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食道挿管回避の肝 [医療記事]

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急変した患者に対して、気管チューブを気道に挿入するという気道確保の処置は、救急の現場においては、ありふれた処置ではある。しかし、常に、食道へ誤挿管のリスクが存在することを忘れてはいけない。救急の現場と麻酔科管理の手術室の現場とでは、各論的には、いろいろと違うところもあるかもしれない。
以下の話は、救急外来の現場で遭遇する気管挿管ということを前提にしておきたいということをお断りしておきます。

食道挿管となるリスクを左右する因子としては、
1)医療者側のスキルの因子 ・・・おもに手技
2)患者側の身体状況の因子・・・・おもに口腔内解剖学的要因 
3)医療環境の因子・・・・確認器具の充実度、コミュニケーション環境などなど多数

など、複合的に存在する。誤挿管という事実は、どうしても医療事故と直結する。ただ、一般的に医療事故報道の論調は、1)の因子ばかりが強調され、医師が叩かれがちである。しかし、それは百害あって一利なしである。医療事故報道が医師悪しの論調で書かれていたとしても、ぜひとも賢明な読者の皆様方には、その報道をうのみにすることになく、冷静に記事を読み取ってほしいと願う毎日である。

食道挿管についての話については、いつもお世話になっているmedtoolz様のサイトをご紹介しておきます。
http://medt00lz.s59.xrea.com/kidoukakuho/node15.html  以下は、ここからの一部引用です。

挿管チューブはカフを膨らませた状態であっても、最大5cm近く動く。このため確実な挿管がなされたあとであっても、声門からチューブが抜けることは生じうる

食道挿管の医療事故の報道については、少し昔であるが、次のような記事が報道されている。

食道に誤挿管 男性死亡 ○○○病院 複数医師、気付かず
200X.XX.XX 朝刊 27頁 社会面 (全648字) 

 ○○○病院(△市△区)は二日、重症肺炎で転院してきた五十代の男性患者について、気管内に入れる
人工呼吸器が誤って食道に挿管されていることに気付かず男性が死亡した、と明らかにした。同病院から届け出を受けた△県警△署が司法解剖し、嚥(えん)下性肺炎による病死と分かった。同署は引き続き、挿管の経緯などを調べる。同病院によると男性は先月三十日、△市△区の□□□病院に運ばれ、同病院が人工呼吸器を挿管。その夜のうちに家族の希望で以前、治療を受けていた○○○病院に、挿管した状態のまま救急車で転院した。その際、□□□病院の看護師が付き添った。○○○病院では同日午後七時、神経内科の担当医(39)が受け入れ、同九時に内科の当直医(43)に引き継いだ。翌一日午前十時に呼吸器科の専門医(32)が引き継ぎを受けて約三十分後に心停止。専門医が蘇生(そせい)措置を行った際、人工呼吸器が食道に挿管されていることに気付いた。男性は同十一時半ごろ死亡した。○○○病院は、どの医師も誤挿管に気付かなかったことに「注意が足りなかった」とし、誤挿管が直接の死因とはしなかったが「患者の死亡を早めた」と認めた。さらに「□□□病院が挿管のミスをしたか、搬送中に何らかのはずみで管が食道に入ったかのどちらかだ」と説明している。一方、最初に人工呼吸器を挿管した□□□病院は「正しく気管に入れた」と、ミスを否定。転院時に付き添った看護師は「気管に挿入された管が搬送時にはずみで食道に入ったという事実はない」と反論しているという。
中日新聞社

えっと、とりあえず、まずは、日本語のお勉強から

記事中の誤り:上記横線を入れた「人工呼吸器・・・・」云々の部分
人工呼吸器は、いくらなんでも、患者の口の中には入りませんよね。
「人工呼吸器」を「気管チューブ」と置き換えて訂正して記事を読んでください。

こういう事例って、当事者同士の病院間で不毛な争いになりがちですよね。
それを避けるためには、ポイントポイントでの、確認の証拠をきちんとカルテに書いておくことが、自分の立場を不毛な争いから免れる命綱になるのではないかと思っています。

さて、上記記事を時系列で少し整理してみます。

30日、時間不詳  : □□□病院で、気管挿管の処置がなされた。
30日、午後19時 : ○○○病院に転院。 神経内科医師が対応。
30日、午後21時  : 内科当直へ引き継がれた。
1日、午前10時    : 呼吸器科医師へ引継ぎ。
1日、午前10時30分:心停止
1日、午前10時XX分: 蘇生処置の際に食道挿管に気がつく。
1日、午前11時30分: 死亡

以下、私見です。
まず、複数の医師、気付かずという見出しは不適切だと思います。なぜなら、食道挿管の状態が長時間続いていたことを前提として、見出しとしているからです。複数の医師が食道挿管に気がつかないほど長時間もの間、本当に食道挿管のままであったのでしょうか?この時間経過を見る限り、前医(□□□)病院が、食道挿管をしていた可能性はほぼ0に等しいのではないかと私は思います。食道挿管になると、たとえ自発呼吸があったとしても、十分な酸素が肺に届くとは思えないからです。皆さん、自分が息を止めて半日、持ちますか?持たないでしょ。それでも仮に、何らかの理由で酸素が肺にそれなりに行っていた事態をあえて想定して考えてみたとしても、これだけの長時間食道挿管されたままであれば、胃がパンパンになって、それはそれは、太鼓のように腹は膨らむと思うからです。(ただ、胃管の挿入の有無は、記事からはわかりませんが)。

では、どういうトラブルが一番考えやすいか?
私は、チューブのdislodge(ずれること)が一番考えやすいのではないかと考えます。
体動時の時、吸引のとき、CT撮影のとき、胸骨圧迫のときなど・・・・・
いろいろな状況を思い浮かべることができます。

新聞記事の事例では、心停止の前後のどこかで、dislodgeのトラブルが発生したのではないかと私は考えます。
心停止の前であれば、dislodge⇒低酸素⇒心停止が考えられるし、
心肺蘇生開始によって、胸骨圧迫などの要因で、物理的にdislodgeが発生したとすれば、
心停止の原因は、単純に現疾患の増悪によるものとなり、食道挿管の問題は死因の主要因ではなくなります。これ以上のことは、上記記事のみからでは言及不可能です。

では、気管挿管にまつわるトラブルをどうやって予防し、リスク軽減に努めたらいいのでしょうか?

わが国の新しい救急蘇生ガイドライン(骨子)【ALS】の気管挿管の項目より引用

患者を移動させた後は、必ず気管チューブの位置確認をおこなうべきである。

気管挿管手技を行い、挿入時の確認作業が一度完了すると、ついつい、後の再確認は甘くなりがちです。患者の移動時に限らず、ありとあらゆる機会に、確認の目をもつことが重要だと思います
胸郭の両側の適切な挙上、肺音の聴取、酸素チューブの接続などは、いつでもどこでもやろうと思えばできます。型どおりのフル確認ではなくてもよいから、確認の目でつねに患者を眺める・・・そういう姿勢が重要かなとは思います。まとめます。

今日の教訓
食道挿管の事故を防ぐために:
気管挿管の確認は何度やっても安心はないと思え。


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共通テーマ:日記・雑感

コメント 7

コメントの受付は締め切りました
ほっしー

いっそ、全例ファイバー下挿管にして、喉頭鏡での挿管は禁止、違反したら実刑、違反を強要しても実刑。挿管したレセプトには声帯と気管内写真と胸部写真をつけること。
としたらどうでしょう。
医者としていけてない案だと思いますが…。
by ほっしー (2007-09-19 16:09) 

bg

ずれたら自動的に知らせてくれるチューブがあればいいですねぇ。
by bg (2007-09-20 10:42) 

Luxmann

これが便利です。
http://www.pentax.co.jp/japan/products/medical/larynx/index.html

問題は値段(約80万円)ですが、量産効果で安くならないか
PENTAXの人は検討して下さい。
1/3の値段になると普及すると思います。

デモで使わせていただきましたが、今まで緊張しながら覚えた手技が
技術革新によりあっという間に超えられたような感覚に襲われました。

このようなデバイスが普及することにより、恩恵を受ける人が
飛躍的に増えるのではないでしょうか。
また、コメディカルによる挿管も安全にまた迅速に行えることを
期待できます。
by Luxmann (2007-09-20 15:18) 

moto

それ、このあいだ、買いました。>ペンタックスのエアウエイスコープ
たしかに良さそうです。
もっとも、うちは、個人クリで全麻はかけず、静脈麻酔までなので、もっぱら術中咳き込んだときの吸引用ですが(笑。
喉頭蓋確認しながら、万が一のときの挿管イメトレしてます。
by moto (2007-09-20 19:04) 

元なんちゃって救急医

>ほっしー様
事故として叩かれるなら、ほんとそのくらいしてほしいものですね。

>bg 様
同感です。

>Luxmann様
これは、便利ですね。今度の救急医学会でデモ機が出ないかな?便利なものができると、一方では、職人的な技術や芸術が衰退していく・・・・ 。そう考えると少し複雑です。

>moto 様
すばやいですね、先生。さすがです。
by 元なんちゃって救急医 (2007-09-20 21:04) 

ハッスル

今年の救命士による食道挿管トラブルも同様のズレがあったんだろうと理解しています。そのことを理解していないで受け入れた病院で、後出し指摘されると、”挿管した人が根源”の論調になるんだと思います。
なんちゃって救急医さんのおっしゃるように引継ぎに当たって、聴診でも、聴診器がなければ胸郭挙上を目視だけでも、医者でなくても看護師でも心がけることが必要でしょうね。
ただし、このことはエアウェイスコープで挿管しても、なんら変わらないと思いますが・・・
ちなみに昨年の救急医学会でデモありましたよ。
by ハッスル (2007-09-21 13:46) 

元なんちゃって救急医

>ハッスル 様

コメントありがとうございます。

>ただし、このことはエアウェイスコープで挿管しても、なんら変わらない

全く同感です。最初を道具で確実に入れても、後の細やかな確認が必要なことは変わりありませんからね。
by 元なんちゃって救急医 (2007-09-22 22:08) 

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