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医師書類送検の記事に関して [医療記事]

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前エントリーの最後に、自分の意見として、こんな意見を書きました。
「死」を避けるべきもの、罰せられるべきものとして法体系が作られ、ひとたびどこかで事故死があると、マスコミにはヒステリックに、感情的に騒ぎ立て、だれが悪い、だれの責任だと騒ぎ立てる社会なのですから、仕方がないという心性が自然に育つ社会環境であるとは、私には思えません。

さて、本日のこの読売の記事も、医療の世界におけるそんな一面を私は感じます。

http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20071206p302.htm  (魚拓
入れ歯誤飲見過ごし死亡、医師を書類送検…京都

入れ歯を飲み込んだと訴えて救急搬送された京都市内の女性(当時60歳)に十分な診察をせず、誤飲を見過ごして死亡させたとして、京都府警捜査1課と堀川署は6日、武田病院(京都市下京区)の非常勤の男性医師(44)(京都府長岡京市)を業務上過失致死容疑で書類送検した。医師は容疑を認めている。 調べでは、医師は1月27日午前9時ごろ、救急搬送されてきた女性を診察した際、女性が「入れ歯を飲み込んだかもしれない」と訴えたにもかかわらず、のどの奥を確認するなど適切な措置をせず、5日後、入れ歯が詰まってできたのどの傷のウミによる肺炎で死亡させた疑い。 夫(66)が6月、府警に同容疑で告訴していた。 診察の際、夫も「下側の入れ歯を飲み込んだと思う」と説明。医師は、のどをレントゲン撮影したが、入れ歯(幅6センチ、奥行き4センチ、高さ2センチ)はアクリル樹脂製で写らなかったという。府警は、医師がさらに、内視鏡でのどを調べるなどの処置を取っていれば、その後の死亡は防げたと判断した。 ■小谷昌弘・武田病院広報部長の話「女性が亡くなられたことは真摯(しんし)に受け止め、ご遺族に対応したい。改めてミスのないよう医師を指導し、再発防止に努めたい」
2007年12月6日読売新聞)

お亡くなりになられた女性のご冥福をお祈りします。

さて、この一人の女性の死は、医師が悪いのでしょうか? 少なくとも、現時点では、法の裁きは下っていません。
ですが、新聞は、すでにこうやって記事にしています。

この記事を書いた記者とそのデスク、その他記事の関係者達の心の中はどうなっているのでしょうか?
読売新聞は、この記事を通して世に何を伝えたいのでしょう?

まだ、少なくとも法の裁きが下るまでは、記事にしないという心性はないのでしょうか?

私にはよくわかりません。 

ですが、こういう記事は、世間の医療(医師)に対する印象を悪くするだけの効果は絶大だと思います。

また、この記事で、やる気を失う現役医師が続出するでしょう。
私は、またかあ・・・・と思いました。

こうして、また、私の救急に対する熱意が社会に対するあきらめに変化していきます。

私は、この社会の現実を、真摯に受け止めて、自分は自分の人生設計をするのみです。
その設計に、救急医療の選択肢はありません。

新聞社には新聞社の論理や倫理があるのでしょう。それに基づいて記事をお書きになっているのでしょうから、それはそれで仕方が無いのかもしれませんが、現場で頑張っている医師たちはやる気をなくすでしょうね。

ちなみに、上記新聞記事の内容からだけでは、医学的なコメントのしようがありませんが、もし、私が自分の現場で同じような患者に遭遇したら、私も同じことをするかもしれません。つまり、この記事は、明日はわが身ということなのです。

ただ、言えることは、上記記事から、私が抜き出した以下の箇所は、人間だれしもがもつ、「後知恵バイアス」という認知のバイアスに基づく表現だと思います。後知恵バイアスに関する参考エントリー本当に腸炎でいいですか? 
だから、読み手のほうが、そのバイアス分を意図的に差し引いて考える必要があるということだけは、指摘しておきます。

十分な診察をせず

十分な診察って何でしょう? 悪い結果が出た後ならば、かならずどこかに不十分な診療だといって指摘可能です。まさに、前エントリー:ある咽頭痛の男性において、医師2名を訴えた患者遺族と上記記事中の夫が医師を刑事告訴したことは、両者ともこのバイアスがために医師への報復感情が増幅されてしまった結果なのでしょう。まさに、医師側が、人間感情の被害者だと私は考えます。

死亡させた

死亡させたって何でしょう?  死亡したというのが正しい日本語ではないでしょうか? あえて使役で書くところに、死はだれかのせいという社会風潮を私は感じます。  あえて死亡させたという表現をとると、これは、因果関係を包含する表現ですから、死亡原因の可能性となるものすべてが主語にならないといけません。そこには、「医師の医療行為」以外に、「患者側の体質」「細菌感染の偶然性」「他の致死的疾患の偶発」・・・・などいくつもの可能性があることになります。つまり、医師だけが原因と考えるのは誤りです。 死亡させたという表現には、私は感情的に本当に腹がたちます。

のどの奥を確認するなど適切な措置をせず
内視鏡でのどを調べるなどの処置を取っていれば、その後の死亡は防げた

適切な措置って何でしょう? ちがう仮定をします。もし、医師がレントゲンをとらずに、内視鏡を行って、不幸にも合併症が発生したとしましょう。すると、後知恵バイアスの認知のバイアスを自己修正できない大多数の人たちは、次のように感じます・・・・・レントゲンで入れ歯を確認するという適切な措置をせず、患者を内視鏡で死亡させた
つまり、この表現も典型的な後知恵バイアスで歪んだ表現なのです。

>入れ歯が詰まってできたのどの傷のウミによる肺炎で

はあ?と私は思います。 よくわからないまま、記事を書こうとするからこうなるのです。わからないなら、下手なことを書かないでほしいと思います。 記者の無責任性を強く感じます

改めてミスのないよう

ミスって何ですか? ほんとうにこのような発現なのでしょうか? 新聞社が、第三者の発言部分ということにかこつけて、印象的な表現を捏造したという疑いを私は払拭できません

医師を指導し

本当にこんな物言いをするような病院なら、医師の皆さん、即刻辞職してください。

再発防止に努めたい

医療に対する過剰な世間の要求を高めていく一端を表している表現ですね。私は、医療者側のこういう反応は、世間に対する過剰適応的な反応と考えています。こういう反応は、どんどん現場の医師を追い込むことになります。病院の事務方がどれくらいそのことをわかっているかは、はなはだ疑問です。

もう少し、ことの詳細が分かれば、現時点での私の感想も意見も変わることはありえますが、とりあえず、現状での感想と意見を述べてみました。 医療者の方、医療を受ける側の方、それぞれの立場でどのようにお感じになりますか?


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コメント 6

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こんた

おはようございます
自分も”死亡させた”という表現に違和感を感じております

流石に”殺した”というニュアンスではないですが
”見殺しにした”という意味合いで捉えてしまう言葉です
by こんた (2007-12-07 07:33) 

医学生

はじめまして。いつも読ませていただいている6年生です。
先生のblogを読んで純粋にこんな疾患もあるんだ、こんな症状には気をつけないと、と興味深く思うと同時に、今日のようなニュースをみると来年いく救急現場を思って、不安に襲われます。
救急にできるだけかかわらないマイナーに進むのが、結果的に自分にも家族にもいいのではないか、と思ったり。
長文すみません、これからも楽しみにしています。お体に気をつけてがんばってください。
by 医学生 (2007-12-07 10:38) 

はしくれアメリカER医

考えさせられる内容ですね。

この記事の真相は当事者と神のみぞ知ることです。従ってその事実を明らかにせず、意見や結論を述べるのは危険です。メディアとしてまず事実の追求とその報告が使命なのは当たり前のことですが、最近では人目を引くもの・感情をあおることが主の目的とした記事が多いのはいただけません。この記事も内容が曖昧なまま感情だけをあおろうとしていることが感じて取れます。この記事に関連した記者や編集者のプロ意識の低さが残念ながら露呈しています。

医療過誤などが起こっていることは事実です。しかし、今の流れのままだとこれを糧として次に活かそうという文化にはなりません。アメリカでも医療事故を減らそうと「To Err is Human」という本が出ていますが、これにも医療事故・過誤を減らそうと思うなら被医療者やメディアからもある程度の協力が必要という内容が書かれています。残念ながら今日の患者やメディアからこれを期待するには時期尚早なのでしょうね。

より良い世界のためには質の高いメディアが望まれることは事実ですね。
by はしくれアメリカER医 (2007-12-07 10:52) 

psq

 使役動詞の「死亡させた」は、被疑事実を書くときに、主語が「被疑者は、」で始まり全部を一文で書きますし、因果関係を示す意味でも最後は必ず「させた」という表現になります。

 警察は、疑いがあるとして書類送検するので、そういう表現になるわけで、記事もそれを受けて「死亡させたとして」とか「死亡させた疑い」と書いているのだと思います。

 もちろん、そういう慣行を知らないと誤解されるのでしょうが、その点を捨象して批判しても、マスメディアには響かないでしょうから、念のためお知らせしておきます。
by psq (2007-12-07 23:53) 

元なんちゃって救急医

皆様、コメントありがとうございます。

とくにpsq先生の立場から、そのようなわかりやすい解説をいただけると、こちらもいらん感情を持たずにすみます。ありがとうございます。今後は、「慣行」をただ単に受けた記載と割り切って記事を眺めることにします。
by 元なんちゃって救急医 (2007-12-08 21:56) 

psq

そのような慣行は一般の人は知らないので、ブログで指摘のとおりに記事では主語も厳密に使っておらず、「死亡した」と書くべきだという点では同じ主張です。

要するに、警察発表のまま書かずに頭を使って書けと・・・
例えば、
「十分な診察をせず、誤飲を見過ごして死亡させたとして、」
→「十分な診察をせず、誤飲を見過ごしたため死亡したとして、」
「適切な措置をせず、5日後、入れ歯が詰まってできたのどの傷のウミによる肺炎で死に至ったという疑い。」

そして、ブログでは・・・
「死亡させた」と書くのは警察が被疑事実を一分で書くからであって、マスメディアが従う必要はなく、一般人に誤解を与えないためにも、警察発表のままではなく細心の注意を払って書くべきだ・・・
・・・というような指摘にすると良いかと思って先のコメントを書きました。
by psq (2007-12-11 00:31) 

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