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えっ!と思う症例(1) [救急医療]

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救急外来に患者が入ってくる際、その第一報の多くは、救急隊からである。あるいは、近医や地域医療部からの紹介依頼の第一報などもある。

第一報から、ほぼ確実に正しくわかることは、年齢・性別などである。 紹介元がつけた病名は、紹介元には大変申し訳ないと思うが、そのまま鵜呑みにするのは、地雷炸裂のリスクを高めるのでやめたほうがいい。 参考エントリー:脳梗塞というふれこみ  

時には、救急隊の方が、ご丁寧に病名で情報提示してくれることもある。 「ありがとうございます」と表向きは、さらりと言いながら、心の中で、「なぜ、その病名を伝えたのか」というその救急隊の思考プロセスを十分に考えておかないと危険である。 参考エントリー:尿路結石?に潜む地雷(その1)

いずれにせよ、情報をうのみにし、その結果、自分が地雷を踏んでしまったとしても、その責任は、自分で背負い込むしかないのだ
その情報提供者を恨みたくなる気持ちはわかるのだが、いかんともしがたいところだ。

だから、情報の扱い方そのものに対して、自分が慎重にならざるを得ないのだ

さて、以上のようなことを前置きにしつつも、それでも想定外の結果におわる症例もあるものだ。そんな、えっ!と思う症例を今後いくつかエントリーに入れていきたいと思う。本日はその第一弾。

症例  71歳 女性 呼吸苦

<救急隊が提示した情報>
「近医で喘息で通院中の患者の呼吸苦です。 今回はとくに喘息の薬はまだ使っていません。 JCSはⅠ-3群、血圧は170/106、脈は100、体温は38.5でした。SpO2はルームで90でしたので、1.5Lの酸素を開始しました。開始後はSpO2 99となっています。呼吸回数は、25回です。 付き添いは、近所の方です。あと6~7分で入ります」

<第一報を受けてこちらが最初に考えたこと>
感染を契機にした喘息発作の悪化、もしくは、発熱もあるし、肺炎をおこしてるかも・・・・。

<患者が到着して、Nsが記録に残したこと> (情報のソースは救急隊からと思われる)
「3日前から倦怠感を訴えていた。本日は、呼吸困難が出現した。夫はすでに仕事に出た後であった。友人が家まで来てくれ、患者の状態を見て救急要請を行った。」

<搬送直後の当院でのバイタル>
意識 クリア 血圧 (左)210/129 脈 102 体温37.5 SpO2 97 (1L酸素下) 呼吸数30回

<初療医師が最初にとった身体所見、検査所見>
呼気時に軽度wheezeを両肺に認める。 胸部レントゲン 肺炎像なし、肺水腫なし。 血液 WEC 13000 CRP 4.5 心エコー(チラッとみた程度) 右室拡大なし。


初療医師は、呼吸器科医師に後を任せようと思い、この患者のコンサルトを早々と行った。 (救急外来は、患者多数で、患者の方向性が付き次第、その患者は各専門家におまかせして、自分達は、次の救急患者へ早く行きたかったという心理あり)

呼吸器科医師が救急外来へやってきた。
そして、患者の体を診察するや否や、一言 「・・・・・・・」があるじゃん? 

本人・知人・救急隊・初療医師・救急外来看護師・・・・だれもが気がつかなった・・・・。 呼吸苦というふれこみゆえに、見過ごしてしまったようだ。 何も知らされずに患者の診察を行いさえすれば、すぐに気がつくような簡単な所見だったのだ。 人間の先入観、視野狭窄現象とはこんなものなのかと思い知らされた感じだった

常に自分の頭をニュートラルにする難しさと重要性を、改めてこの患者さんが私達に教えてくれたような気がします。 (反省・・・・)

続きは後日書きます。 (9月25日 記)

(9月26日追記)
皆様、たくさんのコメントをありがとうございました。いつもながら、興味のある視点がでてきますね。ありがとうございました。 ただ、今回の話は、話を聞いていしまえば、なんだ、そんなことか・・・・というものです。それだけ、先入観が入ると見えるものも見えなくなるという教訓を伝えたいと思ったから、このエントリーを出してみたわけです。しかしながら、結果を聞く前に、血圧異常に注意を払っておられるtidalwave 様、すばらしいです。。
きっと、他の皆様も文章には出さないまでも血圧変と感じられておられたと思います。

では、続けます。

呼吸器科医師が救急外来へやってきた。
そして、患者の体を診察するや否や、一言
 「右の片麻痺」があるじゃん? 

それを聞いて、初療のドクターがびっくり・・・・
「ほんまやあ・・・・、バビンスキーもしっかりある・・・・」
「すみません・・・。頭も評価しなきゃだめですね。これは・・・」と呼吸器の医師に平誤り・・・・

後から、仕事先から駆けつけた夫に、レジデントが事情を聞いた。初期情報とはずいぶん異なる病歴がゲットできた。複数の病歴を抑える重要性は、こういうことが現にあるからである。
関連エントリー:医師を助けた看護師の一言


<レジデントが聴取した病歴> (情報ソースは同居の夫)
3日前、旅行より帰宅。その日の晩、突然倒れた。そのときは、しゃべれていたので、自宅で様子をみることにした。2日前、昨日もしゃべれていたので、そのまま様子をみた。本日朝も、しゃべれていたので、私は、仕事に出かけました。

ぜんぜん違う病歴である・・・・。 時々、こんなことを経験する。 救急診療のリスク回避には、複数筋の病歴確認は重要である。

こういう事情が判明したら、当然、速攻で、頭のCTであることは、言うまでもない。
答えは、左視床出血・・・・・・  
画像は、こんな感じ。(稚拙なスケッチでお恥ずかしい限り)

脳出血発症後に軽度の感染が、喘息患者に加わった病態というのが、今回のケースであろう。
この患者のメインの問題は、明らかに頭である。
呼吸苦の触れ込みの患者のmain problemが脳出血とは・・・・。とほほである。

当院には、脳神経外科がない。 近隣の病院に転送の段取りをとった。

まとめます。

本日の教訓
病歴・主訴にとらわれず、身体所見をとることも重要!

 


コメント(15)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 15

コメントの受付は締め切りました
moto

3日前からの倦怠感、WBC・CRPの上昇だから、何か細菌感染症のフォーカスがどっかにあるはずですよねー。呼吸苦あるが、肺炎ではないと。で、一見してわかる、というと、「・・・・・・・」は「皮疹」じゃないかなあ?と思うのですが、適当な病名が浮かびません。なんだろうなあ?
by moto (2007-09-25 17:27) 

moto

帯状疱疹が脇腹あたりに少しあって、それで胸痛を呼吸苦と訴えてたならシナリオになるけど、WBC上がらないだろうしなあ。褥そうや、せつ・よう、ならありうるけど・・「皮疹」ではないのかなあ。むむ、わかりません。
by moto (2007-09-25 17:38) 

医者もどき

頚静脈怒張?
by 医者もどき (2007-09-25 17:39) 

元脳外科専門医

アセトン臭?
by 元脳外科専門医 (2007-09-25 17:57) 

田舎の一般外科医

腹水貯留?
横隔膜挙上で機能的残気量低下=>SpO2低下でしょうか.
by 田舎の一般外科医 (2007-09-25 17:59) 

ER

麻痺?
by ER (2007-09-25 18:30) 

ななし

貧血?
by ななし (2007-09-25 19:24) 

DM医

項部硬直?
by DM医 (2007-09-25 22:19) 

DTMH

喉頭喘鳴なら、扁桃腺ほか耳鼻科的な所見。
気管狭窄で、一目でわかるとすると、頚部の腫瘍。感染を合併しないといけないので、これは可能性低いか
by DTMH (2007-09-26 00:13) 

僻地外科医

瞳孔左右不同?

いくらなんでもこれを見ないことはないか?
by 僻地外科医 (2007-09-26 05:59) 

tidalwave

血圧が異常に高いのが気になります。
他の方のコメントに似ていますが、共同偏視?
だとすれば喘鳴は血圧上昇に伴う、2次的なflash pulmonary edemaなんてことはありですか?超急性期ならXpに映っていなくてもありうるかと。
最初は頚静脈怒張?とも思ったのですが、これだと意外性に乏しいかもと思い上記のに一票。
血圧の左右差?っていうのはぱっと見ではわからないですしねー。
by tidalwave (2007-09-26 08:21) 

moto

うーん、これはクイズというより、エピソードですね。
しかし、こういう話こそが、現実的なんでしょう。ありがとうございました。
by moto (2007-09-26 13:54) 

ハッスル

いつも勉強させていただいています。
”いわれてみれば当たり前”を共有できる機会をいただき、ありがとうございます。
幅広く考えれば考えるほど、情報が増えれば増えるほど盲点が増えるジレンマは日々感じます。
救急室に患者さんが滞ったりするときは地震の前兆です。
救急隊や他院からの1stコールは過小評価して準備し、なんとなくの印象を逃さないように準備するように、看護師さんなどにも伝えています。
by ハッスル (2007-09-26 14:40) 

Dr. I

一つの病気だけじゃない事もある、ってのは良く研修医とかには言っている事なんですけど。
大事ですねー。

ところで、話は変わるのですが。
おかげさまで、先日お願いした無料レポート
「医者のホンネが丸わかり!(改)」
http://www.gekizou.biz/report.php?aid=1971&cid=9539
が完成しました。
自分で言うのもなんですが、たくさんの方の
ブログが紹介できて、良いレポートになったと思います。

本当にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願い致します。
by Dr. I (2007-09-26 21:08) 

元なんちゃって救急医

>ハッスル様 コメントありがとうございます。

救急室に患者さんが滞ったりするときは地震の前兆です

まったく同意です。 

> Dr.I様  コメントありがとうございます。

レポート拝見しました。過分なご紹介ありがとうございました。

「一つの病気だけじゃない事もある」

先生のこのコメントを聞いてある事例を思い出したので、早速今日のエントリーとさせていただきました。 こちらこそありがとうございました。
by 元なんちゃって救急医 (2007-09-26 22:23) 

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