謎のめまい症 [救急医療]
↓ポチッとランキングにご協力を m(_ _)m
時間外外来診療において、患者が「めまい」を訴えて、来院することは多い。「めまい」という患者の訴えの中には、様々なものが混在しており、我々医療者は、慎重な問診を通して、その訴えを、主に次の医学用語のどれに相当するかを判断することになる。
<患者側> <医療者側>
患者が「めまい」といった ⇒ 「vertigo(回転性のめまい)」
「dizziness(非回転性のめまい)」
「fainting (フッと気を失うような感じ)」
で、それぞれのめまいの性状に応じて、鑑別対象の疾患の想定が多少変わってくる。とはいうものの、患者の話をきいて、いつもクリアカットに、この3つどれかに分けられるわけではない。
そんな「めまい」の患者で、地雷的な疾患といえば、小脳疾患だ(小脳梗塞、小脳出血)。
小脳出血の場合は、発症直後でもCTをとりさえすれば、比較的診断はわかりやすい。ところが、発症直後の小脳梗塞の場合は、CTでは診断不能であり、MRIでどう決着をつけるが、いつも悩むところである。というのは、たとえ救急病院であっても、夜間に緊急でMRIが撮れる施設は、ものすごく少ないからである。
じゃあ、時間外のめまいの患者は、MRIが緊急にとれる施設に全部転送か?
そういうわけにもいかない・・・。 いつも現場で悩まされる。
そういう現場の苦悩をこのエントリーから感じ取っていただければ幸いである
⇒ 入院!と強く希望する家族
さて、つい先ごろも、また、めまいの患者がやってきた。
症例 27歳 男性 めまい
めまいを訴える患者が、転がり込むように、時間外外来ブースに入ってきた。一見、すごくしんどそうで、発汗多量である。本人は、「めまいが~」と訴えている。
とりあえず、診察室では、診療不可能と判断して、経過観察のベッドに休んでもらった。そして、点滴と採血、心電図などの検査を開始した。頭部CTも行うことにした。
その後、ベッドサイドで、型どおりの問診を開始した。結果、3日前からのめまいで、どちらかというと非回転性。特に体動時に症状が悪化する。頻度は10回/日以上。持続時間は、はっきりせず。つまり、動くと症状がでるとの訴えを繰り返すのみで、いまひとつ持続時間としては有用な病歴とれず。嘔気はあるが、嘔吐はこの3日間で一回だけ。全身倦怠感はあるが、食欲はある。便通はやや軟便であるが下痢とまではいかない。耳鳴りなし。頭痛なし。胸痛、呼吸困難なし。睡眠はまずまず。内服薬は特になし。
まあ、とりにくい病歴であったが、ざっと一回目の病歴聴取で、上述のようなものがとりあえずゲットできた。
バイタルサインに異常はなく、身体診察においても、異常はない。眼振もないし、小脳症状を示唆する所見もない。
なんだろう? いまひとつはっきりせんなあ???? でも、やたら汗はかいてるなあ? なんで?
というのが、私の最初の印象であった。
まあ、そうこうしているうちに、検査がそろいはじめた。
採血:異常なし。心電図:異常なし。胸部レントゲン:異常なし。頭部CT:異常なし
んんん・・・・・? やっぱりなんだろう。検査は異常ないぞ???
ただ、より高次の施設に今すぐ転送して、緊急にMRをとって小脳梗塞などをチェックしてもらうには、ちとためらわれる印象ではあった。
さて、私はもう一度、患者に今の時点での検査結果などを説明するついでに、病歴聴取第二弾を開始した。そして、ようやく、確信的な情報を収集することに成功した。
はあ、このパターンは、わかりにくいわあ・・・・・。
苦労しただけに、最近印象に残っているめまいの患者さんのお話でした。
(続きは後日。 10月12日 記)
(10月13日 追記)
皆様、たくさんのコメントをありがとうございます。では、続けます。
検査結果もでそろい、再び患者のベッドサイドへ向かった。カーテンをしっかりと閉じ、できるだけ密室性を装った。
私「いかがですか? 検査や診察上は異常ないですよ?」
患者「はあ、そうですか・・・」
私「どうもよくわからないんですよ。原因が・・・・・。
耳鼻科らしくもないし、脳神経緊急らしさもないし・・・・・」
しばらく、患者の前で、わざと困った様子で考え込むそぶりを見せた。
(私は、何か中毒の路線はないか?しゃべりにくい事がまだ隠されているのかもしれないと勘ぐってみた)
私「もしかしたら、すぐにお話しにくいことがあるかもしれません。
しかし、時に重要なことがわかることもあるんです。
また、立ち入ったこともお聞きするかもしれませんが、ご協力ください。」
私「ご職業はなんですか? 特殊な薬品とか金属とか使ってませんか?」
患者「 失業中です。とくにありません。」
私「健康食品とかどうですか?」
患者「ありません。」
私「 インターネットでドラッグとかは?・・・・」
患者「 ないですよ。でも、パキシル飲んでました・・・・・・」
私「え? 何でしょう??? よく聞こえませんでした。」
患者「 パ、パキシルです」
私「 えっ! 確か、内服薬はないと???」
患者「 ええ、今は飲んでないですよ。」
私「はっ??、では、いつまで飲んでいたのですか?」
患者「5日前からです。もういいかあっと思って中止してたんです」
私「それは、何の病気で、どこからもらっていたのですか?」
患者「 強迫性障害と多汗症と言われて、OK心療内科からもらっていました。」
(私の心の中: 来たああ・・・・、これだあ!!!。やっと出たあ!!!)
私「そうですか、それが原因かもしれませんね。ちょっと調べてみましょう」
そして、私は、スタッフルームに戻り、パキシルについて調べた。それが下記である。
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1179041F1025_2_13/
投与中止(特に突然の中止)又は減量により、めまい、知覚障害(錯感覚、電気ショック様感覚、耳鳴等)、睡眠障害(悪夢を含む)、不安、焦燥、興奮、嘔気、振戦、錯乱、発汗、頭痛、下痢等があらわれることがある。症状の多くは投与中止後数日以内にあらわれ、軽症から中等症であり、2週間程で軽快するが、患者によっては重症であったり、また、回復までに2、3ヶ月以上かかる場合もある
めまいの原因は、パキシルの自己中断によるものと判断した。私は、OK心療内科へ手紙を書き、翌朝すぐに受診するように患者へ説明した。 多少ふらつきは残っていたが、患者は帰宅した。後日、返事が来た。直ちにパキシルを再開し、その後症状は再燃していないとのことであった。
若い健康そうな男性のめまいの今回の原因は、薬剤(パキシル)であった。やはり、自分が抱える心の問題は、初診の医師にはすぐにはしゃべりにくかったのかもしれない。あるいは、最初の問診時は、本人も症状がきつい中での問診であったことや、聞く側も最初は基礎疾患がありそうにないという先入観で問診しているから、本人が適当に返事をしたのを、そのまま聞く側も何の疑いもなくそれを受け入れていただけかもしれない。 その真実は定かでないが、聞きなおすことで全く違う情報が得られることもあるという事実を、この症例を通して痛切に感じ取った。
私の気持ちとしては
「頼むわ~、最初から言えよ~~~」
である。
問診のやりとりは、奥が深い・・・・・
まとめます。
本日の教訓
病歴、時には、再検証の価値あり
季節がら、きのこ中毒なんかはいかがでしょうかね?
http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/98/9801kino.html#07
「3日前から」というのが、ちょっと弱いか・・
抗うつ剤の抗コリン副作用?と思いましたが、「内服薬なし」ですもんねえ。・・
by moto (2007-10-12 17:41)
初めてコメントさせていただきます。
いつも拝見させていただいて参考にさせていただいております。
やぶながら一応耳鼻として予想させていただきたいと思います。
「起立性低血圧」?当たり前すぎますかね?
何かめまいって「低い」って言うイメージがあるんです。
低血糖、低血圧、低脳脊髄圧、甲状腺機能低下、低Na、
メニエールでの低音障害とか。
「起立性低血圧」だとしたら最近ダイエットを始めたとか
何か冷房の効き過ぎた職場に移ったとかそう言う
なにか環境の変化が先行してるんじゃないかと思います。
by やぶ耳鼻 (2007-10-13 00:17)
いつも勉強になります◎今回ですが、
発汗過剰⇒バイタル・末梢冷汗の記載がないのでなんともいえませんが、汗は「冷や汗、脂汗、発汗(発熱に伴う発汗、伴わない発作的な発汗)、寝汗」の4・5つに分類して私は考えています。今回は交感神経興奮過剰状態をベース(更年期障害、パニック障害、褐色細胞腫(稀)etc⇒特に後2者は交感神経の過緊張が原因なので「冷や汗」での訴えが多い。)のベースを考えます。また、
特に体動時に症状が悪化する。⇒起立時に特に多い?
頻度は10回/日以上⇒発作性(発作時にしかバイタル変化がないものもある)
と解釈し、非典型でレアですが「褐色細胞腫」に一票です。27歳と若年男性ですし。
もしくは、BPPV、パニック障害などの心身症なども考えます。
by koba (2007-10-13 03:09)
ぺがさす先生の日記から拾ったネタ。
「過換気症候群」でめまい
おぉ・・・、そういやこういうのもあるよな。
ところでただいま当直中。今、めまいの患者さん来たです(苦笑)。典型的BPPVでした(自分がやったパターンなんですぐ分かるw)。
by 僻地外科医 (2007-10-13 07:03)
中学生で体動時にめまいがでる女の子がいました。安静にしていると徐々によくなって来ましたが、3日でまたひどくなったのでMRIを施行したらADEMでした。
今回の症例・・・わかりにくいですね。発汗多量でバイタルに異常なし・・・内服はないとのことですが、健康食品や民間療法と称しての服薬はないのでしょうか。褐色細胞腫もありかもしれませんが、平常時の血圧に変化が出てきそうにも思います。
by クーデルムーデル (2007-10-13 08:26)
皆様、いろいろ示唆に富むご意見をありがとうございます。
ええと、今回の肝は、一回目の病歴が必ずしも正しいとは限らないです。
よくありますよねえ。後の医者が患者に問診を取ったとき、自分たちが最初にとったときとぜんぜん違う返答をすること・・・・・。
「おめえ、話がちがうやんけ!!」
by 元なんちゃって救急医 (2007-10-13 09:07)
うーん、難しいです。どんどん、難しくなっていくような、、、
アルコール依存症、薬物中毒、、、、
あとは、全く思いつきません。
結果が楽しみです。
by 安達太良 (2007-10-13 11:28)
なるほど!!
交感神経過剰でも、抗コリン系の脱抑制によるものもありえたのかと感心しました。
パキシルは処方例も多いですし、要注意ですね。
by koba (2007-10-13 15:59)
ああ、中止後にくるやつですかあ。・・
むかし、わたし、自分でこれ経験しました。抗うつ剤中止後の睡眠障害・悪夢。
21世紀のはじまり、2000年の1月1日の夜明けを、自宅のふとんにもぐってうなされながら迎えたなあ・・
あれから7年。おかげさまで何とか元気になりました。
退職のころに書いた文章が残ってます。読み返すと、まだ欝が残ってたのがよくわかります。
http://www18.ocn.ne.jp/~steroids/05.htm
医療崩壊で、今現在、抗欝剤のお世話になってる先生もいらっしゃるかもしれませんが、なんとか生き延びていれば、人間、おさまるところにおさまるみたいですよ。
by moto (2007-10-13 18:30)
追伸)しかし、上記引用したわたしの文章、ひさしぶりに読み返しましたが、皮膚科医ごときが、生意気なこと書いてますねえ(^^;。
不愉快に思われるメジャー科の先生いらっしゃるかもしれません。
学会の方針とも、病院の利益とも反して、孤立してましたから、ささやかな自分の臨床医としてのプライドのみが心の支えだったんですよ。
大目にみてやって下さいませ。
それと、こういう雰囲気のひとが外来にきたら、「最近まで抗うつ剤をのんでなかったか」の問診を忘れてはいけませんね(笑。
by moto (2007-10-13 18:46)
なるほど
病歴は 何度でも 取り直せ 聞き直せ
なんとか 時間を作り出し
聞き直して 病歴から診断ができた 経験は 確かにあります。
by 勤務医です。 (2007-10-14 12:35)
いやー、おみごとです。パキシルは飲み始めは漸増、やめるときは漸減しないといけない、というのは意外に知らない先生おられたりしますよね。やっぱり問診の技法は奥が深いですねー。medicationという鑑別は最後まで頭の片隅に残しておくべきですね。ホント勉強になりました。
by hiropon (2007-10-14 22:48)
ご紹介、まことにありがとうございました。
パキシル、良く処方してますし、整形の特徴で
「治ったら来ない」ですから、自動的に服薬中止、、、
危ないなぁ。
ううう、気をつけます。
by 安達太良 (2007-10-16 09:41)