大きな胃袋をもった患者 [救急医療]
本日は、ちょっとマニアックかもしれない疾患の症例を提示してみる。まあ、CT所見と病歴から、知っている人には、すぐにわかってしまう疾患である。知識試しのクイズ的感覚でお付き合いください。 地雷という視点では、あんまり問題にならないかもしれませんが・・・・。
では、さっそく自験例の症例 (一部脚色済み)
26歳男性 主訴 嘔吐、食欲低下、体重減少
3歳児に小児麻痺。左手麻痺あり。知的障害もあり、施設入所中の患者。最近一ヶ月の間、食欲の低下があり、時々嘔吐するようになったという。嘔吐は食後が多い。また、臥床時に腹痛訴えることも時々あったという。このような症状が続き、体重減少もみとめるため、施設職員が心配になって来院した。来院時、腹痛(-)、嘔気(-)。
来院時所見 身長150~160ぐらい、体重44kg(約5kgの減少あり) 血圧 110/65 脈 93整 体温 36.1 やせた感じであるが、腹部は膨満気味、心窩部に軽い圧痛あり。採血データに特記すべきことなし。
CT(造影)の結果は次の通り
ご覧の通り、胃袋がやたらと大きい。いったいこの患者には何が起きているのだろう??
(続きは後日 10月21日)
(10月22日 追記)
Med_Law 先生、僻地外科医先生、moto先生 コメントありがとうございます。皆様、すでにお気づきの通り、上腸間膜動脈症候群(SMAS)でした。
見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール 生坂政臣先生著 P106から引用します
本疾患は、上腸間膜動脈と腹部大動脈間で十二指腸third portionが圧迫されることによって引き起こされるが、やせによる腸間膜脂肪の減少が大きな要因と考えられれている。治療は過食を禁じ、食後に圧迫を悪化させる仰臥位を避けて腹臥位や膝胸位をとるような生活指導が有効である。保存的に改善されない場合には外科的処置が必要になる。
また、コミック「メスよ輝け!!」(集英社)の原作者である大鐘 稔彦(南あわじ市国民健康保険阿那賀診療所院長)先生が、日経メディカルオンラインの記事の中で、次のようなことを述べています。
知識は貯金のようなもの
医者になって10年目、70床そこそこの小さな病院の責を担ったが、着任早々、難しい患者に遭遇した。小柄な女子中学生で、主訴は頻回の嘔吐である。手術の既往歴はないからいわゆるイレウス(腸閉塞)ではないと思われたが、それにしても、挿入した胃管から毎日1000mL以上の胃液と胆汁が出てくる。ガストログラフィンで造影してみると、胃と十二指腸全体が拡張し、空腸へはほとんど流れて行かない。(中略)
SMASとは、「上腸間膜動脈症」と訳され、大動脈と、そこから分岐する上腸間膜動脈(SMA)の間を十二指腸水平部(第三部)が通っているが、急激に体重が落ちると上腸間膜の脂肪も減少し、SMAが索状になって十二指腸第三部を締め付ける格好になり、上部消化管イレウスをもたらすという特異な疾患である。数年前の抄読会で私の下のK君がこのSMASの文献をプレゼンテーションしたことを思い出したのだ。
全文は、http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/ohgane/200706/503498_2.html にありますが、日経メディカル登録済みの方のみしか見れません。
私は、これまで3例ほど、初期診療に関わったことがありますが、この病態の存在を知った上で、CTで拡張した胃と十二指腸を見つけることができれば、診断にたどりつくことも可能でしょうが、知らないと厳しいかもしれません。そういう意味では、知識は貯金のようなもの とは上手い表現だと思います。
このブログで知りえた知識が、日本の医療現場のどこかで役に立つことがあれば、管理者としてこんなに嬉しいことはありません。まとめます。
本日の教訓
レアな疾患の知識も、普段から少しずつ貯金しておこう
症例としては難しいものではないでしょうが、昔レジデント時代、この病気でなく、単なる胃潰瘍で幽門狭窄をきたしていた若い人がおられました(主治医は別)
食事が上手く通らないので痩せておられた上、電解質異常が顕著だったので、”なにかの腎臓機能異常か?”と山ほど検査されながら異常に長く入院しておられました。
余りに食が進まないのでカメラをして、ピロステと診断。余りに変形が強いので手術となりましたが、あっという間に異常所見は消失し目出度し目出度し。。。。。というのが昔でしたが、反省点は多かったようです。
このCTも皮下脂肪を見ると激痩せの状態のようです。
同じころ太ると治る病気と診断(遊走腎)された、妙齢の奥様は今、壮齢の御夫人でしょうけど、やはりレジデント時代の症例は記憶に残ります。
(この方も担当外)
by Med_Law (2007-10-21 23:00)
クイズとしてのポイントは「なんで造影CT?」ですね。
この疾患、診たことはないけど、以前、コメントで出てきたあれでしょう、多分。
臨床的には最近1ヶ月の食欲低下がポイントかな?
by 僻地外科医 (2007-10-22 02:32)
あ、小児外科認定医の問題にはたまに出ることがあると聞いたことがあります。
by 僻地外科医 (2007-10-22 02:33)
おお、これはわかるような気がします。○○と++とのなす角が鋭角なのが原因という奴ですね。
摂食障害との鑑別・合併が近年注目されているそうです。
by moto (2007-10-22 07:53)
>知識は貯金のようなもの
自分のような、非救急医がこのHPをうろうろしてるのは
まさにこのためです
良い言葉を教えて頂きました
by こんた (2007-10-23 11:47)
筋ジストロフィー患者でも 拒食症患者でも やせていると このような病態が起きてきますが
症例報告ですが、学会発表で その証明ができないために 文句を言われたことがありました。
臨床的には 上腸間膜動脈かどうか わからずとも るいそうが改善すれば 治るので、どうでも良いとは 思ってしまっていたのですが、
やはり ご呈示されたように 造影のCTが必要なんですね。。。
by 勤務医です。 (2007-10-23 21:18)
先生のところで拾った知識を、せっせと貯金したいと思います。
いつもありがとうございます。
by 春野ことり (2007-10-26 11:52)