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血圧が高い!という患者 [救急医療]

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救急診療での大切な型は、地雷を見逃さないことをめざす診療の「型」である。具体的には、引き算診療という「型」である。こちら⇒引き算診療という考え方

しかしながら、地雷的なものを引き算したところで、患者が気にしている身体症状が解決するわけではない。医療者は、このことをよくわきまえておく必要はあるかと思う。

次のような台詞は、あまり好ましくないと私は個人的には思っている。

「あなたの症状は、気にする必要はないですよ。」
「あなたの痛みは、心因性かもしれませんね。」
「あなたの症状は、ストレスかもしれませんね。」

では、医療者側が、安易にこのような説明をしないためにはどうしたらいいのだろうか? 本日のエントリーはそんなことを考えてみたい。


症例  77歳男性  血圧が高い(心配)

近医で高血圧で通院中。現在、ARB単剤が処方されている。一人暮らし。すでに妻は半年前に他界している。妻他界の直後に当院に一度近医からの紹介で入院し、高血圧の精査を循環器科で行ったばかりである。二次性高血圧は否定的と判断されている。最近、顔のほてりとともに、急に血圧が上がった感じを自覚するようになり、手元の血圧計で測ると230もあるので、どうしようもない不安感に襲われ、救急車を呼んでしまうことが、この3ヶ月間で4,5回も繰り返されている。救急外来につくと、血圧は150くらいにいつも落ち着いている。 最初のころは、血液や心電図、頭のCTなどをチェックしてくれて、異常がないと言ってくれたが、ここ1,2回は、医師は検査もしてくれなくなった。それどころか、これぐらいで救急車を呼んではいけないと医師側から諭されることもあったという。 最近の記載には、「不安神経症?」「心因性?」「精神科へ紹介の必要かも?」などと書かれている。 そんな患者が、また救急車でやってきた。やはり、今回もこれまでと同じようだ。

問診というものは、病態を積極的に想定して初めて診断に役に立つ情報源になり得ると思います。
今まで診察した医師は、その病態を想定においた診察はしてこなかったものと思われます。

この症例をみて、皆様方は、どんな病態を思い描き、どんな問診を追加しますか? 
それをふまえて、この患者にどんな説明をしますか? 

この症例は、地雷的ではありません。時間外の診療は、こんな患者さんも多数来院しています。もちろん、狼少年のようになってはいけませんので、同じ主訴で来院でもある程度は、毎回引き算の型を流すことはそれなりに大切だと私は思っています。(どこまでやるかは、別としても)

しかし、現場では、地雷を引き算さえすれば、終わりというわけではありません。もちろん、後は、正規の診療につないでもらったらいいだけなのですが・・・・・。ただ、どうつなぐかが問題で、そのためには、病態考察は、日ごろから深めておくことが好ましいのかもしれません。

(3月25日 記)

(3月27日 追記)
皆様、コメントありがとうございます。いろいろな視点からご意見をいただきました。とりあえず、想定していた話を続けてみます。


さて、患者がやってきました。今回も来院時は、すでに血圧が、146/87に落ち着いていた。

「先生、すみません。何度も・・・。すごい不安なんです」

不安げな患者の様子と、過去のカルテ記載から、私は、ある一連の問診を試みた。

1:「胸痛はありませんでしたか?」 ⇒ ○
2:「息苦しい感じはありませんでしか?」 ⇒ ◎
3:「胸がどきどきとしませんでしたか?」 ⇒×

4:「めまい感、ふらつき感はどうでしたか?」 ⇒◎
5:「体のしびれがしびれるなど異常な感覚はどうでしたか?」 ⇒×
6:「手足が震えたり、体が身震いしたりしませんでしたか?」 ⇒×

7:「現実的でない感じや自分が自分でない感じがしませんでしたか?」 ⇒○
8:「自分をコントロールできない恐怖感はありませんでしたか?」 ⇒◎
9:「このまま死んでしまうという恐怖感はありませんでしたか?」⇒◎

10:「汗はでませんでしか?」   ⇒◎
11:「体が冷たい感じまたは熱い感じはありませんでしか?」⇒ ◎
(10,11は、患者の身体を触りながら行う)

12:「窒息感はありませんでしたか?」 ⇒ ○
13:「「吐き気や、腹痛あるいは腹部の不快感はありませんでしたか?」 ⇒×

以上13個のうち、6~9項目がこの患者には該当した。

さらに、
・これが10分以内でピークに達し、30分ぐらいで消失するということ
・また起きるんじゃないかという不安感が存在すること
・一連の不快感はすべて血圧が高いためだと思っていること
などを確認した。

以上より、この患者は、パニック発作に併発した発作性の高血圧という病態を想定した。

そして、患者には次のように説明した。

「よくわかりました。救急車で来ざるを得なかったわけもわかりました。確定ではありませんが、パニック発作という病気の可能性があります。これは、脳の中にある内臓のセンターが急に乱れることで、血圧圧がたかくなり、同時にいろんな身体症状や精神症状が出現するのです。命には別状はないので、その点はご安心ください。私の判断を手紙にしておきますので、明日にでもかかりつけ医を受診してください。」

患者は、その手紙をもって帰宅していった。

いかがでしょうか?想定病態は「パニック発作」でした。

救急の現場では、意外と多いと思われます。ただ、気をつけないといけないのは、確定診断は、正規の継続診療の中で行うというスタンスだと思います。というのは、二次性高血圧の除外は、長い時間軸の中で併診で考えておく必要があると考えるからです。時間外診療の一回こっきりの診療で確定診断とするのは、地雷を踏む元になります。

ただ、このように自分なりに病態がイメージできた場合は、なるべく具体的にそれを説明する努力をします。

では、もし、病態イメージはいまひとつだが、ただ地雷は引き算できたと判断した場合は?

「人間の体は、わからないことだらけです。だから、私達がすぐに説明できない症状も存在するんですよ。今日は、少なくとも命にすぐに関わるような重大な病気の可能性は低いと思います。その点はどうかご安心ください。私の説明をお薬だと思ってご安心いただければ幸いです」

などと言うと思います。私は、患者の訴える身体症状を承認し、「心因性」「気のせい」というフレーズ等で、患者とのコミュニケーションを断絶させない努力をしているつもりです。


さて、パニック発作ですが、DSMでは上記13個の身体・精神症状のうち4つ以上を満たすことが診断基準のひとつに上げられていますが、覚えにくいですよね、この13個。次のように考えたら覚えられないでしょうか。こんな覚え方を考えてみました。

循環器内科の診察室をイメージして 上記1,2,3の問診
神経内科の診察室をイメージして 上記4,5,6の問診
精神科の診察室をイメージして 上記7,8,9の問診
皮膚科の診察で実際の患者の手や顔に触れながら、上記10,11の問診
消化器内科の診察室をイメージして 上記12,13の問診  (窒息は食道と関連付けイメージ)

パニック発作と高血圧をググッてみたら、ちょうど今回のエントリーを補強するいい題材がぐうぜんみつかりましたので、最後にそれを引用しておきます。

http://paxil.jp/clinical/clconfer/20070610_1.php

急な血圧の上昇と身体症状を訴える患者の中にパニック発作が潜んでいる日常診療において、動悸、手のしびれ等の身体症状と、急な血圧の上昇を訴えて受診する患者さんがいる。家庭血圧計が普及し、血圧の上昇と身体症状を訴えるこのような患者さんの中に、パニック発作が含まれていることがある。高血圧の背後にあるパニック発作がみつかりにくい理由として、患者さんは、気分が悪い、何かおかしいと感じると血圧を測り、血圧が高いので、血圧上昇が身体症状の原因と考えてしまう為、医師への訴えも血圧に集中してしまうことなどが考えられる。

動画はこちら
http://paxil.jp/clinical/clconfer/forum_003_dl/forum_003_1.html


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共通テーマ:日記・雑感

コメント 19

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moto

病態としては、いわゆる仮面高血圧、っていうのでしょうか?説明としては、そうだなあ、「病院に来ると血圧が落ち着いてしまうということは、安心してほっとするからですよ。すなわち、血圧が高い、これはいかんと思いこむことで、自分で血圧を上げてしまっているんです。救急車呼ぶと、ますます大変だという気持ち高まって血圧上がってしまいますよ。自分で自分を落ち着かせる工夫が必要です。ひと呼吸して5分後、10分後に血圧を測りなおして、次に定期外来受診するときに、『いついつ、何時何分ごろ、血圧が〇〇だった、心当たりとしては、〇〇をしていたときだった』といったことを、日記のように書いて、担当医に見せてください。」かなあ?
グランダキシンとか処方して、「こんど血圧が上がったらこれを飲んで15分後に測りなおしてみてください。緊急時に血圧を下げるお薬です」とか、どうだろ?
by moto (2008-03-25 22:10) 

GYNE

 二次性高血圧は否定的なのですね。(pheochromocytomaみたいですが)。
 まず、本当に血圧が230まであがっているのかどうか、いちど血圧計を持ってきていただくのと、測り方が正しいかどうかを調べます。(女性の基礎体温表でも、デジタル式→水銀婦人体温計にすることと、測り方指導で、きれいな2相性BBTが現れることもあります)。
 毎日の朝の血圧をノートにつけてもらい、高かったときの血圧と状況記録も書いてもらいます。
 一度、24時間血圧計をつけてもらおうとおもいます。

 実際に230くらい高くなることがあれば、緊張して一時的にでもそれほどの高血圧になるのでは治療が必要なので(たとえば、β‐blockerも追加するとか)、血圧表と24時間血圧計の結果を持って、循内に紹介しようとおもいます。
by GYNE (2008-03-25 23:06) 

GYNE

想定する病態としては、血圧が実際には、患者さんの測定ほど高くない、です。
by GYNE (2008-03-25 23:14) 

偽精神科医

時折書き込ませていただいております。

これって精神科じゃろー、わしらの範疇ちゃうわーってなノリでご紹介いただくのは、全くもって正統なことなのですが、大抵こういう患者さんは、精神科医でも頭を悩ますことが多いものです。そういうことを知っていただきたく書き込みます。

頭を悩ます理由としましては、
1、内科疾患ほんまに否定されてるんか?という漠然とした不安
2、血液検査など、一応いろいろ検査してみたら意外と微妙なデータが・・・(けっこうあるんです)
3、話が長く、外来が止まってしまう(話を聞くのが精神科医の仕事だろうって言われればそれまでなのですが、精神科も膨大な患者さんを少ない時間で診療しているのが実情です)
などが挙げられます。

しかし、抗不安薬を処方することで血圧が安定化して、降圧剤が不要になってしまった人がいるのも事実ですね。精神科医がみる患者さんは、不本意なりにも自分の意志で精神科を受診される人たちです。精神科にたどりつくまで、(たどりつかせるまで)の苦労は大変なことと推察いたします。
by 偽精神科医 (2008-03-26 00:23) 

偽精神科医

今の書き込みは、主旨と若干ずれていますね。申し訳ありません。
by 偽精神科医 (2008-03-26 01:05) 

医者もどき

褐色細胞腫…は二次性か…
by 医者もどき (2008-03-26 11:17) 

moto

いや、これ、病態は、仮面高血圧でいいんじゃないかしら?二次性否定されてるし、「地雷じゃない」ですから。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E9%9D%A2%E9%AB%98%E8%A1%80%E5%9C%A7
お題は、こういう患者が救急にきたときに、どう説明して帰して、主治医の先生へとつなげるか、っていう話術のアイデア募集、ってことと解しましたが・・
by moto (2008-03-26 11:47) 

ハッスル

①自分が内科の外来枠をもっているかどうか
②通院先が顔の見える関係か
③妻以外の家族が存在するか
などを考慮します。
①外来枠を持っていれば、GYNEさんのような方針で、日中の外来通院に誘導する。あるいは評価を目的に入院するでも。
持っていなければ、通院先に誘導もしくは入院で循環器紹介(②)
②通院先が疎通よければ、紹介状を持参し、搬送状況と当座の問題点(行った検査内容)を示唆するコメントを添える
疎通が悪ければ①の中で考えます。
③家族が存在しておれば、同伴の上受診を促します。一緒に来ておられれば、非救急で対応する旨(救急では不備)を伝えて、①②の条件で対応します。
と書きましたが、時間と精神的に余裕がなければ、こんな対応は出来ません。そのうち脳出血、動脈瘤など副次病態を生ずることもあるでしょう。
結局どうしようもなく、繰り返し搬送される高齢者(隙間)も存在しています。患者だけでも、家族だけでも、福祉だけでも、もちろん医療だけの努力でも解決できません。メディアで触れられない(ることができない)隙間は多数存在しています。
by ハッスル (2008-03-26 13:21) 

なんちゃって救急医

いろいろなご意見をありがとうございます。

少し追加情報を出します。

本人自身の解釈モデル(=血圧が高い故に身体の調子が悪くなる、だから血圧を下げてほしい)ゆえに、自分から症状を言ってくれないのかもしれません・・・・

そう捕らえると問診の仕方が変わってきませんか?
by なんちゃって救急医 (2008-03-26 13:59) 

yama

褐色細胞腫が否定的ならばパニック障害か不安神経症だと思いますが・・・。
多くの症例は意外と抗不安薬で良くなったりします。

ちなみに多くの患者さんは血圧が高くなる→調子が悪くなると思いこんでいますが、実際に外来をやっていると結構調子が悪くなる→不安で血圧が上がるというパターンの方がむしろ多いような気がします。
by yama (2008-03-26 14:48) 

NYAO

 一番最初に起こるのは顔のほてりなんですよね。それ以後の血圧の上昇なんかが不安によるものだとするとカルチノイドとか・・・
 褐色細胞腫の除外特にepisodicに血圧が上がるタイプの完全な除外は結構難しいような気もしますが・・・
by NYAO (2008-03-26 17:01) 

GYNE

どんなときに、血圧が高くなりますか?
血圧が上がったときに、どんなかんじがしますか?
by GYNE (2008-03-26 17:08) 

k.u

具合が悪い時に血圧が高くなるのはよくあることですからね。

血圧が高いのは、結果なのかもしれませんね。
by k.u (2008-03-26 22:43) 

二匹目の子豚

何時も勉強させて頂いています。初めて書き込ませて頂きます。宜しく御願いします。先ずは血圧が不安定で御心配でしょー?等と患者さんからラポールが得られる様に接しつつ、二次性高血圧は除外されているとの事ですが、血圧上昇時或いは上昇前にいろんな疾患による些細な症状、例えば腹痛や、整形外科的な疾患等による痛みを感じたりする場合でも血圧が上昇する事がある等と説明し、血圧上昇以外のどんな些細な身体的症状でも患者さんが言い易い状況を作ってあげる。後は、救急車で時間外に再々来院される位ですから、近医との関係はどうなのでしょう?より再々に近医を受診し愛想を尽かされてて、実は降圧薬を内服していない?とか、独居で妻に先だだれてと言う事から、一見普通な患者さんが実は認知症があり、内服してないとか?簡易的に認知症の有無を問診し、一度ご家族と共に日中の外来受診をして頂くように説明させてもらう、などなど考えてみました。地雷を引き算をすれば終わりではなく、病態考察は日頃から深めておく事と、なんちゃつて救急医さんが言われてる事と、患者さん自らが症状を言ってくれないと言う事から、一見普通の認知症なのでしょうか?
by 二匹目の子豚 (2008-03-26 23:19) 

二匹目の子豚

地雷的な疾患では無いとの事と血圧が上がると調子が悪くなるとの事から、痔疾患等もなかなか患者さんによっては、自ら症状を言ってくれない事もあるかも?
by 二匹目の子豚 (2008-03-26 23:37) 

くらいふたーん

救外の場でとなるとなかなか時間もないですが 余裕があれば
1.不眠について聞く
2.食欲、便通について聞く
3.不安について聞く
4.うつリスクを評価(たとえばGDSなど)
  何かあれば希死念慮の確認
5.認知機能の評価
6.5と併せて服薬の確認
7.経済的、社会的、心理的、身体的に確認しながら 不安症状の確認

以上のような順で進めますが・・・。
実際にこういうケースでは認知機能の低下しているケースが意外と多いです。是非チェックしてみてほしいですね。
by くらいふたーん (2008-03-27 11:27) 

地方公立外科医

本題とは関係ありませんが、
「〜は ありませんでしたか?」という問診に対して○×で記載されています。

この本文を読んで間違える方はないと思いますが、
これが「質問票」で患者さんに○×で記載してもらうものだったとしたら、間違えやすいと思います。

「〜はありませんでしたか?」という質問にたいしては、
 「ありませんでした」が「○」になる のが日本語の文法ですね。

診察前にこのような形で問診票を書いてもらう科が多いと思いますが、気をつけた方が良いと思います。


by 地方公立外科医 (2008-03-27 22:36) 

Keyaki

本題と少し、趣旨がことなるかもしれませんが、
以前、認知症外来をしていた関係上、このような患者さんは時々おられました。
やはり、一人暮らしというのは、不安を惹起するようで、勝手ながら「寂しがり病」などと命名しておりました。
この症例においては、Panicなので、SSRI+Minor Tranquilizeという処方でしょうが、独居については、やはり環境調整というのは、大きな要因となるのではないでしょうか。

しかし、これは、救急外来で やるべきことでは、ないような気がしますが、、。

by Keyaki (2008-03-28 10:52) 

ハッスル

keyakiさん

救急外来でたくさん(多いときは1人/週程度でしょうか)やっています。
”失神”や”腹痛”、”頭痛”など色々。
開業医さんや他病院通院の方も救急を呼ぶ中で運んで来られます。
トランキライザーまでは処方することはありませんが・・・

同居で無い家族がたまたま見つけた、はるばる家族を呼んでみると・・・社会の縮図が反映されている、とある意味勉強になる(余裕のあるときは)。
とても救急外来の範囲で対応できるものではありませんし、入院を他科にお願いしても入院事由(先送りとソーシャルワーカーを含めた評価など)の機微がわからないことで迷惑をかけていると感じることもあります。

その中に地雷のような形で疾病や家族が現れることもあり、ため息が増える今日この頃です。
by ハッスル (2008-03-28 16:25) 

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