突然発症という病歴 [救急医療]
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時間外診療で、地雷的な怖い疾患でありそうか、なさそうか? このあたりの臭いをかぎ分けるのに、かなり気を使うことがある。
その症状なり痛みなりが、突然発症かどうか、という点である。
ここで、安直に考えてほしくないことは、単に「突然起こりましたか?」と患者に聞けばすむほど、単純ではないということだ。
そもそも、なぜ突然発症に気を使うかというと、地雷的な疾患の多くは、血管が詰まる、破ける、何がしかの管が詰まる、破けるなどの発症メカニズムに基づくことが多いからである。どこの臓器であれ、詰まる、破けるが突然起きるとき、怖い緊急疾患は発症するものなのだ。
いくつか例を挙げておく。
突然発症する頭痛 → くも膜下出血、小脳梗塞
突然発症する呼吸困難 → 肺血栓塞栓症
突然発症する胸痛 → 心筋梗塞、肺血栓塞栓症、急性大動脈解離
突然発症する背部痛 → 急性大動脈解離
突然発症する上腹部痛 → 心筋梗塞、上部消化管穿孔、絞扼性イレウス、肝癌破裂
突然発症する下腹部痛 → 卵巣茎捻転、子宮外妊娠、下部消化管穿孔、絞扼性イレウス
突然発症する腰痛 → 急性大動脈解離、腎梗塞
などなどである。
症例1 21歳男性 頭痛にて深夜0過ぎに来院。
つい最近、研修一年目の先生と一緒に時間外診療を行ったときのこと。彼女に先に問診をしてもらい、後でその病歴を聞かせてもらったときのことだ。
「夜、21時に突然発症の頭痛です。嘔気もありました。・・・・」
ええ~、突然かよ?? ほんと? 「ええ、そうです。」と彼女。
私も患者のところへ言った。
「頭痛は突然始まりましたか?」
「はい」
にわかには信じがたい・・・・。どうみても元気そうであった。
私は、作戦を変えた。
「では、縦軸の頭痛の強さ、横軸に時間をとったグラフ上にあなたの感じた頭痛をグラフで教えてください」
といって、紙と鉛筆を手渡した。 →患者が書いたグラフは下図の通りだった。
これをみて、こんな聞き方をした。
「頭痛は、ゆっくりと始まって一時間後にピークになったのですね?」
「はい」
「じわじわとゆっくりと発症したんですね」
「はい」
(おいおい、さっき、「突然ですか?」で 「はい」 ゆうたやないかあ? どっちやねん!!) ←心の中
以上のやり取りをふまえて、私は、この患者の頭痛の発症様式は突然ではないと判断した。
つまり、くも膜下出血の確率を上げるには及ばない病歴と判断した。
なんだか誘導尋問みたいだ。時に患者の返答は矛盾する。皆さんの中にも、答えるのがめんどくさいなあと思うとき、ついつい、何にでも「はい」「はい」と答えてしまう方もいるのではないだろうか?そんな返事にまじめに付き合っているとこちらの仕事が増えるばかりだ。そこで、本当に突然かどうかは、時に聞き方をたくみに変えて、病歴として有効な情報に変換して診断をすすめないといけないこともあるのだ。そういうところに病歴聴取の面白さがあると私は思っている。
今日の教訓
「突然」発症の病歴には地雷疾患が多い。ただし、「突然」の解釈には十分な思慮を要するものだ。
コメント一覧
こんばんは。
勉強になります。
この紙に書いてもらうやり方
色々応用が利きそうですね。
機会がありましたら使わせていただきます。
written by 脳外科見習い / 2007.06.15 23:41
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コメントありがとうございます。
私は、ときどき使っています。
by なんちゃって救急医
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本人に時間経過の図示を書いてもらい
聞き取った 病歴を読んで これでいいですか と
患者自身に確認するのは
大学の研修医時代は 行っていたのですが
最近は 時間に追われて できていませんでした。
あのころは 病棟医長が 研修医の書いた病歴を 患者さんの前で 読んで
これは こうじゃなくて こうなんですね とか
いろいろやっていたなあ。
written by 神経内科勤務しています。 / 2007.06.16 11:59
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コメントありがとうございます。おそらく専門の先生ならば、自然な問診で的確な情報をつかまれておられると思います。やはり、こういった手法は、研修医の前でやると、病歴の妙を伝えらるのではないかと考えている次第です。
by なんちゃって救急医
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"突然"という表現、これは人によって解釈がバラバラですよね。1時間かかって増強しても、困って救急外来を受診している本人にとっては「突然」のことなのでしょうし、症状は多少脚色した方が医師がちゃんと診察すると思っている人もいるかもしれません。
今の職場はバイトが禁止され、夜間の外来をすることはなくなりましたが、こういうケースに何度か遭遇した私は、頭痛の問診に"突然"という表現を極力使わないようにしています。
「じわじわ悪くなっていますか?」
「ポンと、ある一瞬を境に急激に痛くなりましたか?」
「頭痛に波はありますか?」
など、余裕がある時は同じ内容でも言い方を、何通りか変えて確実にnot suddenを否定するようにしていました(今の職場ではこんな風に患者との意思疎通がとれないですけどねぇ・・・)。
written by 似非精神科医 / 2007.06.17 01:34
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コメントありがとうございます。
頭痛の問診にあえて「突然」を使わない
という考えもなるほどなあと考えさせられました。
by なんちゃって救急医
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「動悸」を洞性頻脈・PVC・PACとPSVT、頻脈性発作性心房細動と区別するのも病歴が重要ですね。
「急に動悸が…」という患者さんのスペクトラムも広いものがあります。
「いつ始まりましたか?もし、時計がその場にあったとして、何時何分何秒に始まった、と言えるようなものですか?」
という聞き方をすることがあります。
(時計うんぬんの前提部分がないと、否定されたとき、時計がなくてあるいは時刻を覚えていなくてわからないのか、緩徐に発症したのか返答から判断し辛いので)
発症様式もそうですし、持続時間・停止様式も重要ですね。
written by 匿名 / 2007.06.17 09:54
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コメントありがとうございます。ご指摘のとおりだと思います。
「そのとき、何してましたか?」の質問で
どれだけ詳細にいえるかも
突然の目安にすることもあります。
by なんちゃって救急医
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