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産経の報道に物申す [医療記事]

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産経さんが、またやってくれました。 匿名の記事です。

救急現場に携わるものの一人として、この記事はとても不愉快です。現場で頑張る多くの医療者の気持ちを害するものだと考えます。後から、こんな風に、えらそうにいわれる筋合いはないと思います。

【主張】救急現場事故 正確な情報伝達忘れるな

救急医療の現場にはさまざまな急患(急病の患者)が運ばれてくる。急患の嘔吐(おうと)から有毒ガスが発生するような想定外の事態も起きる。救急病院はそれにも対応し、患者の命を救わねばならないから大変である。

 熊本赤十字病院(熊本市)の救命救急センターで農薬を飲んで自殺を図った男性を治療中、男性の嘔吐物に含まれた農薬が気化し、塩素系の有毒ガスが発生した。このガスを吸った救急外来の患者や医師、病院の職員ら計54人が体調を崩し、うち高齢の女性患者が重症となった。男性は死亡した。

 こうしたケースに備えるためにも病院は非常事態に対応できるマニュアルをきちんと作り、それを柔軟に活用していくことが肝要である。救急医も毒物などに対する幅広い専門知識を身につける努力を怠ってはならない。

 男性が飲んだ農薬は、液体の「クロロピクリン」と呼ばれる農薬だった。刺激臭があり、揮発性が高い。殺虫剤として使ったり、農地の土を消毒したりする。大量に吸い込むと、呼吸困難に陥る。劇物に指定され、使用時は防毒マスクが必要だ。

 熊本赤十字病院によると、地元の農家ではクロロピクリンを「ピクリン」と呼んでいる。男性を搬送した救急隊もこの略称で病院に連絡した。ところが、病院が専門書やインターネットを使って調べても、ピクリンという断片的な情報ではクロロピクリンという農薬に結び付かなかった。


 最終的にクロロピクリンと特定できたのは、それが入っていたビンが病院に届いてからだ。有毒ガスの発生から1時間半も経過していた。病院側は「クロロピクリンを飲んだ自殺は非常に珍しく、把握が難しかった」としながらも「毒物が特定できていればあらかじめ患者を避難させるなどそれなりの対応ができた」という。

 救急医療はその仕事のきつさから産婦人科や小児科、外科と並んで医師不足が問題になっている。しかし、そんな過酷な状況にあっても事故の原因を究明し、再発防止に結び付ける姿勢は忘れてはならない。

 今回の医療現場の事故では自殺を図った男性の情報が救急隊から病院に十分伝わっていなかった。これが有毒ガス発生による事故が起きた原因のひとつだろう。救急隊も病院も正確な情報伝達の重要性を改めて自覚したい。

この記事を書いた記者の意図ではなくて、私の意図を元に書き換えてみると以下のようになります。どうぞ、読み比べをしてください。

【主張】救急現場事故 リスク報道も忘れるな

救急医療の現場にはさまざまな急患(急病の患者)が運ばれてくる。急患の嘔吐(おうと)から有毒ガスが発生するような想定外の事態も起きるのである。救急病院はそのような想定外のことも起きうるリスクのある所ではあるが、それでも、患者の命を救うべく、日々努力を重ねている

 熊本赤十字病院(熊本市)の救命救急センターで農薬を飲んで自殺を図った男性を治療中、男性の嘔吐物に含まれた農薬が気化し、塩素系の有毒ガスが発生した。このガスを吸った救急外来の患者や医師、病院の職員ら計54人が体調を崩し、うち高齢の女性患者が重症となった。男性は死亡した。

 こうしたケースに備えるためにも病院は非常事態に対応できるマニュアルをきちんと作り、それを柔軟に活用していくことが肝要であるという主張もあるかもれないが、物事には何事も限界というものがある。もちろん、救急医は日々十分な努力をしているが、それでも防ぎ得ないリスクというものが世の中には存在する。そんなリスクがあってもそこで働き続ける医療者に、我々は感謝の気持ちを忘れてはならない。

 男性が飲んだ農薬は、ある液体の農薬だった。刺激臭があり、揮発性が高い。殺虫剤として使ったり、農地の土を消毒したりする。大量に吸い込むと、呼吸困難に陥る。劇物に指定され、使用時は防毒マスクが必要だ。

 熊本赤十字病院によると、地元の農家ではこの農薬を「XXリン」と呼んでいる。男性を搬送した救急隊もこの略称で病院に連絡した。ところが、病院が専門書やインターネットを使って調べても、XXリンという断片的な情報ではこの農薬に結び付かなかった。(類似事件予防のために個別名称の報道を避けました)

 最終的にこの農薬を特定できたのは、有毒ガスの発生からわずか1時間半のことであった。かつての、松本サリン事件と比べると格段の速さだ。それでも、会見では、「この農薬を飲んだ自殺は非常に珍しく、把握が難しかった。毒物が特定できていればあらかじめ患者を避難させるなどそれなりの対応ができた」と救急医療に対して更なる努力の姿勢が病院側には感じられた

 救急医療は、多くの心無い医療報道の記事等もあって、産婦人科や小児科、外科と並んで医師不足が問題になっている。そんな過酷な状況にあるからこそ、事故の原因を究明し、再発防止に結び付けるという姿勢だけでなく、世の中全体がリスクに対して寛容でなければならないという姿勢も忘れてはならない。要は、そのバランス感覚が重要なのだ。誰に言われなくとも、現場は努力しているのだから、その努力が、社会の中での信頼に変わるような報道をすべきであることは言うまでもない。

 今回の医療現場の事故では自殺を図った男性の情報が救急隊から病院に十分伝わっていなかった。これが有毒ガス発生による事故が起きた原因のひとつかもしれない。だが、救急隊も病院も、正確な情報伝達の重要性には、誰に言われなくても日々実感している。今回の事故は、それでも起きたといえよう。救急医療というのは、そういう予期せぬリスクと遭遇する場であるということを、多くの人がこの事例を通して知るべきである。

メディア報道は、自殺報道などに対する自主規制はないのでしょうか?ないのでしょうね、きっと。その時点で、そういうメディアのあり方は、社会的視点において、有害な存在でしかないと私は思います。そういう思いを込めて、私はこの農薬の個別名称は伏せる形で書いてみました。

いかがでしょうか? 物を書くということは、その書き手の意思が必ず先にあるわけです

先行する意図によって、事実関係は同じでも、文章全体の印象は、いかようにも変更できます。元記事と私の書いたものを比べていただけば、それをご理解いただけると思います。

さらに、同じことを別の文章を例に挙げて提示してみようと思います。

論より詭弁という本があります。この本の中から、ある一説を紹介します。

家庭裁判所の厄介になった少年について、調査官は次のような所見を記した。

「頑固で柔軟性に欠け、融通がきかない。自分の思い通りにしていたいとの気持ちが強く、他人から干渉されることを嫌う。目下のものに対しては、ボス的で強圧的な態度に出るが、目下の者に対しては卑屈に振舞う。」

私(本の著者)が、少年を弁護したいという意図から、この所見を次のように書き換えたらどうだろう。

「意志が強く、一途な性格で、曲がったことが嫌い。自立心旺盛で、自分のポリシーをもっており、周囲の意見に流されない。年下の者に対しては、親分肌なところを見せるが、年長者に対しては礼儀を守り、謙虚である。」

私が、こちらこそが少年の真の性格だと主張するとき、私は詭弁を弄していると見なされるのか。私は少年の性格について何か明らかな嘘を書いたのか。

いかがでしょうか?全然違うでしょう?

二つの対照記事をご覧になっていただき、後は各人がご自身で考えていただければ幸いです。とくに、みなさまご自身で考えていただきたいと私が思うことは、「世の中のリスクって何?」ということです。そこに画一的な答えは出ないとは思いますが、日ごろから、各人が、リスクとどうつきあうかということを考えておくことは重要だと思います。(関連エントリー:リスクを認め付き合うこと)


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コメント 7

コメントの受付は締め切りました
臨床にもどりたくない・・・

これはひどすぎます。熊本赤十字の救急センタースタッフの危険を顧みない最大の努力を踏みにじる記事です。

"今回の医療現場の事故では自殺を図った男性の情報が救急隊から病院に十分伝わっていなかった。" という記載に大きな違和感を感じます。
これは救急隊から病院の伝達が悪いのではなく、患者、および家族から救急隊への情報の伝達に限界があるためではないでしょうか。救急車で来院する患者、その家族の何割が日常飲んでいる薬を完全に把握している、もしくは薬を持参しますか?ましてやこんな緊急事態にまともに対処できる家族がどれだけいるでしょうか?

断固としてこのような無責任で侮辱的な無記名記事を放置するわけには行きません。産経新聞に抗議のメールを出しましょう。
u-serviceアットマークsankei.co.jp

by 臨床にもどりたくない・・・ (2008-05-27 15:36) 

ハッスル

過剰反応かとも思いますが(以前なら)

関心を持てば持つ程、バキバキ、ボキボキと心を折られる思いです。
医療従事者というくくりで、問題提起・論評され続けることにも疲れました。書いた人もそれぞれ違うのでしょう(と信じます)が、医療従事者もそれぞれです。

総論として改善点を問題提起するのであれば、個人の努力に頼る以外の到達点を作って欲しいと思います。思考過程が透ける程度に薄く感じます。
NHKのJR尼崎事故”黒タグ”のときも、全体として同じ薄っぺらさを感じました。
by ハッスル (2008-05-27 17:05) 

SORA

言葉の使い方で印象ががらりと変わるというとDHMO論を思い出します。
http://www.komazawa-u.ac.jp/~kazov/Nis/etc/DHMO.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/DHMO
読者としては言葉に惑わされずに真実を読み取る努力を忘れないようにしたいなと思いました。
新聞も正しく情報を伝えて欲しいものです。:-p
by SORA (2008-05-27 21:27) 

doctor-d

私も同趣旨のことを先ほどアップしたところです。
本当に現場の人間の気持ちを逆なでする記事ですよね。

by doctor-d (2008-05-28 08:03) 

いのげ

「所詮 産経の書くことですから」
と 解釈するのが正しいメディアリテラシーってかw
by いのげ (2008-05-28 13:08) 

DYP

また産経がやってくれましたか。

熊本日赤に対する報道・救急医療に対する報道もおかしいですが、薬品名を公開してしまったのもかなりまずいのではないでしょうか?

全国で硫化水素のように、同様の事案(XXリンを飲んで自殺を図る事案)がおきないことを願いますが・・・。
by DYP (2008-05-29 22:14) 

なんちゃって救急医

>臨床にもどりたくない先生

コメントありがとうございます。脱力のあまり、抗議をする力がでませんでした・・・

>ハッスル先生

心を折られる・・・・はい、同感です

>SORA 様

この話ははじめて聞きました。面白いお話をありがとうございます。

>doctor-d 先生

先生の記事も拝見させていただきました。おっしゃるとおりです。

>いのげ 先生

そうですね。所詮、力のない全国紙ですもんね。

>DYP 先生

メディアも、医療と同じように厳罰化すれば、あっという間に変わるでしょうねええ、きっと同じ人間ですから。


by なんちゃって救急医 (2008-05-29 23:19) 

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