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意外な動脈瘤 [救急医療]

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今回のエントリーは、知名度はそう高くないと思うが、地雷度としては相当高いと思われるケースを紹介する。2症例ほど紹介。

症例1 62歳女性  右側腹部痛

高血圧で近医かかりつけ。 22時、突然発症の右側腹部の激痛。腹部やソフトで、右上腹部を中心に軽い圧痛。右CVA叩打痛あり。翌午前3時、某救命センターへ転送。転送時、意識清明 血圧110/72.四肢冷汗あり。眼瞼結膜貧血様。疼痛は発症時よりやや軽快傾向。WBC 14900、CRP 0.1、Hb 10.1。


症例2 37歳男性  上腹部痛

元来健康。特記すべきことなし。 日曜日の午前10時ごろ、誘引なく突然の上腹部痛が出現。某救急病院の日曜休日診を徒歩にて来院。担当した内科医(専門は呼吸器)は、理学所見や、バイタルに異常を認めなかったが、発症様式にいやな予感を感じ、技師に腹部エコーを依頼した。 そして、その所見をみて、目が飛び出すほどに驚いたという。
検査出してよかったああああ・・・・・・と地雷を回避できたことに心底安心していた。

ケース1は、まもなく腹痛が増強後、ショックとなり死亡。 ケース2は、造影CTを追加検査出した後、外科へコンサルト。手術となり、独歩退院。

いかがでしょう。 腹部外科が日常の方は、きっとご存知だと思いますが、他の先生方はいかがでしょうか? 2例とも意外な○○○なんです。怖いですねえ。 続きは後日。(10月14日 記 )

(10月15日 追記)

みなさま、いつもながら、いろいろなご意見をありがとうございます。今回もすでに私の言いたかったことは、コメントとして出尽くしてる感があります。 ご指摘の通り、今回のエントリーで伝えたかったことは、意外な動脈瘤です。つまり、「大動脈だけが瘤になるわけじゃないよ」ということです。 

症例1 腎動脈瘤の破裂
症例2 脾動脈瘤(未破裂)


でした。 症例1は、急性死の症例 100 名古屋大学出版会 P170-P171 からの引用症例でした。症例2は、ある勤務先での同僚の内科医師の体験談でした。私は、この体験談を聞いたときに、こんな動脈瘤があるんだあ・・・とびっくりしたものでした。 当時、さっそく、急性腹症のCTで調べてみると・・・・。ちゃんと載ってる、へえええ、と感心したことが思い出されます。

さっそく、関係箇所を引用してみます。

急性腹症のCT P469
腹部内動脈瘤(visceral artery aneurysm)はまれな動脈瘤であるが、その22%が緊急状態で発見され、その死亡率は8.5%と頻度は低いものの臨床的な重要な動脈瘤といえる。すなわち、内臓動脈瘤の臨床的重要性は、
abdominal apoplexy(腹部卒中)とも呼ばれている・・・

腹部卒中なんて表現は、普段あまり聞かないですねえ。しかし、印象的な表現で、覚えやすいですね。症例2では、こんなまれな病気を、技師さんがきっちりと脾動脈瘤と診断をつけてレポートを返してくれました。すばらしく有能な技師さんだと思いませんか?救急病院のパフォーマンスは、医師の臨床力だけでなく、まわりのスタッフの能力にも依存しているということを多くの人にわかっていだきたいと思います。

さて、引き続きまして、脾動脈瘤に関して・・・

急性腹症のCT P469
脾動脈瘤は女性に多く、男女比は1:4、・・・(略)・・・・。多くは無症状であるが、20%には症状が発現し、左上腹部の不定の痛み、背部に放散する疼痛が主な兆候である。破裂頻度は、3~9.6%とされ、破裂例の死亡率は25~39%に及ぶ。
若年女性の動脈瘤が破裂する場合、その95%が妊娠中に生じ、母体の死亡率は70%、胎児の死亡率は95%に達すると言われる。

いやあ、これは怖い。私は、妊婦症例の経験は、直接はおろか間接的に周りから聞いたこともありません。ただ、妊娠、出産中の大変まれな脳出血事例で、あれだけ世の中が大騒ぎになってしまう今日この頃ですから、脾動脈破裂死亡事例が、マスコミに伝わったら、こりゃまたえらいこっちゃになりそうな予感がします。

腎動脈瘤についても・・・・

急性腹症のCT P493
直径が1.5cm以上の動脈瘤は破裂しやすいとされ、とくに妊娠中や高血圧患者では破裂しやすいので注意を要する。腎動脈瘤の自然破裂例の生存例の報告は決して多くない。

大動脈の破裂かも?と臨床の現場で思う場面に遭遇したら、腹部卒中かも?と意識的に考え直してみるのもいいかもしれませんね。 そんな思考が、ひとりの人を救命できる第一歩につながるかもしれません。

まとめます。

本日の教訓
動脈瘤は意外な血管(例:腎動脈、脾動脈等)にもできるものである

コメント(12)  トラックバック(1) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 12

コメントの受付は締め切りました
moto

うーん、高血圧のひとが、ショック・腹痛から、死んじゃって、筋性防御とか、腹膜刺激症状もないから、ふつうは大動脈瘤とか血管緊急ですよねー。エコーでびっくりだし。だけど「意外」なんですよねえ・・
SMAの血栓症とか・・だけど。それじゃエコーでびっくりまではしないかなあ。わかりません。
by moto (2007-10-14 09:55) 

勤務医です。

突発だと、動脈瘤破裂とか 動脈解離でしょうかね。

動脈瘤破裂でも 腸腰筋内への出血であったので 一命をとりとめた 患者さんもいました。
主訴などと無関係に 画像で、何気なく 偶然 危険な動脈瘤がみつかって びっくりした経験はあるのですが。。。

ついでは 
塞栓
腎動脈梗塞では死ななくても、次に 脳塞栓が起きて 脳ヘルニアで死んでしまったとか。。。
by 勤務医です。 (2007-10-14 12:33) 

pulmonary

痛みのわりに腹部所見が軽度で、CVA tendernessあり。
鑑別すべき疾患としてにはAAAの切迫破裂を考えます
あとは大動脈解離でしょうか
2例目は若いですが・・・
AAAは腹腔内破裂では救命できませんが、後腹膜への切迫破裂なら緊急手術で救命できるかもしれません。
by pulmonary (2007-10-14 12:46) 

僻地外科医

うむ~・・・知名度が高くないと言うところからAAAや解離は否定的でしょうね。一番考えやすいけど。

 腹部エコーで分かった・・・・というところと、CVAの叩打痛あたりから、急性膵炎?しかし、造影CTってのが・・・。しかも、理学所見で大したことないってのはありえんな。

 あ、○○○は動脈瘤か??だとすれば腹部内臓動脈瘤なんかどうでしょう。脾動脈瘤、肝動脈瘤なんかをまれに見ることがあります。もっと希な腹腔動脈瘤は新人の時に地方会で発表した覚えが・・・。脾動脈瘤のでかいのなんかはエコーでも十分見れますね。

>Pulmonary先生

 私、一度だけ腹腔内破裂したAAAを救命したことあります(私の執刀ではなく、私が初診医だったケース)。あれ、良く助かったよなぁ、ほんと・・・。
by 僻地外科医 (2007-10-14 17:29) 

立木 志摩夫

勝手にイメージしますよ。窓際内科医ですが。

1) は総胆管の結石カントン

2) は大動脈解離かなぁ。マルファンだったりします?
by 立木 志摩夫 (2007-10-14 20:32) 

ラ王

まったくのヤマ勘です。
症例1はHCCの破裂。
症例2は大動脈解離。
by ラ王 (2007-10-14 21:55) 

moto

「○○○は動脈瘤」説に賛同します。なるほど、それなら、クイズとしてまとまりがいい。
症例2のほうは、腹腔動脈の瘤として、症例1のほうは、叩打痛あるし、腎動脈の瘤で、高血圧は、腎血管性高血圧だったというのはどうでしょうか?
参考URL
1.「検診の腹部エコー検査で異常を指摘され発見された腹腔動脈瘤」
http://www.qqct.jp/seminar_answer.php?id=820
2.「背部痛を主訴とした腎動脈瘤」
http://www.kobakuri.jp/shourei/su2_diary.cgi
3.「腎血管性高血圧をともなう腎動脈瘤」
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/rad/Dx/shindanStaffThemaHashimoto.htm
by moto (2007-10-14 23:47) 

moto

追伸)症例2が、腹部内臓動脈瘤だとしたら、「突然の上腹部痛」が何なのか、ちょっと気になりますね・・ネットで検索した限りでは、ほとんど無症状で、たまたま見つかったか、破裂して緊急で見つかることが多いみたいです。
「上腹部痛を主訴とした脾動脈瘤」は、ありましたが、例外的みたいだし・・
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsvs/16/1/16_41/_article/-char/ja
上腸間膜動脈の瘤が原因で、SMA症候群きたして上腹部痛、なんて例ないかと思って検索してみましたが、無いなあ。
by moto (2007-10-15 01:01) 

ponta

いつも楽しく勉強させていただいております。
ケース1は後腹膜血腫による腹痛でしょうか?その原因は、SMA起始部の動脈瘤の破裂。ケース2は、幸いにして破裂に至らなかったもの。数ヶ月前にケース1に近い症例を見たので、先入観ありすぎですが。
by ponta (2007-10-15 06:44) 

僻地外科医

>moto先生

 確かに腹部内臓動脈瘤は無症状で偶発的に見つかることが多いですけど、動脈瘤なんですから破裂や切迫破裂では当然症状が出ます。

 で、脾動脈瘤は先行する膵炎に合併するケースが多いので、炎症性動脈瘤のことが多いです。そのために呈示された症例のような状況を起こすことが希にあります。どっちかというと「バイタルが安定してるのに胃と交通する脾動脈瘤が珍しい」ということで、症状がある脾動脈瘤がすごく希と言うことではありません。
by 僻地外科医 (2007-10-15 09:36) 

ハッスル

今回も勉強になります。
理学所見が大したことがない(筋性防御など)割りに切迫感のある”持続性””痛さ””冷汗”という、キーワードですね。
膵炎もそうですが、外傷後の腹痛で自然経過で軽快した場合に、遅発性(不顕性)に動脈瘤が形成されていることも少ないながらあります。
レジデントでいた病院では、救急室からのオーダーでは単純<造影CT、がルーチンでしたが、問診などが煩雑と捉えられて、結構単純CTで済まされていることが多いです。
急性心不全として処理されるCPAに腹腔内に出血していない動脈瘤破裂があるという話を聞いたこともあります。
by ハッスル (2007-10-15 15:40) 

moto

思いつきなんですが、大淀の事件とかもあるし、「妊婦は血圧が上がって脳や、かくれた腹部内臓動脈瘤が破裂するリスクもあるから、結婚したら妊娠前に、全身の動脈瘤の検査を」って、キャンペーンしたら、富裕層相手の自由診療ビジネスにならんかな。
万が一、地雷にあたったら、「妊娠前に多少お金を出してでも、動脈瘤スクリーニング検診を行っておけば防げたかもしれないのに悔やまれます」ともいえるし。
検査法の選択がむつかしいですけどね・・あまり侵襲大きい検査じゃいかんし。
by moto (2007-10-15 18:05) 

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