時太山の死因は高Kって本当? [医療記事]
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今、メディア報道は、時津風部屋へのバッシングで賑やかだ。 まあ、メディアはどうして飽きもせずにこうもバッシングが好きなのだろうとただ呆れるばかりである。もちろん、暴行行為は、許されるものではなく、私自身も時津風部屋で行われた集団暴行行為をかばうつもりなんかはさらさらない。 ただ、この一連の報道で一点気になることがある。それを本日のエントリーにしてみたいと思う。今回は、時太山の死因について、複数の報道情報をもとに、自験症例の実際のデータと照合して、私なりの考察を加えてみたいと思う。
まずは、時太山の死因として、最もそれらしく書いてある報道記事を引用しておく
力士急死、前親方も傷害致死容疑 前夜の暴行が主因か
2008.01.01 東京朝刊 38頁 2社会 (全1,094字)
大相撲・時津風部屋の序ノ口力士斉藤俊さん(当時17)=しこ名・時太山=が名古屋場所前の昨年6月26日、愛知県犬山市でけいこ後に急死した事件で、斉藤さんの血液から致死量のカリウムが検出されていたことがわかった。カリウムは筋肉中に多く含まれ、打撲など強い衝撃で血中に流出して心停止を引き起こすが、蓄積には一定時間がかかるという。県警は、前時津風親方=元小結双津竜、本名・山本順一=がビール瓶で殴ったことが発端で始まった兄弟子による死亡前夜の暴行が死亡の主な原因とみて、兄弟子とともに前親方も傷害致死容疑で立件する方針を固めた。カリウムのデータは、名古屋大の再鑑定で新たに死亡との因果関係が着目された。県警は死に至るプロセスが解明できたとみており、名大に依頼した組織の再鑑定の結果を待って本格的な捜査に着手する方針だ。調べでは、斉藤さんの血液は6月26日、救急搬送先の病院で採取された。血中のカリウム濃度を示す血清カリウム値は7・3だった。通常値は3・5~5程度で、7以上で不整脈や心停止が起きる。血液からは筋肉の破壊で現れる酵素、クレアチンキナーゼも通常より多く検出された。この症状は高カリウム血症と呼ばれ、外傷分野の専門家によると、ビルから落下して全身を強く打ちながら出血が乏しかった場合などに発症。暴行によっても、非常に強い打撃を繰り返し受ければ起きるという。これまでの県警の任意の調べに対し、前親方と兄弟子らは25日の暴行は認めたが、26日は「通常のけいこだった」と制裁目的を否定している。斉藤さんが病院に搬送された際には、半日以上は経過したと見られる内出血が、体表の広い範囲で確認されたという。カリウムのデータなどで、25日の暴行が相当に強い力で繰り返し加えられ死因となった疑いが強まったことから、県警はこの行為に傷害致死容疑が適用できるとみている。遺体の状況からは、26日の外傷が追い打ちとなり死に至った可能性が高い。県警は目撃証言や他部屋への聴取から、26日もけいこの範囲を超えた暴行があったとみている。県警は昨年7月、斉藤さんの体の組織を新潟大に出して鑑定した。同大の鑑定結果では、死亡前日と当日のいずれの打撲が死に結びついたかが特定されなかったため捜査が難航していた。
◆キーワード
<高カリウム血症> カリウムの濃度は腎臓が調節するが、限界を超えると徐々に血液内に蓄積され、致死量に達すると心臓が止まる。一見してわかる顕著な兆候はなく、突然死亡したように見えるとされる。高カリウム血症は多くの場合、発症までに数日間かかるが、打撃が強く広範囲にわたれば半日程度で発症するケースもある。 朝日新聞社
こんな報道です。多くの人は、ふ~んという感じで、この報道にうなづいてしまうのではないだろうか?その一方で、救急医療の現場で、心肺停止患者を診療した経験を多数持っている医師の立場からは、あれ?おかしいよ、これ~と感じているのではないだろうか?
もしかしたら、警察サイドが、なんとか犯人に仕立てあげたくて、強引な医学的こじつけをしたのではないかと私は勘ぐっている。 メディア報道の姿勢は、警察発表とあらば、批判や中立精神に立つことはなく、それはそれは喜んで、無批判にそのままうのみにして報道するという姿勢ではなかろか。そういう報道者たちの姿勢は、松本サリン事件において、河野さんをひどく傷つけることになってしまったことは記憶に新しい。(参考図書 報道被害:岩波新書)
それでは、この記事の医学的におかしいところを順次解説していこう。
そのためには、2007年6月26日における時間経過をできる限り明らかにしておく必要がある。複数の報道ソースを示しておく。
午前11時10分ごろから兄弟子とけいこを始めたという。約30分後に土俵上で倒れ、しばらく近くの通路で寝かされていたが、様子がおかしいことに気付き、午後0時50分ごろ、119番通報した。病院に運ばれた際には心肺停止状態だったという。
<毎日新聞 2007.09.26 東京夕刊>
斉藤さんは心肺停止状態で搬送され、緊急蘇生を施したが、間もなく死亡が確認された(中略)愛知県警からは死体や現場の状況、関係者からの事情聴取、CT・レントゲン検査、医師の意見をふまえ、虚血性心疾患の疑いと判断したとの報告があった。
<週刊朝日 2007.10.19>
当日の張り手などの激しいけいこが心臓停止につながったと考えられるが、直接の死因は特定できなかったという。(中略)斉藤さんは二十六日午前に約三十分間、兄弟子の胸を借りたぶつかりげいこの最中、土俵で倒れ、同日午後二時十分、病院で死亡が確認された。
<共同通信 2007.6.28>
犬山市消防本部によると、斉藤さんは26日午後1時15分ごろ病院に運ばれたが、心肺停止状態だった。
<朝日新聞 2007.10.15 東京夕刊>
以上のソースを元に、ようやく時間経過がつながった。
11:10 けいこ開始
11:40 土俵上で倒れた (0分経過)
12:50 119番通報 (1:10経過)
13:15 心肺停止状態で病院着 (1:35経過)
14:10 死亡確認 (2:30経過)
この事例は、いわゆる院外発症の心肺停止(CPA)患者のケースに該当する。この経過において致命的な経過時間がある。それは、倒れてから119するまでの1時間10分という経過だ。この1時間10分という経過だけでもって、まず蘇生の可能性がないとわかる症例だ。人間の体は、心肺停止状態になった瞬間から、確実に死後の変化が始まる。その初期兆候として次のような現象がある。カリウム値の上昇だ。死後、各細胞が崩壊し始め、その結果、細胞外(血液中)にカリウムが移動することで、血液中のカリウム値は高値となるのだ。一方、ナトリウムは、細胞外の方が細胞内より圧倒的に多量に在るので、初期の細胞崩壊では、さほど値は動かないと考えられる。
時太山の場合、上記時間経過からすると、119番通報した時点で、相当の細胞崩壊がすでに始まってしまっていた状態と考えられる。つまり、時太山関が、それより前に暴行を受けていようが受けていまいが、それとは、関係なしに、カリウム値が異常高値を示すのは、ある意味当然といえる。以上をふまえて、もう一度、報道の中の次の主張を考えてみよう。
カリウムのデータなどで、25日の暴行が相当に強い力で繰り返し加えられ死因となった疑いが強まった
上記経過時間と早期死体現象の面から考察からすれば、これはとても論理的とはいえない主張だ。こんな見る人が見ればすぐばれてしまうような主張さえしてでも、とにかくなんとしてでも、犯人を作りたいとする警察の強引な意図が見え隠れする。もしそうとするならば、この国は何かおかしくないだろうか?あるいは、報道側が、警察発表の一部だけを強調して、こんな騒ぎ方をしているのだろうか?例えば、警察は「可能性の一つとして高Kもあるかもしれない」と発表したにも関わらず、メディアが勝手に「高Kが原因だった」と騒ぎ立てるという構図だ。そんな可能性もありそうな気もする。
繰り返すが、私は暴行行為を容認しているわけではない。暴行と死亡の因果関係をあまりに短絡的に結びつけてしまっていることを問題にしているのだ。
もし、時太山が、ARVDだったら? もし、時太山が、Brugadaだったら? もし、時太山山が、QT延長症候群だったら? もし、時太山が、たこつぼを発症したことによる致死的不整脈だったら?、もし、時太山が、張り手による心臓震盪だったら?もし、時太山が、Bland‐White‐Garland症候群だったら?
こんな原因は、鑑定で否定されているのでしょうか? おそらく上記すべての完璧なる否定は無理であろう。
では、今から、私の主張を補強するための、データを提示する。当院で、経験した院外発症のCPA症例を11例調べてみた。時太山の時間経過に近い症例をA群としてまとめてみた。一方、K値変動のキーとなりえる倒れてから蘇生処置をするまでの時間が短いものを対照としてB群としてみた。
その結果を以下に表にする。
<報道から推定する時太山関の病院搬送までにいたる時間経過>
死因 | K | CPK | Na | 最終生存確認から119するまでの時間 | 119覚知から病院到着までの時間 | |
時太山 | ?? | 7.3 | ? | ? | 1:10 | 0:25 |
<当院CPA症例におけるカリウム(K)値の検討>
死因 | K | CPK | Na | 最終生存確認から119するまでの時間 | 119覚知から病院到着までの時間 | |
A群 <急変対応(119要請)まで時間を要した群> | ||||||
症例1 | 不詳 | 13 | 1434 | 152 | 0:39 | 0:24 |
症例2 | 不詳 | 7.3 | 1961 | 141 | 1:29 | 0:20 |
症例3 | 不詳 | 7.3 | 252 | 147 | 1:00 | 0:24 |
症例4 | 不詳 | 9 | 228 | 137 | 0:48 | 0:38 |
症例5 | 不詳 | 9.1 | 165 | 134 | 3:03 | 0:22 |
症例6 | 不詳 | 7.9 | 573 | 156 | 1:43 | 0:27 |
平均 | 8.9 | 768.8 | 144.5 | 1:27 | 0:25 | |
B群 <急変対応(119要請)が速やかに行われた群> | ||||||
症例7 | AMI | 5 | 1352 | 142 | 0:18 | 0:31 |
症例8 | AMI | 6.1 | 91 | 143 | 0:00 | 0:22 |
症例9 | 不詳 | 5.4 | 104 | 141 | 0:05 | 0:32 |
症例10 | 不詳 | 5.7 | 277 | 143 | 0:04 | 0:39 |
症例11 | 不詳 | 5.7 | 73 | 142 | 0:06 | 0:27 |
平均 | 5.58 | 379.4 | 142.2 | 0:06 | 0:30 | |
t test | P | 0.004 | 0.181 | 0.286 | 0.004 | 0.143 |
いかがであろうか? 時太山のカリウム値7.3は、同じような心肺停止患者(A群)の状況として当たり前の値であることがわかる。それでも、筋坐滅が主因と主張したいなら、A群の平均値をはるかに越えたびっくり値であることが必要条件だと私は思う。だから、このカリウム値を、坐滅症候群の結果としての死亡原因に求めるのは明らかにおかしいと私は主張する。A群とB群を比較してもらえれば、カリウム値は、倒れてから急変対応までの時間に大きく規定されているのがデータから伺える。
<結論>
時太山の高K血症は、死後の現象とみなす方が妥当
こんな証拠でバトンタッチされたら
検察もいい迷惑ですね。
まあ、特高並みの取り調べで
無理矢理自白させると思いますけどね。
by 野戦病院の麻酔科 (2008-02-10 16:11)
新潟大学の法医学の先生が、外因死であるとの鑑定をしておられたテレビ報道をみました。
???でした
普通の人ならいざ知らず、特殊格闘技の特殊な練習をしている人のデータなどどこにもないはずです。マラソン選手もコースを走り終わった後、物凄いデータになっているのではないかと推察します
通常のデータの外挿で、死後から死亡前を推測するのは非常に難しいと思います。
。。。。いつか鑑定をした先生に会って、その実を聞いてみたい。。。。
by Med_Law (2008-02-10 17:15)
うーん。先生すばらしいです。。。(>▽<)!!!
ちゃんと他の症例を挙げているところが。
参りました。
by 僻地の産科医 (2008-02-10 17:26)
実際に稽古とは言えないような暴行をし、結果として死亡したのであれば、メカニズムはどうであれ傷害致死で裁かれるのは仕方がないと思います。
でも、誤った医学的根拠が用いられたら嫌ですね。
by bamboo (2008-02-10 18:17)
うちの病院での実話。
昨年、うちの病院の中堅医師I先生がフルマラソンを完走しました。そのとき、ちょっといたずら心を起こしたのか、翌日、全身筋肉痛を押して出勤、採血をしたそうです。
2時間後。その科の医長の電話が鳴りました。
医長「I君。パニック値やで。」
CKが4桁だったそうです。
後もうひとつ。故時太山関の血液データについて。
溶血したんじゃないの?
LDHの値も提示されてないし。
高カリウム血症って、症候名であって、診断とは言いがたいと思いますしね。
by 駆け出し研修医 (2008-02-10 18:28)
筋肉の挫傷でカリウムが7まで上がるんだったら、CKが通常よりちょっと多い、とかでなく1万とか、数万くらいまで上がらないと、無理でしょうね、普通。
by Dr. I (2008-02-10 20:05)
おいらも同じこと感じてましたがデータ付いていると説得力有りますね~。
by 立木 志摩夫 (2008-02-11 01:16)
>Med_Lawさん
新潟大学の法医学教室ではカリウムに関して調査していないと思いました、つまり、外傷性ショックと結論づけたようですが、カリウムを根拠としていなかったように思いましたが、どこかでそのような報道がされておられたのでしょうか。
by しま (2008-02-11 01:27)
日本語おかしかったですね。
新潟大学の法医学の先生は、時大山の死因を外傷性ショックと結論づけたように思いますが、カリウムに関しては測定しなかったように思います。
>死亡前日と当日のいずれの打撲が死に結びついたかが
>特定されなかったため捜査が難航していた。
とあるように、新潟大学の鑑定では断定しておりません。恐らく、医学的には、どちらの暴行が死に繋がったのかまではわからないと思います。後は警察の捜査次第だと思いますが、今回の件、だれがどう見ても警察の操作ミスは明かですね。
by しま (2008-02-11 01:35)
あらためて、胸のつかえが少しおりた感じがします。
時間経過の採血はまず行わないので実感はなく、貴重なデータ提供をありがとうございました。
暴行について、亡くなられたことについて、とは違う観点で考察する必要とはこういう思考過程がいることですよね。あらためて処罰感情や責任のおしつけ、とは無理やり離れて考えることが不可欠、データ提供以外の当事者参加は少なくとも医学的真相究明には無駄(ただし、説明や家族対応という部分で限定的に参加することまでは全否定しませんが)だと思いました。
ほぼ生きている人を扱っているものからすると心停止後の変化ってわからないものですよね。
by ハッスル (2008-02-11 12:06)
私もニュースには疑問を持ちました。
高K血症ではなく 高CK血症の間違いであったのかなと。
by kinmuiです。 (2008-02-11 13:57)
新潟大学医学部法医学教室の出羽准教授が担当されたみたいです@新潟ローカル(BSN)のTVニュース
解剖結果についての細かいコメントなし。「解剖するにもすべての科目で医師不足。とにかく医師を増やさないといけない」とのお話でした。
by NO NAME (2008-02-11 18:28)
そもそも法医学領域での「外傷性ショック」って「急性腸炎」のようなゴミ箱病名じゃなかろか?
外傷性ショックの定義そのものが「外傷に起因するショックの総称」なんていい加減なものだし(つまり、神経原性ショックも心原性ショックも出血性ショックもCrush Syndromeによるショックも全部含まれる)。
外傷性ショックを「具体的に」指摘しうる所見ってあるんだろうか?Crush Syndromeや出血性ショックみたいなものならばまだしも、神経原性の外傷性ショックや心原性ショック(特に不整脈によるもの)なんかは解剖などでは絶対分からないと思うんだけど。
by 僻地外科医 (2008-02-11 19:47)
皆様、コメントありがとうございます。
最初は、「外傷性ショック」って何よ???という感じの印象の事件でした。僻地外科医先生と同じ感覚です。
そうしているうちに坐滅症候群⇒高Kという記事が出てきましたので、はあ~ん、外傷性ショックってそういうことなのねと一応流れが私にも見えました。
でも、それでもおかしいということで、今回のエントリーとなったわけです。
by 元なんちゃって救急医 (2008-02-11 21:16)
いつも拝読させていただいております。
今回も、大変勉強になりました。
ところで、
このエントリ内のリンクにおかしいところがありますので、
至急修正されたほうがよろしいかと思います。
by 名無し (2008-02-12 01:18)
>名無し 様
ありがとうございました。リンク修正しました。
by 元なんちゃって救急医 (2008-02-12 06:44)
ブログで持論を展開されるのはいいのですが、その件を警察に指摘されたのでしょうか?
ご存知のとおり、新聞記事は裁判の証拠になります。記事が間違っていれば、まちがったものが証拠として採用される恐れがあります。
医者として報道を明らかにまちがっていると断じた以上、公的な行動をおこさなければ、報道被害・偏向裁判に消極的に加担していることになります。
ぜひ医者の見解として自説を当該警察およびマスコミに公的に送付し、そのリアクションをブログにて教えていただきたいと思います。
すでにそのような行動をとられているようでしたらすみません。
by 素朴な疑問 (2008-02-17 22:00)
> 新聞記事は裁判の証拠になります。
犯罪事実を直接立証するための証拠として採用されたという話は寡聞にして存じません。
伝聞証拠ですから、新聞記者の証言ですら迂遠なのに、記事など裁判ではまったく問題にならないと言っていいでしょう。
> 記事が間違っていれば、まちがったものが証拠として採用される恐れ
はありませんのでご安心ください。
by fuka_fuka (2008-02-17 23:28)
>fuka_fuka 先生
弁護士としてのご意見ありがとうございます。
もし、私に医師としての見解が求められれば、ここに書いてあるとおりのことを私は伝えるまでです。
まあもっとも、警察や検察は、肩書きのある医療者の意見を求めるでしょうね。
by 元なんちゃって救急医 (2008-02-18 06:23)
葛飾ビラ配布弾圧事件
素人なのでネットで之しか見つけられませんでした。ごめんなさい。
ぼくがいいたかったのは、医師の専門的な立場でおかしいとおもったことは公的な行動にうつすべきだということでした。
揚げ足をとられるような発言をしてしまってすみませんでした。
by 素朴な疑問 (2008-02-18 15:17)
素朴な疑問さん
「葛飾ビラ配布弾圧事件」 で新聞記事が刑事裁判での証拠とされたというのは、以下のことでしょうか?
http://wind.ap.teacup.com/people/2035.html
> これに対し、弁護側は、第1審無罪判決翌日に出された判決を評価する内容の新聞各社の社説と、警察の逮捕は行き過ぎだとの本件マンション住民のコメントが記載された新聞記事を証拠として提出して採用されました。
これは、「情状証拠」 といいます。
被告人が行ったとされている行為があったかなかったか、という事実の認定には関係しません。
裁判に限りませんが、証拠というのは、「何を立証するためのものか」 という観点との相関関係で決まるものなので、あるものAが証拠になった場合を根拠に、「Aというものは裁判の証拠になる」 と一般化するのは誤りです。
(例: 拳銃のみが凶器である殺人事件において、被告人の指紋がついたサバイバルナイフは、殺害行為の立証という観点では何の証拠価値もありません)
そういう意味で、私が先に書いた 「犯罪事実を認定するための証拠として使われることがありえない」 という表現は厳密には誤りで、 「新聞記事が犯行の手段として使われるような特殊な場合でない限り」 と、前提を補う必要があります。
具体的には、新聞記事が誰か個人を誹謗中傷するもので、名誉毀損罪に問われるような場合には、新聞記事の存在が犯罪事実に直接関係する証拠になります。
ご意見の本旨は
> 医師の専門的な立場でおかしいとおもったことは公的な行動にうつすべきだということ
とのことですが、そのご意見にも私は賛同できません。
「するほうがよい」 と 「すべきである (しないことは非難に値する)」 とを同一視するのは、不当です。
素朴な疑問さんが、ご自身の専門分野について何かマスコミ報道の誤りを指摘する意見を公開した場合に、
「○○のプロとして報道を明らかにまちがっていると断じた以上、公的な行動をおこさなければ、報道被害・偏向裁判に消極的に加担していることになります。」
という意見を受けた場合にどう感じるかをお考えになってみては。
by fuka_fuka (2008-02-18 18:24)