SSブログ

インフルエンザ流行期に潜む地雷 [救急医療]

   ↓ポチッとランキングにご協力を m(_ _)m
  

今年も、ぼちぼちとインフルエンザシーズンに入ろうかというところだ。流行のピーク時の時間外診療は、患者の絶対数が増え、その多くがインフルエンザの患者ばかりとなる。そんな時に、インフルエンザと似てるが非なる地雷疾患が、ぽつっと紛れ込んだりすると、残念ながら、それを拾い上げることは、かなり難しいといわざる得ない。インフルエンザと考えられる患者全てに対して、フルに鑑別を考えて、丁寧に対応していれば、現場は回らないからだ。医療者は、どちらかというと「さばき」モードの診療にならざるを得ないのだ。当然、地雷疾患発見の感度が鈍ることになるであろう。 さて、今シーズンの流行の規模はどれくらいになるのであろうか? これからのそんなシーズンに備えて、地雷探知の嗅覚だけは、ふだんから鍛えておきたいものだ。

かつて、インフルエンザ流行期に遭遇したある症例を紹介する。

71歳 女性  主訴 全身倦怠感

インフルエンザ流行の真っ只中の2月1日の22時に、とある救急病院の時間外外来を受診した。 初診。ADLは自立。他院で高血圧の薬を飲んでいる。糖尿病(-)。数日前より、咳、痰が出現し、市販の風邪薬を服用していた。頭痛は軽度で、関節痛や筋肉痛は認めていなかった。本日になって、37度台の発熱も加わってきた。 午前10時ごろ、全身倦怠感が増悪し、コタツで臥床していた。少し汗をかいたとのこと。背中や両肩の筋肉の重たい感じはあったが、胸痛は認めていない。30分ほどの臥床で症状は軽快したという。この日は、自宅で普通に過ごしていたが、咳は続き、痰もでていたという。本日は頭痛はなかった。20時ごろ、再度午前中と同じような全身倦怠感と発汗が出現し、両肩と背部の筋肉の重たい感じが出現した。胸痛や動悸はともなっていない。 インフルエンザかもしれないと思い、受診した。

来院時バイタル BP129/82 HR67整 KT37.8 RR20 SpO2 97

担当したのは、当時一年目の研修医T。 この日は、患者が多く、上級医師から、「さばけ、とろとろやるな」という指令が出ていた

ざっと身体診察を行ったが、候咽頭、頚部、胸部などに、これといった所見を認めなった。両肩と背部の診察において特にはっきりとした圧痛などは認めなった。 患者希望に応じて、インフルエンザ迅速の検査はさっさとすませて、研修医Tは、上級医師の指令もあることだし、次の患者の診察に入ろうかと思ったが・・・・・・・・

さて、研修医Tは、この後どういった行動に出るのだろう?

(11月29日 記  続きは後日 )

(12月1日 追記)

みなさま、たくさんのご意見をありがとうございます。髄膜炎、感染性心内膜炎、胆のう炎、腸チフス、ブルセラ、髄膜炎、レジオネラ、オウム病、オウム病、亜急性甲状腺、甲状腺機能亢進症、リウマチ性多発筋痛症(PMR)、敗血症、ネコ引っかき病、acute HIV infection、結核、急性冠症侯群、急性大動脈解離、くも膜下出血、リウマチ熱・・・・これだけ多数の想定疾患のご意見をいただきました。本当にいろんな視点があるものですね。勉強になります。

さて、症例を続けます。

研修医Tは、病歴は、インフルエンザらしくはないにしろ、上気道炎様のものはあるにはあるが・・・・
ただ・・・・

肩の重たい感じ、発汗、全身倦怠感、持続30分、・・・ 

研修医Tは、このあたりがなんとなく引っかかったのだ。

このひっかり感は、コメンテータの先生方も同様に感じておられるようです。

アメリカER医先生
頭痛・両肩/背中の重さが引っかかります。
この時点で怖いものから鑑別を挙げるとしたら、髄膜炎・ACS・AAD・SAHですかね

僻地外科医先生
私も両肩と背中の痛みからACSをまず除外したいです

kikumiです先生
胸部X線写真、心電図、血液検査でよいのかなあ

こういうインフルエンザ患者でごったがえす多忙な外来においては、ちょっとしたことを「ん?」と思えるかどうか
これが、地雷疾患の嗅覚といえるのかもしれない。でも、こんなこと言っても、本当に難しいですよね。私の所属する現場では、心電図をよくとってますが、ほとんどは何もないんですよねえ・・・・実は。

日本におけるER型救急の第一人者である寺沢先生の本から引用してみます。
研修医当直医御法度 症例帖 寺沢修一 三輪書店 P48

急性心筋梗塞の胸痛:胸痛だけに注目すると、1/4は誤診される。下表は、急性心筋梗塞102名の主訴の集計である。これによると26%が胸痛以外の症状で来院している
主訴
胸痛75
呼吸困難14
腹痛・心か部痛5
全身倦怠感4
左上肢痛1
1
悪心・嘔吐1
失神1
合計102

研修医Tは、こういうことをどこかで刷り込まれてたのであろう。だからこそ、忙しい外来のさなかにおいてさえ、「ん?」という気持ちが生じたのであろう。

こうして、研修医Tは、この患者に12誘導心電図をとったのだ。

ご覧の通りである。 

このたった一枚の心電図で、
ST型上昇型心筋梗塞(STEMI)として、緊急に動かなければならない状況が判明した。

このように、心たった一枚の心電図が、時として重大な方針を我々に与えてくれることがある
参考URL: たった一枚の心電図

だから、時間外の救急の現場では、心電図をとる閾値を落としておき、そして、どうせとるなら、診療の最初にとる というスタンスを診療の「型」にしておくことをお勧めする。 もちろん、これは、ある程度の緊急疾患が集まってくるであろうと想定される診療の場でのみ通用する話だ。つまり、その診療の場の「疾患存在確率」の意識が必要だ。時間内の正規の内科外来やクリニックでの外来診療の場において、そのまま適用できる話ではない。それは、急性心筋梗塞患者の「疾患存在確率」が場によって違うからだ。

研修医Tのナイスな判断で、この患者は、大至急、処置室に移されて、循環器の当直医にコンサルトされた。患者は、緊急の血管造影室へ、あわただしく運ばれていった。 循環器的最終診断は、右冠動脈の完全閉塞の急性心筋梗塞であった。治療は、合併症無く無事終了した。患者が、循環器チームによる専門治療が速やかに受けられたのは、研修医Tが、心電図をとるいう判断を行ったからに他ならない。まさに、Tの大ファインプレーである。
ちなみに、インフルエンザがらみの訴訟例で、こんなのがありました。

医師の過失認める XXXX病院医療過誤訴訟でXXX地裁 
199X.03.20 XXX地方版/XXX 
 専門学校生だった長男(当時一八)がくも膜下出血で死亡したのは、診断したXXXX病院(XXXX院長)の医師が、症状を風邪による頭痛などと誤診し、精密検査や入院などの適切な処置を怠ったのが原因だとして、XX市の母親(四三)が県を相手取り、約一億二百余万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十九日、XXX地裁であった。XXXXXX裁判長は「症状からくも膜下出血の可能性があることを予測できたはずで、早期に脳の精密検査などの適切な処置をしていれば、命が救われる可能性もあった」として医師の過失を認定。原告の主張をほぼ認め、県に四千九十三万円の支払いを命じた。判決によると、専門学校生は一九九X年N月Y日、自宅で激しい頭痛と吐き気を訴え、同病院を受診。医師は
風邪の症状と診断し、内服薬などを処方して帰宅させた。しかし、症状は治まらず、同(Y+1)日から(N+1)月4日までに計三回診察を受けたが、その際も医師はインフルエンザなどと診断。脳のCT検査や入院措置をしないまま帰宅させた。専門学校生は同7日に意識不明となり、14日にくも膜下出血で死亡した。原告側代理人のXXXX弁護士は「賠償額で不満はあるが、事実認定では主張が認められた。病院は判決を謙虚に受け止めてほしい」と述べ、原告は「やっと決着したという気持ちで、感無量です」と話した。同病院のXXX院長は「病院としてはできるだけのことをした。判決内容を検討し、対応を考えたい」とのコメントを発表した。朝日新聞社

インフルエンザ流行の時期に、若くて普段健常な方が、頭痛で来院されたら、インフルエンザから考えるのは妥当かつ現実的では、あると思いますが、このように若くても、くも膜下出血でお亡くなりになってしまうこともあります。この訴訟事例の医学的妥当性をこの新聞記事一つのみで論じることは不可能ですので、それについては言及を控えておきます。 私は、15歳男性で、頭痛で徒歩来院された方が、くも膜下出血であった事例を経験しています。私の経験の中での最年少事例です。決して多くはないが、ぼつぼつと若い人もくも膜下出血はありえると認識しています。 それにしても、この訴訟も怖いですね。

まとめます。

本日の教訓
インフルエンザ流行期こそ、地雷探知のアンテナを敏感にしておこう

コメント(15)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 15

コメントの受付は締め切りました
moto

「両肩と背部の筋肉の重たい感じ」っていうと、髄膜刺激症状かな?
Neck stiffness を確認して腰椎穿刺でしょうか。
by moto (2007-11-29 22:58) 

元なんちゃって救急医

>moto先生

理学所見追記しました。 筋肉の重たい感じは、患者申告にもとづく情報とお考え下さい。
by 元なんちゃって救急医 (2007-11-29 23:04) 

ER

うーん、普段の血圧はどれくらいなんでしょうかね?
by ER (2007-11-30 00:37) 

moto

うーん・・
「思ったが・・・・・・・・」何でしょう?
咳痰あるが、呼吸音ラ音とか聴取しなければ、レ線は撮らないかもなあ。
心電図撮る必要も感じないし。
血算、CRP、生化学くらいは、迅速でオーダーしてもいいですよねえ。
感染症ですが、細菌性かウイルスかもわからん、focusがはっきりしない点が地雷なんでしょうが、さてどこでしょう?focusははっきりさせたときたいですよねえ、気持ち悪い。
血算見ないとあれですが、熱型が一日二回ということは二相熱?感染性心内膜炎か?しかし、心雑音は聞かないんですよねえ。。
focusどこかなあ・・背中や肩は放散痛と考えると、右に強ければ、胆嚢炎とか。。あと、尿路(検尿)とか耳の穴見てみるとか?
by moto (2007-11-30 00:38) 

moto

あ、そうか、熱の割に徐脈なんですね・・「比較的徐脈」かあ。腸チフスが有名で、いま調べてみたら、ブルセラ、髄膜炎、レジオネラ、オウム病、サルモネラですね。
オウム病かなあ・・高齢者だと意識障害きたしたりしますよね。
by moto (2007-11-30 00:49) 

moto

オウム病調べてみましたが、インフルエンザ様症状ですね。
エントリーのバイタルの記載が、前後に空行つくって書いてある。ここが重要、ってヒントっぽい。
だから、研修医は、比較的徐脈とインフル様症状から、オウム病疑って「鳥を飼っていませんか?」と聞いてみたということで、どうでしょう!?
by moto (2007-11-30 01:14) 

koba

高齢者で非典型、非表出所見が多いですので、肺、尿路、甲状腺、髄膜は最低調べたいです。
肺炎の身体所見の感度はよくないので、所見(-)でもR/Oできないですから、肺炎を考えて胸部Xp。
尿検査は脱水評価も兼ねて。
亜急性甲状腺もありえると思います。発熱+発汗の患者では甲状腺の触診は忘れたくないです。頚部と記載がありますが、甲状腺を抜かすことはしばしば見ますし。著明な圧痛があったとかはどうでしょう?
頻脈はないですが、甲状腺機能亢進症の頻脈に対する感度は50%、Afは15%ほどというデータもあります。高齢者ではさらに低くなるかも。
あとは、頚部⇒髄膜炎R/Oはしたいところです。

他ですと、近位筋(倦怠感含)と頭痛⇒PMR疑って、側頭動脈の圧痛があったとかも考えられます。PMRの近位筋の把握痛も感度はそんなに高くないと聞いたことが…。
PMRも亜急性甲状腺炎も赤沈がキーワードにになるかも・・・です。バンザイできなかったとか?

寒気はあるのでしょうか?発汗が少なからずあるのならば、これからドカンと発熱という印象はしません。
あと、ウイルスでも細菌でもsepsis疑うなら、悪寒戦慄の有無は聞きたいところです。

大穴狙いなら
「ネコ飼ってますか?」ーネコ引っかき病、acute HIV infection、結核などもどうでしょう?
by koba (2007-11-30 01:52) 

はしくれアメリカER医

比較的徐脈は良いポイントですね。しかし、高齢者で降圧剤(CCB、βブロッカー)を服用している場合は頻脈に慣れないことがありますので判断が難しいところです。
ふつうに来たらふつうに帰してしまいそうですね。何とも恐ろしい。ただ、インフルエンザの発症様式と少々異なる気がします。頭痛・両肩/背中の重さが引っかかります。
この時点で怖いものから鑑別を挙げるとしたら、髄膜炎・ACS・AAD・SAHですかね。とくにSAHは寒い時期に多く、警告頭痛は軽快する軽度の頭痛ですし、くも膜下腔の出血は脊髄まで到達して髄膜刺激症状(背中の重さ)を起こすことがありますからね。う~ん、しかし帰してしまいそうな気がする・・・。
by はしくれアメリカER医 (2007-11-30 03:28) 

元なんちゃって救急医

>koba先生

悪寒戦慄はなしです。きっと、両肩挙上問題なしだったでしょう。頚部の圧痛まで、アバウト身体診察できっとできていなかったでしょうが、おそらくなかったものと思われます。
by 元なんちゃって救急医 (2007-11-30 07:52) 

ビル

今回は難しー。
両肩と背中の筋肉の痛みが気になりますから、
採血、心電図、胸部レントゲンは行うと思います。

数日前から感冒様症状がありますから、大穴狙いで
成人には稀ですが、リウマチ熱なんかはどうでしょうか。
そして、心疾患がみつかったとか・・・。

うーん、わかりません。
by ビル (2007-11-30 12:50) 

僻地外科医

う~ん・・・。難問ですね。
私も両肩と背中の痛みからACSをまず除外したいです。

研修医君がやったこと?練習のために心エコーをしたとかw
by 僻地外科医 (2007-11-30 13:20) 

kinmuiです。

倦怠感と発汗は 冷や汗なんでしょうか?

呼吸数がちょっと速いのが気になりますので、
検査はしたほうが良いだろうと思います。
頻呼吸気味の割には SpO2はやや低め という判断になるかなあ。
胸部X線写真、心電図、血液検査でよいのかなあ。
by kinmuiです。 (2007-11-30 21:46) 

北の狼

さっぱり分りません。
ただ、私は、老人がわざわざ「全身倦怠」で救急や夜間を受診した時は、基本的には入院していただくことにしています。

検尿、血算、ECG、labo(内科入院時一式程度)の後、胸部~骨盤部CT
を行い、それらに異常がなくとも点滴しながら一晩入院していただき、翌朝から内科医に引き継ぐ、と。これが私の基本方針で、放射線科医としてはこれぐらいが限度です。


>この日は、患者が多く、上級医師から、「さばけ、とろとろやるな」という指令が出ていた。

んなもん、無視だわい!(笑)
by 北の狼 (2007-11-30 23:24) 

moto

うーん、心電図かあ。。
インフルエンザというか、風邪の症状はあったわけですから、風邪の最中に発作起こしたってことですねえ。。
たしかに、心電図は、電気代だけで消耗品代はほとんど出ないから、救急外来じゃ、やりまくってもいいのかもしれないですね。少なくとも日中の一般外来よりはACS拾う頻度高いでしょうね。
血圧みたいに、待ち時間にとってしまうことにしといて、所見あった場合のみ点数として請求するとか。
しかし、服脱がせる手間はかかるなあ・・電極のあとがついたりもするし、やっぱり診察の後、ってことになりますか。
by moto (2007-12-01 13:49) 

moto

「当院では救急外来にきた患者には、これだけはルーチンでします!」ってセット作って張り紙出したらどうかなあ。
文句のある患者は来なければいいし。
by moto (2007-12-01 13:52) 

トラックバック 0

あなどれない風邪ある咽頭痛の男性 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。