救急医療を受ける方へ(1) [救急医療]
今回のエントリーは、割り箸民事訴訟に関するメディア報道の姿勢の問題を指摘しようと思っていましたが、止めにします。それは、なな先生のブログ:風邪をひいた妊婦さんへを読んで感動したからです。
マスコミを批判するのは簡単です。しかし、マスコミ(一部)は、医療を批判し、私達は、またそのマスコミを批判する。 人類の歴史が示すように、これまで、世界から、戦争は決してなくなりませんでした。このことは、人間同士の不毛な批判も決して無くならないという結論を帰納的に導き出せると思います。私個人の気持ちとしても、徒に異業界の人達を批判するのは、あまり気持ちがいいとは思っていません。
だから、書こうとは思いつつも、ためらいがあったのです。そんな中で、なな先生のエントリーを読みました。なな先生は、こう語りかけています。
限られた医療資源=医療設備と医療者の労働力を、本当に必要な患者さんのために使えるよう協力して下さい。
私達医師ブロガーが、今の厳しい医療事情の中でできること・・・・それは、メディアバイアスを解さない現場の医療者の声をできるだけ多くの一般の方々に伝えることではないでしょうか?
なな先生のブログから、私は、「はっ!」と気がつきました。だから、今後のエントリーでは、救急医療を受ける方々に、『こうしてほしい、こうするといいよ』という主旨のエントリーも交えながら、書いていきたいと思います。 これまで、この視点では、エントリーを入れてきませんでしたしね。
そこで、本日のエントリーは、薬と救急医療を話題にしてみたいと思います。
ある程度の年齢になると、普段から、定期的に薬をもらうことも多いと思います。お薬手帳をもらってる方も多いでしょう。
そんな皆さん方は、自分が飲んでいる薬を、かかりつけではない医師に的確に伝えることができますか? 参考エントリー 内服薬にもご注意
何も丸暗記していろと言っているわけではありません。 お薬手帳をいつでも携帯しておくとか、メモを財布の中にいれておくとか、そういう具体的な工夫をしてほしいのです。
皆さん方が、何がしかの急な身体症状が出たときに、私は、皆様と出会います。そう、救急診療という現場で出会うのです。私の皆様との出会いはいつも、予定された出会いではなく突然の予期せぬ出会いです。
私は、その突然の出会いの中から、皆様がお困りの身体症状をスタートラインに、その場その時の実情に応じた最もベターな解を捜しに行きます。 それは、決してベストではないかもしれません。 そのことは、救急診療や時間外診療を受ける以上、そんなもんだと思っていてほしいのです。
大事なことがあります。 私達、救急医の判断は、皆様が提供してくれる情報如何によって、大きく変動することがあるということです。 そういう意味では、救急の現場で、最適解を目指すのは、救急医と皆様の共同作業であるという自覚をもっておいてほしいのです。
自分の飲んでいる薬は、ワーファリンなのかバファリンなのか はっきりといえるようにしてほしいのです。これは、発音が似ているので、私達も患者さんからあいまいな返事しかない場合、困ってしまう場合があります。
自分の飲んでいる薬の名前を言えるようにしてください。薬の形じゃだめですよ。 赤と白とか、丸いとか楕円とか言われても、私達医師は、薬の形状のことは、ほとんど知りません。なぜなら、薬を実際に調剤し処方するのは、薬剤師さんの仕事であり、私達医師は、薬は処方箋を通してしかなじみがないのです。
なんらかの症状で不定期にある医療機関を受診したとします(例:急性胃腸炎)。最初に受診した病院で薬をもらったとします。そして、今度は違う病院を受診する状況になったとします。そんなときは、必ず薬を持参してください。前医の投薬情報は、診療の際の重要情報です。
もし、救急車を自宅から呼ぶことがあったとしましょう。 ご本人、またはご家族の方は、どうか一緒に薬を持ってきてください。急なことで気が動転することもあるでしょう。たとえ動転しても薬の情報を忘れないようにする工夫をしておいてください。
普段の生活の中で、もし救急車を呼ぶことになったら・・・・というシュミレーションをしておいてください。 そうすれば、薬のこと、連絡してほしい大事な家族のリスト、延命処置に対する自分の希望・・・ いろんなことに気がつくと思います。
いかがでしょうか。いくつか思いつくままに書きました。 医療を受ける方々も、医療者に協力できることがあるのです。 何かあったら医療者まかせという発想ではなく、まず自分で出来ることをひとつひとつ考え、そして実践してみてください。
私は、そういう自己努力をしている患者さんに現場で、出会うと、いつも誉めています。 大げさかもしれませんが、やっぱり嬉しいのです。
私を嬉しくさせてくれる患者さんが増えることを祈っています。
なんちゃって救急医先生のご意見もごもっともですが...
刑事、民事ともに被告勝訴となった判決を無視し「医療過誤」と昨日報道した産経新聞。
今日の記事では
鳩山法相また“失言” 鹿児島選挙違反「冤罪と呼ぶべきでない」 12人無罪なのに…
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080213/trl0802131248007-n1.htm
この整合性の無さを糾弾せずにはおれません。この記事を見た瞬間何故か涙が出そうになりました。
私の心がささくれ立っているのでしょうか?
by こんた (2008-02-13 21:06)
自分は外来の全患者に、手書きで薬の名前と、何を目的としているか、すべて書いて渡していますが、それでも微妙ですね。
薬手帳を常に携帯していることに満足しています。
by K.U (2008-02-14 01:05)
某講習会でこんな説明がありました。
簡単に言えば、”薬剤師が患者さんに渡した時点で、医薬品ではなくなっています。文書や口頭で注意したものを、どう使うかは個人の問題です。したがって、持参薬を院内で使用するなんて危険極まりない。散剤についても調剤されたものを確認する術は通常ではないので、使用は例外的にしたほうがいい”
また、ある統計(出典忘れました)で、日本で処方されている薬のうち適切に(指示通りに)使用されているのは半数程度と聞いたこともあります。
体調を判断し自らを守っておられることもあるので、それが悪いということではなく、それを処方した側が知らないということでは困ります。
①何を②どのように③いつから、のんでいるか?については、市販薬についても、当人しかわからないことなので、本当にお願いします。
by ハッスル (2008-02-14 09:15)
厚労省において検討されている社会保障カード(仮称)には、年金記録や健康保険資格がICカードとして記録されるようです。特定検診の記録などは希望者について情報として入力されるようです。
将来的には、投薬記録とか治療記録も導入されるでしょう。
もっとも、先生たちがお書きのように、自分の健康は自分のものですから、自分で記憶したり、メモしておくことで管理することは、機器が進歩しようがしよまいが、必要なことだと思いました。
by 情報提供 (2008-02-14 10:11)
救急医療の場では一層重要ですが、普段の医療でも、医療者とそれを受ける側(当然家族を含めます)との共同作業であることの認識はきわめて重要なことであると思います。
かつて電話相談でこんなことがありました。
「外出先で喘息発作が起きてしまい、『かかりつけ薬局』まで苦しみながら、死ぬ思いでたどり着いたのに薬を出してくれなかった。ずっと通っていて薬剤師とも顔馴染みなのに、薬は出せないという。こんな酷い目にあってしまった。患者の苦しみがわからない薬局は潰して欲しい」という男性患者さんからの相談でした。
聴けば、当然かかりつけのお医者様からは発作時の薬が処方されており、普段は肌身離さず持っているが、その日は近所ということもあってつい忘れてしまったとのこと。(こういう人は世間にたくさんいます。)
こういうときはひとしきり相談者の話をじっときくことですね。一息ついてから、その薬はあなたの命を守るために24時間どんな時でも持っておくこと。忘れて発作に見舞われた時は薬局ではなく、近くの医療機関に駆け込むか救急車を頼むこと、など伝え、どうにか終わりました。
このように世の中には耳を疑うというか、信じられないような行動をしたり驚くような考え方を持つひとが結構いるものです。相手の話を聞くとその人の価値観とか行動の基準が少しわかりますが、その後に必ず、医療は共同作業であるということを伝えるようにしています。
「おはようございます」の挨拶をいうだけでも変わりますよ、と言っています。「県立柏原病院の小児科を守る会」のことが新聞等でも報道されるようになりました。あたりまえのことをしていることがニュースになる医療事情はやはりつらいですね。
by 竹 (2008-02-14 10:34)
はじめまして。
このごろ、こちらを見つけ、最初の記事から今、すこしずつ読ませて頂いているところです。
患者サイドからも、お薬手帳を、もっと活用してほしいと思ってます。
「私を嬉しくさせてくれる患者さんが増えることを祈っています。」のお言葉。
こういう風に、先生方みんな思ってくれたら、うれしいなと思いました。
違う医療機関にいったときや、違う科にお世話になったとき、よそで、新しい薬が増えたとき、先生に報告しなくちゃ怒られるくらいの常識になってほしいです。
信じられないかもしれませんが、その何でもないことを、報告するタイミングが測れず、いざあと思って言ってみるとも、「あっ関係ないです」とか、「言わなくても言いから」って感じに投げられるとひゅるるる~と委縮してしまいます。
実際、関係なく、言わなくてもいいような薬剤だったのだと思うのですが、さらに今度、言わなくてはならない時勇気がいるのです。
さらっと、うまく、お医者さんとコミュニケーションのとれる人がうらやましいと思ってます。
お医者さんも、患者も「自己防衛マント」をはおらずして、ごく普通に医療を、提供、享受できる余裕ある環境を、取り戻したいです。(つくるのかな。)
あと、情報提供さんのICカードの件。
個人情報がどうのこうのっていうのも、聞きますが、全然、私ならOK,何で、もっと早くに普及しないのかな。です。
by 一般人です (2008-02-14 14:03)
初めてコメントさせて頂きます。薬局薬剤師をしております。
併用薬の確認には我々も苦労することが多々あります。
>薬の形じゃだめですよ。 赤と白とか、丸いとか楕円とか言われても、私達医師は、薬の形状のことは、ほとんど知りません。
残念ながら我々でも、こういう言い方では特定が不可能です。特徴的な形状のものなら別ですが・・・。
特に白色錠は非常に多いので「白くてまるいやつ」はなんの手がかりにもなりません・・・。
血圧の薬、胃の薬、などの言い方もよく聞きますが、これもくせ者です。
血圧の薬と言っても、Ca拮抗薬なのか、ACE阻害薬なのか、という問題もさることながら、実物を確認したら、血圧の薬ですらなかったり、と言うことも・・・。
お薬手帳はもっと活用して欲しいと思います。
院外処方の病院が増えましたが、院内処方の病院は、お薬手帳の記入をしてくれないところもあり、併用薬の確認が取りづらいことがあります。
病院の方でも、お薬手帳の確認、記入を積極的にして頂けるとありがたいです。
(もっとも、今度の診療報酬改定で義務化されそうですが)
他の医者の話はしづらい、と思っている患者さんも多いようです。
救急はまた話が少し違うとは思いますが、他の病院に行っていると知られたら先生の機嫌を損ねるのでは、と心配される方が特に年配の方に多いです。
そんな懸念から、併用薬=伝えるべきもの、という認識が育っていないと思われます。
普段から、併用薬は必ず伝えるもの、という認識を持ってもらうことがまず先決なような気もします。
お医者様の方からそういった働きかけを是非して頂きたいと思います。
我々がお話ししても、先生に悪い、怒られる、という不安はぬぐいがたいようですので・・・。
by なぎ (2008-02-14 18:37)
ちょうどNHK教育の福祉ネットワークで「県立柏原病院の小児科を守る会」をみたので、タイムリーでした。
上の番組で、アナウンサーの方が、「医療崩壊している」といっているのが、さらに印象的です。伊関先生がゲストだったからでしょうか。
by 麻酔科医 (2008-02-14 20:54)
はじめまして、ときどき覗かせていました。地方病院の救急病棟の看護師です。ヒヤーとする症例を学ばせていただき、ありがとうございます(でもこれがホンと実際にありますね~いい参考とさせていただいています)。で~患者様の持参される内服薬ですが、と~ても恐いです。本人ならまだしも、家人が話される薬とはまったく違っていたり・・・。でも、今日もうちの子を受診させて思いました。一般の人は医療者を魔法使いか、有能な占い師とでも思っているのでしょうか?主人も「ただの咳に、診断できないのか!!」といっていましたが、できませんよね~!風邪からくる咳喘息なのに・・・ハァー一般の人たちは、たぶん医療者に勘違いしているのでしょうね~。(昨日亡くなった患者様の家族ににも、「危篤です」と話されていたに関わらず、亡くなった時、なぜと見つめられましたもの・・・)
by ana (2008-02-15 00:07)
初めまして。
いつも見させてもらってます。
数年前、急性胃腸炎(だと思った)って言われて抗生物質を処方してもらった2日後、労災を起こしてしまい別の病院に掛かる羽目に。
そこでも抗生物質を処方すると整形外科の先生から言われた時
「2日前に他の病院でもらってるんですけど…」とこちらから言いました。
薬が効かない菌が存在するっていうのをどこかで聞いてたからかもしれませんが…。
今は↑の仕事で無理が祟ったせいか?クレストールを飲んでます。
実家に帰って風邪をひいた時もやっぱり薬を飲んでいることを言いますね。
by なんちゃって元医療機器サービスエンジニア (2008-02-15 23:24)
私は、今まで交通事故で救急搬送されたことがあるので、教訓として、
1.財布には通っている病院の診察券を一番よく見えるところに入れておく。
2.病院の予約券もわかるところに入れておく。(かかっている科と主治医が書いてあるので)
3.飲んでいる薬の写真付き薬剤情報の紙をカバンの中に常時携帯しておく
ということをしています。
沢山の薬を飲んでいるので、思い出せなくても、薬剤情報の紙を見せれば、一発でわかりますし、意識がなくても、救急隊の方が探し出してくれるのではという気持ちから、実行しています。
by バリ島 (2008-02-16 02:37)
>こんた先生
産経新聞は、そんなもんだと こちらのほうからあきらめてしまいしょう。自らの心の平穏のために。
>K.U先生
すばらしい先生の対応ですね。
>ハッスル先生
なるほど、個人の問題になるのですね。知りませんでした。
>情報提供者様
そうなんですか。知りませんでした。便利になればなるほど私達は失うものがあります。そんな認識も必要ですね。
>竹様
エピソードのご紹介ありがとうございました。薬局に行くんですか! 私にとっては、予見不可能な事例です。
>一般人です様
はじめまして。コメントありがとうございます。
自己防衛マント
最初から着ていない人もいるし、十二一重マンとみたいな人もいます。いろいろですよね。
>なぎ様
コメントありがとうございます。薬剤師としての苦労は、私達もあまり知る機会がありません。ご意見ありがとうございました。
>麻酔科医先生
柏原病院の小児科を守る会がTVでも放映されたのですね。見たかったです。
>ana様
はじめまして。医療者は、患者の感情をある程度は受容し、気づきを促す援助者としてのスキルも必要だと思います。こういう体験ひとつひとつが自らのスキルにつながるものだと思いたいですね。
>なんちゃって元医療機器サービスエ.. 様
きちんと伝えることをなされている。すばらしいことです。今後ともそのように行動することを是非してください。お願いします。
>バリ島様
なるほど、具体的な工夫ですね。ありがとうございます。
多くの方に、まねしてほしいものです。
by 元なんちゃって救急医 (2008-02-16 09:19)
誤解されるといけませんので
”個人の問題”とは、医療従事者(与薬、処方する側)にとって必要な認識
です。
”個人の問題だから飲んでいないあなたが悪い”とか”個人の問題だから服用薬を教えてくれなかったあなたが悪い”などと、患者を批判することが許されるはずもありませんので、あしからず・・・
by ハッスル (2008-02-16 15:11)
ミクシイの私のブログに意見をいただいた方から、
ここを紹介されました。
ぼちぼちと読んでいて、この記事に着ました。
私は副作用の出る種類の薬が一時期多かったので、
以来自分が(風邪などで)処方される薬は
かならず薬の名前を覚え込んでます。
私海外生活も長かったのですが、
海外では自分が何の薬を飲んでるか自覚しておくのは常識なので、
改めて日本人は医者にどっぷり頼ってるなぁと思いましたね。
しかも巷のおばぁちゃんとか、「これ効くから♪」とか言って
友達おばちゃんにあげたりするし(バスの中とかで)!!
あめ玉じゃぁないんだから 危ないったらありゃしない。
by Baccara (2008-02-19 22:48)