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誤診という誤報道 [医療記事]

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医師、結核を「アレルギー性鼻炎」「風邪」と誤診 大阪

2007年06月20日20時00分

大阪市は20日、西成区の高校で結核の集団感染が発生し、生徒10人と家族6人の計16人が感染したと発表した。最初に感染した男子生徒は昨年12月に耳鼻科医から「アレルギー性鼻炎」、今年3月に内科医から「風邪」と誤診され、翌日に別の病院でようやく結核と診断されていた。市は「早期にX線撮影などをしていれば感染拡大は防げた」として、医師2人に正確な診断と治療を求める異例の指導をした。市によると、男子生徒は鼻炎と診断された後、7~10日間に1回程度、同じ耳鼻科医院に通院。症状が悪化したために3月に受診した内科医にも見逃された。翌日に39度の高熱を出して救急車で別の病院に搬送され、結果的に約2カ月間の入院を余儀なくされた。市は男子生徒の入院後、学校などで健康診断を実施し、感染者の特定を進めていた。男子生徒以外にも生徒1人が発病したが、ともに快方に向かっている。感染拡大の恐れはないという。

http://www.asahi.com/national/update/0620/OSK200706200076.html

この記事を読んで、まず、私が思ったこと
誤診という言葉を使うな
です。

誤診という言葉は、医師側と患者側の信頼関係を破壊させる可能性のあるよくない言葉です。
誤診という言葉は、医療不信をあおる言葉ともいえます。

患者側が医師を信用するということは、円滑な医療に必須の条件です。医療はその結果に不確実性が常につきまとうからです。不信感があれば、医療のなかで生じた悪い結果を、患者側が決して受け入れることができなくなります。たとえ、医療が十分かつ適切な説明を行ったとしても、患者側が何かミスを隠しているかもしれないと疑い続ける限りは、絶対に医療者側の説明に納得することはできないでしょう。また、その消えない不信感は、患者側をも苦しめ続けることになります。そうして、医療者側との不毛な対立が永遠と続くことになります。マス・メディアは、これまでにも医療不信をあおるような表現をくりかえし行ってきました。その社会的な責任は大きいと私は思っています。マス・メディアは、誤診という言葉の使用をすぐに止めるべきです。

誤報道と書かれてみて、どうですか? 記者さん、メディアさん、不愉快でしょ?
医療者も同じですよ。この報道は、きわめて不愉快です。
そういう医療者の気持ちを感じ取ってほしいので、あえてエントリーのタイトルを誤報道としてみました。

結核という病気は、比較的長い時間軸の中で、他の急性疾患から除外しながら、ようやく診断にたどり着ける場合もあるのです。肺外結核というのもあります。これなら、なおさら、診断は困難です。

この記事の流れからは、結核単独というより、結核+急性感染症の複合病態も十分に考えられると私は思います。ですので、「結核」を「アレルギー性鼻炎」「風邪」と誤診したという書き方は、非常に短絡的だと思います。医療記事を書く際には、複数の医師に文章チェックを受けてほしいと思います。

アレルギー性鼻炎は、それはそれとして、この患者さんに結核とは別に併存していたと考えることはできないですか?ベースに結核をもっていても合わせて風邪も引きますよ。そう考えれば、誤診という表現は明らかにおかしいですよね。結核という「結論」を基点として、時間軸を遡り、過去の出来事と、結核とをつい無意識のうちに、因果関係をもって考えてしまう。 それが人間の認知のバイアスなのです。これを後知恵バイアスといっているのです。(参考エントリー:本当に腸炎でいいですか

メディアの方々は、自分たちが発する情報の重さに責任をもってほしいのです。 ですから、その責務の重さからすれば、後知恵バイアスの知識を十分に持って、世間に無用の誤解を与えないように、公平かつ正確な報道を強く望ます。

以下、後知恵バイアスを取り除いた配慮をおこなった上、記事を添削してみました。

結核集団発生 感染拡大の恐れなし 大阪

大阪市は20日、西成区の高校で結核の集団感染が発生し、生徒10人と家族6人の計16人が感染したと発表した。最初に感染した男子生徒は昨年12月にから今年3月にかけて、アレルギー性鼻炎、上気道炎として医療機関の受診歴があったという。今年3月に、39度の高熱を出して救急車で別の病院に搬送された際に、初めて結核と診断された。約2カ月間の入院を余儀されたが、現在は快方に向かっているという。市は男子生徒の入院後、学校などで健康診断を実施し、感染者の特定を進めていた。男子生徒以外にも生徒1人が発病したが、こちらも快方に向かっている。感染拡大の恐れはないという。

いかがでしょうか? 世間に伝えるべき内容は、これ以上でもこれ以下でもないと私は思います。

新聞社側の真意が結核感染ではなく、医師を叩きたいということであったならば、これじゃ記事になりませんけどね。

コメント一覧
昔々、肺外結核を体験しました。

不妊症を訴えて受診し、超音波で卵巣嚢腫があると診断して開腹。ものすごい癒着があって、嚢腫と思ったところからは白っぽい膿。「こんなひどい感染があったんじゃあ、不妊症も無理ないね」といいながらおなかを閉じ、病理検査の結果を見てびっくり。付属器結核だったのです。

泡を食ってほかに病巣がないか探したけれど、どこにもなし。どこから感染したのかわからない一例でした。写真に撮っておけば、症例報告ができたのにと悔やんだものです。

written by 山口(産婦人科) / 2007.06.22 19:03

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貴重なご経験ありがとうございます。
うちは、腸結核で、大騒ぎになったことがあります。

by なんちゃって救急医

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この記事も非常に悪意を感じます。悪意がなければ、こんなに無知でも新聞記者になれるのかと驚きます。しかし、新聞記者の医学知識は一般人以下と思った方がよいようです。

>医療記事を書く際には、複数の医師に文章チェックを受けてほしいと思います。

私もこの意見に賛成です。
以前、私が自費出版した本に関して地元新聞社のインタビューを受けたとき、記事を事前に見せて欲しいと言ったのですが、記者から「それはできません」と言われました。案の定、私が「尊厳死」と言った言葉は「安楽死」にすり替えられていました。悪意があったとは思えず、この全く意味の違う二つの言葉を記者さんは混同していたようです。地方新聞記者のレベルはその程度のものです。それ以来、新聞のインタビュー記事も信用できなくなりました。

written by 春野ことり / 2007.06.22 20:01

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コメントありがとうございました。事前に原稿を見せてもらえないってのはなぜなんでしょうね。
私は、新聞を信用していません。

by なんちゃって救急医

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 私も地方紙の取材を受けたことが何回かありますが、必ず事前に原稿を見せてもらうよう求めます。見せてくれない場合は取材自体をお断りします。

 それは困ると言われましたが、「意図と違うことを勝手に報道されて困るのはこちらです。まして医学的な記事の場合には重大な問題を起こすことがある。」と言ったら納得してくれました。
 その代わり、記事を送ってきたら速攻添削、速攻返信は守りましたが。

written by 僻地外科医 / 2007.06.22 21:20

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コメントありがとうございます。

見せるのが当たり前じゃないんですかね?
なんで、いちいちこちらがお願いしなんといけないでしょうか?
すむ世界の違いなのでしょうか?不思議でなりません。


by なんちゃって救急医

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それは、報道倫理として
http://www.tv-tokyo.co.jp/main/yoriyoi/rinri.html
のように、
「取材対象者から報道内容の事前チェックを受けるなどの行為は禁止する(<言論・表現の自由を守る>の項)」という概念があるからですよ。オウムの取材報道のときに教団から事前チェック要求があってこれを認めたことがあとでわかって非難されましたね。
取材対象者でない医師による文章チェック依頼はいいと思います。

written by moto / 2007.06.22 23:26

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コメントありがとうございます。全く知らない話でした。どうしてこんなに報道陣は守られるのでしょうか? これまた不思議でなりません。

by なんちゃって救急医

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>「取材対象者から報道内容の事前チェックを受けるなどの行為は禁止する(<言論・表現の自由を守る>の項)」という概念があるからですよ。

 これですが、「当方の話した内容についてのみ、チェックさせてもらえばけっこうです」で良いでしょう。それをどう改編するかは彼らの意図でやってることになりますから。
 言ってもいないことを言ったと書かれなければ、あるいは言ったことで重要なことを無視して書かれなければ取材を受けた側の権利として十分だと思います。
 その上で総合的な内容として、こちらを否定するように書くのは、それこそ報道の自由としてやむを得ないですが、その程度のことを出来ないなら単なる怠慢でしょう。

written by 僻地外科医 / 2007.06.24 09:24

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なるほどですねえ・・・・・
ものは聞きようですねえ・・・・

ありがとうございました。
勉強になりました。

by なんちゃって救急医

 


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