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ただの腸炎のはずが? [救急医療]

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若い健康な人が、下痢や嘔吐、腹痛などを訴えて、夜間の時間外外来を受診する。バイタルも問題が無く、お腹を触っても柔らかく、おとなしい感じだ。

そんな時、時間外担当の医師は、検査などは何も行なわずに、
「腸の風邪ですね。整腸剤で様子を見ても大丈夫でしょう・・・」
とやさしく患者に語りかけ、薬を持って帰ってもらって、診察はものの5分程度で終了。
さ、これで休めるさ・・・。当直室へもどろう・・・・・。
ほとんどの患者は、数日後には何事もなく自然軽快する。
なんら、問題の無い対応だ。

時間外診療の極々日常的なできごとである。
しかし、その我々の平和な日常を、容赦なく突如脅かすのが様々な地雷疾患である。

今日は、そんな地雷を一つ、過去の自験例から引っ張り出してみたいと思う。
私が、アルバイトで、ある市民病院の内科初診外来のお手伝いをしていたときの出来事。

症例 26歳 男性 血圧低下、意識レベル低下

ある市民病院でアルバイトの初診外来の日。外来診療もそろそろ終わろうとする頃、隣の内科処置室が、にわかにばたばたとしだした。

「おい、もっとレジデントを呼べ!!」
「ドーパミンもってこい!!」 「ポータブルのレントゲンを依頼しろ!」

ちょっと覗き見すると、26歳男性が、搬入されたばかりのところであった。
一人の内科常勤医師が大騒ぎをしていた。

血圧は、60代、徐脈。 意識レベルは、Ⅲー200。

酸素投与したり、ルート確保したり、狭い内科処置室はばたばたとし始めているところであった。

患者のカルテを手にとって見た。

なんと、3日前の夜間に、この患者は、内科時間外受診をしていた。3行カルテであった。
そのときのカルテ記載を、記憶に基づき再現しよう。

「嘔吐、下痢あり。 その前に感冒症状あり」 と病歴は、この一行のみ。

バイタルの記載 なし。

「腹部所見  ソフト、圧痛軽度。リバウンドなし。 腸音 やや亢進。
理学所見は、この一行のみ。

そして、最後の一行
「急性腸炎。整腸剤で様子見る。」

そして、この患者が、今、私の目の前で、生命の危機に瀕しているようだ。

いったい、この患者には何が起きたのだろう?  (9月21日 記 続きは後日)

(9月22日 追記)
皆様、たくさんのコメントをありがとうございました。いろんなご意見を聞かせていただくことは、とても勉強になります。
症例の経過を続けます。

程なくして、生化学の結果が、対応していた内科常勤医の元に届いた。

「血糖が1100や! ケトアシドーシスか!」 

診断がつき、直ちに、ケトアシドーシス(DKA)の初期治療が開始され、ICUへと運ばれていった・・・。

その後、この患者は、無事、独歩退院となったそうである。 

DKAも対応が遅れると、心肺停止状態で運ばれてきます。 この患者は、心肺停止直前のところで、搬送されてきたという感じでしょうか。ほんと、助かってよかったとおもいます。
参考エントリー:過換気症候群に潜む地雷 (DKAによるCPA症例を提示しています)

こんな訴訟もあります。

糖尿病性こん睡で高3死亡 医師の誤診と両親提訴
199X.XX.XX  夕刊 22頁 (全380字) 
高校三年の長男(当時十八歳)が糖尿病性こん睡に陥り、その後肺炎になって死亡したのは誤診が原因として、T県O市内に住む両親が10日までに、同市内の診療所の医師を相手取り、総額約八千百万円の損害賠償を求める訴えをN地裁に起こした。訴えなどによると、長男は昨年N月5日、頭痛や高熱が続いたため、同診療所で受診。当初は
急性気管支炎、後に急性胃腸炎と診断され、注射や薬剤投与などの治療を受けたが、同月9日、自宅で容体が急変し、別の総合病院で同14日、死亡した。病理解剖の結果、長男はインスリン依存型糖尿病とわかり、死因は気管支炎を伴う肺炎だった。このため両親は、診療所の医師がずさんな診察で糖尿病の症状を見逃し、その結果、糖尿病性こん睡に陥って死亡したとしている。これに対し、医師は「こちらに過失はなく、争っていくことになるだろう」と話している。読売新聞社

DKAの初期段階では、消化器症状や過呼吸が全面に出ることがあるというのは、比較的有名な話です。

腸炎かな?と思った患者に、 呼吸数は? 口渇、多飲、多尿のエピソードは? などのアンテナをたてて診察する周到さが、早期発見早期治療につなげてあげることができるのかもしれませんね。 

とはいうものの、夜中に来院する全ての腸炎疑いの人に、すべて完璧に対応できるか? と言われても、これまた無理があります。はい・・・ 自然軽快する患者がほとんどで、こういう患者はほんの一握りです。そんな背景の中で、重症化の予知というのは、本当に難しいと思います。極論を言えば不可能です(自然現象は確率に支配される)。日々そんなことを考えながら診療するのが、私の日常です。

しかし、こういうケースのように、前回受診歴がある患者が重症化すると、まっさきに、その最初の診療内容が「後だしジャンケン」に基づいた厳しい批判の目にさらされます。後だしじゃんけんの批判に備えて用心深いカルテ記載をしておくしか防衛の手段がないのかもしれません。

ただ、それ以上に大事なのは、病状の経過の不確実性(確率的分散)を、患者・家族に理解してもらうことだと考えます。病状の経過を、常に時間という線の中で状態を評価する重要性を、病状説明の際に、いかにわかりやすく家族・本人に伝えることができるかが、予想外の悪い臨床経過を取ってしまったときの紛争予防につながるのではないでしょうか?

まとめます。

本日の教訓
DKAの初期症状に注意せよ!

 


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コメント 13

コメントの受付は締め切りました
村医者28号

急性膵炎に一票です!
by 村医者28号 (2007-09-21 23:02) 

こんた

ステロイドや免疫抑制剤を内服するような基礎疾患があって
サイトメガロ腸炎やbacterial translocationによるショックなんていやですね
by こんた (2007-09-21 23:29) 

よしだ

数日前の感冒症状→いきなりショックってことで心筋炎とかどうでしょう。
by よしだ (2007-09-21 23:49) 

勤務医です。 

既往歴のない男性なら、嘔吐、下痢は、たとえば 急性虫垂炎でも、
その後に 膿瘍か腹膜炎かになって、敗血症性ショックであったでしょうか。

救急外来では虫垂炎は疑ったが 所見はなく、整腸剤しか出さなかったのだけれど(翌日には 来てね といつものように 言ったつもりが)
翌日に他の診療所から 中途半端に 抗生剤の処方を受けてしまい、
3ー4日後に 相当な状態で 運ばれてきた 若い男性の経験があります。 
by 勤務医です。  (2007-09-22 00:23) 

ごるご

徐脈+ショック+嘔吐・下痢で急性副腎不全などはどうでしょうか?
それとも、脱水->腎不全->高カリウム血症->徐脈+ショック
大穴で有機リンなどのコリン作動性薬物中毒でしょうか?
periarrestで徐脈ショックになっている可能性もありますが・・・
by ごるご (2007-09-22 01:48) 

moto

とりあえず、血糖はかってみたくなりますが・・
エピソードに隠してある(カルテに記載がなかった?)けど、実はDM持ちで、腸炎で嘔吐下痢続いて、低血糖発作っていうシナリオはどうでしょうか?
by moto (2007-09-22 04:19) 

moto

すみません、×低血糖→○高血糖(脱水)。1型ならケトアシドーシスかも。
by moto (2007-09-22 09:18) 

ただの小児科医

私も心筋炎を疑いますが,3日前の受診時には疑わしい所見はあったのでしょうか.
by ただの小児科医 (2007-09-22 11:39) 

ponta

いつも、勉強させていただいております。
はじめは、GBSかと思いましたが、腹痛出現からショックまでの期間が短すぎると思います。Addisonを原疾患に持っていたのでしょうか?副腎不全がアヤシイと思います。以前、副腎癌術後の方で腹痛を常に訴えておられる方がいらっしゃったので。
by ponta (2007-09-22 13:23) 

元なんちゃって救急医

皆様ありがとうございます。

急性膵炎
基礎疾患ありの敗血症性ショック
心筋炎
急性副腎不全
有機リン中毒
高血糖

いろいろでましたね。幅広く鑑別を列挙できることが、地雷回避の第一歩だと思います。そいういう意味では、こちらも皆様方のコメントが勉強になります。
by 元なんちゃって救急医 (2007-09-22 21:59) 

こんた

DKAですかぁ
この裁判の症例は
今で言うところの劇症I型糖尿病ってやつになるのかも..

これはこれで、立派な地雷
by こんた (2007-09-22 22:31) 

moto

血圧60と測定可能なわりに意識レベルⅢー200と悪すぎるあたりが、血糖っぽかったですね・・そんなもん、ほかの病態だってありうる、と突っ込まれればそうなんですが・・
まえの、PMRのも、血沈がまず頭に浮かんで、それなら、PMRだろう、と推理しました。救急外来で、自動検査機では検査できないが、看護婦さんに無理を頼めばやってもらえそうな検査、っていうと血沈っぽいし。
こういう問題をとく時の推理と、実際に診察・診断進める時の判断手順っていうのは、脳の違う部分使ってるような気がします。実際の診療であまり「推理」しすぎると、外れることのほうが多いような気がします・・
まあ、シナリオがよく出来てて、クイズとして面白ければ、なんでもいいんだけど(^^;。
by moto (2007-09-22 23:06) 

くらいふたーん

いつも勉強させていただいておりますが、最近私が経験した症例が結構出てくるので驚いています。
今回は出遅れて解答が出てから見てしまったのですが、ほんの1W前に経験したケースをちょっとご紹介。
30代前半の女性。2週間前からの急激な体重減少と倦怠感、動悸あり。前日受診した休日当番医の開業医さんから「甲状腺機能亢進症疑い」とのことで当科紹介。
それならばなんで内分泌科じゃないのと思いつつ診察。
ぐったりしていてみるからにsickな感じ。話を聞くと開口一番、身体がだるくてのどが渇いてたくさん水飲んでますと。こう言ってくれればこりゃ甲状腺じゃなくDMだろうと思いますよね。
結果は血糖750 PH 7.1前後というような状況でした。
前日受診後に意識消失せずにたどりつけて前医には運があるとホントに思いました。
by くらいふたーん (2007-09-23 22:18) 

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