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こんな地雷もお忘れなく [救急医療]

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医療記事関連で少し賑わいを見せていた当ブログですが、本日は、本来のコンセプトに立ち返り、ある地雷疾患に関してエントリーしてみたいと思います。

まず、一例目。訴訟例記事から

XXX大誤診訴訟 遺族の訴えを棄却 XXX裁判決
200X.XX.XX 朝刊 37頁 第3社会面 (全297字) 

XXXXX病院(X県X町)で一九九X年に入院中に死亡したXX市の男性=当時(50)=の遺族が、医師の診断ミスで手遅れになったなどとして、XXX大と医師を相手に計約七千九百万円を求めた訴訟の判決が十四日、XXX地裁であった。XX裁判長は
結果的に診断ミスがあったことを認めた上で「当時の医療水準からすると過失はない」として訴えを棄却した。判決によると、男性は(Y-1)年12月(N-1)日に背中や腹に激痛を覚えた。N日朝に同病院を訪れたが、医師は「感冒性腸炎」などと診断、帰宅させた。男性が(N+1)日朝、内科外来を受診したところ「○○○○」と分かり、手術を受けたがY年2月に死亡した。

追記(一審判決文より)
主訴 嘔吐、心か部痛 
    
急性膵炎を疑ったが確診に至らず帰宅として事実認定

いやあ、こわいですねえ。 頻度は低くくても、致死的疾患・・・・・・・・。 それでも診断ミスと認定されています。一審では、医療者側勝訴ですが、争いはこれで終わっていないようです。・・・・

患者さん側もまれな病気に遭遇してしまい、不幸な出来事でした。一方、医療者側にとっても、まさに地雷を踏まされたとはこのことではないでしょうか?

たとえ医療者が的確に対応していたとしても、合併症や副作用など、医療者側にとっては不可抗力的な事象に遭遇するものなのです。その一回あたりの発生確率がかなり低くとも、日常的にその行為を数多く繰り返している医療者にとっては、しゃれにならないぐらい高い確率で遭遇してしまうのです。

具体的に言うと、発生率0.1%の事象であれば、1000回繰り返すと63%の確率でそれに遭遇します。
関連エントリーはこちら ⇒合併症を算数する  合併症を算数する(続編)

この疾患は、発生率はかなり低かろうとは思います。私自身は、1例しか経験ありません。

さて、2例目。めざせ外来診療の達人 p113から

62歳 男性 主訴:嘔吐、左上腹部痛

今年の2月5日から9日までタイを旅行していた。2月8日に食事をした後に嘔吐し、その後激しい腹痛に見舞われて、バンコクの病院を受診した。その病院で腹部のCTを撮り、「胆嚢が拡張しているので胆石でしょう」との診断を受けたが、日本の医師にかかりたいとのことで、その翌日に帰宅して、2月10日に当院の内科外来を受診。胆石と診断されているのに、主訴は左上腹部痛である。
 

バイタルサイン 血圧108/60 脈105 体温37.0 酸素飽和度92% 呼吸数 正常
胸部Xp 左下肺やに浸潤陰影、胸水あり

この本は、14症例の診断過程をを読み物形式で、記載してある本です。時間外診療の現場の診断思考にも非常に役に立つおもしろい本だと私は思います。 

これは、今回のエントリー疾患ではあるが、どちらかといえばその疾患の軽症パターンとのことです。

最後に、3例目。 自験例です。

40歳男性  主訴:嘔吐、胸痛

酒場で飲酒中、嘔吐あり。その後、激しい胸痛が出現し、救急車で来院。激しく痛がるが、心電図は洞性頻拍。ST-T変化は認めない。

この3症例は同じ疾患です。その地雷疾患っていったい何なんだろう? 続きは後日アップします。

では、続きです。

akagama様、僻地外科医様、rinzaru様、村医者28号様、なっく様  コメントをありがとうございました。
皆様のご指摘の通り、今回の地雷疾患は、特発性食道破裂でした。こんな病気です。

http://www.jaam.jp/html/report/dictionary/word/0402.htmより引用

正常の食道に突発的に破裂・穿孔が生じる病態で,1724年にBoerhaaveが初めて記載した。比較的まれであるが,早期診断・早期治療が予後を左右する重要な疾患である。多くは飲酒後嘔吐などにともなって,正常の胃・食道接合部から下部食道に圧力が加わり,主に構造上脆弱である左壁が縦方向に破裂する。初発症状は上腹部,胸部の激痛で呼吸困難,ショック,皮下気腫,チアノーゼなどがみられる。胸部X線写真やCTでは皮下気腫・縦隔気腫,胸水,気胸などがみられる。診断が遅延すると感染性合併症(膿胸,縦隔膿瘍)により予後は不良となる。治療法の選択は,破裂部の大きさと診断までの時間に左右されるが,保存的療法と手術療法がある。

というわけで、3症例いずれにも共通する病歴には、嘔吐後の疼痛です。訴訟例は、情報提供不十分ですが、判決文をよく読むと、たしかに嘔吐後の疼痛でした。
堀川先生の腹部CTのサイトでも、特発性食道破裂の症例を勉強することができます。
http://www.qqct.jp/seminar.php?id=307

まれな疾患ですので、鑑別のリストに入れて、網にかけるのが難しい疾患です。診断できなかった場合に、医療ミスと攻め立てるのではなく、診断してくれた場合にこそ、マスコミ報道で、ポジティブに医療を評価してほしいと思っています。それが、医師-患者関係の信頼回復に役立ち、医師の心も守ることができる現実的な戦略だと私は思います。 どうか、マスコミの方、医療ミスの犯人探しに躍起になった報道やスーパー医師を持ち上げるだけの極端な報道なんかやめて、我々の日常に普通にある診療の中のよい面を、報道してくれませんか?やろうと思えばすぐできるのではないですか? 

最後にまとめます。

本日の教訓
嘔吐後の疼痛には、特発性食道破裂も考えてみよう。


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コメント 5

コメントの受付は締め切りました
akagama

いんちき消化器科医akagama的には、問診からしてBoerhaave症候群を疑いたいところですが、どうでしょうか。
はずすとはずかしいですが。
by akagama (2007-09-04 13:19) 

僻地外科医

 うん、私も特発性食道破裂を考えたいかな~。共通するキーワードは嘔吐ですよね。
by 僻地外科医 (2007-09-04 13:40) 

rinzaru

>akagama先生
なるほど、症例1は経過不明ですが、嘔吐後に急に起こった痛み、というのがポイントなんですね。
by rinzaru (2007-09-04 13:42) 

村医者28号

初コメントです。諸先生方宜しく御願い致します。私も問診から特発性食道破裂に一票です。
by 村医者28号 (2007-09-04 14:19) 

なっく

私も特発性食道破裂に一票です。3例経験ありますが嘔吐後の痛みが特徴で破裂した部位により症状は多彩です。緊急手術したら胸腔内がごはんだらけだったこともありました。恐ろしいです。
by なっく (2007-09-04 19:51) 

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