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ある膝打撲患者のXp [救急医療]

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時間外に、打撲の患者が来院することは多い。 そして、その場合、必要に応じてレントゲン撮影で骨折の有無をチェックするのが日常診療だ。

その際の、医療者側が、安易に行ってはいけない患者説明は次の通りである。、

レントゲンの結果、骨折はありませんよ。大丈夫ですよ

時間外で、このように威勢よく行ってしまった後に、骨折が判明しようものなら、確実に

誤診だ! 見逃しだ!

とありがたくないクレームをいただくことになるであろう。では、どんな説明が無難なのであろうか。 
林寛之先生の著 Dr.林の当直裏御法度 P85から引用する。

こんなに痛がっている人はやはり骨折があると思います。一番大事なのは経過をみることで、もし本当に折れているのに固定もせずに骨に負担をかけていたら、そのうち本当に折れてしまい骨がずれることになってしまいますよ。だから、ここは骨折があるものとして治療しておくほうが得策でしょう。(中略) もし見立てがはずれて骨折じゃなかったら、1~2週間でよくなってしまいますよ。その時はその時で、「ああ、骨折じゃなかった」って思えばいいじゃないですか。(中略) 骨折があるかないかは、きちんとまめに診察していけばわかることですから、今のところは大事をとって骨折があるものとして治療しておきましょう。よろしいですか?

このようなニュアンスのことを、相手の身になって親身に説明してあげることが、前医としての紛争予防のあり方だと思う。

もちろん、はっきりと非整形外科医でも非放射線医でもわかるような、いや、患者さんですら、はっきりとわかるような画像所見があれば、骨折ですと診断を下して、その次の対応を考えればいいであろう。

とは、いうものの、何にでも例外なるものがある。 では、症例。

症例 25歳男性 右膝打撲

元来健康。自転車で自己転倒。その際に、右膝、右肘など打撲したとして、朝7時に自己来院。 独歩可。 研修医のA先生が担当した。

意識、バイタル異常なし。 頭部、頚部、胸腹部に異常を認めない。 右膝、右肘には、擦過傷を軽度認めるが、縫合を要するほどの傷ではない。両関節とも可動は良好で、関節部に腫脹も圧痛も認めない。

A先生は、本人申告の打撲部分に関しては、レントゲンをオーダした。そして、膝のレントゲンをみて、
「へえ・・・、意外だなあ。こんな軽微な打撲でも骨折するんだあ・・・」と自分でオーダした検査に有所見を見つけたため、嬉しそうにしていた。



そして、患者に、自信をもって、「膝蓋骨の骨折です」と説明し、朝9時からの整形外科外来まで待機してもらい、専門医の受診へつないだ。

A先生は完璧な診療だと自画自賛。
こんなことがあるからこそ、やっぱり検査だぜ・・・・なんて思っていた。

ところがその日の午後、 この患者の診察を終えた整形のH医師から、A先生へ連絡が入った。

「A君よお、あんまり下手な説明するんじゃねえよ・・・。やりにくいんじゃん・・・・」

A先生は、なぜこんなことを言われてしまったのだろう。 (10月19日 記 続きは後日)

(10月20日 追記)

ortho.mo10 先生、moto 先生、僻地外科医 先生、chukano 先生、田舎の一般外科医先生、6年生 様、雪の夜道先生
コメントをありがとうございました。皆さんのご指摘の通り、今回は、
分裂(離)膝蓋骨の症例を出してみました。(あまり地雷っぽくないですが・・・・)

こういうのって、知ってるか知らないかの知識レベルによるところが大きいですね。知識として知らなければ、骨折と信じて疑わないこともありえます。知っていれば、慎重に、受傷機転、理学所見などと勘案して、骨折か分裂か、はたまた両者の合併か?などを考える事になります。

ということで、分裂(離)膝蓋骨を説明してくれているサイトを一つ引用しておきます。
http://www.tahara-seikei.com/1060.htm

ortho.mo10 先生からいただきましたコメント

膝蓋骨骨折であれば関節内骨折ですので、関節内血腫がありはずですし、骨折部には圧痛があります。それらがないということは骨折でないということになります。

このあたりの感覚が、実際の臨床現場ではとても重要だと思います。

そう意味では、A先生は、この疾患の存在が、頭に全くありませんでしたから、骨折と言い切ってしまいました。

A先生がたとえこの知識を知っていたとしても、それでも整形外科の先生に診療をつなぐのは変わりないでしょう。
ですが、その説明のニュアンスが少し変わってきますよね。

『受傷機転と膝の診察所見からは、にわかに骨折しているとは思い難いですが、レントゲン上では骨折しているようにも見えます。ただ、元々このように始めから分裂している人もいるのです。このあたりの判断を整形外科の専門の先生に判断してもらいましょう。』

まあ、こんなトーンが救急初療医としては無難なところでしょうか?

まとめます。

本日の教訓
打撲患者を診察する機会のある非整形外科の先生も、分裂(離)膝蓋骨なるものを知っておこう

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コメント 11

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ortho.mo10

整形外科医ですが、いつも勉強させていただき感謝しております。まあこれはあるレベルの整形外科医であれば、診断が可能です。膝蓋骨骨折であれば関節内骨折ですので、関節内血腫がありはずですし、骨折部には圧痛があります。それらがないということは骨折でないということになります。
by ortho.mo10 (2007-10-20 00:32) 

moto

外側上部の骨片ですね。わからなかったので、「膝蓋骨」でネット検索したら「○○膝蓋骨」と出てきました。またまた勉強になりました。ありがとうございました。
by moto (2007-10-20 06:17) 

僻地外科医

 ▲○膝蓋骨ですね。なんちゃって整形外科医の私でも結構見るから珍しくはないんでしょうね。
by 僻地外科医 (2007-10-20 09:51) 

chukano

整形外科医です。(5年目)
医者1年目の時に同様の症例を経験したことがあります。
私も最初は「骨折じゃん」と思い、通常診療時間であったため、指導医に相談したところ、「まだまだ勉強がたりないねぇ」と言われました。

余談ですが、この○○膝蓋骨は疼痛の原因となることもあります。
by chukano (2007-10-20 11:05) 

田舎の一般外科医

外側上部というのがキーワードですね。
by 田舎の一般外科医 (2007-10-20 12:16) 

6年生

初めてコメントさせて頂きます。毎回興味深く読ませていただいております。
医学生なのですが、自分には難しい症例も多いのですが、今回はわかりました。
有名なチェコ人サッカー選手には3つある、と聞いた事がありますが、実際に3つある症例を経験された先生はいらっしゃるのでしょうか?
by 6年生 (2007-10-20 14:16) 

雪の夜道

毎回お勉強させていただいています。
○○膝蓋骨ですね。辺縁がsmoothなので、骨折後所見にしては妙ですから。
by 雪の夜道 (2007-10-20 14:36) 

はしくれアメリカER医

初めまして。アメリカで救急のレジデントしている根無し草です。骨折に関して重要なことは臨床的に疑ってレントゲンで確認することです。例えレントゲンで写っていなくとも臨床的に疑うなら骨折として扱うのが医学的・法律的にも賢明です。逆に全く圧痛・主張がないのにレントゲンで骨片らしきものを認めたときは古い骨折かNormalVariantとして解釈すべきですかね。
by はしくれアメリカER医 (2007-11-05 14:55) 

元なんちゃって救急医

>はしくれアメリカER医先生

初めまして。ご意見ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。
by 元なんちゃって救急医 (2007-11-06 06:48) 

5年目整形外科医

最近このサイトを知り、はまって見ています。分裂膝蓋骨か、骨折か、難しい症例にも遭遇しました。関節内血腫もあり、数回の穿刺をした患者さんでした。ある時から、急に腫脹が増大し、分裂部が融解するようなX線像でした。化膿性関節炎の併発かと焦りましたが、痛風発作の併発でした。NSAIDs(もちろん胃薬あり)で対応していたら、ある日、下血で救急外来へ来院されました。何かある患者さんには、何かがずっと付きまとうな~という印象です。
by 5年目整形外科医 (2007-12-17 19:49) 

元なんちゃって救急医

>5年目整形外科医先生

コメントありがとうございます。こんな難しい症例があるから、私達は、臨床判断を常に、アナログで行うべしと私は日ごろ研修医に行っています。

有るか無しかの二者択一のデジタル的思考は、救急外来では地雷のスポットにはまるときははまります。
by 元なんちゃって救急医 (2007-12-20 20:24) 

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