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えっ!と思う症例(2) [救急医療]

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第一報で伝えられる患者の主訴とは、まったく関係のないところで、実は、より緊急の問題点が見つかることがある。そういうピットフォールに陥らないために、私は病歴のとり方にある工夫を心がけている。私自身、その工夫は、誰かに教わったとか、何かの本をみて覚えたとか、はっきりと自分でも覚えていないのだが、いつの間にか気がついたらそういうやり方をしていたというものである。現在は、その病歴聴取の工夫を日ごろの日常診療の中で、初期研修医の方々に、伝え続ける毎日である。

本日のエントリーは、手前味噌であるが、そういう工夫が役に立って地雷回避に成功した症例をエントリーとしてみたい。

さっそく症例を提示する。 まずは、初期研修医が最初にとった病歴を提示する。

72歳 女性  主訴 めまい。

本日、朝7時ごろ、起床後に洗面所で、急にめまいが出現。 2回嘔吐した。 這いつくばるようにして、居間にもどり、夫に助けを求めた。夫が妻の様子に見かねて救急車を要請した。 めまいは、天井が回るような感じであるという。耳鳴りはない。麻痺や言葉のしゃべりにくさは認めない。頭重感軽度あり。既往歴 高血圧で近医で内服あり。糖尿病(-)。

来院時所見
バイタル: 血圧180/95 脈 75整 体温 36.1 呼吸数21 SPO2 99 (ルーム)   意識は清明。

研修医がとった上記病歴をみて、私は、いつものごとく病歴聴取の指導を行った。 
指導をうけた研修医は、再度病歴を取り直した。 
その結果、ある重大なことが判明したのだった・・・・・。 

皆さんが指導医の立場なら、研修医にどのような病歴を取り直せと指令を下しますか?

続きは後日。 (9月25日 記)

(9月27日 追記)

出先(PC使えない)から、先ほど自宅に戻りました。今回も、たくさんのたくさんのコメントをいただきました。いつも、本当にありがとうございます。すでに、コメントの中に今回の地雷疾患の解答はいただいています。ただ、今回の視点は、「どんな病歴を取って来いと指導するか」をポイントにさせていただきました。その意味では、最後にコメントをいただきました勤務医です様のコメントが、核心をついておりました。

いつまでは 何も問題がなく 健康でしたか?
このようなことは生まれて初めてですか?
昨晩は お休み前は お元気でしたか  
夕飯は いかがでしたか?

もちろん、Closed questionで追加問診をとるとすれば、皆様のご指摘にありますように、椎骨脳底動脈解離を想定した後頚部痛や、突発性難聴を意識した聴力に関する関する情報収集は、大変重要な追加問診項目だと考えます。

冒頭に書きました「患者の主訴とは、まったく関係のないところで」という部分を意識しながら、続きを見ていただければと思います。

では、続きです。

研修医がとった上記病歴をみて、私は、いつものごとく病歴聴取の指導を行った。

「おいおい、Y先生よお・・。また、直近の時間軸だけの病歴しかとってないじゃん。 中間の時間軸と、長期の時間軸の病歴も抑えておいてよ」
と指導したのだ。

これらの時間軸の表現は、私が勝手にこう呼んでいるだけで、正式、公式な表現でないことをお断りしておく。簡単に説明すると・・・・

直近の時間軸 ・・・・救急受診をするきっかけとなった症状を基点として現時点までの時間軸。 
                         この場合は、朝7時がその基点となる。
中間の時間軸 ・・・・直近の時間軸基点を遡ること、数日から数週間の時間軸。 
              ここを探る目的は、先行感染の有無、他の医療機関の受診歴、問題は
              本当にacuteか、実はsubacuteかなどを検証するために行う。
              あるいは、不安定狭心症の診断を下すには、ここの時間軸の病歴がないと
              お話にならない。
長期の時間軸 ・・・・人生全体~数年~一年などの長い期間を遡った時間軸。
              心理・社会的背景などの因子は、この軸を意識することで初めて見えてくる。         
              高齢者の場合は、ADLの確認という意味合いもかねる。
              あるいは、過去に同じ経験があるかなど検証するのにも有用。

さて、Y研修医が、取り直した病歴をもって、私のところへ報告へきた。

「先生! 3日前に、頭痛がありました! 突然発症で、最悪の頭痛だったそうです。 その時は、休みの晩だったので、病院はやっていないと思い、家で安静にしていたそうです。翌朝、目が覚めたら、楽になっていたので、そのまま様子を見ていたそうです。ああ、それと、2年前にも同じようなめまいの経験があったそうです。そのときは、耳鼻科的なものだろうといわれたとのことでした。」

なんと、中間の時間軸をとりに行ったら、偶然にも超重要な病歴がゲットできたのだ。 そう、Sudden and Worst headacheの病歴だ。

これを聞いて、私もびっくり。すぐに、患者と家族から、3日前の頭痛の病歴にフォーカスを当てて慎重に問診した。やはり、Sudden and Worstと判断にたる病歴だった。

幸い、本来の主訴のめまいは、来院時には、軽快傾向にあった。 水平注視眼振も認めたし、持続時間は1分以内の発作的な回転性めまいのようだし、過去にも似たようなエピソードもあることから、こちらは、たぶん末梢性めまい(BPPVかも)という印象をもつことができた。

そこで、ここで、患者の問題点を #1 Sudden and Worst headache  #2  Vertigo (持続 <1分、過去に同様のエピソードあり)  と整理した。

当院には脳外科はない。#1の病歴がとれれば、私は、原則当院でCTはとらずに、病歴だけで脳外科医に電話コンサルトしている。そして、幸いにも大抵これだけで転送を受けてもらっている。 ただ、今回は、#2があるので、解離に伴う小脳梗塞もありやと思い、当院でいちおうCTは確認した。 幸い、異常はなかった。 それをふまえて、脳外科へコンサルトの上、転送の運びとなった。

その後、しばらくしてから、転送先から返事が私の元に届いた。

「MRI/MRA および血管造影で、未破裂脳動脈瘤が見つかりました。 クリッピング術を施行させていただきました。患者は、合併症なく、○月○日退院の運びとなりました。
この度は、ご紹介ありがとうございございました。」

冷や汗ものの症例であった。 おそらく、3日前の頭痛は、いわゆる警告症状であったのだろう。 
関連エントリ-(SAHの警告症状について):警告出血  SAH再出血の怖さ

#2は、直接関連があるのか、単にBPPVであり#1とは関係がない偶然の出来事なのかは、いまだに私にはわからない。 ただ、私達の病歴のとり方が甘かったら、この患者は、SAHの再出血で命を落としていたかもしれない。

もし、そうなっていたならば、某every day新聞などに、 「めまいで救急受診の患者、帰宅後に死亡。クモ膜下出血を見逃す!」 なんて書かれかねないですね。 
おお、怖っ!!

まとめます。

本日の教訓
病歴聴取には、3つの時間軸(直近、中間、長期)を意識してみることも重要


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コメント 15

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NR

椎骨動脈否定のため、頸部痛の有無を確認したい。
by NR (2007-09-26 23:04) 

NR

椎骨動脈解離が、抜けていました。訂正です。
by NR (2007-09-26 23:06) 

ER

SAHも疑いたいですね。
症状出現時の頭痛の有無、項部硬直の有無等知りたいですね。
by ER (2007-09-26 23:16) 

moto

皮疹がないか確認・・いやいや、冗談(^^;。
だけど、これは、クイズ系っぽくて当たりそうな気がする。
回転性めまいときたら、難聴があるかどうか?で内耳性か脳性かを判別すべきですよね。
難聴あれば、突発性難聴とか、メニエルとか。
どうかな?
by moto (2007-09-26 23:38) 

僻地外科医

早朝、トイレで(洗面所って顔を洗うところの方でした?)・・・ってところがいかにもSAH(ってか頭蓋内出血)っぽいですね。
ただ、病歴ってのがポイントというのがちょっと難しい。

なんかSAHは誘導のような気がするなぁ。
外科系医師としてはLast feeding timeを聞いておきたいところだけど、関係ないよな、多分・・・
by 僻地外科医 (2007-09-27 08:18) 

tidalwave

私だったら、めまいが起こる前に他の症状がなかったかどうかと、洗面所で具体的に何をしていた時にめまいが起こったのかが知りたいです。上向いてうがいしてたとか、洗顔していたとか、いきんでたとか。(これは洗面所じゃなくてトイレですか。)
by tidalwave (2007-09-27 10:09) 

元脳神経外科専門医

嘔吐物の性状。吐血による貧血なんて、ストレートすぎて地雷じゃないですねぇ。
by 元脳神経外科専門医 (2007-09-27 10:14) 

安達太良

特発性難聴に一票!

私の父がそうでした、、、、
by 安達太良 (2007-09-27 11:57) 

くらいふたーん

onsetが突然で しかも頭蓋内の症状が疑われるとなると
mずはvascularを一番に考えたいですね。
大血管系の異常もありでしょうが まずは頭蓋内で考えて
鑑別はSAH、マヒがないとなると視床出血
あとは小脳梗塞、小脳出血、ちょっと経過は違うと思うけど
硬膜外出血、硬膜下出血も考えないと・・・
基本に戻って考えて視床出血での感覚障害と
頭部外傷の有無の聞くのは必要かと考えましたが・・・。
by くらいふたーん (2007-09-27 13:28) 

akagama

わたしも、突発性難聴がいちばんくさいと思います。
頭痛がないってことで、SAHの目はなしと。
by akagama (2007-09-27 20:03) 

勤務医です。  

頻度からいえば、内耳性眩暈が多いのは間違いないのでしょうが、
聴力低下がないならば、

どのようにして 眩暈が生じてきたのか、突発したのか どうか
もしも 突発なら 何をした瞬間に生じたのか、
どのようなことで 眩暈は 弱まるのか
どのようなことで 眩暈が 強まるのか
でしょうか。

具体的に聞くなら
天井の回り方は いつも同じ向きか?
側臥位の方が 楽かどうか それは右側、左側?
姿勢を変えたときに 気持ち悪くなっても(このときに どのように悪化するのか) そのまま(気持ち悪くなった姿勢のままでも)じっとしていれば おさまるのか?
ということが 大切だと 自分は思っています。

良性発作性頭位変換性眩暈 でよいのか
そこまで限定できない 内耳性眩暈か
あるいは
脳幹・小脳病変を疑うべき 悪性頭位性眩暈か

自発眼振が あまり強くなかったら、
まずは 病歴と、その自覚症状の確認の Frenzel眼鏡のもとでの 診察 ですね。
頭部CTを撮って、異常なくても 悪性のものは MRIを行うべきだろうし
良性なら 頭部CTまで 撮らなくても済んでしまうかも。

ただし 自発眼振が強いと 診察では 簡単にはわからないことがありますね。
by 勤務医です。   (2007-09-27 20:11) 

勤務医です。

「第一報で伝えられる患者の主訴とは、まったく関係のないところで、」とありましたのに 気付きませんでした。

いつまでは 何も問題がなく 健康でしたか?

このようなことは生まれて初めてですか?

他には 気になることはありませんでしたか?

とかでしょうか。
隠れた大問題があったということなんですよね。。。
by 勤務医です。 (2007-09-27 20:15) 

勤務医です。

昨晩は お休み前は お元気でしたか  
夕飯は いかがでしたか?

でしょうか。

やはり 嘔吐の内容でしょうかねええ。。。。。

悩みます。
by 勤務医です。 (2007-09-27 20:28) 

臨床離れ中脳外科

症状、地雷疾患となると小脳梗塞、脳幹梗塞を考えます。特にWallenbergは名前は知っているけれど意外に見落とされがちでは(今回は構語障害が無いようですので何とも言えませんが)。
病歴聴取では、ここ最近の神経症状の有無、身体所見では、眼振、知覚障害の有無を知りたいです。椎骨脳底動脈系の血栓症では、当初軽い症状が先行して、その後、深昏睡に至ることもあると思います。
by 臨床離れ中脳外科 (2007-09-27 21:34) 

勤務医です。  

なるほど。
そうでしたか。

内容は ER先生や僻地外科医先生の読みが当たりましたね。

ヘタに聞くと
3日前、1週間前 のこと とかまでは 聞かなかったかも知れませんね。

些細なことでの初診でも 時間の間隔は 融通を利かせないといけない ということですね。ありがとうございました。
by 勤務医です。   (2007-09-28 18:23) 

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