内服薬にもご注意 [救急医療]
過去のエントリーの一覧表を作りました。→こちらです
時間外診療において、時にピットフォールに陥るのが、患者の内服薬情報だ。時間外診療は、通常の外来で継続的に診ている患者が対象でなく、何がしかの急に生じた問題点に対して、あくまで応急的な診療を行うのが目的だ。時間外診療では、内服情報を知りたくても、種々の制限(夜間のためかかりつけ医と連絡が取れないなどなど)で医師が把握できない場合もある。そこで、時間外診療を急遽利用する一般市民の方々へお願いがある。
自分で飲んでいる薬は、いつでどこで救急病院を受診しても、的確に救急病院の担当医に薬剤情報をが伝えられるような準備を日ごろから行っておいてほしい。
具体的には、
1)薬剤手帳を必ず持参する
2) 受診の際には、薬剤を必ず持参する
3) 自分だけでなく、家族も薬剤情報提供できるようにしておく。(コピーを作成するなど)
4)救急隊も、気をきかせて、家族に薬も一緒にもっていくことを促してほしい
基本コンセプトは、薬剤情報は、自己責任で管理しておいてほしい ということです。
医師の判断を間違わせない・・・・・ それは、医療を受ける側の努力もあるのです。
症例 75歳 男性 動悸
救急車で、患者がやってきた。主訴は突然始まった動悸だった。 当院は初診。開業医で、高血圧、脳梗塞などで何種類かの薬を飲んでいるらしい。 あわてていたので、薬を持ってくるのは忘れたと。
バイタルは安定。心電図では、Narrow QRS tachycardia with regular RR intervals のパターンを呈しており、正常なP波はなさそうだ。HRは190。 いわゆる発作性上室性頻拍(PSVT)で、リエントリー性(AVNRTかAVRT)のものかなあというのが第1印象であった。
とりあえずATPを使ってみようということになった。
で、確認の問診
「お薬、血をさらさらにする薬飲んでませんかあ?」
「はあ、???? わかりませんなあ・・」 (→どうせ、バイアスピリンやろうなあと推定)
「喘息のお薬飲んでませんか?」
「はあ、喘息ですか? ないと思いますがのう・・・」
いまいち頼りない返事ばかりでった。
いちおう、ATPには、薬の相互作用がある。ATP(アデホス)を使うときには注意が必要なのだ。
「テオフィリンの内服患者では効果がでにくく、ジピリダモールの内服患者では効果が増強される」
という話があるので、確認が必要なのだ。しかも、薬剤添付文書にはアデノシンとは併用と禁忌と書いてある。
ちなみに、ATPはアデノシン3燐酸であり、文書上には、アデノシン3燐酸と併用禁忌とは書いてはいない。
まあ、いいかっ と 結局ATP10mgの通常量を使用した。
「はい、お薬行きます~~、一瞬だけ気持ち悪くなりますよ~」 と言って静脈内急速投与行った。
(モニタ上、しばらくして・・・ いつもの変化が現れ始めた)
「うう・・・うう・・・」
(きた、きた・・・・ もどるでえ、これで) とここまではいつもの日常 ところが・・・・
モニタ波形が、心静止!?
はあ??、もどってこない。まずい、CPRか!と決断しようとしたまさにその時、
「ピッ、ピッ・・」
と洞調律に復した。
「ほっ!」である
いつもより、ず~となが~~~~いATPによる一過性の心静止時間でした。
娘が後から、家の薬をもってやって来た。やっと確認が出来た。
ジピリダモール(ペルサンチン)を内服していた。
ガーンである。どうせ、バイアスピリンだろうと見切り発車をして投薬したらこの有様だ。
ヒヤリハットものである。
もし、これで、本当に心停止になって、大事になったら、これは医療ミスと糾弾されるのだろうか?
医者が叩かれまくるんでしょうか?(すくなとくも報道風評被害的には多大なものになるであろう)
と最近、こんなことがありました。
患者さん側も最初から、薬剤提供という視点で積極的に参加してもらえていれば、このヒヤリハットは確実に避けられたわけです。
まとめます。
本日の教訓
時間外診療における薬剤提供の責任は、患者さん側にも十二分にあると心得てほしい。それが医療を受ける側のメリットになりますよ。
コメント一覧
今日もいいお話ありがとうございます。
時間外での薬の問題にはいつも骨が折れますよね。
たいてい救急車でこられる方は薬の情報が全く無いとうことが多いような気がします。田舎だからかな?
いつも口をすっぱくして今度は薬持ってきてくださいね~
と、どうせかわらないだろうとむなしくなりながら、
言っております。
一般市民へのお願い、共同キャンペーンでもやってみますか?
written by 脳外科見習い / 2007.06.15 09:18
***********
コメントありがとうございます。
地道にいい続けるだけですねえ・・・
by なんちゃって救急医
*********************************
いつも勉強させてもらっています。
本当に、患者にも医者に間違った判断をさせない努力というものを知って欲しいところです。
実際は意識的でないにしても騙そう、はぐらかそうという話ばかりが問診で出てきます。
written by doctor-d / 2007.06.15 16:56
****************:
コメントありがとうございます。まあ、そういうこともあるかもしれませんね。私もつい最近、性交、月経歴をみごとに騙されたことがありました。
by なんちゃって救急医
**************************************
そういえば 昨年か今年の初めか NHKの深夜にやっていたERで
搬送されてきた患者の内服薬の内容がなかなかFAXされてこず(依頼された方は FAXなんてしていない とか といっていたような。。。)、手元にあった少し前の処方内容の記載を信じて 薬を使用したら セロトニン症候群になって 死亡した という話がありましたね。
「MAOインヒビターを飲んでいる、そこにデメロールの投与で、セロトニン症候群」
どちらも 日本では使用されていない薬だと思います。(使用していないで 良かったと思います。)
個人情報は FAXしない できない だなんて言ってはいけない と思います。個人名の完全な記載をしなけれ、FAXできるし、しなければ 命にかかわることがあるわけです。
written by 神経内科勤務しています。 / 2007.06.15 20:10
**********************
コメントありがとうございます。
セロトニン症候群もけっこう地雷的ですね。
教えていただいてありがとうございます。
勉強になりました。
by なんちゃって救急医
**********************************************
> 個人情報は FAXしない できない だなんて言ってはいけない と思います
生命に関わる場合は、本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供しても構わないことになっています。
----------
個人情報保護法
(第三者提供の制限)
第二十三条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
(以下略)
written by YUNYUN / 2007.06.16 02:43
*************
情報提供ありがとうございました。
弁護士さんからの情報はほんと心強いです。
by なんちゃって救急医
***************************************
ATPは知識としてはあっても自分では使わないで循環器内科の先生をお呼びさせて頂いてます^^;
しかし、心静止時間は短くても手に汗をかくのは私だけでしょうかw
written by アルよし / 2007.06.16 10:44
************
きたいただけるのなら、それにこしたことはありませんね。
いつも、救急カート、BVM、DC、硫アト(切らずに出しておく)はそばにおいてやってます。
by なんちゃって救急医
***********************************
ATPで延びすぎたら咳をしてもらうと元に戻るとよくいいますよねぇ。でも本当に心静止が続いたら意識ないと思うのは私だけでしょうか。
昔AHA-ACLSを受けたときの私のメガコードは安定した頻拍(narrow QRS tach. RR整)で、ATP使用後にAsystoleとなりました。まさに今回の症例に近いですね。
その人(人形)もペルサンチン飲んでいたのでしょうか(笑)
written by pulmpnary / 2007.06.19 14:01
**************
コメントありがとうございました。
cough CPRの考え方ですね。
確かに、ACLSシナリオネタで、ありがちなパターンですね。私的には、あまり現実的でないので出したくないシナリオでしたが。
by なんちゃって救急医
************************
コメント 0
コメントの受付は締め切りました