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救急の日:PUSHプロジェクトの紹介(追記) [救急医療]

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昨日9月9日は、救急(QQ、99)の日でした。昨年もこの日はエントリーとしてとりあげました。→救急の日 

ということで、今年も。

今年は、あるプロジェクトを紹介します。こんなプロジェクトです。→PUSHプロジェクト 

これは、京都大学の石見(いわみ)先生を中心とするプロジェクトです。先日、大阪地区ではテレビでも放送されていました。ご紹介させていだきます。

NPO大阪ライフサポート協会が中心となり、胸骨圧迫とAEDを地域に浸透させていくことを目標としたPUSH projectが本格始動しましたので、ご紹介させていただきます。

プロジェクトの目標は、短期間(2年毎)に人口の10%以上に胸骨圧迫のみの蘇生法とAEDの使用法をマスターしてもらい、院外心停止例の救命率を向上させること、合わせて命を大切にする教育を学校に普及させることです。

まずは、最初の2年間をキャンペーン第一期として、大阪をモデル地区に上記達成を目指すとともに、全国でこの活動を広めて行けたらいいなと構想(妄想)しています。大阪ウツタインで、この活動の効果の検証も合わせて行う予定です。今後も続々と、PUSH projectを普及させるためのイベントを企画していく予定です。

是非、趣旨にご賛同いただき、PUSHキャストになって、一緒に活動して下さい!!(キャストについてはHPをご覧下さい)周りの方にもPUSH projectを紹介していただき、この輪を広げていってくれたら嬉しいです。

※まずはモデル地区を大阪に設定していますが、活動対象は全国です!!

一般の方にたくさん参加してもらえることは、すばらしいことだと思います。私もこのブログを通して支援いたします。

突然の心肺停止に陥った患者の初期対応にあたる救急の現場に携わるものとしては、時々、「もっと早く・・・していれば・・・」と痛切に思うことがあります。我々は、何を「もっと早く」と感じるのでしょうか?

それは、早期の胸骨圧迫と早期の除細動です。

この二つの処置に関しては、救急車が到着する前に、偶然そこに居合わせた一般市民の方の手で早期に開始することが有用であることは、すでに多くのデータとして証明されています。それらは、2005年に発表された世界共通の蘇生の国際コンセンサスに多くの影響を与えています。

え?人工呼吸は? 

と一般の方はお感じになるかもしれませんが、世界の趨勢は、胸骨圧迫と早期除細動です。
その根拠は?と思われる方のために、こちらのサイトを引用しておきます。

では、そろそろ本日の症例です。(本日は、クイズ形式ではありません)

症例1   48歳男性  CPAOA(来院時心停止)

高血圧で近医通院中ではあるが、元気。某大手企業に勤務するやり手の部長(だったらしい)。部下と道を歩いている最中に、突然、胸を押さえそのまま倒れこんだ。びっくりした部下は、大声を出しながらあたりを見回すと、偶然すぐ目の前に医院の看板を発見。そこに駆け込み、助けを求めた。

看護師 「119をして、それまではうちで応急処置をしましょう」

と言って倒れた部長を部下と看護師2名で処置室のベッドに寝かせ、胸骨圧迫などが開始された。

(注:これは、ずいぶん前の話であり、AEDの普及はもちろんのこと医療従事者に対する蘇生教育システムも不十分の頃の話である。)

院長 「 挿管する。 用意して!」 

とすぐに気道確保の準備にとりかかった。元々外科医として長く勤務医経験のあった院長は、開業して以来久しく挿管手技とは疎遠だった・・・・・。そのせいだかどうかは?だが・・。

院長 「ん、難しいな・・・・」 

と悪戦苦闘。無理もない。患者はやや肥満体型で、首も短かったのだ。すでに救急隊は到着。119コールからすでに7分が経過していた。 

さらに3~4分が経過。

院長 「よっしゃ!入った。」
院長 「これで呼吸はOKだ。あとは救急隊よろしく!」 

そこで初めて車内収容時にモニタがつけられた。平坦な波形だった。もちろん、除細動適応ではない。

20分後、当院に到着した。約一時間近く心肺蘇生処置を懸命に行った。反応はなかった。高校1年の娘と中学2年の息子と奥さんに状況を告げ、家族3人立会いのもとで死亡確認を行った。 全身CTで突然死の原因を検索しにいったが何も所見はなかった。解剖まではなされなかったので確定診断には至っていないが、心筋梗塞による突然死が最も合理的な死亡原因だと推定した。

心室細動は発症すると、心筋は細胞内のATPを利用しながら痙攣を起こす。そのとき得られる心電図波形が不規則なこんな波形だ。 時間が経つとATPもだんだん枯渇していき、その振幅は段々小さくなり、やがて完全に枯渇してしまう。当然心筋の活動は終焉を迎える。そうなったとき、波形は平坦となる。時間にして10分程度でそうなると言われている。ここまで経過してしまうと救命の可能性は限りなく0に近い。的確な胸骨圧迫は、その平坦になるまでの時間を延長すると言われている。つまり、的確な胸骨圧迫を行うことによって、除細動による心拍再開の可能性が増すことになるのだ。だからこそ、胸骨圧迫の普及は重要なのだ。

「この患者も始めはきっと心室細動だったのだろう。挿管処置に費やす間に波形は平坦になったのだろう」
と私達は考えた。

そして、その考えからこんな気持ちが自然と生じる。
「もっと早く除細動がなされていたら・・・・・、
挿管に手間取るよりも先に除細動がなされていたら・・・」


こういう反省の気持ちは、更なる発展への糧になる。事実、多くの医療者がそういう気持ちを抱き続け、救命向上のための努力を続けてきたからこそ、今のAED(自動対外式除細動器:一般の人も使用可能な機器)の普及があるということを、一般の方は決して忘れてはならないと思う。

一方、この気持ちから、こういう方向性も自然と生じる。
「もっと早く除細動していたら助かった高度の蓋然性がある。
よって、賠償義務が発生する。」

という法のロジックだ。これも一つの考え方ではあろう。(個人的には、あまり積極的には受け容れたくない考え方であるが・・・・)

家族への感情や思いの側へ社会がぐっと歩み寄れば、法の考えに沿った立ち位置になるであろうし、医療を社会のインフラとして守らなければならないという思いへ社会がぐっと歩み寄れば、医師達がふだんから主張する医療の不確実性を配慮した考えに沿った立ち位置になるであろう。

社会がこれから、どういう立ち位置の方向に進んでいくのか? 私は、後者であってほしいと切に願う一人ではあるが・・・・。その答えの一つがこれから議論される医療事故調査委員会のあり方に出るのだろうと私は思っている。

さて、もう一度PUSHプロジェクトの話に戻ります。次の赤字の部分についての私見です。

院外心停止例の救命率を向上させること、合わせて命を大切にする教育を学校に普及させることです。

私は、このプロジェクトに直接関わっていないので、その実情はよく知りません。そのことをふまえて私なりの提言をしてみます。多くの市民が心肺蘇生に積極的に関わるこということになれば、必然的に多くの市民が死に直面するになるということを意味します。それは、いくら早期除細動がAEDや胸骨圧迫が有用だとしても、突然倒れた人に対する100%の治療ではないからです。ここにも当然ながら医療の限界があるのです。だからこそ、処置に参加した一般市民の救助者が、自責の念に駆られないですむように死への教育も極めて重要でないかと思うのです。これが生と死は表裏一体不可分な性質があるという考えに基づく私の主張です。

蘇生の講習会のときに併せて死への啓蒙もおこなうこと

これは極めて重要だと思います。 すでにプロジェクトの中にそのことが組み込まれているとしたならば、単に私の不勉強ということになります。ご存知の方がもしおられましたら、コメントなどでご指摘いただければ助かります。私が主催するICLS講習会では、ほんのちらっとではありますが、救助者自身が自責の念に駆られないですむようなメッセージを交えながら行っています。

最後に本日のまとめです。
PUSHプロジェクトを通して、院外突然死の死亡率がより低下することを期待します。当ブログはこのプロジェクトを応援します。

(9月12日 追記)

小児集中治療の先生からのコメントをいただきました。とても大事なご指摘ですので、エントリーに追記させていただきます。

成人と小児では、心停止にいたる原因背景が異なります。 前者は、心臓停止まずありき、後者は、呼吸停止まずありきが多いと言われています。従いまして、小児領域では、人工呼吸の有用性は高いといえます。

以下を追記します。

成人の心肺蘇生では、胸骨圧迫と除細動が先決だが、
一方、
小児の心肺蘇生では、やはり気道確保と呼吸が先決

 


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コメント 8

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パラ吉

こんにちは救命士のパラ吉です。

私も住民の方を前に救命講習をさせていただくことがよくあります。住民の方に多い誤解としてAEDを万能蘇生機のように感じられていること。電気ショックを打てば心臓は動き出すことと思われている方がけっこうたくさんいらっしゃいます。

私はいつもあくまで胸骨圧迫が適切に行われてこそのAEDであると強く伝えるようにしています。AEDが注目され町でも見掛けることが増え、住民の方たちの感心も高いですが、まだまだ大きな誤解があと感じています。正しい広報と体感できる環境つくりが大切ですね。

さて、救命講習では死の啓蒙は行なっていません。中には行っている地域や消防本部などもあるかもしれませんが、限られた時間の講習ではそこまでのお話しはされていないのが現状であると思います。

一般の方には心肺停止の人に出会ったら行動してもらうことがとにかく重要です。

私も現場で人はたくさんいるのにただ遠巻きに見ているだけだった…というのはいくつも経験しています。せめて胸骨圧迫だけでも実施してくれていたのなら…

CPR AEDの普及はとても重要ですが、手を差し延べる勇気のがまず必要と感じています。

by パラ吉 (2008-09-10 14:12) 

ハッスル

これまでの講習会で考えていたこと、MLなどで回覧を受けながらぼーっと考えていたことが少しはっきりした感じを受けます。

”短い時間の中で心肺蘇生法(技術)を伝え、普及させる”ということが目標であれば、”死の啓蒙”は上手に伝えないと逆効果かもしれません。
”かかわりたくない”と感じるかもしれませんから。”DNAR”についても触れていますが、受講生の心に届いている実感はまったくありません。

”心肺蘇生を通して死について考えてみる”時間を最後に設けるくらいでしょうか?

普及してきた(まだまだの側面もありますが)心肺蘇生の次の課題だと思います。

by ハッスル (2008-09-10 15:00) 

石部金吉

確か当ブログの1月9日頃に
「AED訴訟がついに発生!」
という趣旨の記事がありました。

「高校野球の練習試合にAEDを準備していれば助かったはずだ」
というものです。
もちろん全ての野球の練習試合にAEDを準備しておくのは不可能です。

なんちゃって救急医先生は、この訴訟、この報道に対して、
ネガティブな見方をしておられました。

しかし、私はこの訴訟は
「一般人でも医療訴訟の被告になってしまう可能性がある」
「そのような度の外れた訴訟社会にしないためにどうすればいいのか?」
という議論のキッカケになるかもしれない、
という点で、ある程度の意義のあるものだと思いました。

でも、そのような議論が起こった形跡は感じられませんでした。

一般市民もメディアも医療者を攻撃するのに忙しくて、
自分が「加害者」になるかもしれない、
とまでは思っていないようですね。(嘆)

BLSの講習会は、それによって救命率を上げるという意味のほかに、
・自分が蘇生を行うことの難しさ、
・人の命を救おうとすることの尊さ、
・蘇生不首尾でもバイスタンダーCPRに対する感謝の気持ち、
これらを同時に学ぶ機会だと思います。

地道に一般市民にBLS講習会を行うことによって、
我々医療者の立場を理解してもらうことも必要なのだと思います。

by 石部金吉 (2008-09-10 21:29) 

アダチ

こんにちは。
いつ見ても、ためになる記事ありがとうございます。

去年、当院の各病棟、外来、リハビリ室等にAEDが設置されました。
設置以前、ある医師に「各病棟にAEDがあるといいですよね」と聞いたところ、「急変コールがあったらすぐ医師が集まるから必要ないよ。」と・・・。
医師が集まってから「DC準備して」と言われたところで、院内で移動ができるDCは救急外来、循環器病棟にある2台でした。
移動時間がもったいないと感じていましたが、時代の流れですね、各階にAEDとして設置されました。
よかった、よかったと思っていたのですが、AEDがあっても急変時に迅速に対応できなかった場合、責められる可能性はあるだろうなあと感じるようになりました。なので、いざという時に備えて、迅速に適切に対処できるよう学習をしています。

救助者のストレス(惨事ストレス)に対応するプログラムがあります。
応急手当を施すことに伴う精神的なインパクト(衝撃)に対処する、「アフターショック・プログラム」
http://www.mfa-japan.com/program/aftershock.htmlがMFA JAPANから出ています。AFTER SHOCKプログラムは、PTSDを救助者の立場からとらえて作成されたプログラムで20分のビデオとファシリテーターガイド、情報カードがセットになっています。料金は12075円です。紹介はしましたが、実はまだ購入を迷っています。
やっぱり買ってみようかなー。

by アダチ (2008-09-10 23:03) 

南十字星☆

小児集中治療医です。
いつも大変勉強させていただいておりますが、今回のエントリーについては、正直なところ困惑しております。
実は私たちの立場では、成人蘇生の業界であまりにも「胸骨圧迫とAED」が強調されすぎ、マスコミにまで取り上げられたせいで、小児蘇生に悪影響を及ぼしつつあると言わざるをえません。
先生もご存知の通り、その多くが気道ないしは呼吸の問題に起因する小児の心肺停止に関して、ABのないCから始まる蘇生など全く意味はありません。しかしながら、溺水などの子供が胸骨圧迫だけ受けてくるケースが増えていると、現場では感じられています。これらのケースでは、たとえABがきちんと施行されていたとしても、心停止にまで至っていればやはり予後は悪いことは認めますが、Cだけの蘇生は無意味であることは論を待ちません。
どうか、「小児の心肺蘇生では、やはり気道確保と呼吸が先決」との旨、今回のエントリーに赤字で追加していただけないでしょうか?

by 南十字星☆ (2008-09-12 11:14) 

ハッスル

南十字星☆ さま

目的:心肺蘇生の”門戸を拡げる”
方法:能書きを垂れずにシンプルに(安く簡単で短時間に)
効果:AEDの普及、ICLS、ACLS受講者の増加
副作用:シンプル化された内容(上っ面)で満足し、それがそのまま伝播する

ICLSについては
苦労して作り上げた第一世代
現場のニーズから受講し拡げた第二世代
ノルマとして第三世代以降(2005ガイドラインあたりから)
みたいな構図で、主催者として上記のように多少困った要素もでてきていると感じています。
by ハッスル (2008-09-12 15:59) 

南十字星☆

なんちゃって救急医先生、コメントの追加を感謝しております。
もちろん、現在の一般市民に対する心肺蘇生教育と、それに対する関係者の方々の努力には、敬意を表しています。
子供の場合、その急変に直面する人と言えば、医療関係者を除くと、多くの場合は親御さんか教職員でしょう。「子供のためなら・・・」という思いも強く、成人のwitnessed collapseと異なり、mouth-to-mouthへの心の閾も低いと思います。
BLS講習会に参加される方々は意識の高い人が多いでしょうから、小児におけるA & Bの重要性にもちょっとだけ言及していただけると、ありがたく存じます。
by 南十字星☆ (2008-09-12 22:26) 

uuchan

いつも勉強させていただいています。
ずっと昔の話ですが、救急の日に当直しているとほんちゃんの救急のDrが院内にいなくて(どこかで講習会を開催)残された医師としては心細かった思い出があります。
そういう講習会のおかげで、AEDが普及し、心臓マッサージも知られるようになりました(馬乗りになって心臓マッサージをしていると家族からなにをしているのか、と詰問されたこともありました)。またそれはそれで問題を生じているのかもしれません。
心肺停止蘇生後の人は、フルリカヴァーする人はたいてい病院につく時には心拍再開しています(もしくはついてから心肺停止)。救急外来で待機していて心臓マッサージを続けながら入ってくる人をみると、これは戻しても脳死か遷延性意識障害か、と思うようになりました。
心肺蘇生がうまくいくと明るい雰囲気になり、うまくいかないと、いつまで続けるのだろう、と上司を見ながら心マをしていました。救急医としては落第でしたね。
ところで、心肺蘇生の講習会には、日本BLS協会とか日本ACLS協会とか救急医学会のICLSとかICLSとかローマ字略語がいっぱいでてきて混乱します。整理していただけると助かります。


by uuchan (2008-09-16 10:31) 

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