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医師-患者関係を考える<前半> [雑感]

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適切な医療には、良好な医師-患者関係が必要不可欠であることは言うまでもないことです。良好な関係を構築するためには、どちらか一方だけが努力するというわけではなく、両者がそれぞれの立場において、努力することが大事だと私は思います。今回のエントリー構成です。<前半>と<後半>に分けて書きます。

<前半>
良好な「医師-患者関係」構築を阻害する要因を、主に「患者側≒社会風潮」の視点から考えます
<後半>
良好な「医師-患者関係」を構築するために、医師側が検討すべき項目を、ある記憶法とからめて紹介します

それでは、前半です。
<前半>
最近の世の風潮を考えると、患者側(≒社会風潮)の変容ということも指摘せざるを得ません。
例えばこんな記事。下流志向の著者である内田氏の書いた文を見つけました。私は、この方の日ごろの主張をよく知るわけではありませんが、下記の記事については、なかなかおもしろいことを言ってるなあと思ったので紹介することにしました。

常識指南 内田樹 限度超えたクレーマー 2007.08.08 朝刊 文化 (全1,416字) 

利益と不利益 慎重に吟味を

 「モンスター親」という見慣れない言葉をメディアで見かけた。無理難題というほかはない苦情や抗議を執拗(しつよう)に繰り返す保護者や住民のことだそうである。「仲のいい子と必ず同じ学級にしろ」「うちの子の写真の位置がおかしい」「チャイムがやかましい。慰謝料を出せ」「子供のけんかの責任を取れ」…。担任交代要求まであるという。

親が怒りの電話

教育の現場に身を置いていると「クレーマー親」たちの理不尽ぶりに驚かされることが多いのは事実である。先日「はしか」が流行したときに休校措置をとった大学で、受けられなかった教育サービスを大学はどう補填(ほてん)をするつもりかという怒りの電話をしてきた親がいた。感染の危険があるのに予防措置を怠ったというのであれば大学が管理責任を問われるのは当然のことだが、予防措置にともなう「受益者の不便」について補償を求められては学校も立つ瀬があるまい。感染を回避できたという「利益」と受講機会を逃したという「不利益」はトレードオフされると私は考えるが、そういうふうには計算してくれないようである。

だが、
自己利益の確保をあまり急ぐと、むしろより大きな不利益を呼び込む場合があることを忘れてはいけないと思う。

学校の管理責任や教師の教育力不足をきびしく批判する親たちの指摘には根拠があることを私は認める。だが、その批判が学校を子供にとって快適な場所にし、教師の能力向上に資するか、その逆の効果をもたらすかは熟慮すべきであろう。

医療事故も同様である。医療事故をきびしく告発することによって医療の質が向上すれば患者は利益を得る。
だが、訴訟を嫌う医師たちがトラブルの多い診療科勤務を避ければ、患者たちは受診機会を失うという不利益をこうむることになる

自己利益追求のために人々があまりに要求をつり上げ、他者に対して過度に不寛容になると、社会システムが機能不全に陥ることがあるクレームによって確保される利益と不寛容がもたらす不利益のどちらがより大であるかについては、慎重な吟味が必要だろう。

安易な犯人探し

これまでメディアは何か事件が起こるたびに「責任者出て来い」と怒号する「被害者」にほぼ無条件に同調してきた。
クレーマーの増加はメディアのこの安易な「正義主義」と無関係ではない

これまで教師を叩(たた)いてきた人々が今度は手のひらを返すように「モンスター親」を加害者として告発する。だが、大切なのは被害者、加害者の白黒をつけることではない。
自分のしようとしている社会的行動のもたらす利益と不利益を冷静に考量する習慣を市民一人一人が身につけることである。

「100%の正義」が「100%の不正」を告発するという単純な図式こそが、私たちの社会システムの円滑な機能を妨げているという事実に私たちはそろそろ気づくべきだろう。

私は「モンスター親」などというものは存在しないと思う(「モンスター教師」や「モンスター医師」が存在しないのと同じように)。いるのは「いささか常識を欠いた方」たちだけである。被害者と加害者、正義と不正の単純な対立図式であらゆる社会問題を扱う態度こそ「いささか常識を欠いてはいないか」と私は危ぶむのである。(神戸女学院大教授)

おもわず、赤線が多くなってしまいました。それだけ最もだなあと思う主張です。
やはり、私が特に共感するのはこの一文。

他者に対して過度に不寛容になると、社会システムが機能不全に陥ることがある

医療の中において、福島大野病院の産婦人科医師加藤先生の刑事裁判が、まさにこの主張に沿う最も典型的な現実の出来事だと思います。加藤先生を逮捕までして厳しく告発したものの、その結果、(地域の産科)医療が良くなるどころか悪くなる一方になってしまったという結果は、すでに白日の下に晒されています。

今、診療関連死法案が、立法化されようとしていますが、この原案は、まさに、医療に対して不寛容だと思います。診療死を厳しく取り締まろうとし、ことあれば医師を罰してやろうとする姿勢が我々には鋭く感じ取られる原案。まさに、この原案は、医療に対して過度に不寛容であり、この原案通りに医療を運用すれば、日本の医療システムが、まず間違いなく機能不全に陥るものと私は思っています。参考エントリー:診療関連死の理念に異を唱える

次に、社会という巨視的視点においてではなく、一対一という個の「医師-患者関係」の中において、垣間見える患者側の問題を、過去の関連エントリーを再掲する形で、考えてみます。

例えば、次のような事例。ある怒りの電話 というエントリー。エントリーの中では指摘しなかったが、医師が出した薬が効かないということに対する不寛容な人が起こした騒ぎという指摘もできるとも言えます。

この事例はどうでしょうか?苦情対応力って必要? というエントリー。 この場合は、良好な「医師-患者関係」構築は、不可能と判断し、毅然とした対応のほうが功を奏すると思われた事例です。自分の側は、やるべきことをやっているという自負心がないとなかなか毅然とした対応に切り替えるのは難しいものです。そういう意味においても、良好な関係構築のために自分は何をすべきかを知っていることは重要と考えています。これについては<後半>で触れます。

私は、昨年夏に、こんなエントリーを入れました。これも今回のエントリー内容と似通っていますので、ここで参考エントリーとして掲げておきます。ああ、モンスターペイシェント というエントリー。

日ごろ、患者さんと診療を通して接しているわけですが、大多数は、普通にコミュニケーションがとれる患者さんたちです。だれもがモンスター化したとは全然思いません。しかし、メディア関係者が真に反省し、メディア報道の中に浸透する「不寛容性」「他罰性」を改めていかなければ、良好な関係を築きにくい患者さんたちが、ますます今後も増幅してしまうばかりにならないでしょうか? そんな危惧の念はずっと持ち続けています。

メディアと社会は、鶏と卵のようなもので、どちらが先(原因)で、どちらが後(結果)であるとは言い難いとは思います。今の社会変容をメディアに以外に原因を求めるとすれば、それは、戦後の高度経済成長と宗教観の欠如なのかもしれません。

(2月6日 追記)
いかに、メディア報道が世間に向けて、「不寛容性」「他罰性」を煽っているか・・
その具体的事例が、doctor-d-2007先生のブログに挙げられています。
http://ameblo.jp/doctor-d-2007/entry-10070596455.html
見出しに「国に殺された・・・」とあります。見出しとしてこの表現を採択した整理部記者さんの心の中をのぞいてみたいものです。いったいどうなってるんでしょうね?

<後半>へ続きます。


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コメント 5

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峰村健司

「医療過誤原告の会」の人々に読ませたいですね。
http://www.genkoku.jp/
by 峰村健司 (2008-02-05 21:02) 

現在当直中

本日はじめて拝見させていただきました。とても勉強になり、またいままで自分がみてきた症例についてあれこれ考えさせられました。自分は今年7年目になる消化器外科医ですが、これから救急医として研修しようと思っていました。正直、はたしてできるだろうかとの思いがしています。こんなことをいうと笑われるかもしれませんが、医療の原点は救急にあると思っています。どんなに真摯に医療に打ち込んでも、訴訟になってしまう日本ですが、どうしても必要な分野であると思います。いつの日か先生のこのブログが、啓蒙され、医師-患者が信頼関係で結びついた正しい医療ができる日本に
なることをこころから願ってやみません。
by 現在当直中 (2008-02-06 00:55) 

doctor-d-2007

「自己利益の確保」「他者に対して不寛容」「他罰性」「安易な正義主義」
が「より大きな不利益」「社会の機能不全」をもたらす。

簡潔かつ明瞭な指摘で非常に勉強になりました。
拙ブログでも紹介させていただきたいと思います。
by doctor-d-2007 (2008-02-06 11:10) 

元なんちゃって救急医

>峰村健司 先生

ほんとそうですね。

>現在当直中 先生

ありがとうございます。よりよい関係があれば、われわれもやりがいのある仕事だと思います。

>doctor-d-2007 先生

ありがとうございます。エントリーの中で引用させていただきました。
by 元なんちゃって救急医 (2008-02-06 20:37) 

アイスゆず

こんばんは。初めておじゃまします。
 m(_ _)m
「他者に対して過度に不寛容になると、社会システムが機能不全に陥ることがある」
とても、勉強になりました。

私は、「医療再生を願うネット市民の会」の会員です。この会は、次の3つのスローガンをこころがけることによって医療崩壊からの再生を願う、ネットで活動する市民の会です。
 1. コンビニ受診を控えよう
 2. かかりつけ医を持とう
 3. お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう
ホームページはこちらです。
http://saisei.aikotoba.jp/index.htm

お時間のよろしい時に、一人でも多くの方にのぞいて頂けたらうれしく存じます。
私は、長い間医療の現状に無関心であったことを反省し、今すぐに自分ができることから始めたいと思います。

おじゃまいたしました。 m(_ _)m
by アイスゆず (2008-02-10 00:25) 

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