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「気分不良」と言われても [救急医療]

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「気分不良!」という第一触れこみにて、患者が救急車で搬送されてくることがある。ところが、患者を受ける我々の立場としては、「気分不良」と言われても、なかなか難しいものがある。 「気分不良」を訴える患者群の中には、すべての地雷疾患が含まれていると言ってよいだろう。それらは、いわゆる重症疾患(隠れた重症疾患も含めて)だ。一方、機能的疾患群(パニック発作、一過性の血圧低下など)もその群に含まれているだろう。これらは、救急の現場では、軽症と区分される疾患だ。

救急初療の短い時間の中で、「気分不良」を訴える患者の重症度を的確に判別するのは、大変難しいのである。

本日は、そういう難しさの実際を伝えてみたい。

症例1 80歳女性 主訴 気分不良

ADLは自立。定期内服無し。医療機関にはほとんどかかかったことがない。当然、当院の受診歴無し。ある日のできごと。その日は、朝からとくに変わりなかったが、夕方18時ごろ、夫が部屋に行くと、「しんどい・・気分が悪い・・・」と言って、臥床していたという。半年ほど前から、元気に乏しくなり、外出することも少なくなったという。 気分が悪いという訴えは、これまでにも4,5回は聞いたことがあるという。夫は、しばらく様子を見ていたが、今回は、なかなか改善しないため、23時50分、救急要請を行った。

なお、来院後に当直医が、本人と夫の両者から確認したclosed questionの結果は以下の通り。
頭痛(-)、胸痛(-)、背部痛(-)、腹痛(-)、腰痛(-)、嘔気(-)、嘔吐(-)

来院時、身体および各種所見
バイタル BP 138/80、HR100、SpO2 99、RR<20、KT 35.7
意識 清明  その他身体的に特記すべき所見無し
ECG  CRBBB (比較できるECGはなし)
cXp  特記すべきこと無し
Labo WBC12000, Hb 9.0, Ht 29.3, BUN/crn 49/3.1, K 6.6, DD 17 他特記すべきこと無し。

担当した医師は、救急外来での一通りの検査の後、次のようなアセスメントを立てて様子観察で入院の方針とした。

#1  腎機能の低下 ⇒ 慢性腎不全の悪化?
#2  高カリウム血症  #1によるものかも
#3  DD高値  ⇒ 入院後、全身精査を要する
#4  貧血  ⇒ #1の結果? 出血など他の原因も要チェック。

症例2  75歳男性  主訴 気分不良

ADLは自立。胃潰瘍、虫垂炎の手術歴あり。他特記すべきこと無し。定期内服、定期通院なし。当院は初診の患者。

(妻より) ここ一週間変わりなし。今朝も起床時からとくに変わったことなし。朝風呂にいつものように入ったら、なかなか出てこないので、見にいったら、湯船にもたれかかるようにして、ぐったりとしていた。「どうしたの?」と聞くと、「しんどい・・・気分が悪い・・・・」と返答があった。ただ、その反応もにぶく明らかに様子がおかしいので、救急車を私が呼びましたとのこと。

なお、来院後に当直医が、妻のみから確認したclosed questionの結果は次の通り。
頭痛(-)、胸痛(-)、背部痛(-)

来院時、身体および各種所見
バイタル BP 右70(触診) HR 64 KT 36.2 SpO2 96 RR 20
意識  E3V5M6 他特記すべき身体所見無し。
ECG  NSR (bradycardia気味)、STEMIに合致する所見はない
labo   特記すべきこと無し
cXp   下図の通り
図1.jpg

この2症例は、患者自身の訴えは、ほぼ同じです。ですが、転帰は大きく異なっています。
気分不良を訴える患者の対応の難しさを考えさせられる対照的な2症例です。

皆様は、どちらの症例がより地雷的とお感じになりますか?

(3月22日 記)

(3月24日追記)
皆様、コメントありがとうございます。 症例1を地雷的とされた方が2名、症例2を地雷的とされた方が5名、どちらともいえないという判断の方が2名という感じでコメントをいただきました。

今回のエントリーで、言いたかったことは、気分不良って難しいということです。皆さん方のコメントを通して、救急医療の現場の苦悩と限界が、多くの方々に伝わることを望んでいます。


まずは、症例2の続きから。

意識障害+血圧低下+縦郭の拡大?
から、私は、真っ先に急性大動脈解離Stanford Aから考えた。 

速攻でエコーをした。 経胸壁から、エコーの入りが悪く、心のう液貯留がないことの確認は取れたものの、大動脈については結論をだすことは到底不可能と判断した。当然、造影CTを行った。

答えは、異常なしだった。

そんなこんなで考えているうちに、患者のバイタルと意識は完全に正常に戻った

諸検査で異常がないことと患者の自然回復の経過から、次のように考え、患者には帰宅してもらった。

病態仮説と私見 
「入浴と関連する血管拡張により、血圧が低下した。それによる脳血流の低下により、意識障害が発生した。高齢者のもつ自律神経系の反応性の低下ゆえに、血圧低下と意識障害が遷延した。結果として正常に戻るまでに3時間ほどを要した。その3時間の間に、我々が介入することになり、種々の検査が行われた。この症例は、高齢者の入浴中の死亡事故の病態を考えるのに有用なヒヤリハット症例とも考えられる。」

というわけで、症例2は、大動脈緊急疾患と強く疑ってかかったにも関わらず、ハズレだった症例である。結果論だけでいえば、この症例は、家で様子をみてるだけでよかった症例だ。

しかし、いったんこうして病院に来てしまえば、我々はこうして検査せざるを得ないのである。

では、症例1の続き。

当直の深夜帯で、この患者の外来評価も終わった。午前3時過ぎの頃だ。後は、いったん病棟に上がり、夜が明けて日勤帯になれば、受け持ち医も決まり、本格的な診断や治療が始まるという算段のはずだった。

と・こ・ろ・が・・・・・・・・・

病棟にあがる直前の出来事だった。

「先生!先生!患者さんが!!!!!」
患者が突然、全身性の痙攣を起こしたのだ。

「おい!、ホリゾンだ。ホリゾンを早く!」
患者の痙攣は治まった。

患者の意識は清明だったが、血圧70代、脈拍120というショックバイタルだった。

この時点で、何らかの急性のショックを想定し、循環器の当直医師Mに応援を要請した。
M医師が心エコーを行ったが、hypovolemic schokが考えられ、急速輸液の指示だった。

1500mlの輸液が急速に入れられた。脈は100程度になったが、今度は呼吸が失調性になってしまった。

気管挿管された。

そして、ショックバイタルではあったが、診断を優先し、造影CTが行われた。

そこに答えがあった。これである。
図1.jpg

皮肉なことにCTから帰室した直後に、脈拍30代となり、PEAになってしまった

蘇生を試みたが、患者の心拍が二度と再開することはなかった。

午前3時30分に急変し、一連の格闘が終わったときには、すでに午前6時30分だった。

おそるべし腹部大動脈瘤の破裂である。 まさに地雷炸裂の症例だった。

この地雷は、果たして回避可能だったのだろうか? 

来院時の病歴、バイタル、来院時間などの諸因子を勘案すると、回避できなかったのは止むを得なかったのではないか?

腹部エコーをあてていれば、わかったはずだというのは、まさに後知恵バイアスのかかった意見だと私は思う。なにせ、この患者は、痛みをまったく訴えてくれなかったのであるから。

大動脈緊急は、こうして医療者の目を欺くのである。大動脈緊急疾患が診療で発見されず、突然死してしまった場合、それは、必ずしも医療者の技術や能力が劣っているための結果とは限らないことを多くの人にわかってほしいと思う。

本日の教訓
大動脈緊急疾患の患者は、医療者の目を欺く主訴で来院することがある

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コメント 31

コメントの受付は締め切りました
僻地外科医

 地雷=急性疾患であると定義するならば、症例2の方が地雷的に思えます。

 大きな違いは問診で
症例1「これまでもたびたび気分不良を訴えている」
    「患者が気分が悪いと言って寝ていた」
症例2「いままで気分不良を訴えたことがない」
    「妻が明らかに様子がおかしいと思った」

 特に家族がみていつもと明らかに様子が違うというのは重要だと思います。
by 僻地外科医 (2008-03-22 09:11) 

moto

症例1はWBC、Ddimer上昇で、感染症→DICをまず疑いますが、体温低いですねー。年だからか?脈拍速くてショック疑います。あるいは、血栓症どっかに(腎付近?に出来かけてるとか。

症例2は、レントゲンが問題ですが、縦隔があやしいように思います。気管偏移はないですが、左右気管支付近の陰影面積が大きすぎるような・・左右に広がった大動脈瘤?左のapical capははっきりしないか。とにかく造影CTです。
by moto (2008-03-22 09:56) 

ER99

症例1の方はdataだけ見れば重症で入院加療は要すと思いますが、慢性進行性の可能性がありますが、症例2の方はkey wordの『(今まで元気だった方の)しんどい』ですから症例2の方が緊急性はありそうです。胸写だけでははっきり断言はできませんがTAA(解離含む)もありそうですし、どちらも地雷的症例とは思いますが(気分不良と言うあいまいな主訴からすると)症例2の方が胸写で見逃したらOUTだと思います
by ER99 (2008-03-22 09:58) 

ER99

ちなみに症例1で疑うなら腎盂腎炎→腎不全+敗血症→ショックでしょうか?
by ER99 (2008-03-22 10:00) 

よしだ

症例2は解離が右冠動脈まで達しての徐脈でしょうか。
下が怖いです。
by よしだ (2008-03-22 11:37) 

GYNE

症例2の方が、診断が困難で、突然死しそうで、地雷的に感じます。
突然発症し、ショックに陥っているからです。

どうして血圧が触診70なのに脈が上がらないんだろう。

ルート確保して、左手の血圧をはかり、エコーで心臓と大動脈を見ようと思います。

症例1もまた重症で、合併症がたくさんありそうですね。ご苦労様です。。
by GYNE (2008-03-22 15:48) 

東京の透析医

また、お邪魔致します。
皆様と同じような答えになってしまいますが、小生も症例2の方が
緊張度が高い(感覚的には最高度に近い)感じです。

というか、症例1の方は、”ああ、またか”という感覚に成ってしまいます。
三ヶ月に一回は見るような話ですので。 そういう意味では
自分にとっては地雷が含まれている(油断大敵!)のですが・・・。

症例1は、まず病歴からも緩徐に進行した慢性腎不全で矛盾は
しませんし、貧血も(RBCのdataが無いので単なる思い込みですが)
正球性正色素性の様ですし、Kは当然と思います。
緊急透析の適応にもなりませんから、まず入院させて感染症の精査から
入ります。 うーん、Pyeloも否定しませんが感染巣としては身体所見が
少ないような・・・。
あと、(痛い目に会わされること多いですが)消化管の精査。悪性腫瘍の
R/Oが必要です。 元々、Acute on ChronicのRFの状態で、消化管出血に伴って・・・(以下略 という話でも、合致しますから。 ただ、緊急度が高いかというと、電解質、全身循環さえ問題が起きなければ一両日の猶予はあると思います。 あっ、Shockを起こしたら拙いか。

症例2は病歴上の、”今日から全てが始まった”がありますから
なんか凄く”やばい”感じがします。 Shockですし胸写でも右第1弓は
もの凄く気になります。 ただ、このバイタルでCTに行くのは・・・。
やはり、第一選択はUCGですかね。

ところで、先生方のERでは、外来緊急dataの段階で、D-dimerはルーチンで採られているのでしょうか?
個人的には、FDP(←キットですぐ出来るし)、TAT(これは自分の研究室で自分で測定してたりして・・・遠い過去ですが。)は判るのですが・・・。
by 東京の透析医 (2008-03-22 17:44) 

moto

症例1(WBC上昇・D-dimer上昇・K上昇・BUN/Cre上昇)は、いろいろ考えられますが、症例2がAAでその対比、って意味だとすれば、解離、それも両側腎動脈を巻き込んでる、ってことになりませんか?
症例2は、胸部X線でAA怪しい、ってことになるわけだから、「いかにも地雷」って顔しすぎなような・・急性発症だし。
症例1が腹部のAAの解離で、腎不全起してきたとすれば、これは見逃しそうな地雷のような気がしますが・・考え過ぎか?腎血管性高血圧なさそうだし、痛みも訴えてないしなあ。
by moto (2008-03-22 18:56) 

島の検査技師

初めまして。救急現場での高度な議論、興味深く拝見させていただいています。

当方検査技師ですが、症例1のような場合、血液培養を必ず2セット取ってくれと一年中わめいています。
目的は発熱精査ですが、この場合、感染性心内膜炎は否定的でしょうか?
このデータだけを見ると、(そして感染症だけに限定して考えると)まっさきにIEが頭に浮かびます。

救急でお忙しいとは思いますが、とりあえず抗生剤を入れてから翌日血液培養採取→血培陰性→感染っぽいけどフォーカス・起炎菌ともに不明、という症例をよく見ますので……
by 島の検査技師 (2008-03-23 07:05) 

ponta

いつも勉強をさせていただいております。
地雷的には、症例1かと思います。
以前同様なデータで緊急入院、その後数回脳塞栓症や下肢動脈血栓を繰り返し数日で死亡された例を診た事があります。入院時に、DICになっており、抗生物質に全く反応せず、診断に苦慮いたしました。剖検にて、心内膜炎を起こしており、(vegitationは生時エコーで確認できず)、肺炎と被った2センチ大のlung carcinomaがあちこちに転移していて、無菌性心内膜炎を起こしておりました。その方も、「気分不快」での緊急入院でした。
by ponta (2008-03-24 08:04) 

NYAO

症例2は血圧が低い割りに脈拍も速くないので迷走神経反射が考えられると思います。下壁は比較的心電図ではっきり出る領域なのでAMIは否定してもいいと考えます。症例1の方が感染、DIC、場合によっては腎梗塞なども考えられ重症のような気がします。
by NYAO (2008-03-24 11:00) 

moto

症例2の血圧は、迷走神経反射だとは思うけど、大動脈瘤で、大動脈弓の圧受容器刺激にともなうものじゃないかなあ?
by moto (2008-03-24 12:03) 

日曜内科医

うーん。どうしても穿った見方をしてしまいます。
症例1ではpltとCRPは記載がないので正常と考えるとDICというよりは炎症の急性期にあるのかな・・・しかしd-dimerはちょっと気になる。

症例2はBP低下と徐脈、そしてCxp。これはTAAのrupture?・・・oozing ruptureかな?

どちらが地雷かと言われたら、正直微妙です(笑)。
by 日曜内科医 (2008-03-24 14:17) 

moto

症例2は、血圧低いですが、大動脈瘤の圧迫による迷走神経反射が進んできたものだとすれば、緊急性は低いですよね。
症例1のバイタルはSBP138ありますが、元の血圧高かったかもしれないんで、HR100ならショックの可能性あります。敗血症性かどうかはわかりませんが・・
ということで、今回のお題はバイタルの見方?だとすれば、症例1をAAにこじつけなくても済むし。

PS毎日読み直すたびに違うこと思いつきます。これじゃ救急には間に合わないわけですが(^^;。
by moto (2008-03-24 15:46) 

moto

>症例2の血圧は、迷走神経反射だとは思うけど、大動脈瘤で、大動脈弓の圧受容器刺激にともなうものじゃないかなあ?
>症例2は、血圧低いですが、大動脈瘤の圧迫による迷走神経反射が進んできたものだとすれば

すみません、ググって調べてみたんですが、こんな話(現象)無さそうだなあ。
理屈的にはあってもよさそうだと思ったんですが。。
by moto (2008-03-24 17:31) 

moto

おおーっなるほど、御馳走様でした、今回も面白かった。
問題作る方は、大変でしょうが、ほんと楽しみにしています。また次もよろしくお願いします。

ところで症例2ですが、大動脈瘤否定となれば、頸動脈洞の圧迫による迷走神経反射が考えられると思うのですがいかがでしょうか?
老人では首を一方向に向けていたり無理な姿勢をとっていると生じると聞きます。入浴時の姿勢が悪かった?
by moto (2008-03-24 22:01) 

GYNE

地雷だけあって、うまく隠されていますね。
retrospectiveにみれば、典型的な地雷です。。
CTを見た瞬間、地雷の炸裂音がここまで聞こえてきました。
2はneurogenic shockだったんですね。
by GYNE (2008-03-24 22:14) 

東京の透析医

うーん 参りました。
ただ、一言。
実は、(この症例が合致しているかは別かも知れませんが)
膀胱炎等のいわゆるUTI や、前立腺肥大等の腎後性要因

(腎盂炎)

急性腎不全

腹部大動脈瘤破裂(炎症浸潤による)
この経過は、万に一つの可能性でも起こることは
教科書に書いてあるのです。
で、この万に一つを見たことがあるのですが
今回は思いつきませんでした。
ああ、経験も知識も生かされていないことを
痛感しております。
大いに反省です。
by 東京の透析医 (2008-03-24 22:15) 

沼地

患者さんの診察をしない人間の素朴な疑問として、
お腹の触診所見でこの腹部大動脈瘤は触れなかったのでしょうか?
あと造影CTを行ったと書いてあるのですが、
ここに提示してある単純CTで診断はついてますよね?
この後で造影剤を使用する必要性はあったのでしょうか?

う〜〜ん、後知恵でチャチャいれてるわけじゃなくて、
次につなげる為の問題提起のつもりで書いたんですが、
最近医療裁判の記事いっぱい読んだので、
なんか書き方が難しいです。

なんか地雷がいっぱいですね。
怖いです〜。

by 沼地 (2008-03-25 06:52) 

元臨床医

しばらく前から興味深く拝読しています。コメントは初めてです。

症例1は何故腹部CTが撮られたのでしょうか?腎不全だから??全身スクリーニングとして???

後からなら何とでも言えるというセリフが流行ですが、この腹部CTで腹部身体所見に特記すべき事無しということがあり得るのか疑問です。最近の臨床医は患者の体に直接触れるのを嫌がるとよく耳にしますが、沼地様のコメントにあるように、腹部の触診は適切にされたのでしょうか…。

by 元臨床医 (2008-03-25 08:34) 

僻地外科医

でぇ~~。
これは分からん。絶対分からん。

>元臨床医先生

>この腹部CTで腹部身体所見に特記すべき事無しということがあり得るのか疑問です。

 確かに巨大な瘤(瘤径6cm)ですが、腹部大動脈瘤の触診はそれをはっきり意識して触らないと見逃しやすいです。 ましてこの方はCTを見る分にはかなりのるいそうがあります。この場合、腹部の拍動が触れたとしても、大動脈瘤を意識していない限り、それをおかしいと思うことはないと思います。上の臨床経過から腹部大動脈瘤の切迫破裂を疑う医師はまずいないと思います。

>症例1は何故腹部CTが撮られたのでしょうか?腎不全だから??全身スクリーニングとして???

 これはエコーでhypovolemic shockであることが分かっていたのですから、私でも胸腹部のCTを撮ります。hypovolemic shockの最も緊急性の高い原因疾患は胸腹部大動脈瘤破裂ですから。ただ、私なら造影CTを撮ることはないと思います。

by 僻地外科医 (2008-03-25 09:08) 

moto

このブログの醍醐味は、解答が無い時点で「こういう病態は考えられないか?」「こういう所見は無かったのか?」と、医者があれこれ議論して、あとで答え合わせをして、もって、臨床における診断の限界を見極めようという趣旨と解します。救急ですから、ほんとうは、本文読んで5分~10分以内に回答出すべきで、わたしみたいに何回も読み直しては考え直して追記するのや、沼地様元臨床医様のように答え出てから医者がコメントするのは、一般の方に救急医療の限界を理解してもらおうという趣旨に照らすと、よくないとは思いますです。
(しかし、思いついたこと、書きたくなる、聞きたくなるのも、また人情というものではあり、意義はあるものとは思いますが・・)

CTは破裂後ですから破裂前の瘤がどの程度のものだったかは不明ですが、BUN/Cre高いのですから、背部叩打痛は当然確認するでしょうし、WBC高いですから、虫垂炎の鑑別で、おなかも触ってるのが普通と想像します。
1500の輸液で反応せず心エコーは確認されていますから、ほかのショックの原因は頭中で否定されて腹腔内または後腹膜腔内出血を考えます。そうすると手順的にはFASTでしょうが、治療には間に合わせようと思えば、ショックバイタルでもこの場合は腹部CTへ、というのもうなずけます。単純はせずに造影をいきなりするものだとは思いますが、速い器械であるなら単純とっていけないというほどのこともないのでは?
CT室に送る担当医の頭の中は、CT後、腹部外科か、血管外科か、はたまたTAE施行で放科か、どの先生にコンサルトすべきか、で頭いっぱいだったことでしょう。疲れただろーなー。このあと、朝からふつうに日勤仕事ですよね・・
by moto (2008-03-25 09:50) 

僻地外科医

>moto先生

>単純はせずに造影をいきなりするものだとは思いますが、速い器械であるなら単純とっていけないというほどのこともないのでは?

 というか、この条件で胸腹部大動脈瘤破裂を考えるならば、造影CTを行う意味があまりないと言うことなんですよ。診断をつけるだけならばエコーでも十分ですし、瘤切除人工血管置換術のために拡張した血管の範囲を見る為であるなら造影CTである必要はないです。また、腹部大動脈瘤破裂の診断はよほど微細な出血でない限り、造影をしなくても分かります。 切迫破裂や本当に微細な破裂である場合なら(この場合、こんなショックになることは非常に考えにくいです)改めて造影CTを撮れば良いだけのことですし、明白な腎機能障害があるのですから単純CTを先行させるのが常道だと思います。
by 僻地外科医 (2008-03-25 10:18) 

moto

続き)造影CTの件ですが、出血源、CT入室時には、まだわかってないわけですから(肝臓かもしれないし)、その確認のためには造影だと思いますが、腎不全ありますから、まずは、単純で、ってことだったのかも。単純でAA破裂確認できれば、造影剤リスク回避できるし。
CTでAA確認したあとだと、「造影いらなかったんじゃないか?」とか言えますが、もし肝臓や脾臓からの出血だったら、「なんで単純なんかとったんだ?」って非難されそう・・
by moto (2008-03-25 10:24) 

moto

>僻地外科医先生
ああ、行き違いでした。そうですよねー。腎不全ありましたからねー。他からの出血の可能性リスクとるよりは、腎不全にいきなり造影するリスク回避しますよねー。

ネットでバーチャルで考えてるから、腎不全のこと考えから落としてても「あ、そうか」で済みますが、リアルだと、本当に緊張の連続でしょうね。。
ほかでどんなにうまくこなしても、その一点だけで、医者としての存在否定すらされかねない時代ですからね。。
by moto (2008-03-25 10:34) 

doctor-d

今回も貴重な症例提示ありがとうございました。
「CTを撮っていれば助かったはず。」
なんて甘っちょろい言葉は通用しない世界がある事、
なんでもない病態でも、一旦病院で診察を受ければ
隅々まで検査しなくてはならない現状、
この2点の問題点がよくわかるエントリーですね。
by doctor-d (2008-03-25 11:15) 

Last

こんにちは。一般人です。
最近、医療の問題に関心を持ち、このブログを拝見させてもらってます。
医療訴訟の増加や、医療現場の実態など、
患者である我々も共有して今後考えなければならない
問題だと思っています。
そのために、これからも少しずつお話を参考にさせてもらいに
ここを訪れると思います。よろしくおねがいします。
by Last (2008-03-25 12:39) 

NYAO

 症例1ですが最初から破裂していたわけではなさそうですね。これで腹痛がなかったらたとえ動脈瘤を触知したとしても切迫破裂は考え付かないかもしれません。そう考えると初診時にCr 3台では緊急に造影にはいきにくく、大動脈瘤についてはあとで精査になるような・・・
by NYAO (2008-03-26 09:47) 

元臨床医

>僻地外科医様、moto様

腹部身体所見が全く異常ないのに腹部大動脈瘤(切迫)破裂を診断しなければならない現実があるわけなんですね…私は経験数が乏しいので、そこまではわかりませんでした。

ただ、あっさり「その他身体的に特記すべき所見無し」と書かれてあったので、遠い昔、後輩を指導していた頃を思い出して反応してしまいました。

門外漢が失礼致しました。

by 元臨床医 (2008-03-26 17:19) 

moto

>元臨床医様

とんでもない、門外漢はわたしのほうです(^^;。ですが、門外漢であるが故に、このブログで勉強させていただいてます。
このブログの醍醐味は、答えが出る前に、あーだこーだと考えを巡らすところにあります。是非これからも昔現役だった頃をを思い出していっしょに考えましょう。
by moto (2008-03-26 19:09) 

僻地外科医

NYAO先生のコメントが極めて当を得ていると思います。
んで、「気分不良」の原因はなんだろう・・・と考えている内に急変。

このケースの患者さんは極めて不幸な経過をたどっていますが、これはどうしようもないように思えます。
by 僻地外科医 (2008-03-27 09:13) 

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