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整形外科疾患に潜む地雷 [救急医療]

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慢性的な経過の中にも、時に地雷疾患が隠れていることがある。本日は、それをテーマにしてみたい。高齢者の慢性的な腰痛の診療は、整形外科外来の超日常だと思われる。その患者数は、膨大であるがゆえに、たとえ地雷疾患が潜んでいたとしても、それを事前に発見するのは至難の業だと思われる。しかし、不幸にしてその地雷疾患によって患者が死の転帰をとってしまったとき、後出しじゃんけん的視点、つまり、「たら、れば」思考で見れば、必ずどこかに法的な過失が成立する理屈ができてしまう。それを盾に医療者側に詰め寄ってこられたら、正直言って、我々は医療なんかやってられないと思う。 

では、
地雷疾患から患者を救命する何か手立てがあるのか?
訴訟回避の術として何か打つ手があるのか?

難しい問題である。 

地雷探査を徹底的に行うというアイディアもあるが、医療経済的、疾患存在確率的、いずれにおいても、すべての慢性患者を地雷疾患のスクリーニングにかけるというのは、効率的ではない
現の医療政策は、医療を破壊とせんばかりの狂気の沙汰としか思えない医療費抑制政策である。
従って、何でも十分に検査をしてもらえないという患者側の不満があるとすれば、その不満は、医師に向けるのでなく、日本政府の医療政策に向けられるべきである。

日ごろの診療の中で、地雷疾患の存在とそれをチェックすることの限界性を正直に患者側へ申告しておき、普段から医療行為に対しての、「(医療側が)できること」と「(患者側が)期待すること」のギャップを、良質な医師-患者間コミュニケーションを通して、地道に埋めておくしかないのだろうか?

現時点の私には、残念ながら名案が思い浮かばない。

ということで、本日の症例です。

症例  70歳 男性   ここ半年の腰痛

ADLは完全自立。高血圧、慢性心房細動で近医かかりつけ。半年前よりなんとなく腰痛と右下腿の痛みを自覚していた。近医の整形外科を受診し、痛み止めの注射を受け軽快していた。4ヶ月前のある日のこと、右の腰痛が突然出現し、右臀部から左臀部への移動があったという。その後3日間は、家の中で安静にするしかなかったほどであった。外出はとても無理でトイレへ行くにもはっていくほどであったらしい。その後、軽快した後で、同じ整形外科を受診し、X線などの検査と整形外科的診察をうけたが、異常なしとのことで、引き続き痛み止めで様子をみるようにいわれた。3ヶ月前から、右腰部から右足にかけての痺れ感も出現するようになった。同整形外科で、脊柱間狭窄症の疑いとして、現在まで継続加療中である。なお、現時点で、間欠性跛行(-)、安静時右下肢痛(-)、右下肢冷感(-)、右下肢しびれ(+)

こういう患者が、ある夜の時間外外来に、水様性下痢と間欠的腹痛を訴えて来院した。バイタル安定。意識清明。上記の慢性の経過には、著変はない。典型的なウイルス性腸炎を思わせる病歴ではあったが、担当したY医師は、腹エコーをたくさんやりたい年頃の医師だったので、この患者にも腹エコーを施行してみた。

すると、Y医師の顔色が変わった・・・・。

彼は何を見つけてしまったのだろう? 

なお、上記の慢性的な経過の病歴は、Y医師が顔色を変えた後に、積極的にとって発掘された病歴である。上記整形外科医がこのような病歴を把握していたかは定かではない。

(続きは後日、 11月13日 記)

(11月14日 追記)

たくさんのご意見、ありがとうございました。 膵癌、多発性骨髄腫、腎梗塞、癌の骨転移、腎細胞癌、悪性リンパ腫、転移性肝癌、後腹膜腫瘍・・・・・・

なるほどですねえ・・・・、想定すらしなかった疾患もあります。 こういう様々のバックグラウンドを持つ医師の皆様から、このような多数のご意見が出るという事実から、医療を受ける側の立場の多くの方々にお伝えしたいことがあります。

それは、ある症状から、先を見据えて原因疾患を予想する際の、診断の可能性の広さを少しでもわかってほしいということです。言い換えると、○○という症状があるから、△△△と診断できるはずだと断言することが、どんなに現場をわかっていない意見であるかということです。 ここのところが、法律の過失論とは全くなじまないところなんです。

症例を続けます。

Y医師は、腹部血管にただならぬ異常を察知した。

「腹部大動脈瘤か!!!」

もう少し、慎重に血管を追った。

「ん、大動脈分岐部よりやや末梢だぞ?」
腸骨動脈瘤か!」

Y医師は、急性腸炎のつもりでエコーを何気なくやりにいったら、恐るべき爆弾を発見してしまったのだ。

このように大動脈瘤は、まったく偶然に発見されることもあるのだ。まさに、サイレントキラーである。
ただ、今回の場合は、よくよく話を聞いた結果の病歴から考えると、どうも4ヶ月前の腰痛のイベントは、瘤の拡大や解離等のイベントと関係があったのではないと推定される。

当然、Y医師は、造影腹部CTを追加オーダした。写真の如くである。

腹部大動脈瘤の合併は伴わない径3センチの右の総腸骨動脈瘤である。 
孤立性腸骨動脈瘤に関する論文

Y医師は循環器当直医師に相談の上、総直動脈瘤については、後日早急に心臓血管外科へ紹介する段取りが進められた。 現在は、破裂のリスクを十分に説明の上、待機手術を前提で、血管外科で慎重に経過を見ているところである。近々、患者の決心がつけば手術となるのかもしれない。

Y医師にとっては、何気にエコーした結果の意外性にただ驚くばかりであった。
この事実を、整形外科の担当の先生が知ることになれば、さぞかしびっくりするだろう。

このように、時に、偶然見つけてしまう(見つかってしまう)地雷疾患も存在するのが医療の現実だ。

まとめます。

本日の教訓
全く偶然に、動脈瘤患者に遭遇することもある



コメント(19)  トラックバック(4) 
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コメント 19

コメントの受付は締め切りました
moto

うわ~、これは、僻地外科医先生のご専門分野じゃないでしょうか(^^;。
by moto (2007-11-13 11:52) 

ゴーレムマン

腹部大動脈瘤の切迫破裂でしょうか。腹膜刺激症状による腹痛と便意と考えます。
by ゴーレムマン (2007-11-13 12:01) 

ER

心房細動がありますので、そこから血栓が飛んで・・・と考えたいのですが、実は癌だったりしないでしょうかね?
by ER (2007-11-13 13:14) 

僻地外科医

普通に考えればAAAですよね。
でも、右腰部から下肢への痺れ感というのも気になります。
 DAAも視野に入れるべきでしょうね。4ヶ月前の痛みの時点でDAA(B型)発症だとすると病歴的にはつじつまが合います。でB型解離が瘤化したという筋書きがもっともありそうですね。腸管症状は血管病変と関係ないか解離による血流障害の可能性があると思います。

 なお、AAAだとするなら切迫破裂ではなく安定した巨大動脈瘤じゃないかと思います。。
by 僻地外科医 (2007-11-13 13:15) 

僻地外科医

>moto先生
 一応訂正しておきますと、私は血管外科専門ではありません。強いて言うなら静脈外科が専門分野といえますが、厳密に言えば「専門分野のない外科系一般医」というのが私の正しい位置づけだと思います。
出身教室が胸部外科で末梢血管を主体にしているので血管系は得意ですが専門じゃないです。
by 僻地外科医 (2007-11-13 13:19) 

はしくれアメリカER医

顔色が変わったところを見ると血管系の疾患(AAAやDAA)だったのでしょうか?しかし、水様性下痢との関係が今ひとつ分かりません。血管系の疾患による下痢ならば虚血によるBloodyDiarrheaとなると思いますが・・・。しかし、腰痛はよく見かける症状であるのに恐ろしい疾患が隠れていますよね~。やはり腰痛のRedFlagにアンテナを立てるしかないんですね。
私が経験した症例では、腰痛を訴えた中年の女性が整形外科、泌尿器科、挙げ句の果てに精神科と回され、半年後に両下肢麻痺となり骨メタと診断されました。何とも心が痛む思いです。
by はしくれアメリカER医 (2007-11-13 14:28) 

春野ことり

腰痛で整形にずっとかかっていて、実は膵臓癌だった人が過去にいました。エコーで大きな膵癌を見つけてしまったとか?
右下肢の痺れは腰椎へのメタ?
by 春野ことり (2007-11-13 16:35) 

くらいふたーん

いつも勉強になる症例をありがとうございます。
真っ先には膵臓癌が浮かびました。
あとは腎細胞癌でも大きくなると腰痛はでますよね。
エコーでわかるとなると前立腺ガンもありうるか・・・
腰痛は骨メタで・・・ でもその前のX線で異常なしとなると
それだけでは否定できないにしてもま 可能性はかなり低いでしょうね。
by くらいふたーん (2007-11-13 17:30) 

安達太良

いつも、勉強させてもらってます。
ここは、現役整形外科医として、当てたいところですが、

ふう~~さっぱりわかりません。
X線で所見無し、でありながら、腰神経を爆発的に圧迫するような
状態、、骨過形成の悪性疾患は、前立腺ガンの骨メタですが、、

多発性骨髄腫、悪性リンパ腫に0.5票ずつ

ウチの患者さんすべて、地雷に思えてきました、、、
by 安達太良 (2007-11-13 18:03) 

僻地外科医

 う~ん、PKやmesentric sarcomaの骨転移も考えたんですが、「4ヶ月前の急な腰痛」というキーワードと今ひとつかみ合わないかなと思ったんですよね。
 もし骨転移なら痛みがひどかったときにcompressionなんかの所見があっても良いかと・・・。

 腎腫瘍なら内部でraptureしたら「急に痛く」なりそうだけど、その時は肉眼的な血尿とかがあっても良いかと。
by 僻地外科医 (2007-11-13 18:14) 

麻酔科医

大動脈の病変があった。
水様性下痢は、虚血性腸炎?
by 麻酔科医 (2007-11-13 18:16) 

元なんちゃって救急医

たくさんのたくさんのコメントをありがとうございます。

後半は、私の創作です。要するに、腹エコーをする状況設定をしたかっただけの腸炎とお考えください・・・・
言い換えると、何気にエコーしたら、おっ!ということです。

ほんとうにいろいろ考えてくださるので、創作するほうも冷や冷やです・・・
by 元なんちゃって救急医 (2007-11-13 18:21) 

ビル

 はじめまして。
 いつも楽しく勉強させてもらっています。
 地方の基幹病院勤務6年目の内科医です。
 慢性心房細動があることより、まずは腎梗塞を疑います。
 あとは、AAA、癌の骨転移などでしょうか。
 
by ビル (2007-11-13 19:45) 

kinmuiです。

「右の腰痛が突然出現し、右臀部から左臀部への移動」その後に軽快 というのが 分からないでいます。
突発は 椎間板ヘルニアなどよりは 腎の塞栓を思いますが、 対側への移動は 謎に思います。
再び 右腰痛で右足に というのは 

エコーで分かるのは 動脈瘤でなければ 肝転移か 後腹膜などの腫瘤か でしょうか。
by kinmuiです。 (2007-11-13 23:42) 

僻地外科医

>kinmui先生

>「右の腰痛が突然出現し、右臀部から左臀部への移動」その後に軽快 というのが 分からないでいます。

 実はこれで単なるAAAじゃなく解離から瘤化したものじゃないかと思ったんですよね。解離の移動性疼痛と考えれば素直なキーワードに思えます。

 で、単に解離してるだけで瘤化していなければエコーで見落とした可能性もあるかなと。
by 僻地外科医 (2007-11-14 07:52) 

僻地外科医

 上下の情報無しでは何とも言えませんが、これ、解離に見えるんですが・・・。

 で、もし腸骨動脈の限局解離だとすれば、これは症例報告もののレア疾患だと思います。とりあえず医中誌で調べてみましたが、腸骨動脈限局解離の症例報告は2例しかありませんでした。

 その辺、心外の先生は何か言ってませんでしたか?
by 僻地外科医 (2007-11-14 17:21) 

kinmuiです。

僻地外科医先生、なるほど、そうですね。
1本しかない大動脈であれば 右にも左にも 移動しても 全く不思議ではありませんね。

右下肢しびれ感 というのは 
腸骨動脈が 付近の神経を圧迫しうるのでしょうか。
それとも 枝分かれした?動脈の虚血症状ということもあるでしょうか。

神経症状? 整形外科的? というときに 血管病変の可能性は忘れてはならないですね。ほんとうに。
by kinmuiです。 (2007-11-14 22:07) 

僻地外科医

>kinmui先生

 まず血流障害による痛みではなさそうと言うことは本文中のキーワードの「間欠性跛行(-)、安静時右下肢痛(-)、右下肢冷感(-)」より言えそうだと思います。臀筋跛行の有無までは聞いていないと思いますが、「痛みが左右に移動した」ということからもし詰まっているとすれば両側内腸骨動脈閉塞になりますので、もう少し他の症状が出ていそうな気がします。

 で、痛みについては解離時の上下腹神経叢や腰神経節(いずれも交感神経節)刺激による関連痛で、現在のしびれは総腸骨動脈瘤による上下腹神経叢の圧迫症状ではないでしょうか?確証はありません・・・
by 僻地外科医 (2007-11-15 09:23) 

駆け出し研修医

こんばんは。いつも楽しみに読ませていただいてます。

実は私も、偶然に総腸骨動脈瘤を見つけたことがあります。(無症状)
鼠径ヘルニア術後の患者の腹部触診をしてると、拍動性の腫瘤が、右下腹部に。???と思い、上級医に報告、エコーで判明しました。直径3センチと、かなり大きな物で、破裂のリスクも高く、すぐに血管外科が得意な他院に紹介、と方針が固まりました。(むしろたいへんだったのはここからで、患者本人が家族に一向に連絡してくれず、紹介に一ヶ月以上もかかり、破裂しないかとやきもきする日が続きました。)

文献を検索しても、腸骨動脈瘤、結構恐ろしい病気ですよね。間違いなく地雷の一つだと思います。
by 駆け出し研修医 (2007-11-21 22:11) 

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