悪いですが、まずは、受けて側である読者のほうが、彼らの見出しに振り回されないことのほうが、大切だと私は考えています。

他に、私が気にしているのは、ノロウイルス感染に関する新聞記事の見出しです。 ノロウイルスで死亡!と派手な見出しがつきます。例えば、ノロウイルス、3人死亡=介護施設などで集団感染-宮崎、秋田、山形  2007年12月14日(金)時事通信社。 ノロウイルス感染は、症状は嘔吐下痢などで、つらい症状が生じますが、発病期間も短く、そのほとんどが自然軽快します。にもかかわらず、新聞記事で不安だけを高められた人達が、私達の現場で、その不安な気持ちを吐露します。また、説明するのに一苦労です。私達現場は、メディア報道の弊害をうけて、困っています。これは、明らかにメディアの責任です。メディアは、自分達の報道が起こした世間の影響に対して、何の責任もとらなくていいのでしょうか?常々、私は、今のメディア報道のあり方に疑問を持っています。

さて、上記外傷患者の報道記事の話に戻します。詳細を一部抜き出します。

【記事詳細】より一部引用

●男性が断られた5施設は、いずれも生命の危険に瀕した人が運ばれる3次救急医療機関で、最終的な受け入れ先にまで断られた格好だ。

●搬送した大東市消防本部によると、救急隊が午後10時33分に現場に到着。西村さんは
胸を強く打ち、意識はあるものの、強いショック状態だった。同隊は生死にかかわる危険な状態と判断し、現場から近い病院に受け入れを要請したが、5施設に「治療中」や「救急ベッドが満床」などの理由で断られたという。

●約30分後、吹田市の救命救急センターで受け入れが決まり、発生から約1時間後の午後11時35分に運び込んだが、翌3日午前1時40分ごろ、死亡した。
搬送が遅れたことと死亡との因果関係ははっきりしないという。

●現場から最も近い東大阪市の府立中河内救命救急センターは当時、救急専門医を含む3人の医師が当直勤務していたが、2人の重症患者を治療中で、「これ以上の対応は無理」と断った。

毎日新聞記事より、一部引用

河内署の話では、西村さんは事故直後「大丈夫」と話していたというが、搬送後の3日午前1時40分過ぎ、大動脈損傷による出血多量で死亡した

今回の事例において、救急隊が、始めから救命センターを病院選定としているのは、正解でしょう。外傷による胸部打撲は、極めて重篤な経過をとることが想定されるからです。事実、この患者さんは、お亡くなりなっています。ご冥福をお祈りします。当ブログでも、その怖さを語っていますので、あわせて紹介します。

これです。 ある若者の死   
大動脈損傷の恐ろしさをわかっていただけるのではないでしょうか?

さて、今回は、いくつかの救命センターが、対応無理だったとの状況です。それでも、きちんと千里救命センターが受け入れています。なのにどうして、記事にしてこんなに騒ぐのでしょう。マスメディアのために、社会の医療に対する不安感が、正常反応を通り越して、異常な病的反応なまでの不安感に、変わっていくような気がします

救急患者は、すぐにいつでもどこでも受け入れられるべきだ

という社会前提があるからかこそ、この事例が記事になるのでしょうね?

これが、確かに社会の理想ではあるにしても、今の医療事情では、理想を現実化するのは厳しいと思います。にも関わらず、その理想を我々に強要し、あたかも医療者が怠慢であるかのような風評を社会に生み出すような報道はやめてほしい。メディアは常に風評被害の加害者であることを自覚してほしい。私は、強くそう主張します。


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産経に抗議! [医療記事]

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産経新聞の4コマ漫画を見ました。

僻地の産科医先生のブログから知りました。
http://obgy.typepad.jp/blog/2007/12/1216_ec09.html

さらり君という4コマ漫画だそうです。
それは、どうでもいいのですが、産経さんは、医師に恨みがあるのでしょうか?
それはよくわかりませんが、この漫画は、医療界の侮辱に匹敵する内容だと思います。

みなさんは、どうお感じですか? 
抗議の意にご賛同いただける方は、コメント欄に
「私も抗議します」とぜひお書きください。

漫画で登場する台詞

「キミは医学部だったね」

「いまどういうのを習っているんだい」
 
たらい回しか~

あまりに失礼です。 不愉快です。 

断固、私のブログ上で、抗議の意を表明します。

思えば、夏の事例 これも産経でしたよね。マスコミはいつも誰かを責めるだけ

最近では、skyteam先生のところでも産経でしたよね。 http://skyteam.iza.ne.jp/blog/entry/403646/

最近の新聞各社は、あまり「たらい回し」という救急の現場で働く医師を冒涜する言葉をさすがにあまり使わなくなったなあ・・・と思っていた矢先にこの漫画ですか・・・・。 ため息がでますわ。

最も直近の事例では、Dr.I先生のところでこれです。http://kenkoubyoukinashi.blog36.fc2.com/blog-entry-268.html
産経はしっかりとたらい回しという表現を、この期に及んでもなおかつ使っていますね。

産経新聞の中にも、すばらしい記者さんは、きっと必ずおられます。私たち医療者の気持ちを代弁してくれる話のわかる記者さんもきっといらっしゃいます。それだけは信じています。

ですが、その一方で、永遠に私たちと平行線の人もいらっしゃるでしょう。そして、社内の力ある地位の誰かが、きっと「たらいまわし」という表現にこだわりがあるから、こんな漫画も出てくるんでしょうね。

考え方によっては、こんなくだらないことに付き合っても仕方がないと自分の気持ちをスルーさせればいいだけかもしれません。そうしたいのも重々承知の上ですが、今日は、できませんでした。

感情的な文章であることをお許しください。ですが、救急現場の一人として、新聞社の心無い報道に私は傷ついています。これは、私の気持ちですから、絶対的な真実です。

感情が入ると、時としてコメント欄が荒れる場合があります。当ブログの管理方針としては、コメントを通して、私と考え方の異なる方と議論はいたしません。もちろん、ご自身のお考えを私に伝えたいということであれば、コメントされるのはぜんぜんかまいません。ただ、そのときは、私が納得できる文章表現をお願いします。 私が納得できないと感じる節度に乏しい表現は、管理方針として私の独断でコメント削除または一部修正をさせていただくこともあることをご理解ください。


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心筋梗塞見落とし?本当? [医療記事]

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ちょっと地雷的な臨床経過の香りがする医事紛争の記事です。

一般の方々におかれましては、メディアリテラシーの観点を忘れずに、記事をお読みください。この記事だけで、「トンデモ医療」が本当に行われたのかどうかは分かりません。 もちろん、私も事情の詳細が分からない以上、医療者側に全く落ち度がないと断定はしませんが、記事を素直に読めば、「??、本当に心筋梗塞だったかいな?」と思えることが書いてあることだけは、確かです。 とすれば、いわゆる地雷的な、非典型的な臨床経過を取っていた可能性も十分にあるということです。 だとすれば、病院で病気で死んだ=病院のせい という悪しき社会構図がこの紛争にも背後にあるのかもしれません。 あくまで個人的な推測ですが・・・。

朝日新聞
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200712140090.html    魚拓

心筋梗塞見落とし死亡、2850万円賠償 貝塚市民病院
2007年12月15日

 大阪府貝塚市の市立貝塚病院で昨年3月、入院した男性(当時74)が2日後に急性心筋梗塞(こうそく)などで死亡する事故があり、同市は14日、最初に診察した30代の男性医師が心筋梗塞の症状を見落としたとして、約2850万円の損害賠償金を遺族に支払うと発表した。

 市によると、男性は昨年3月8日、
「体に力が入らず、立てない」と訴え、同病院の救急外来を受診した。医師は血液検査や心電図の結果から、急性肝機能障害と診断して男性を入院させ、点滴をした。だが翌日も症状が好転しなかったため、別の医師が再検査したところ急性心筋梗塞と判明。同府岸和田市の専門病院に転送したが、腎不全を併発しており、10日に死亡した。

 病院側は内部調査の結果、
最初の心電図でも心筋梗塞を強く疑わせる異状が見られたのに、医師が肝機能に気を取られて見落としたと判断。適切な初期治療をすれば助かった可能性があったと結論付けた。井口正典院長は「内部で十分に検証し、再発防止に努めたい」とコメントした。

読売 紙面より

2850万で示談成立 医療ミスで男性死亡

(前半省略)
市によると、患者は昨年3月8日午後に内科の救急外来で受診。脱力感や自力で立てないほどの症状から、担当医は頭部CTや血液、心電図などの検査をした。しかし、肝機能数値が異常に高いのに気を取られ、心臓関係の数値や
心電図の異常所見を見落とし、急性肝機能障害と診断。翌朝、別の医師が再度検査をして急性心筋梗塞と診断したが、腎不全を併発して対応できず、岸和田市の民間病院に転院したが、10日早朝に急性心筋梗塞、多臓器不全で死亡した。

主訴:体に力が入らず、たてない

これから、心筋梗塞をすぐに想定する医師はいません

では、初療の段階で、なぜ心電図がとられたのか?

ひとつの可能性に、肝機能異常で入院が決まったので、「入院ルーチンの一貫の検査として、機械的に心電図がとられた」という可能性はどうでしょうか?

こういうときの心電図なんかは、つい見忘れてしまうことも多々あります。
それを後出しで、「異常所見を見逃した」 と解釈されてしまった可能性です。
う~ん、つらいなあ・・・・・。 私もやらかしそうなパターンです。
このパターンなら、初療医の問題ではなくて、病院診療のシステムの中の問題となり、医師個人が攻められるのは、はなはだ筋違いです。

この病院のシステムはどうなってたのでしょう?
外来初療医と病棟担当医も同一人物だったのでしょうか?それとも別?
後者ならば、ダブルチェックで異常を拾い上げることができなかったのでしょうか?
この辺は、関係者でないとわからない一面です。
昨年の3月8日は、水曜日です。つまり平日です。複数の医師で関われなかったのでしょうか?そのあたりの事情も気になります。

二つの記事では、翌朝に再検査して、心筋梗塞と診断されています。
つまり、入院して12時間以上経過しています。 心電図なんていくらでも変わります。もしかしたら、後で典型的な変化になった心電図をみたことによる後知恵バイアスのために、医療関係者自身が、初療時の心電図をより怪しく見てしまっている可能性はないでしょうか
あるいは、別の先行する病態(例えば、腎不全、肝不全など)が先にありきで、翌日に心筋梗塞を続発したという可能性はどうでしょうか?

そういう意味で
>最初の心電図でも心筋梗塞を強く疑わせる異状が見られた

この部分が一番気になります。 まったく前後の事情を知らない医療者100人が、いきなり脈絡なくこの心電図だけを見せられて、その100人が、ST上昇心筋梗塞と言い切るだけのはっきりした心電図所見であらば、医師側の見逃しを私も認めざるを得ませんが、記事だけから推測すれば、後知恵バイアスがかかったがゆえに、病院関係者自身が初療医師を不当に追い込んでいなのか心配です。

こういうことって、新聞でいちど流されてしまうと、医療ミス、賠償金のニュアンスだけで、医療不信社会が形成されそうな気がして、私は大変な不安を覚えます。

当ブログでの心電図に関する地雷の様々です。 多くの医療者が地雷疾患の早期発見早期治療ができますように・・・・・。

たった一枚の心電図
初回検査異常なし≠緊急性なし
AMIの転送を遅らせないために
消化器疾患?実はAMI
心電図変化に潜む地雷
目を惑わす心電図
目を惑わす心電図(2)


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医師書類送検の記事に関して [医療記事]

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前エントリーの最後に、自分の意見として、こんな意見を書きました。
「死」を避けるべきもの、罰せられるべきものとして法体系が作られ、ひとたびどこかで事故死があると、マスコミにはヒステリックに、感情的に騒ぎ立て、だれが悪い、だれの責任だと騒ぎ立てる社会なのですから、仕方がないという心性が自然に育つ社会環境であるとは、私には思えません。

さて、本日のこの読売の記事も、医療の世界におけるそんな一面を私は感じます。

http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20071206p302.htm  (魚拓
入れ歯誤飲見過ごし死亡、医師を書類送検…京都

入れ歯を飲み込んだと訴えて救急搬送された京都市内の女性(当時60歳)に十分な診察をせず、誤飲を見過ごして死亡させたとして、京都府警捜査1課と堀川署は6日、武田病院(京都市下京区)の非常勤の男性医師(44)(京都府長岡京市)を業務上過失致死容疑で書類送検した。医師は容疑を認めている。 調べでは、医師は1月27日午前9時ごろ、救急搬送されてきた女性を診察した際、女性が「入れ歯を飲み込んだかもしれない」と訴えたにもかかわらず、のどの奥を確認するなど適切な措置をせず、5日後、入れ歯が詰まってできたのどの傷のウミによる肺炎で死亡させた疑い。 夫(66)が6月、府警に同容疑で告訴していた。 診察の際、夫も「下側の入れ歯を飲み込んだと思う」と説明。医師は、のどをレントゲン撮影したが、入れ歯(幅6センチ、奥行き4センチ、高さ2センチ)はアクリル樹脂製で写らなかったという。府警は、医師がさらに、内視鏡でのどを調べるなどの処置を取っていれば、その後の死亡は防げたと判断した。 ■小谷昌弘・武田病院広報部長の話「女性が亡くなられたことは真摯(しんし)に受け止め、ご遺族に対応したい。改めてミスのないよう医師を指導し、再発防止に努めたい」
2007年12月6日読売新聞)

お亡くなりになられた女性のご冥福をお祈りします。

さて、この一人の女性の死は、医師が悪いのでしょうか? 少なくとも、現時点では、法の裁きは下っていません。
ですが、新聞は、すでにこうやって記事にしています。

この記事を書いた記者とそのデスク、その他記事の関係者達の心の中はどうなっているのでしょうか?
読売新聞は、この記事を通して世に何を伝えたいのでしょう?

まだ、少なくとも法の裁きが下るまでは、記事にしないという心性はないのでしょうか?

私にはよくわかりません。 

ですが、こういう記事は、世間の医療(医師)に対する印象を悪くするだけの効果は絶大だと思います。

また、この記事で、やる気を失う現役医師が続出するでしょう。
私は、またかあ・・・・と思いました。

こうして、また、私の救急に対する熱意が社会に対するあきらめに変化していきます。

私は、この社会の現実を、真摯に受け止めて、自分は自分の人生設計をするのみです。
その設計に、救急医療の選択肢はありません。

新聞社には新聞社の論理や倫理があるのでしょう。それに基づいて記事をお書きになっているのでしょうから、それはそれで仕方が無いのかもしれませんが、現場で頑張っている医師たちはやる気をなくすでしょうね。

ちなみに、上記新聞記事の内容からだけでは、医学的なコメントのしようがありませんが、もし、私が自分の現場で同じような患者に遭遇したら、私も同じことをするかもしれません。つまり、この記事は、明日はわが身ということなのです。

ただ、言えることは、上記記事から、私が抜き出した以下の箇所は、人間だれしもがもつ、「後知恵バイアス」という認知のバイアスに基づく表現だと思います。後知恵バイアスに関する参考エントリー本当に腸炎でいいですか? 
だから、読み手のほうが、そのバイアス分を意図的に差し引いて考える必要があるということだけは、指摘しておきます。

十分な診察をせず

十分な診察って何でしょう? 悪い結果が出た後ならば、かならずどこかに不十分な診療だといって指摘可能です。まさに、前エントリー:ある咽頭痛の男性において、医師2名を訴えた患者遺族と上記記事中の夫が医師を刑事告訴したことは、両者ともこのバイアスがために医師への報復感情が増幅されてしまった結果なのでしょう。まさに、医師側が、人間感情の被害者だと私は考えます。

死亡させた

死亡させたって何でしょう?  死亡したというのが正しい日本語ではないでしょうか? あえて使役で書くところに、死はだれかのせいという社会風潮を私は感じます。  あえて死亡させたという表現をとると、これは、因果関係を包含する表現ですから、死亡原因の可能性となるものすべてが主語にならないといけません。そこには、「医師の医療行為」以外に、「患者側の体質」「細菌感染の偶然性」「他の致死的疾患の偶発」・・・・などいくつもの可能性があることになります。つまり、医師だけが原因と考えるのは誤りです。 死亡させたという表現には、私は感情的に本当に腹がたちます。

のどの奥を確認するなど適切な措置をせず
内視鏡でのどを調べるなどの処置を取っていれば、その後の死亡は防げた

適切な措置って何でしょう? ちがう仮定をします。もし、医師がレントゲンをとらずに、内視鏡を行って、不幸にも合併症が発生したとしましょう。すると、後知恵バイアスの認知のバイアスを自己修正できない大多数の人たちは、次のように感じます・・・・・レントゲンで入れ歯を確認するという適切な措置をせず、患者を内視鏡で死亡させた
つまり、この表現も典型的な後知恵バイアスで歪んだ表現なのです。

>入れ歯が詰まってできたのどの傷のウミによる肺炎で

はあ?と私は思います。 よくわからないまま、記事を書こうとするからこうなるのです。わからないなら、下手なことを書かないでほしいと思います。 記者の無責任性を強く感じます

改めてミスのないよう

ミスって何ですか? ほんとうにこのような発現なのでしょうか? 新聞社が、第三者の発言部分ということにかこつけて、印象的な表現を捏造したという疑いを私は払拭できません

医師を指導し

本当にこんな物言いをするような病院なら、医師の皆さん、即刻辞職してください。

再発防止に努めたい

医療に対する過剰な世間の要求を高めていく一端を表している表現ですね。私は、医療者側のこういう反応は、世間に対する過剰適応的な反応と考えています。こういう反応は、どんどん現場の医師を追い込むことになります。病院の事務方がどれくらいそのことをわかっているかは、はなはだ疑問です。

もう少し、ことの詳細が分かれば、現時点での私の感想も意見も変わることはありえますが、とりあえず、現状での感想と意見を述べてみました。 医療者の方、医療を受ける側の方、それぞれの立場でどのようにお感じになりますか?


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医師の給与と労働問題 [医療記事]

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医療系をブログをにぎわしている下記の記事。 私もちょっとだけ、これについて触れてみたいと思います。

診療報酬引き下げへ=来年度予算で財務省方針 10月31日3時0分配信 時事通信

財務省は30日、2008年度の予算編成で、医師の給与などとして医療機関に支払う診療報酬を削減する方針を固めた。医療機関側は厳しい現場の実態を挙げて増額を求めているが、同省は「医師の給与は依然高く、業務の合理化余地はある」と判断した。薬価部分を含め3.16%となった前回並みの削減幅を念頭に、厚生労働省や与党と調整に入る。財務省によると、06年度の医療費は33兆円。このうち国・地方の公費負担は11.2兆円と、3分の1を占める。制度改正を行わなければ、高齢化に伴い医療費は毎年3~4%増え続け、25年度には56兆円に膨らむ見込みだ。

この一文に関して

医師の給与などとして医療機関に支払う診療報酬を削減する方針

まずは、この部分ですが、なんだか、診療報酬の多くが医師の給与になるみたいな印象ですね。いわゆる、官僚とマスコミが手を組んだお得意の印象操作というやつでしょう。医師高給取りの印象を与えて、世論の反発を抑える意図だと思います。

この点に関しては、うろうろドクター先生が調べてくれています。 http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/18310308.html

あたりまえですが、診療報酬=医師の給与 ではありません。
{http://www.city.fuji.shizuoka.jp/cityhall/fukusi-b/hoken/iryou/shiryou1-2.pdf あまりいい資料]がありませんでしたが、

とある病院の、医業費用のうち、医師の給与は2.8%にすぎません
ちなみに、看護師の給与は12.5%、全職員の給与を合わせると49.4%です 

診療報酬削減の方針は、お国の絶対方針のようですね。

国の方針は、病気という自然現象から、医療者が医療という金のかかる介入をしてくれるな という強い強いメッセージです。ただ、医師や医療者をスケープゴートにして、世論の攻撃対象が、医師や医療者に向かうようにしているのです。

なんともねえ、美しくない国だと思いませんか?

次に、この一文に関して

医師の給与は依然高く、業務の合理化余地はある

医療系ブロガーの中で知らない人はいない超有名なブログ「新小児科医のつぶやき」を書いておられるYosyan先生の鋭い切り口には、いつも関心させられっぱなしです。上記記事に関するエントリー合理化の前に合法化をを読ませていただいて、なるほど~~と関心しました。

給与の問題は、デリケートなものであり、どの業界であっても、下げるとなれば、当該者達からの反発は必死でしょうし、士気の低下も必発でしょう。 皆さんも次のように言われたら、どんな気持ちがしますか? 

○○(=御自信の職業を入れてください)の給与は依然高く、業務の合理化の余地はある。

いかがでしょうか? mixi日記なんかでは、言いたい放題の方もたくさんおられますが、それはそれでいいでしょう。他人がなんと言おうとそれは勝手です。ただ、今回のこの報道は、日本全国の多くの医師の士気を低下させましたよ。確実に。それが狙い通りなら、大当たりと言っておきましょう。

医師は社会資源の側面もあるのでないでしょうか? 社会資源として、大切に扱っておいたほうが日本社会の得策じゃないのかな?と思いますが。医師だけ特別扱いするなという意見があるのも承知です。それもわかります。砂漠の中のオアシスの水は、個人個人が自由気ままに無秩序に使えば、あっという間に枯渇します。そんなとき、水の使用者達は、水を大切に扱おうとしませんか?自分達が生きるために。

今の医療の状況は、そんなオアシスの水なのです。 にも関わらず、この国の方針は、水を大切にしようしないということのようです。

Yosyan先生の鋭いご指摘

ただし合理化は合法的である必要があります

きわめて、重要かつ的確なご指摘だと思います。 合理化のために医師の給与を下げる前に、合法化が必要じゃないのかというご指摘です。ごもっともです。 私もまったく同意見です。

厚労省通達である平成14年3月19日付基発第0319007号「医療機関における 休日及び夜間勤務の適正化について」 からここでも一部引用します。

宿日直とは

常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみを認めるものであり、病室の定時巡回、少数の要注意患者の検脈、検温等の特殊な措置を要しない軽度の、又は短時間の業務を行うことを目的とするものに限ること

こんな定義です。そして次のような場合では、交代勤務にしろと厚生労働省は言ってるわけです。5年も前に。

宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合

宿日直勤務中に救急患者の対応等が頻繁に行われ、
夜間に充分な睡眠時間が確保できないなど常態として昼間と同様の勤務に従事することとなる場合には、たとえ上記1.のa.及びb.の対応を行っていたとしても、上記2の宿日直勤務の許可基準に定められた事項に適合しない労働実態であることから、宿日直勤務で対応することはできません

したがって、現在、宿日直勤務の許可を受けている場合には、その許可が取り消されることになりますので、
交代制を導入するなど業務執行体制を見直す必要があります

多くの人は、このような医師の勤務状況を知らないまま、マスコミが官僚とタッグを組んで垂れ流す医療情報にさらされているわけです。

私が、日ごろこのブログで書いている時間外診療での出来事は、「宿日直勤務中」の出来事なんですよ。大淀病院の出来事も宿日直中の出来事なんですよ。 とても、宿日直の勤務状況をみたす労働状況ではありません。現場は。では、交代勤務を厳密に運用したら、今度は、ぜんぜん人手が足りません。

対応策その1:医師が無理して奉仕の心をよりどころにがんばり続ける
対応策その2:できないことはできないと割り切り、粛々と労働基準法遵守の方針とする 

今の現状は、多くの施設では対応策その1でしょう。ですが、このような政策が次から次に打ち出されて、医師側もそろそろ堪忍袋の緒が切れてきたというところでしょうか。今後は、対応策その2に積極的に転換していく必要があると考えます。

医師が患者に奉仕するのは当たり前だ。だから、とことん働け! いやなら、辞めろ!給与のことぐらいで文句をいうな!

という他人事批判は後を絶ちません。他人の状況を自分の頭で類推する能力に乏しく、他人に対する共感性に乏しい人たちがよく言う批判内容だと思います。ネットでは、文字情報だけですから、潜在的なその人の内面性がより出やすくなることも関係しているのでしょう。

私には、この考えにある人たちを説得しようと思うエネルギーはありません。仮にこのブログに、私がこのような人だと判断に値するコメントがあれば、予告なく私の独断でコメントは削除します。そのようなブログ方針としておきます。

奉仕する心は、その人自身の自発性に由来するもであり、他人に強制されるものであってはならないというのが私の考えです。
私も、自分の医療スキルを通して、病に落ちてしまった人に奉仕できたと感じ、その人たちから、その気持ちを返してもらったとき、この仕事にやりがいを感じます。やりがいを感じたら、続けていこうという気持ちになります。ですが、お前やれよと強制された瞬間、たとえ同じ仕事内容であっても、私のモチベーションは、1万分の1以下に低下します。

自分達に関わる不満や不条理なことは、自分達で声をあげなくてはなりません。だれかやってよ~という他力本願ではだめですよね。
ですので、実際、ネットの医師たちは、横の連携をとり、今次第にリアルな関係になりつつあります。ネットで吠えているだけだろっ!という批判は次第に的外れな批判になっていくものと思われます。 医師労働問題、医療報道問題などについて、今着実に我々は動きつつあります。

紹介します。 http://doctors21.jp/ です。http://doctors21.jp/?m=pc&a=page_o_sns_privacy をご覧下さい。

日本全国から、医師の賛同者を募集中です。今の国のあり方に対して医師として声をそろえてあげていきませんか?

医師の労働環境が改善され、結果として、日本の医療がよくなることを願ってやみません。


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心臓しんとうを予防しよう [医療記事]

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以前のエントリーで、心臓しんとうを紹介した。 こちらです ⇒ Commotio cordis(心臓震盪)

今回、次のような記事を目にしたので、再度、心臓しんとうについて、このブログでも取り上げることにした。どうぞ、ごらんください。 今回は、具体的な予防策についてのお話です。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071011-00000083-san-soci (魚拓

心臓しんとう 子供に多くの発症例 野球のボールを胸に受け不整脈、心停止
10月11日8時0分配信 産経新聞

 ■軽い衝撃、軽視せず/防具装着を

 
胸部に衝撃を受けることで不整脈を起こし、心停止に至る「心臓しんとう」。発育途上で、まだ胸の骨格が軟らかい子供が、野球のボールを胸に受けて発症する例が多く、手当てが遅れれば死に至る危険がある。今年も9月末までに全国で3件発生し、2人が命を落とした。不慮の事故を防ぐための対策と処置法をまとめた。

 (海老沢類)

 長崎県諫早市で9月、ソフトボール大会の試合中に、小学校6年の男児が左胸に死球を受けて一塁に走る途中で、突然グラウンドに倒れた。意識はなく心肺停止の状態。周囲の大人の的確な処置で男児は一命を取り留めたが、症状は「心臓しんとう」の典型だった。

 心臓しんとうは、胸部への衝撃がきっかけで起こる不整脈だ。心臓の筋肉がけいれんして血液を正常に送り出せなくなるため、処置が遅れると死に至る危険がある。

 心臓しんとうで子供を亡くした遺族や医療関係者らでつくる「心臓震盪(しんとう)から子供を救う会」(埼玉県)が確認したところ、平成9年から今年9月末までに心臓しんとうが原因とみられる救急搬送例は22件あり、13人が命を落としていた。胸の骨格が軟らかいために外部からの衝撃が心臓に伝わりやすい子供に起きやすく、
発症件数の9割以上が18歳未満だ。衝撃を与えたものは、野球のボール(硬式・軟式)が最多の10件。ソフトボール(3件)、サッカーボール(2件、いずれもゴールキーパー)…で、競技中のケースが大半を占めた。

 同会の代表幹事を務める埼玉医科大総合医療センターの輿水健治准教授は「胸骨や肋骨(ろっこつ)が折れるような強さではなく、
比較的軽い衝撃でも起こる。けんかの仲裁で肘(ひじ)が当たって発症した例もあり、日常生活でも注意が必要」と指摘する。
                   ◇

 心臓しんとうは、アメリカでは1990年代から「子供のスポーツ中の突然死」として注目されていたという。健康な子供にも起こるため、検査で兆候をつかむことはできない。ただ、起こりやすい状況はわかっていることから、用具の工夫やちょっとした注意で予防は可能という。

 輿水准教授が強調するのが、各メーカーから発売が相次いでいる「
胸部保護パッド」の着用だ。「ユニホームの下に着用するだけで、最も危険とされる心臓の真上を保護できる。慣れれば重さも気にならないので、野球でヘルメットをかぶるのと同じ感覚で着用してほしい」

 また、親やスポーツ指導者らの意識も変える必要がある。輿水准教授は「子供を指導するときには『頭を殴るな』というのが暗黙の了解だが、『胸を突くな』という教えも徹底してほしい。少年野球やソフトボールでは『胸でボールを受け止めろ』という旧来の指導は危険だ」と訴える。子供の命を守るため、輿水准教授の提唱する予防策を見て実行に移してほしい。
                   ◇

 万一、心臓しんとうが起きてしまった場合は、119番通報するとともに、AED(自動体外式除細動器)で心臓の除細動を行う。AEDがなければ救急車の到着まで心臓マッサージを続ける。「除細動が1分遅れるごとに救命率は7~10%落ちるとされるが、3分以内に実施すれば4人に3人は助かるという報告がある」と輿水准教授。周囲の人に大声で助けを求めてAEDを探してもらうなど、素早い対応が救命のカギになる。
 (※ブログ主より一言  心臓マッサージ=胸骨圧迫 です。
                 左胸を押すのではありません。胸部の中央を押すのです )

 輿水准教授は「
まさに現場でしか救えない。万一に備えて救命講習を受けておくのはもちろん、グラウンドにAEDを設置するなどして、子供たちが安全に運動できる環境を整備してほしい」と呼びかけている。

私も、小、中と少しだけ軟式野球をやっていましたが、「体でボールを受けろ!」なんて言われていたような気がします。 今は、こういう知識と予防策が普及してきた以上、以前の精神論的、根性論的指導は、もはや通用しなくなっているのかもしれません。小児の死亡は、病気よりも事故のほうが多いです。したがって、その予防という観点がすごく重要になります。 以前、高所平気症ってご存知のエントリーでも紹介させていただいた小児の救命の連鎖を再掲します。

この救命の連鎖の観点にたてば、胸部保護パッドの普及は重要と私は考えます。


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救急搬送トリアージ経過報告記事 [医療記事]

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119番通報の急増に対応するため、東京消防庁は今年の6月1日から、救急隊員が現場で救急搬送の必要のない患者を選別する「トリアージ(患者の選択)」制度を全国で初めて試験運用されています。

東京消防庁試行のトリアージ制度は、こんなイメージです。
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/triage.htm

具体的なトリアージ内容はこれです。
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/triage_sheet.pdf

その3か月間の状況が発表されました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071003-00000124-jij-soci
試行3カ月で70件=不同意は39件-救急搬送トリアージ・東京消防庁
(時事通信社 - 10月03日 20:00)
 救急車出動の要請急増による到着遅延を解消するため、東京消防庁が6月から試行した緊急性がある傷病者だけを搬送する「救急搬送トリアージ」で、同庁は3日、3カ月間の状況について、該当109件のうち70件で同意が得られたため、搬送しなかったと発表した。39件は同意が得られずに搬送した。
 

具体的なトリアージ内容をみていただければ、よくわかるとおもうのですが、このチェック項目に従って、軽症と判断される人は、確実に軽症です。

たとえ、オーバートリアージ(=真の軽症者を軽症と判断せずに救急搬送してしまう)になっても、

アンダートリアージ(=真の中等症以上の傷病者を誤って軽症と判断し、搬送お断りの依頼をする)にだけはならないように、

十分な工夫がされているチェック方式だと思います。

さて、そのような十分な配慮をもってしても、約109件が、救急搬送不要と判断されました。

都内の救急車の出動件数は、2005年には69万9971件だったそうです。この件数の1/4を単純に3ヶ月間の総出動件数と概算すれば、総出動件数=約17万件 となります。すると、搬送不要と判断されたのは、0.06%(=109/170000)と計算されます。

開始当初の予想としては、年間5000件の搬送が不要となるとの見込みが報道されていました。
今回の試行3ヶ月の時点でのこの報告をもとに、単純に比例計算で、年間件数を考えてます。
すると、年間436件の件数が不要と判断され、同意が得られ、本当に搬送が不要になるのは、280件程度と推定できます。見込みのたった5.6%です。

以上のことから、
増え続ける救急搬送件数の抑止効果としては、ほとんど期待できない
と考えざるをえません。

しかし、どうでしょう。これほどの安全をみこんで、慎重にトリアージされたほんのわずかな人たちのうち、40%もの人が、救急隊から丁重なお願いをされても、それを受け入れず、
「私を救急車で、病院へ連れて行け!」
と主張したことになります。なんという非常識!だと皆さん思いませんか?

いわゆる、社会の中に分布するわがまま人間、自己中人間がそれに該当しているんだと思います。

・本来、それだけの軽症であれば、救急車を要請しないという選択をするのが第一段階
    ほとんどの常識人はこの第一段階に該当するのでしょう。

・救急車を呼ぶのは、必ずしも本人とはかぎらず、周りがびっくりしたり、本人に気を使ったりして
 呼んでしまう場合もありえるので、そういう人なら、救急隊のお願いを素直に受け入れると思われるので、それが、第二段階。

そうして、残った筋金入りの自己中が、今回の39名なのでしょうね。

救急隊も、怒鳴られたり、凄まれたり、きっと大変だっただろうと思います。

自分の救急の現場でも、こういう自己中な人に出会うたびに、自分の心が削られ続ける毎日です。


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転倒と訴訟(自己責任を忘れた日本社会) [医療記事]

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先日こんな記事をみかけました。 入院患者の自己転倒に関する記事です。

http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/tokushima/news/20070927ddlk36040246000c.html
医療事故:県立中央病院で 入院患者が転倒、まひ残る /徳島

県立中央病院(徳島市蔵本町1)は26日、入院中の徳島市内の男性患者(81)が病棟のトイレで転倒し、言語障害と右半身にまひが残る医療事故があったと発表した。同院によると、男性は腸閉そくの診断を受けて15日から入院し、絶食状態で点滴治療を受けていた。18日午前1時40分ごろ、9階のトイレから物が落ちるような音を聞いた看護師が駆けつけたところ、入り口付近で移動式点滴台と一緒にあおむけで倒れている男性を発見。声をかけたが、応答がなかったという。検査の結果、男性は外傷性クモ膜下出血と診断。同院は同日中に事故経過と今後の治療について男性の家族に説明した。施設に安全上の不備がなかったかなどを含め、原因を調べている。【岸川弘明】毎日新聞 2007年9月27日

本日のエントリーは、転倒と訴訟について考えてみたいと思います。
幸いこの記事は、訴訟ではありません。報告記事です。しかしながら、なぜ、これがわざわざ記事になるのでしょうか? 毎日新聞社内のトイレで同じことが起きたら、はたして報道するのでしょうか? しないでしょうねえ。きっと。

高齢者の転倒事故はありふれた日常です。ところが、病院では、それが起きることは許されないという前提を皆さん持っていませんか?
 
今の日本社会は、過度の安全希求=ゼロリスク社会をあまりに求めすぎではないでしょうか?  仕方がないの心をあまりに忘れていませんか?

また、病院は、それに応じるべく、過剰適応の状態に知らず知らずのうちに陥っていないか心配です。

養老孟司氏の著書「自分は死なないと思っているヒトへ」の中で、興味深い一説があります。現代社会を「都市化」というキーワードで捕らえ、その中での人々の変化の一つに、次のようなことを指摘しているのです。

戦後の日本人で、一番目立つのは、何事も人のせいにする人間が出てきたことです。人間の作ったもので世界を埋め尽くしていけば(=都市化)、それだけが現実になっていく。その「現実」にないはずの不都合は、すべて人のせいにする。(中略) 自然の中で暮らしているときに、不幸な出来事が起ると、「それは仕方がない」となる。一方、都会の中で不幸な出来事が起きると「誰のせいだ」ということになる・溝に落っこちたら、誰かがその溝を掘ったのですから当然のことだが、やはり、「誰かのせい」というのが都市です。

なるほどですねえ。 医療というのは、「病気や死」という自然現象と戦うのが仕事ですが、、「病気や死」は、患者側にとっては、不都合なこと。 都市化された今の日本社会においては、医療も都市化社会の産物の一つ。だから、本来は自然現象としての「病気や死」に基づく不都合な結果は、「仕方がない」となるべきところを、都市化された社会の中では、「医療(医師)のせいだ」と責任をとらされるようになってしまっているような気がしてなりません。 医師はこのことを大変よくわかっているが、世間の認識は十分でない。そのギャップから、もうやってられないという感情が医師たちの中には、多く渦巻いています。 そして、現実に、現場を去る医師も増えているのだと思います。

さて、転倒にしても、本来は、かなりの部分で、「自己責任」ではないでしょうか? 
「転倒をだれかのせいにする」そんな日本社会の一端を、「転倒に関する訴訟事例報道」という面から調べてみました。13事例程提示してみます。

結果、 病院には大変厳しい判断を下すということがわかりました。 以下。ご参考ください。

事例1  これは、すごい訴訟ですね。全盲の方も本当にとばっちりです。 地裁の判決を私は支持します。

『全盲女性に衝突され骨折』 原告の賠償請求棄却 横浜地裁支部「実証できない」
2001.12.14 朝刊 27頁 社会面 (全549字) 

駅の改札口で転倒し骨折した主婦が、近くにいた全盲の女性にぶつかられたのが原因として、この全盲の女性に治療費や慰謝料約八百四十五万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十三日、横浜地裁川崎支部であった。打越康雄裁判長は「ぶつかった事実を実証できない」として原告側の請求を棄却した。訴状などによると、事故は一九九八年四月三十日、込み合う東急二子玉川駅(東京都世田谷区)で起きた。川崎市内の主婦(76)が、盲導犬を連れ、白いつえで点字ブロックに沿って歩いてきた同市内の全盲の女性(59)に背後から右肩に衝突され転倒、左足の骨を折り後遺症が残った、として九九年春に提訴した。原告側は「白いつえや盲導犬を適切に使用せず、前方確認と声掛け義務などを怠った」と主張。全盲の女性は「だれかと肩は接触したが、転ばすような勢いではなかった」と反論していた。主婦も女性も直接は相手を目撃しておらず、互いに主張を十分に立証できなかった。判決でも、衝突したかどうか裏付ける客観的証拠もないことなどから、原告側の要求は棄却となった。被告側は「今回の事例は、多くの視覚障害者が健常者とともに生活していくうえで、大きな意義を持つ」と話していた。原告側は「今回の判決は納得できない。今後、控訴することも検討したい」と話している。中日新聞社

事例2  ホテルも被害にあっているようです。 この地裁の判断はいけてないですねえ。 これも自己責任でしょう。

バージンロードで転倒、骨折 「ホテルは1720万円払え」 仙台地裁判決
2005.12.01 大阪朝刊 31頁 第1社会 (全260字)
 
参列したホテルの結婚式でバージンロードのカーペットにつまずいて転倒、大腿(だいたい)骨を骨折した仙台市の主婦(七〇)がホテル側に約六千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁の中丸隆裁判官は三十日、ホテルの過失を認め約千七百二十万円の支払いを命じた。判決理由で中丸裁判官は「カーペットを床に固定したり、足元に注意するよう促したりするなどの安全保護措置を全く実施しなかった」と述べた。ただ「参列者は一般的に神聖な場所とされるバージンロードを踏まないように注意することが求められている」とも指摘、主婦の過失も認めた。

事例3 91歳の転倒は、広く取れば加齢にともなう自然現象です。だれの責任でもありません。 高裁が適切な判断をしています。

 自宅改造費含め780万円賠償命令 歩行中衝突→91歳骨折→障害 25歳に注意義務 東京地裁
2006.06.16 夕刊 13頁 社会面 (全401字)
 
九十一歳の女性が交差点を歩行中、二十五歳の女性とぶつかり転倒したため骨折し障害が残ったとして、相手の女性に二千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(大嶋洋志裁判官)は十五日、約七百八十万円の支払いを命じた。大嶋裁判官は「健康な成人の歩行者は、高齢者や幼児、視覚障害者など『歩行弱者』との接触、衝突を回避する注意義務がある」と判断。若い女性について「そばをゆっくり直進していた原告に気付かず、振り返ろうと立ち止まったため衝突した」と認定した。判決によると、二人は二〇〇四年八月、人通りが多く、車がほとんど進入しない世田谷区の交差点中央付近で衝突。九十一歳の女性はあおむけに倒れて股(こ)関節近くを骨折し、歩行障害になった。判決は、損害額として慰謝料や治療費のほか自宅改造費や家事の休業費を含め約一千万円を算定。事故の時、九十一歳の女性も若い女性に気付いていなかったとして損害額から三割を減額した。中日新聞社

歩行中接触し骨折 91歳 逆転敗訴 東京高裁『25歳過失ない』
2006.10.19 朝刊 27頁 社会面 (全399字)
 
東京都世田谷区の交差点で二〇〇四年、当時九十一歳と二十五歳の女性が歩行中にぶつかり、転倒して骨折した九十一歳の女性が二千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は十八日、二十五歳の女性に約七百八十万円の支払いを命じた一審東京地裁判決を取り消し、請求を棄却した。宮崎公男裁判長は「交差点は混雑し、店を探して立ち止まる人も多かった。二人はゆっくり歩行し、被告が立ち止まろうとしてぶつかった。注意義務違反の過失があったとは認められない」と判断した。六月の一審判決は「健康な成人歩行者は高齢者や幼児ら『歩行弱者』との接触、衝突を回避する注意義務があるのに被告は漫然と歩行し、原告に気付かなかった過失がある」と二十五歳の女性の賠償責任を認めていた。判決によると、二人は〇四年八月、世田谷区の小田急・京王下北沢駅前近くの交差点で接触。原告はあおむけに倒れて股(こ)関節近くを骨折し、歩行障害が残った。中日新聞社

事例4 笑える裁判です。 ふざけているとしか言いようがありません。 犬は、人間の製作物じゃありませんよ・・・・。 あまりにふざけたいいがかりです。

『飼い主に調教する義務』 犬にほえられ転倒 440万円賠償命令
2001.01.30 夕刊 10頁 第2社会面 (全368字) 

犬にほえられて転倒し、足を骨折したとして、神奈川県鎌倉市の女性(71)が飼い主に約六百十万円の損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁の末永進裁判官は三十日までに「飼い主には、犬がみだりにほえないよう調教する注意義務がある」として、治療費など計約四百四十万円の支払いを命じた。判決によると、女性は一九九九年四月、自宅前の路上でつえをつき、道路わきのポールにつかまって立っていたところ、近くの男性が散歩に連れ出した犬に突然ほえられた。女性は驚いて転倒、左足を骨折し、約五十日間外出もできなかった。これまでの口頭弁論で飼い主側は「転倒は女性の足の障害のため」と女性側の過失を主張したが、判決理由で末永裁判官は、犬にほえられたことと転倒との因果関係を認めた上で「女性の過失を肯定することは、身体障害者に外出を禁ずることになりかねない」と述べた。中日新聞社

事例5 自己責任を人のせいにする究極の裁判ですね。ちなみに、原告は、上告までしていますが、完全敗訴です。裁判官は、あたりまえの判断だと思います。

スキーで転倒、後遺症/賠償訴訟で経営側、全面的に争う構え 秋田地裁口頭弁論
2000.02.03 河北新報記事情報 (全495字)
 
岩手県雫石町の岩手高原スキー場=休業中=でコースを外れて転落、土砂崩れ防止のくいで頭を打ち、重い後遺症が残ったのは施設管理に手落ちがあったためだとして、秋田市の女性(48)と夫(62)が、スキー場を経営する地産トーカン(本社東京)を相手に、計約1億600万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が2日、秋田地裁(杉本正樹裁判官)であり、地産トーカン側は全面的に争う姿勢を見せた。地産トーカン側は答弁書の中で「ゲレンデのコースを外れると、がけや急斜面となっている所も多く、危険性が伴うことは当然」と主張。また「原告はスキー場を何度も訪れており、ゲレンデをよく知っていたはずだ」と指摘して、「コースを外れたのは原告の過失による」と主張している。訴えによると、女性は平成10年3月下旬、岩手高原スキー場のゲレンデで転倒し、コースのがけ下にあったくいに頭を強く打ち付けた。こん睡状態となり、現在まで意識障害が回復していない。コースに滑落防止用ネットが張られていないなど、施設管理に落ち度があったとしている。次回は3月21日。河北新報社

事例6  これもひどいいいがかりですえねえ。 裁判官もあたりまえの判断だと思います。

入浴施設で転倒、請求棄却 金沢地裁
2007.06.23 朝刊 (全165字)
 
内灘町の入浴・宿泊施設「内灘町サイクリングターミナル」の廊下の水滴で足を滑らせて転倒し大けがを負ったとして、加賀市内の女性(77)が同町公共施設等管理公社に約二千三百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十二日、金沢地裁であった。横井健太郎裁判官は「現場の状況などから水滴が原因で転倒したとは認められない」として請求を棄却した。北國新聞社

事例7  ところが!!! 事例6と同じでも、所変われば一転して・・・・・ 。 絶句です。 赤太字注目。

損賠訴訟:入院中に転倒、女性歩行障害 恵庭の病院に610万円賠償命令 /北海道
2006.06.10 地方版/北海道 21頁 (全326字) 

入院中に脱衣場で転倒し、歩行障害が残ったのは病院側の責任として、札幌市の女性(85)が恵庭市の医療法人「我汝(わじょ)会」に約1900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が9日、札幌地裁であった。沢井真一裁判官は病院側に約610万円の賠償を命じた。判決によると、女性は03年3月、腰やひざの治療のため、同会経営の「えにわ病院」(同市)に入院。入浴時、脱衣場で約15センチの段差に気付かず転び、左脚の付け根を骨折した。病院側は「女性の不注意が原因」と主張したが、
沢井裁判官は「高齢者や病気を持った患者が多く入院しており、病院側に高度の注意義務があった」と判断した。えにわ病院は「安全には十分配慮していた。控訴を検討したい」とコメントした。【真野森作】毎日新聞社

事例8  なんだか、これは、警察という公的機関ならではの対応で、さっさと金を払いそうな気がします。本来は、自己責任のはずなのに・・・・

警察署内の転倒事故で和解 78歳女性に2700万円
2004.09.17 共同通信 (全353字) 

窃盗事件の容疑者を確認するため訪れた滋賀県警日野署で、パイプいすから転落し重傷を負った捜査協力者の女性(78)が、県に損害賠償を求めて大津簡裁に申し立てた民事調停で、県が過失を認め二千七百万円を支払う和解に双方が合意していたことが十七日、分かった。県警監察官室によると、女性は二〇〇〇年十二月、日野署が任意で事情を聴いていた窃盗事件の容疑者とみられる男の顔を確認するため同署を訪問。パイプいすに乗ってのぞき窓から顔を確認し、いすから降りようとした際にバランスを崩し後頭部から床に転倒、脳挫傷の重傷を負った。女性は現在も入院中という。女性は昨年一月に調停を申し立て、今年九月、双方が安全への配慮不足を認め、和解することに合意した。監察官室は「まだ県議会の承認を受けていないのでコメントできない」としている。共同通信社

事例9 これも無茶苦茶です。 医療・福祉を破壊するトンデモ判決だと思います。 万全な対策って何ですか?教えてくださいと言いたい。

「安全配慮欠く」、施設に損賠命令 女性転倒死で富山地裁 /富山県
2007.08.31 東京地方版/富山 31頁 富山全県 (全356字)
 
介護老人保健施設の入所者が施設内で転倒し、その後死亡したのは、施設側が転倒防止対策を怠ったためだとして、女性(当時90)の遺族らが、富山市で施設を運営する医療法人社団丘生会(岡田正俊理事長)を相手取り、約2350万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、富山地裁であった。佐藤真弘裁判官は施設側の責任を認め、計約560万円の支払いを命じた。判決によると、女性は99年11月10日未明に施設内で転倒して頭部を打ち、脳挫傷などで寝たきりの状態となり、その後、死亡した。佐藤裁判官は、施設側は女性が夜間にベッドから抜け出して歩き回り、転倒する可能性を認識していたが、
その対策が万全ではなかったとし、「安全配慮義務を十分に尽くしたものとまではいえない」と述べた。一方、女性が高齢だったことなども考慮し、損害額を減額した。朝日新聞社

事例10 これも終わってます・・・・。 こんなので病院の過失が認められるなんて。 

県に1100万円賠償命令 柏原病院で男性死亡、過失認定 /兵庫
2004.11.26 大阪地方版/兵庫 28頁 兵庫1 (全335字)
 
県立柏原病院(丹波市)に脳梗塞(こうそく)で入院していた男性(当時77)がいすから転倒して頭を打ち、適切な治療が受けられずに死亡したとして、遺族が同病院を運営する県を相手に約3400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日、神戸地裁であった。田中澄夫裁判長は病院側の過失を認定したうえで、転倒と死亡との因果関係を認め、慰謝料など約1100万円の支払いを命じた。判決によると、男性は入院中の98年8月、ベッドのシーツ交換の際にパイプいすに座っていたが、発作が起きて転倒。頭を強打して血腫ができ、投薬治療の方法を変更せざるを得なくなった結果、症状が悪化して同9月に死亡した。中島英三・県病院局長は「主張が認められず、大変残念。判決内容を十分検討し、対応したい」とコメントした。朝日新聞社

事例11 はあ・・・・、これも病院の責任ありですか・・・・・ 絶句。

転倒は病院の責任 660万円支払い命令/名古屋地裁判決
2006.01.27 東京朝刊 38頁 (全189字) 

父親(当時73歳)が入院中に転倒を繰り返して意識障害になり、肺炎を併発して死亡したのは、看護体制や投薬ミスが原因として、名古屋市内の遺族3人が名古屋第2赤十字病院(名古屋市昭和区)を運営する日本赤十字社(東京都)を相手に、約2億6000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、名古屋地裁であった。佐久間邦夫裁判長は病院側の過失を一部認め、計660万円を遺族へ支払うよう命じた。読売新聞社

事例12 病院内転倒訴訟で請求棄却の事例をなんとか探そうとしましたが・・・ こんなんがヒットしちゃいましたよ。もう無茶苦茶ですな。結局、私には、請求棄却事例を見つけられませんでした。

患者転倒死、病院側に賠償命じる 一審判決取り消し /茨城
2003.09.30 東京地方版/茨城 35頁 茨城1 (全527字) 
 日立市の聖麗メモリアル病院で、入院中の女性(当時72)が転倒して死亡したとされる事故で、原因は看護師が介添えを怠ったためなどとして、遺族3人が病院側を相手に約5600万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁(大藤敏裁判長)であった。大藤裁判長は請求を棄却した一審の水戸地裁日立支部の判決を取り消し、病院側に約620万円の支払いを命じた。判決によると、女性は01年5月、多発性脳梗塞(こうそく)で入院した。病院側は女性にトイレに行く際はナースコールするように求めていた。入院翌朝、看護師は女性をトイレまで連れて行ったが、
「1人で帰れる」と言われ、病室まで介添えしなかった。30分後、病室で後頭部を打って倒れているところを看護師が発見したが、女性は死亡した。二審判決は「看護師には女性に付き添い、事故防止の義務がある」と、付き添わなかった看護師の過失を認めた。さらに女性が倒れたのが、戻った時か改めてトイレに行こうとした時か明らかでないとしたが「看護師に1人で帰室することを容認されたことが、その後もナースコールしなかった原因と考えられる」と、転倒との因果関係についても認めた。一審では看護師の過失を認めたが、転倒との因果関係を認めなかった。朝日新聞社

事例13  ついに、自宅で転倒しても、人のせい!! 恐るべし日本社会。

「過労で倒れまひ」と提訴 1億4千万求め、大阪地裁
2007.07.13 共同通信 (全330字) 

自宅で倒れ四肢がまひしたのは過労が原因だとして、大阪府富田林市の平川主計(ひらかわ・かずえ)さん(58)が十三日、勤務先の印刷会社「DNPメディアクリエイト関西」(大阪市)に約一億四千万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。訴状によると、平川さんは技術者で、同社と契約を結び一九九六年から写真製版に従事。九九年一月、自宅で入浴し風呂場を出た際に意識を失い転倒、首の神経を損傷して両手足がまひする障害を負った。直前一カ月の時間外労働は百三十時間を超えていた。ことし一月に労災認定されており、平川さんは「過労による疲れで自律神経が機能しなくなって転倒事故が起きた。業務に起因しているのは明らかだ」と主張。同社は「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。共同通信社
もし、院内転倒訴訟事例で、請求棄却事例が本当はたくさんあるのだが、実は、マスコミがそれを報道していてないだけであれば、マスコミの偏向報道の問題として、それはそれで問題にできるのだが・・・・・。 調べようがないですね。
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食道挿管回避の肝 [医療記事]

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急変した患者に対して、気管チューブを気道に挿入するという気道確保の処置は、救急の現場においては、ありふれた処置ではある。しかし、常に、食道へ誤挿管のリスクが存在することを忘れてはいけない。救急の現場と麻酔科管理の手術室の現場とでは、各論的には、いろいろと違うところもあるかもしれない。
以下の話は、救急外来の現場で遭遇する気管挿管ということを前提にしておきたいということをお断りしておきます。

食道挿管となるリスクを左右する因子としては、
1)医療者側のスキルの因子 ・・・おもに手技
2)患者側の身体状況の因子・・・・おもに口腔内解剖学的要因 
3)医療環境の因子・・・・確認器具の充実度、コミュニケーション環境などなど多数

など、複合的に存在する。誤挿管という事実は、どうしても医療事故と直結する。ただ、一般的に医療事故報道の論調は、1)の因子ばかりが強調され、医師が叩かれがちである。しかし、それは百害あって一利なしである。医療事故報道が医師悪しの論調で書かれていたとしても、ぜひとも賢明な読者の皆様方には、その報道をうのみにすることになく、冷静に記事を読み取ってほしいと願う毎日である。

食道挿管についての話については、いつもお世話になっているmedtoolz様のサイトをご紹介しておきます。
http://medt00lz.s59.xrea.com/kidoukakuho/node15.html  以下は、ここからの一部引用です。

挿管チューブはカフを膨らませた状態であっても、最大5cm近く動く。このため確実な挿管がなされたあとであっても、声門からチューブが抜けることは生じうる

食道挿管の医療事故の報道については、少し昔であるが、次のような記事が報道されている。

食道に誤挿管 男性死亡 ○○○病院 複数医師、気付かず
200X.XX.XX 朝刊 27頁 社会面 (全648字) 

 ○○○病院(△市△区)は二日、重症肺炎で転院してきた五十代の男性患者について、気管内に入れる
人工呼吸器が誤って食道に挿管されていることに気付かず男性が死亡した、と明らかにした。同病院から届け出を受けた△県警△署が司法解剖し、嚥(えん)下性肺炎による病死と分かった。同署は引き続き、挿管の経緯などを調べる。同病院によると男性は先月三十日、△市△区の□□□病院に運ばれ、同病院が人工呼吸器を挿管。その夜のうちに家族の希望で以前、治療を受けていた○○○病院に、挿管した状態のまま救急車で転院した。その際、□□□病院の看護師が付き添った。○○○病院では同日午後七時、神経内科の担当医(39)が受け入れ、同九時に内科の当直医(43)に引き継いだ。翌一日午前十時に呼吸器科の専門医(32)が引き継ぎを受けて約三十分後に心停止。専門医が蘇生(そせい)措置を行った際、人工呼吸器が食道に挿管されていることに気付いた。男性は同十一時半ごろ死亡した。○○○病院は、どの医師も誤挿管に気付かなかったことに「注意が足りなかった」とし、誤挿管が直接の死因とはしなかったが「患者の死亡を早めた」と認めた。さらに「□□□病院が挿管のミスをしたか、搬送中に何らかのはずみで管が食道に入ったかのどちらかだ」と説明している。一方、最初に人工呼吸器を挿管した□□□病院は「正しく気管に入れた」と、ミスを否定。転院時に付き添った看護師は「気管に挿入された管が搬送時にはずみで食道に入ったという事実はない」と反論しているという。
中日新聞社

えっと、とりあえず、まずは、日本語のお勉強から

記事中の誤り:上記横線を入れた「人工呼吸器・・・・」云々の部分
人工呼吸器は、いくらなんでも、患者の口の中には入りませんよね。
「人工呼吸器」を「気管チューブ」と置き換えて訂正して記事を読んでください。

こういう事例って、当事者同士の病院間で不毛な争いになりがちですよね。
それを避けるためには、ポイントポイントでの、確認の証拠をきちんとカルテに書いておくことが、自分の立場を不毛な争いから免れる命綱になるのではないかと思っています。

さて、上記記事を時系列で少し整理してみます。

30日、時間不詳  : □□□病院で、気管挿管の処置がなされた。
30日、午後19時 : ○○○病院に転院。 神経内科医師が対応。
30日、午後21時  : 内科当直へ引き継がれた。
1日、午前10時    : 呼吸器科医師へ引継ぎ。
1日、午前10時30分:心停止
1日、午前10時XX分: 蘇生処置の際に食道挿管に気がつく。
1日、午前11時30分: 死亡

以下、私見です。
まず、複数の医師、気付かずという見出しは不適切だと思います。なぜなら、食道挿管の状態が長時間続いていたことを前提として、見出しとしているからです。複数の医師が食道挿管に気がつかないほど長時間もの間、本当に食道挿管のままであったのでしょうか?この時間経過を見る限り、前医(□□□)病院が、食道挿管をしていた可能性はほぼ0に等しいのではないかと私は思います。食道挿管になると、たとえ自発呼吸があったとしても、十分な酸素が肺に届くとは思えないからです。皆さん、自分が息を止めて半日、持ちますか?持たないでしょ。それでも仮に、何らかの理由で酸素が肺にそれなりに行っていた事態をあえて想定して考えてみたとしても、これだけの長時間食道挿管されたままであれば、胃がパンパンになって、それはそれは、太鼓のように腹は膨らむと思うからです。(ただ、胃管の挿入の有無は、記事からはわかりませんが)。

では、どういうトラブルが一番考えやすいか?
私は、チューブのdislodge(ずれること)が一番考えやすいのではないかと考えます。
体動時の時、吸引のとき、CT撮影のとき、胸骨圧迫のときなど・・・・・
いろいろな状況を思い浮かべることができます。

新聞記事の事例では、心停止の前後のどこかで、dislodgeのトラブルが発生したのではないかと私は考えます。
心停止の前であれば、dislodge⇒低酸素⇒心停止が考えられるし、
心肺蘇生開始によって、胸骨圧迫などの要因で、物理的にdislodgeが発生したとすれば、
心停止の原因は、単純に現疾患の増悪によるものとなり、食道挿管の問題は死因の主要因ではなくなります。これ以上のことは、上記記事のみからでは言及不可能です。

では、気管挿管にまつわるトラブルをどうやって予防し、リスク軽減に努めたらいいのでしょうか?

わが国の新しい救急蘇生ガイドライン(骨子)【ALS】の気管挿管の項目より引用

患者を移動させた後は、必ず気管チューブの位置確認をおこなうべきである。

気管挿管手技を行い、挿入時の確認作業が一度完了すると、ついつい、後の再確認は甘くなりがちです。患者の移動時に限らず、ありとあらゆる機会に、確認の目をもつことが重要だと思います
胸郭の両側の適切な挙上、肺音の聴取、酸素チューブの接続などは、いつでもどこでもやろうと思えばできます。型どおりのフル確認ではなくてもよいから、確認の目でつねに患者を眺める・・・そういう姿勢が重要かなとは思います。まとめます。

今日の教訓
食道挿管の事故を防ぐために:
気管挿管の確認は何度やっても安心はないと思え。


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マスコミに問う!「たらい回し」 [医療記事]

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8月29日の死産報道の第一報(魚拓)以来、いまだにマスコミは「たらい回し」という表現を使い続けている。
その証拠が、下のグラフだ。これは http://db.g-search.or.jp/index.html という有料のデータベースを用いて、全国の報道紙から「たらい回し」という表現を検索して得られたヒット件数を示したものである。明らかに、8月29日の第一報が、トリガーとなり、マスコミが騒ぎ出しているのが手に取るようにわかるグラフである。


「たらい回し」という言葉 (はてなダイアリ-より引用)
たらいを足・頭・棒などを用いて回転させる曲芸の一種(江戸時代に発祥)
大臣職など公務を身内だけで順番に回すこと。
また逆に、面倒な問い合わせやトラブル処理など日常業務以外の案件を部門間で押し付け合うこと

「たらい回し」という響きから、医療者たちが受け取るニュアンスは

面倒な救急患者を、(本当は診れる余裕があるんだけど、面倒だからという理由で)病院間でその患者を押し付け合う

というニュアンスである。

だから、マスコミがこの「たらい回し」なる言葉を使うと、言外に病院が批判されると感じ、すさまじいまでの反発をするわけである

mixi日記などを、勝手に覗かせてもらうと、マスコミ報道に批判的な意見が主流である。ごく一部には次のような意見も散見されるが、それは少数派であった。その少数派の意見を抜粋(一部改変済み)

「たらい回しの末死産、なぜそんなに受け入れ拒否するの?医者は本来の仕事を忘れてないか?」
「そんなのありえない。新しい命を拒否してるようなもんじゃないですか。」
「たらい回し・・・医師にも言い分があるだろうが、はっきり言って聞きたくもない」

等である。 こういう方々は、マスコミの不適切な表現に、医療不信を煽られてしまった方々といえよう。

で、私の疑問???

どうして、
マスコミは、どうしていまだに「たらい回し」なる表現をし続けるのか? 
である。

あれだけの激務で、受け入れ不能であった状態がわかった後でも、なぜいまだに、この表現を使い続けているのか? 

理由  単純で分かりやすい? 見出しに使いやすい? 関心を誘いやすい?
         とりあえず医者が一番叩きやすい存在?

マスコミ関係者の方、教えてください。 あなた方は何を考えているのですか?

少なくとも、日本全国の相当多数の医師を怒らせ、傷つけ、戦意喪失をさせ、見事なまでに医療向上という視点からは、逆効果ですよ。

実は、それが本当の狙いですか? 医師の戦意喪失をさせ、医療崩壊を推し進め、その結果、医療費を削減するという狙い。 国策をマスコミの立場から支援しているということなのかな?

私も、医療報道によって、自分の医療モチベーションを砕かれた一人として、本当に教えてほしいと思っています。


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お返事です [医療記事]

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マスコミはいつも誰かを責めるだけ のコメント欄が、けっこう賑わっております。ちょうど100エントリー目にふさわしい賑わい方だなあと思っております。

きっかけは、マスコミ業界の方とおっしゃられるrio様から、マスコミの視点でコメントをいただいたことです。 当ブログにとっては、開設以来始めてのことでございましては、ブログ管理人として、うれしいやら、おどろきやら、それと・・・ちとびっくりでもあります。 いずれにしましても、rio様ありがとうございました。rio様のコメントに対する管理人の考えを今回のエントリーとさせていただきます。

私は今のマスコミがいいとはまったく思いませんが、こちらのブログにあるような医療関係者の方々の激高についても、それは違うんじゃないかと感じます。「マスコミ」とひとくくりにして感情的に否定することが、医療環境の向上につながるのでしょうか。

それは違うとのご指摘ですが、激高するのはあくまで医療者側の「気持ち・感情」ですので、違う、違わないという視点ではなく、この私達医療者の気持ちは素直に認めてほしいと思います。そして、なぜそのように医療者が感じるのかを考え、今後の報道のあり方を再考する一材料としてほしいと思います。後半のご指摘には、同意です。 ですので、rio様のご指摘を、rio様ではなく、サンケイの記者へ、そのままお返しします。 「医師」とひとくくりにして感情的に否定することが、医療環境の向上につながるのでしょうか? 答えは・・・・・、言うまでもありませんよね。

1)4つの視点を掲げられていますが、事案の発生直後にすべての要件を満たした万全な記事が書けるわけではありません。特に、医療のような高度専門分野は、時間をかけて検証しなければならないことが多いのです。

2)私はその努力をマスコミが怠っているとは思いません。しかし、衆目が集まるのは事案の直後のみ。その後の検証報道などについて、どのメディアがどういう記事を書いたか、覚えている人がほとんどいないのが実情ではないでしょうか。その結果、「マスコミは偏っている」という”耳障りのいい”批判だけが一人歩きしてしまうのだと思います。


3)それではなぜ、事案の発生直後に医療従事者を断罪するような「主張」が載るのか、検証がすんでからにすればいいではないか、という反論もあるかと思います。正論を述べると、それが「一般人多数派の感覚」だからです。

4)業界内の事情なんて当然分からないし、ましてや医学的知識なんて言われても、バラエティ番組でみるぐらいが関の山。そうしたマジョリティが、「妊婦が病院に受け入れてもらえずに流産した」という事実を知ると、産経が書いたような「怒り」がわくのです。道を歩いているひとをランダムにつかまえて聞いてみてください。産経の「主張」を読んでいないひとでも、似たようなことを言うはずです。

5)マスコミが突然変異的に「怒り」を表明しているのではなく、背後には同じ考えを持ったサイレント・マジョリティがいることは、謙虚に受け止められてしかるべきだと思います。

6)その上で、「怒り」が的を射ていないとお感じならば、どこがどういう事実に反しているのかを、ロジックで述べるべきでしょう

1)、2) ⇒ 私には、大変言い訳的なマスコミ側の主張に聞こえますが、ここの主張は、まあ医療にも似た側面があるとしましょう。 ただ、同じ批判でも世論への影響力が違いすぎますから、このような批判記事が、具体的に世論にどう影響し、医師の行動にどう影響するのか、真剣に考えてほしいと思います。的外れであればあるほどそれは社会へ害悪を巻きちらかしているだけだと思います。 マスコミの方々にはそういう自覚はあるのでしょうか??? 的外れな医師バッシングの報道は、マスコミが思っている以上に医師の心へ悪影響を及ぼしている可能性が高いことを真剣に感じ取ってほしいです。 同時に、メディア情報を鵜呑みにすることしかできない一般の方もたくさんいます。センセーショナルな興味本位の医療記事で、そういう人たちに変な医療不信感を植え付けている罪深さも自覚してほしいと思います。そういう思いを、マスコミはいつも誰かを責めるだけのエントリーには込めて書いたつもりです。

3)、4) ⇒ 「多数派の感覚」が元にあって(原因)と「マスコミの主張」がある(結果)みたいな主張ですね。私は、それはおかしいと思います。 これら二つは「相互作用」の関係ではないですか? 今回の一件で奈良医大に多数の苦情の電話が入ったのは、マスコミの主張が原因で、多数派の感覚が結果ではありませんか? 今回の奈良医大は、報道被害者ではありませんか?

5)、6) ⇒ そういう世論であることは、それなりには受け止めているつもりです。 私は、医師側の気持ちも考えて、心ある報道をしてほしいと願うのみです。

残念ながら、ブログの記事は「一生懸命やってる人に文句を言うな」という感情的な主張にしか受け取れません。その言い分が通るならば、マスコミ批判もまた、してはならないはずです。おかしいですよね。

ご指摘の通り、コメントをいただいた私のエントリーは私の感情をこめて主張したものです。 「感情的な主張を行うこと」と「マスコミ批判をすること」の両者に直接的な因果関係は成立しないと私は考えますので、この主張にはお答えできません。

もう一点、今回の事案で女性に主治医がいなかったことについて、「自己責任」という批判をされていますが、これは医療従事者としての存在価値を自ら否定している発言ではないでしょうか。医療従事者が「自己責任」という言葉で患者を選別したいという欲求が、いまの医療業界に渦巻いているのでしょうか?

勘違いをさせてしまう表現だったようで申し訳ありません。 私の表現したかったことは、私個人の意見としてではなく、マスコミの意見として「患者の自己責任」について社会に問いかけることをしないということを問題視しているのです。 3)の主張でいくならば、自然とメディアの意見として出てきてしかるべきでないですか? ネット上や身近な会話の中で、患者の自己責任問題の指摘が出ているはずですから。つまり、患者の自己責任を問う声は「サイレントマジョリティ」ではないのですか? 少なくも、「医療施設個人攻撃」よりメジャーではないですか? でも、確かに面と向かって、言いにくいことですよね。それはわかります。マスコミは、「わかってるけど、こんなこといっては、非難ごうごうだからやめとけ」その程度のレベルでないですか? 違いますでしょうか? 存在価値、選別云々の主張については、まるで検討違いですので、ご理解の程よろしくお願いします。

医療従事者は、国家から権限を与えられた「権力者」です。そのため、常に結果を問われ、厳しい監視と批判にさられるのは宿命とも言えます。それと引き換えに、日本のみならず世界的に通用するステータスを得ているのです。マスコミ批判も、事案への言及も、そうした自覚のもとに行って欲しいと思います

これは、なかなか示唆に富む発言で興味深いです。 法律の専門家でありますpsq様からもコメントをいただいておりましたが、私達にとっては、マスコミが「権力者」です一個人や一企業を、マスコミ自身の意図を持った「報道」でつぶしてしまうことができるわけですから。 厳しい監視と批判だけでは、人は良くなりません。つまり、ひいては社会は良くなりません。マスコミが医療をつぶす背景が大変よくわかりました。 「厳しい監視と批判にさられるのは宿命」とマスコミという考えに基づいて医療報道を続ける限り、医者は減り続ける一方でしょう。 また、そこまで言うなら、我々を納得させるだけのさすがプロと言わしめる的を得た批判を我々にやっていただきたい。

最後になりましたが、本ブログに貴重なコメントを頂き本当にありがとうございました。自分自身もマスコミ報道について考えるいいきっかけをいただいたと思います。当ブログの本来のコンセプトは、若手医師への役に立つ医療のノウハウを伝えることです。その合間に、管理人の気まぐれでときどき医療報道記事をベースにして自分の意見を語るだけのブログです。従いまして、これ以上のマスコミの方とつっこんだ議論を続けるのは控えさせていただきます。なにとぞご了承ください。


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マスコミはいつも誰かを責めるだけ [医療記事]

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この数日の話題といえば、奈良妊婦流産の話。

ちょっと騒ぎすぎではないか? そもそも、ある医療の結果をレトロに振り返る場合、

1)医療者個人・医療施設組織の問題、
2)医療行政の問題、
3)患者側個人の問題、
4)医療行為あるいは疾患そのものに内在する不確実性などの問題

様々な側面からみた振り返り方があろうというもの。ところが、巷の報道は、奈良大淀病院の騒ぎと同レベルで、1)2)のみに終始して、ただ騒ぐだけのマスコミ報道。まったく反省してない。情けない限りである。

社会の中での欠落したシステムがある。それは、

マスコミ報道の偏向性を指摘して是正するというシステムの欠落

である。 私は、彼らの自浄作用なんてまったく信じていない。


魚拓
http://megalodon.jp/?url=http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070831/shc070831001.htm&date=20070831073714

【主張】
妊婦たらい回し また義務忘れた医師たち


次々と病院から受け入れを断られ、たらい回しにされた奈良県の妊娠中の女性が、救急車の中で死産した。奈良県では昨年8月にも、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった妊婦が、19カ所の病院に転院を断られ、死亡している。悲劇が再び起きたことに死亡した妊婦の夫は「この1年間、何も改善されていない。妻の死は何だったのか」と怒りをあらわにする。
その通りである。「教訓が生かされてない」と批判されても仕方がない。

 

 女性はようやく見つかった10カ所目の大阪府高槻市の病院に向かう途中、救急車内で破水し、その直後に救急車が軽ワゴン車と衝突した。 事故後、消防隊員が連絡すると、病院側は「処置は難しい。緊急手術も入っている」と断った。その後、大阪府内の2病院にも断られ、困った消防隊員が再び要請すると、高槻市内の病院は受け入れをOKした。結局、病院にたどり着いたのは、119番から3時間もたっていた。 奈良県では危険な状態にあるお産の周産期医療の搬送は、健康状態を把握しているその妊婦のかかりつけ病院が県内の2病院に連絡し、それぞれが受け入れ先を探す。この仕組みだと、比較的受け入れ先が見つかりやすい。 しかし、死産した女性はかかりつけの医者がいなかった。このため、一般の搬送の手順で消防隊が受け入れ先を探した。これが時間のかかった理由のひとつだという。 奈良県の幹部は「かかりつけ医のいない妊婦の搬送は想定外だった。すぐに対策をとりたい」と話すが、トラブルや事故は予期せぬ中で発生するのが常である。早急に抜本的対策をとる必要があろう。 周産期医療を扱う病院は、全国的に減少している。産婦人科医は内科医などに比べ拘束時間が長く、訴訟も多いからだ。 妊婦のたらい回しは、奈良県だけに限った問題ではない。厚労省は産科医などの医師不足対策に本腰を入れて取り組むべきである。 それにしても、痛みをこらえる患者をたらい回しにする行為は許されない。理由は「手術中」「ベッドがない」といろいろあるだろうが、患者を救うのが医師や病院の義務である。それを忘れてはならない。
(2007/08/31 05:02)
最低ですね。この記事。こんなことをいわれても、私たちは、「お前らなんかに言われたくないわ」とネガティブな感情しかわきません。 医師の気持ちをくじくだけの最低最悪の記事です。

それでも、ひとつくらいなら、医師を責める論調の記事があってもまだよしとしましょう。 
⇒1)の視点

2)の視点は、ここでいうまでもなく、いつでもマスコミのターゲットですよね。

では患者側の自己責任を考える論調がマスコミから出ないのはなぜでしょうか?
⇒ 3)の視点

では、産婦人科医師のコメント等を通して医学的な知識の啓蒙がなされないのなぜでしょうか?
⇒ 4)の視点

要は、マスコミ報道は、バランスが悪いのです。あるいは、意図的にそうしているのでしょうか?

どうか、皆様、マスコミからの情報を解釈するとき、
報道されていない視点は何か、なぜ、彼らがそれを報道しないのか
そんな視点で記事を眺めてみてはいかがでしょうか?

以下追記します。

奈良県立医科大学のHPにその日の当直の様子が公式発表されました。

こちらがその資料です。http://www.naramed-u.ac.jp/~gyne/2007.08.28.html

こんな記事を書いた記者やその新聞社こそ、非難されるべきであって、医療者が非難されるのは到底筋違いです。 この資料の最後を引用します。

(午前)08:30 当直者2名は一睡もしないまま、1名は外来など通常業務につき、他1名は代務先の医療機関において24時間勤務に従事

とあります。なぜ、このように身を粉にして働いてくださる産婦人科医師たちに向かって、よくもこんなことが言えたものです。

以上 追記でした。

そうそう、そういえば、これがちょうど100エントリー目です。 ブログを書き初めてから、半年が経ちました。これが私の記念すべき最初のエントリーでした ⇒ 医師を助けた看護師の一言

ここまで続けてこられたのは、多くの方の暖かいコメントに支えられてのことでございます。今後ともよろしくお願いします。


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いいかげんにしろ、毎日新聞 [医療記事]


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http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/traffic_accident/?1188356073

(魚拓)
http://megalodon.jp/?url=http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/traffic_accident/%3f1188356073&date=20070829123125

病院たらい回し>妊婦衝突事故後に流産 救急搬送中 大阪

 29日午前5時10分ごろ、大阪府高槻市富田丘町の国道171号交差点で、妊娠3カ月の女性(36)を搬送中の救急車と、茨木市の自営業の男性(51)の軽乗用車が出合い頭に接触した。けが人はなかったが、女性は搬送先の病院で胎児の死亡が確認された。また、女性は119番通報から約1時間半も受け入れ先の病院が決まらなかったことも判明。府警高槻署は、事故と流産の関連を捜査する。妊婦の搬送では、昨年8月に奈良県大淀町の病院を巡る問題をきっかけに、周産期医療の救急体制の不備が浮き彫りになった。(
毎日新聞)

このような報道がなされた。

毎日新聞よ、いい加減にしてくれ!

学習能力はないのか? この時期に及んで、凝りもせずに、医療バッシング表現の代表である「たらい回し」という表現を使うとは・・・・・・・・・・

ただ、ただ、あきれるだけです。

病院がなかなか決まらないという社会的に困った状況を作り出したのは、あなた方の報道姿勢にもあるということを忘れるな!

 ※ すぐに記事訂正を入れているようですね。 訂正前の記事は魚拓には残っています。
しかし、あなた方の報道姿勢の心の底を垣間見た気がします。 ブログ主追記


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大淀病院を応援します。 [医療記事]

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本日は、奈良大淀病院、妊婦死亡事例の民事訴訟の第二回口頭弁論の日です。
こういう事例でした。 参考URLはこちら


第一回口頭弁論のときのエントリーです。
私は大淀病院を支持します  

このエントリーを書いた時点から、今現在に至るまで、ブログ主の気持ちに何の変化もありません。

私は、大淀病院産科医師およびその関係者の方々を支持し、応援いたします。

民事訴訟は、平たく言えば、国が認めたけんかです。

このけんかをふっかけてきたのは、患者側遺族、その支持団体、患者側弁護士そして患者側に肩入れする一部マスコミ団体でしょう。

けんかをふっかけるのは、憲法で認められた権利ということですから、けんかをふっかけてきたことに関して、批判をしても、さらなる批判の批判を生むだけかもしれません。

ですので、私はけんかをふっかけられた大淀病院側を支持し応援するのみです。

医学的判断においては、我々医療者側に十分勝算があることに間違いありません。
裁判官の方々には、遺族感情にながされることなく、中立的な判断を下してほしいものです。

私は、裁判官を信じています。

 


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誤飲は病院の責任? [医療記事]

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認知症をかかえた高齢者の方は、転倒、誤飲など認知症に基づいた予期せぬトラブルを引き起こすことがある。そのトラブルを起こすリスクは、自宅であれ、施設であれ、病院であれ、さして変化はないように思う。
こんな裁判例があります。

注意怠ったと賠償命令  入浴剤の誤飲死で病院に
200X.XX.YY 共同通信 (全374字) 
 脳内出血でI病院(O市)に入院中に、認知症(※)の母親=当時(67)=が入浴剤を誤って飲み死亡したのは、
病院側が注意を怠ったのが原因として、遺族が病院の経営母体である法人に約三千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十一日、O地裁であった。N裁判官は「看護婦が、危険な薬剤をふたをしないまま母親の手の届く場所に置き、二重に注意を怠った」として、同会に約二千三百万円の支払いを命じた。判決によると、認知症(※)がかなり進んでいた母親は昨年三月、脳内出血で同病院に入院。同七月、看護婦に体をふいてもらい、気分転換のために車いすに乗せられていた母親は、近くのワゴンの上にあった入浴剤の原液を飲み、翌日、急性硫黄・生石灰中毒で死亡した。同病院のW院長は「判決文を見ていないので、コメントできない」と話している。 

(※)原文は痴ほうとなっていますが、ブログ主が書き換えました。

どうなんでしょうね。もし、同じことが家でおきていたら、家族は事故だといって、あきらめるでしょうね。でも、病院だったら、病院のせいにすることができますよね。 今後、高齢者の絶対的増加に伴い、当然、認知症の人たちも増えていきます。対応に困った家族は、医療施設や介護施設に援助を求めることになるでしょう。 施設が善意をもって対応したくても、こんな判決が報道されるようでは、多くの善意をくじくことにならないでしょうか? 本当は、報道されないだけで、認知症に伴う事故は、どこか「しかたがない」と受け入れて、決して医療者を攻撃しない家族もたくさんいることを私は信じたいです。

当院では、こんなことがありました。 幸い同じ誤飲でも、ほのぼのとした出来事です。

今日の救急外来。おだやかだった。

午後、ホットラインが鳴った。
「施設入所中。認知症あり。突然唇が赤くはれて、痛い。呼吸困難なし」

はあ????というのが、第一印象であった。それでも、
悪いことから考えるのが救急医の習性。輪状甲状靭帯間膜の緊急穿刺の道具は念のため確認。

で、到着。元気。しかも、礼儀正しい。たしかに下唇が赤く大きい。一皮めくれてる感もある。

しかあし、体を診ても職員の話を聞いてもよくわからない。

それでも、清掃業者が持ち込んでいた洗浄液を飲んだのだろうと推察をした。飲んだとしても少量として実害はないだろうとして帰宅可と結論。しかし、胃食道粘膜の損傷は除外しておくために、胃カメラをしてもらったが、挿入できず断念。
次に耳鼻科の先生にお願いして、ファイバーで見てもらったら、咽頭後壁の浮腫あり、喉頭蓋は問題なし。

クインケ浮腫の亜型? そんなことも考え、ステロイド投与して帰宅。明日、耳鼻科フォロー予定となった。

帰りしな、我々に微笑みながら、ティッシュを食べていた
そのとき、私は、やはりきっと何か食べているに違いないと核心した

飲んだものがたまたま致死的かそうでなかったかの違いだけで、私たちの経験と上記訴訟事例は、本質的には同じ原因です。

私は、認知症そのものは、人間の「自然な姿」の一面であり、自然現象の一つだと考えています。したがって、それが原因でおきる誤飲という事故も、自然な結果のひとつであり、 他人に責任を求める性質のものでないと考えています。 高齢にともなう諸現象は、そこそこのところで折り合いをつけて、「あきらめる」「受容する」という心構えが必要ではないでしょうか? それさえ許さない責任追及の社会であれば、医療を続けられず辞めていく人が続出するでしょう。


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