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患者の自殺と医師の自殺 [医療記事]

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自殺は、社会問題の一つとして、大きな問題である。 毎年3万人強の人が、自殺によって命を失っている。

もし、裁判の場において、ある自殺がある過失と因果関係があると認定されれば、損害賠償という責任を負わされる。

つまり、              

過失   ⇒   自殺という結果         

            ↑         

       因果関係

という図式が成立する場合に、損害賠償責任が生じるのである。
さて、この背景を踏まえて、ある2つの訴訟例をみてみよう。 

「誤診」で男性患者が自殺 病院に過失、地裁が賠償命じる判決
2000.02.26 東京朝刊 28頁 (全688字) 
 ○市内の男性が、入院先の病院で首をつって自殺したのは、実際はうつ病だったのを神経症と誤診されたのが原因などとして、男性の遺族が、診断した二病院を相手取り、総額約一億五千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十五日、○地裁であった。大和陽一郎裁判長は「
うつ病を疑うべきだった。症状に合わせた措置を取らず、自殺を防止できなかった過失がある」として、二病院合計で約七千五百五十万円の支払いを命じる判決を言い渡した。支払いを命じられたのは、N病院とH病院。
 判決によると、同市内の自動車販売修理業の男性(当時三十六歳)は、一九九三年二月から、頭痛や肩こりを訴えN病院に通院していたが、
刃物を持って錯乱状態に陥るなど、うつ病と疑われる症状があったにもかかわらず、同病院はつ病よりは軽い症状の神経症と診断した。その後、男性は九四年九月十一日、H病院に転院したが、N病院は、男性の症状を「ヒステリー」と記載した紹介状を書いた。H病院も、男性の精神状態の検査や診察を行わず、精神安定剤を注射しただけで隔離室に入院させたが、男性は同日深夜、引き裂いた衣服を鉄格子にかけ、これに首をつって自殺した。
 大和裁判長は、N病院について、
症状からうつ病を疑うべきだったにもかかわらず、それを怠った過失があるとした。H病院については、慎重な検査を尽くさず、十五分おきの看護婦巡回を怠った過失がある、などとした。判決について、N病院は「弁護士と相談して今後の対応を決めたい」とし、H病院は「担当者が不在でコメントできない」としている。 読売新聞社

かなり、いけてないと私が個人的に思うところ。
刃物を持って錯乱状態に陥るなど、うつ病と疑われる症状
素直に読むと理解不能です。 ええっと、双極性うつ病の、そう状態だったのでしょうか? 

うつ病よりは軽い症状の神経症
うつ病と神経症を同列に並べて症状の重さを比較することは、心不全と心筋梗塞の症状の重さを比較するようなものです。つまり、病状が一部オーバーラップすることはあっても、根は異なる疾患である以上、その症状のみで比較することが無意味であるということです。

この裁判は、二つの病院に、損害賠償の判決を出しています。 つまり、過失と自殺の間に上記図式が成立するという判断です。 みなさんは、いかがでしょうか? 私には、この記事だけからでは、とても因果関係を見出すことができません。 こんな物言いをされたら、何でもありじゃないですか?? 

患者が病院で自殺すると7500万円だそうです。では、医者が病院で自殺するとおいくらでしょうか?
次の判例です。

医師自殺の賠償請求棄却  予測できないと△地裁
2003.03.25 共同通信 (全441字) 
 M病院に勤めていた医師の夫=当時(42)=が自殺したのは、過労を知りながら放置した病院の責任だとして、H市の妻(39)ら遺族が日本赤十字社(東京都港区)に約二億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十五日、H地裁であり、山垣清正裁判長は原告の訴えを棄却した。
 判決理由で、山垣裁判長は「
医師が担当外の女性患者を診療したのは自責の念に駆られた自発的行為」と指摘。自殺は過労によるものと認めたが「病院側は自殺を予測する具体的危険性を認識できず、不測の事態を防止する措置を取る注意義務違反があったとは言えない」とした。
 判決によると、医師は一九九六年七月から同病院内科に勤務。八月、女性患者が検査後に危篤状態になったことについて、責任が自分にあると強く感じ、連日病院に泊まり込むなどして患者を診療した。このため精神的、肉体的に疲労し、十二月に病院内で自殺した。
 遺族は九七年一月、XX労働基準監督署に「過労自殺」として労災申請し、九八年七月に認められた。

私は、この記事を読んで、思いっきりブルーになりました。 医師の場合は、自分で勝手に死んだだろ、という認定がされています。自責の念に駆られた自発的行為で自殺をすること自体が、まさにうつ病という病気ではないでしょか?
これは、前述の判例を言い分を適用すれば、病院は、職場状況からうつ病を疑うべきだったにもかかわらず、それを怠り、勤務を継続させた過失があるともいえませんか?

患者が病院で自殺すれば7500万円。一方、医師が病院で自殺すれば、0円。
・・・・・・・・・

まあ、もちろん、新聞記事には出ていない個々の背景があってのこれらの判決だとは思います。ただ、二つを並べてみると、日本社会は、医者を大切にしない社会なのだなあと思います。


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コメント 8

コメントの受付は締め切りました
某P医

業界では結構有名な事件で、日本精神病院協会が全面的にバックアップに入って、最高裁まで行ったケースです。判例集にも掲載されているんじゃないかな。
で、結局負けでした。orz。
それはそうと、どちらもまだ営業中の病院なので、仮名にしてあげて下さいな。
by 某P医 (2007-08-17 07:56) 

元なんちゃって救急医

>某P医様

コメントありがとうございます。ご指摘を受け、固有名詞を伏せました。
前者の裁判は、最高裁までいったのですか? 敗訴・・・・
終わってますね、日本。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-17 08:57) 

Doctor-D

これは酷い社会ですね。
患者が自殺すれば、主治医の責任。
医者が自殺すれば、本人の責任。

まさに、医者は「責任のゴミ箱」と社会に位置づけられているのですね。
で、一番無責任なのは裁判所という皮肉。
by Doctor-D (2007-08-17 13:01) 

元なんちゃって救急医

>Doctor-D 様

コメントありがとうございます。

「責任のゴミ箱」

うまい! 座布団3枚! って感じです。 
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-17 22:34) 

因果はめぐる

デイヴィッド・ヒューム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
より。
「彼は因果関係の特徴は「でなければならないmust」という考え、あるいは必然性にあるとみなした。しかし彼は、原因と結果の間に必然的な結合と言えるような結びつきはないと論じ、「であるbe」あるいは「起こるoccur」でしかなく、「must」は存在しないと主張した。一般に因果関係といわれる二つの出来事のつながりは、ある出来事と別の出来事とが繋がって起こることを人間が繰り返し体験的に理解する中で、観察者の中に「因果」が成立しているだけのことであり、この必然性は心の中に存在しているだけの蓋然性でしかなく、過去の現実と未来の出来事の間に必然的な関係はありえないのである。では「原因」と「結果」といわれるものを繋いでいるのは何か。それは、経験に基づいて未来を推測する、という心理的な習慣である。
それまで無条件に信頼されていた因果律について、単なる連想の産物であると見なした」
因果関係はあるといえばあるし、ないといえばないのです
by 因果はめぐる (2007-08-18 21:55) 

元なんちゃって救急医

>因果はめぐる様

コメントありがとうございました。彼は、現代社会における訴訟を起こす人の気持ちも見事に言い当てていたのですね。さすが、偉大な哲学者。


深い悲しみと失望が怒りを生み、怒りが妬みを、妬みが恨みを、そして恨みが再び深い悲しみを生む。それらがすべての循環の完結するまで尽きることはない

デイヴィッド・ヒューム 「人間悟性論」より
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-18 22:24) 

リスミー

こんばんは、通りすがりの通院患者です。
裁判所の判断について、一言補足させていただきます。

個別事情は異なりますが、総合病院の麻酔科に勤務していた女性医師が過労でうつ病を患い自殺したことにつき病院長の責任を認めた判例(大阪地判平19・05・28判決 最高裁HP)
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=34738&hanreiKbn=03
また、医師や研修医の過労死についても認められつつあります。
急性心機能不全で死亡した公立病院麻酔科の勤務医について,公務の過重性及び死亡と公務との因果関係を認め,使用者に安全配慮義務違反があるとして,損害賠償の支払を命じた事例(大阪地判平19・03・30 最高裁HP)http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=34528&hanreiKbn=03


しかしながら、未だに民事上責任を認められない判決があるのも確かですね。小児科医の過労自殺裁判
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200703/502872.html
現在、控訴審にて争っています。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~nakahara/
とてもデリケートな問題なのでリンク貼っていいのか悩みましたが
一応、参考までにということで。

いずれにしても、「医者を大切にしない社会」の現実化が
医師の過労死裁判の増加に反映されているようにも受け止められます。

気休めにもなりませんが、一患者として医師の方々には本当に感謝しております。今のような医師叩きが患者のためにもならないことを、広く世間に認識して欲しいですね。
by リスミー (2007-08-19 20:06) 

元なんちゃって救急医

>リスミー 様

コメントおよび情報提供ありがとうございます。

中原先生の件は、ごく最近のことで、医療ブログでも話題になっていましたね。ほんと、衝撃的な民事敗訴でしたね。

上記二つは、私は知りませんでした。じっくりと判決文読ませていただきす。ありがとうございました。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-20 09:07) 

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