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検体検査の効用 [救急医療]

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時間外診療において、何らかの細菌感染を疑う場合も多い。そんな時、しばしば、便培養、尿培養、痰培養、血液培養、便鏡検、痰鏡検などの検査が出されることもしばしばである。しかし、培養の結果は、すぐには出ないし、鏡検に関しても、時間外で医師自らが即座に行う施設もあるにはあるが、どちらかというと、翌朝以降の日勤帯で、検査技師が行う施設のほうが多いと個人的には感じている。

こんな検査も、ときに意外な結果を我々に教えてくれる。
本日は、致死的地雷疾患ではないが、我々を「へえ~~」という気にさせてくれた一例を紹介する。

いつもことではあるが、話の一部はあえてフィクションにしてある。

32歳女性  腹痛、下痢

(x-15日)ほどから心か部痛が出現。市販の胃薬で対応したが改善せず、(x-13)日、近医受診し、胃薬を処方された。その頃より、水様下痢便が一日4~5回出現したという。近医より処方された薬で改善をせず。(x-5)日、市内の総合病院の消化器科を受診したところ、過敏性腸炎も疑われ、トランコロンなどの薬も始められた。それでも症状が持続するため、X日、今度は当院の消化器科を初診(紹介状なし)で受診した。 この約2週間の経過で、下痢、腹痛は、改善せずに現在まで続いている。血便(-)、海外渡航歴(-)、嘔気(+)嘔吐(-)、発熱(-)、感冒症状(-) セックスパートナーは一人のみ。

来院時のバイタル BP 105/64 HR 74 RR 16 KT 36.1 SpO2 98  意識 清明  第一印象  良好

お腹を触ると、心か部と下腹部正中に、軽いリバウンドを認めたため、外来中の消化器医師は、外科的緊急対応を要するかもしれないと判断し、我々救急部の部署に診療依頼があった。

我々としては、虫垂炎や婦人科緊急を除外すべく、診療を行った。

結果、CTや婦人科診察では特に緊急的な所見を認めなかった。ただ、腸管が若干浮腫状であった。 
WBC 10200 CRP 2.3

救急外来としては、感染性腸炎の暫定診断として、便培養容器を手渡し、ホスミシンを数日分処方して帰宅していただいた。二日後、消化器科再診にて、便培養が提出された。ホスミシン開始後、腹痛は若干軽減した印象はあるというが、あいかわらず水様性下痢が続いているという。

便の検体提出がキーとなったケースです。 
私的には、「へえ~~~」と思えたケースですが、皆様はどうお感じなるのでしょう。楽しみです。

(11月20日 記 続きは後日)

(11月21日 追記) 皆様、コメントありがとうございます。 あまり致死的地雷ではないのですが、個人的に興味深かったので紹介してみました。では、話を続けてみます。

消化器再診後の二日後、検査部から、その患者を診察した消化器内科のY医師の元に電話連絡が入った。

「Y先生、出ました!・・・」

その名を聞いて、Y医師にとっても始めての経験だった。
興味しんしんで、Y医師は検査部に走った。

Y医師が顕微鏡で目にしたものは次の通り。

なんとも愛らしい?顔?をしているではないか? 一度見たら忘れない・・・って思いません?・
そう、ジアルジア(ランブル鞭毛虫)である。皆様のご指摘に在りましたように、寄生虫(原虫)の一種である。
学生時代の寄生虫学実習で、この愛らしい顔のジアルジアを勉強したことを思い出す方々も多いであろう。
しかし、実際の臨床の場ではそれほどお目にかかることはないのではないだろうか?

私も、Y医師も始めての経験。 長く当院に勤める技師さんにおいてさえ、これで2回目とのことだった。

Y医師は、患者に電話して、翌日来院してもらった。
「今、お渡ししている抗生物質では効きません!明日、薬を変更します!」

患者には、メトロニダゾールが開始された。
その後、ぴたりと下痢は改善した。めでたし、めでたしである。

タイムリーな検体検査が、いくつかの病院を渡り歩いた謎の下痢に決着をつけた形となった。
まさに、検体検査の効用である。

これを機会に、すこしジアルジア感染症について調べてみました。

厚労省HP ジアルジア感染症
 より引用

8  ジアルジア症

(1)  定義
消化管寄生虫鞭毛虫の一種であるジアルジア(別名ランブル鞭毛虫)(Giardia lamblia.)による原虫感染症である。

(2)  臨床的特徴
糞便中に排出された原虫嚢子により食物や水が汚染されることによって、経口感染を起こす。健康な者の場合には無症状のことも多いが
、食欲不振、腹部不快感、下痢(しばしば脂肪性下痢)等の症状を示すこともあり、免疫不全状態では重篤となることもある。

これは。5類感染症に指定されており、報告の義務があります。
さて、その報告状況も調べてみました。 アメーバ赤痢に比べるとずいぶんと報告が少ないようです。
本当に少ないのか? 見つけられていないだけなのか? それはよくわかりません。

感染症報告数(5類感染症【全数把握】)

    アメーバ 
     赤痢  ジアルジア
1999   276    42
2000    378    98
2001   429    137
2002   465    113
2003   520    103
2004   610    94
2005   698    86

さらに、上記画像を引用させていただきましたサイトからの説明も合わせて載せておきます。
URL:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k00-g15/k00_12/k00_12.html

ジアルジアランブリア(Giardia lamblia)、別名ランブル鞭毛虫とも呼ばれる。鞭毛虫類に属する原虫で、その生活史は栄養型と嚢子より成る。栄養型虫体は左右対称の洋ナシ型で、長径10~15μm 、短径6~10 μm 程度の大きさである。猿の面容に似た形態を有するためモンキ-フェイスとも形容される

ジアルジア症の主な臨床症状としては下痢、衰弱感、体重減少、腹痛、悪心や脂肪便などが挙げられる。有症症例では下痢が必発であり、下痢は非血性で水様ないし泥状便である。排便回数は一日20回以上から数回程度と様々であり、腹痛は伴う例と伴わない例が相半ばし、多くの症例で発熱は見られない。

さらに、ER診療では、バイブルとされている教科書を調べてみると・・・・・・
clinical practice of Emergency Medicine 4th edition P401から、一部引用です。

However, illness(=diarrhea) lasting longer than 14 days should prompt consideration of parasites, most notably Giardia,......

さすがですねえ・・・・ちゃんと書いてありました。まさに、今回の症例は、14日を越えて持続する水様性下痢の症例です。ほんとにこの記載の通りですね。改めて調べてみて、この教科書はすごいなあと感じた次第です。

まとめます。

本日の教訓
14日を越える頑固な下痢には、ジアルジアも考えてみよう

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コメント 13

コメントの受付は締め切りました
僻地外科医

 う~ん・・・。便培養がということならウィルス性腸炎はほぼ否定(そもそも経過が長すぎますね)、あとは細菌性か原虫性ぐらいしかないような・・・。
 アメーバ赤痢は病歴や粘血便(-)から否定的だし、そもそも地雷疾患だよな・・・。CD腸炎も地雷だし・・・

 おっと、便培養とは書いてないですね。便の検体提出か。
 意表をついて広節裂頭条虫症なんていかがでしょうw

 
by 僻地外科医 (2007-11-20 13:16) 

ER

食道異物とくれば、今度は腸管異物でしょうか?
便内に異物の一部が混入していたとか。
by ER (2007-11-20 13:51) 

god

うぅん...
便培養がkeyってのが余計わからないですね
カンピロバクターはどうでしょう。
便培養てのがなかったらCrohnとかUCとかを候補に挙げそうですけど..
偽膜性腸炎は..ん~
by god (2007-11-20 14:35) 

moto

びっくりしたけど皆さんはどうでしょうか?って事から察するにコレラじゃないかなあ・・
意外と日本国内でも散見されて、ただの下痢として抗菌剤投与で治ってしまうことも多くて、たまたま培養で確診されてびっくり、ってのは聞いたことあります。
寄生虫は、その気になって虫卵探さないと見つからないはずだし、虫体や異物なら、肉眼で患者が気が付くだろうし。
by moto (2007-11-20 15:59) 

moto

カンピロバクターはあってもいいと思いますが、「びっくり」はしないだろうなあ・・血培で出たなら、ちょっと「びっくり」かも。
偽膜性腸炎は、嫌気性菌だから、こちらから指示しないと、ルーチンには培養してくれないと思います。
by moto (2007-11-20 20:13) 

moto

しつこく追記。
いま調べてみたんだけど、カンピロバクターはホスミシン効くけど、コレラは効かないっぽいですね。
コレラに、金のひとしくん人形賭けます、って世界不思議発見じゃないってば(^^;。
by moto (2007-11-20 20:38) 

くらいふたーん

これは難しいですね。
僻地外科医さんの寄生虫はありかも・・・
救外に「こんなの出ましたが・・」って持ってこられたこともありました・・・。
さらに関係ないけど 昔アッペで手術して術後アッペを切り開いたら中から蟯虫がどっさり出てきたことを思い出してしまいました。
by くらいふたーん (2007-11-21 14:39) 

moto

うーん、これはちょっと反則だあぁ。。
「便培養が提出」されて、直接鏡検で、原虫や虫卵の確認、指示ないのにやってくれる技師さんって・・・
わたしは出合ったことないです。私にとっては、ランベル鞭毛虫より珍しい。。
わたし、国公立大学病院と国立病院にしか、勤務経験ないからなぁ。。
いや、後出しになると言われそうですが、ランベル鞭毛虫、一応頭には浮かんだんですよ。。
by moto (2007-11-21 16:55) 

元なんちゃって救急医

便培養が提出」されて

いやいや、説明不足で申し訳ございません。

培養オーダ時に、カンピロの鏡検依頼は出してありました。
というか、培養+鏡検のセット依頼は、自分にとって頻繁なので、とくに文章の中で強調されてなかったのと思います。

いずれにせよ、これは、検鏡の際に、偶然に見つかったものと思われます。
誰も事前に想定してませんでしたから。
by 元なんちゃって救急医 (2007-11-21 17:04) 

moto

続き)ランベル鞭毛虫って、海外じゃ全然珍しくないんですよね。。便はすごく嫌な臭さがあるそうです。技師さん、臭いでランベル鞭毛虫疑ったのかな?
念のため、コレラは培養マイナスでした?(笑。いや、真面目な話、ランベル鞭毛虫出たからといって、それだけで下痢の原因と確定すべきではないと思います。
by moto (2007-11-21 17:22) 

元なんちゃって救急医

>コレラは培養マイナスでした?

培養の最終結果は、感染性腸炎としての病原菌検出されずでした。
by 元なんちゃって救急医 (2007-11-21 18:30) 

僻地外科医

うむ~、寄生虫は得意のはずなのに思い浮かばなかった・・・orz

で、ランブル鞭毛虫症はHIV関連感染症の一つですよね。そっちは大丈夫だったんでしょうか?
by 僻地外科医 (2007-11-22 12:34) 

moto

こういうときに、HIV調べるべきかどうか、って微妙ですよね。
勝手に調べると、「そんなもん、調べて欲しくなかった」って怒られそう。
AIDSの症状が出てれば、必要だといえますが。
ランブル鞭毛虫で下痢、っていうのも、ある意味、免疫不全を疑うから、ってことで、検査してしまうべきかなあ?
by moto (2007-11-22 12:50) 

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