誤飲は病院の責任? [医療記事]
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認知症をかかえた高齢者の方は、転倒、誤飲など認知症に基づいた予期せぬトラブルを引き起こすことがある。そのトラブルを起こすリスクは、自宅であれ、施設であれ、病院であれ、さして変化はないように思う。
こんな裁判例があります。
注意怠ったと賠償命令 入浴剤の誤飲死で病院に
200X.XX.YY 共同通信 (全374字)
脳内出血でI病院(O市)に入院中に、認知症(※)の母親=当時(67)=が入浴剤を誤って飲み死亡したのは、病院側が注意を怠ったのが原因として、遺族が病院の経営母体である法人に約三千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十一日、O地裁であった。N裁判官は「看護婦が、危険な薬剤をふたをしないまま母親の手の届く場所に置き、二重に注意を怠った」として、同会に約二千三百万円の支払いを命じた。判決によると、認知症(※)がかなり進んでいた母親は昨年三月、脳内出血で同病院に入院。同七月、看護婦に体をふいてもらい、気分転換のために車いすに乗せられていた母親は、近くのワゴンの上にあった入浴剤の原液を飲み、翌日、急性硫黄・生石灰中毒で死亡した。同病院のW院長は「判決文を見ていないので、コメントできない」と話している。
(※)原文は痴ほうとなっていますが、ブログ主が書き換えました。
どうなんでしょうね。もし、同じことが家でおきていたら、家族は事故だといって、あきらめるでしょうね。でも、病院だったら、病院のせいにすることができますよね。 今後、高齢者の絶対的増加に伴い、当然、認知症の人たちも増えていきます。対応に困った家族は、医療施設や介護施設に援助を求めることになるでしょう。 施設が善意をもって対応したくても、こんな判決が報道されるようでは、多くの善意をくじくことにならないでしょうか? 本当は、報道されないだけで、認知症に伴う事故は、どこか「しかたがない」と受け入れて、決して医療者を攻撃しない家族もたくさんいることを私は信じたいです。
当院では、こんなことがありました。 幸い同じ誤飲でも、ほのぼのとした出来事です。
今日の救急外来。おだやかだった。
午後、ホットラインが鳴った。
「施設入所中。認知症あり。突然唇が赤くはれて、痛い。呼吸困難なし」
はあ????というのが、第一印象であった。それでも、
悪いことから考えるのが救急医の習性。輪状甲状靭帯間膜の緊急穿刺の道具は念のため確認。
で、到着。元気。しかも、礼儀正しい。たしかに下唇が赤く大きい。一皮めくれてる感もある。
しかあし、体を診ても職員の話を聞いてもよくわからない。
それでも、清掃業者が持ち込んでいた洗浄液を飲んだのだろうと推察をした。飲んだとしても少量として実害はないだろうとして帰宅可と結論。しかし、胃食道粘膜の損傷は除外しておくために、胃カメラをしてもらったが、挿入できず断念。
次に耳鼻科の先生にお願いして、ファイバーで見てもらったら、咽頭後壁の浮腫あり、喉頭蓋は問題なし。
クインケ浮腫の亜型? そんなことも考え、ステロイド投与して帰宅。明日、耳鼻科フォロー予定となった。
帰りしな、我々に微笑みながら、ティッシュを食べていた。
そのとき、私は、やはりきっと何か食べているに違いないと核心した
飲んだものがたまたま致死的かそうでなかったかの違いだけで、私たちの経験と上記訴訟事例は、本質的には同じ原因です。
私は、認知症そのものは、人間の「自然な姿」の一面であり、自然現象の一つだと考えています。したがって、それが原因でおきる誤飲という事故も、自然な結果のひとつであり、 他人に責任を求める性質のものでないと考えています。 高齢にともなう諸現象は、そこそこのところで折り合いをつけて、「あきらめる」「受容する」という心構えが必要ではないでしょうか? それさえ許さない責任追及の社会であれば、医療を続けられず辞めていく人が続出するでしょう。
どうしてこのようなことで訴訟が起きてしまうのでしょうか?残念でなりません。昔は家族が親の面倒をみるのが当然であったのが、今では施設を利用される。そのおかげでふだん家族はゆっくりと生活を過ごすことが出来る。あり難いと思うはずが、それが当然の制度なのだと思っているので、何かあれば文句を言ってくる。いっそ国策として 親の面倒は子供がみるという制度にしてしまえばどうでしょうかね。すると施設のありがたみがわかる。施設を利用したい人は今よりも料金をもっとあげる。当然今我々がはらっている介護福祉の掛け金は廃止。勿論福祉施設で働いている医療者は働く場所がなくなりますが、それは医療の中で他で吸収できると思われます。
ちょと現実的な話ではないですが、モンスタークレーマー病に侵されつつある(私の造語)日本人に 自己責任という治療薬を投与したい 衝動に駆られました。
by 素直な内科医 (2007-08-28 08:00)
素直な内科医さん
> いっそ国策として 親の面倒は子供がみるという制度にしてしまえばどうでしょうかね
いや、既に国策としてそうなっているんですが。
by bg (2007-08-28 10:16)
bg様
方向性としては言われるようだと思うのですが(ご指摘を受けてそういえばそうだったなと気がつきましたが) それを義務化するといいますか、強制的に家でみるようにしてはというつもりで書いたのでした。そしてどうしても家ではみれないというところはそれなりの料金を負担いただく ということにしてはどうかなと 感じた次第です
by 素直な内科医 (2007-08-28 16:20)
「注意を怠ったことが原因」という判決が間違いです
損害賠償請求事件というのは、過失があること、損害があること、その因果関係があることであります。
by やま (2007-08-28 16:21)
「注意を怠ったことが原因」という判決が間違いです
損害賠償請求事件というのは、過失があること、損害があること、その因果関係があることであります。裁判官も原告弁護人、被告弁護人も法律の解釈と法律運用の医療・医学の事実の解釈を間違っています。
過失とは予見可能で、回避義務違反であり、「注意を怠ったことが原因」は過失ではない。誤飲又は誤飲による死亡を予見できるわけがない。被告弁護人は最悪で、必要がなく、医師本人が裁判をやればよい。
by やま (2007-08-28 17:01)
3月に脳内出血で入院して、亡くなったのが7月。…社会的入院てやつですかね。やはり。車椅子に乗れるくらい、また自分の手で物をつかみ飲むことができるくらいADLが拡大されているにも関わらず、入院していたのですからね。
母親の死を利用して病院からお金を得る…という構図、「いちゃもんつけてお金を払わせる」もんぺと同類に見えてしまいました。
by さく (2007-08-28 22:02)
>素直な内科医様
コメントありがとうございます。
>自己責任という治療薬を投与したい
同感ですね。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-29 07:56)
>やま 様
たしかに間違いかもしれませんね。 新聞記事という時点で、本来の裁判所の意図がゆがめられてしまっている可能性は考えておく必要があります。いずれにしろ、損害賠償が認められたことじたいは、歪めようがない事実と判断してもよさそうなので、やっぱり裁判所もおかしいと私は思います。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-29 08:00)
>さく 様
小松先生が、「医療の限界」の著作の中で、遺族に対して、高額の賠償を認める裁判は、社会のモラルハザードを生むと警鐘を鳴らしています。
私もまったくそう思います。いちゃんもんつけたら金が入るという先入観を社会が持ってしまったらとても医療なんてやれません。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-29 08:02)