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たかが風邪なのに・・・ [救急医療]

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 熱発、全身倦怠感・・・・、だれしも一度は経験があるのではないか?そして、結局、病院にかかろうが、かかるまいが、勝手に直ってしまった・・・・。 単なる風邪だったんだ、よかった、よかった・・・・と。

上記のような症状で、医者から「風邪」という太鼓判を押してほしくて、その「安心」が欲しくて、病院を受診する人もいるのではなかろうか?

患者さんに、無用な不安を与えてはいけないことは、十分承知している。 しかし、それでも、私は、診療の中で「風邪だから、大丈夫ですよ」というフレーズは決して使わない。「良くなったときに初めて、自分は風邪だったんだと思いましょう。それまでは、慎重に症状の変化を見ていくことが現時点の診断よりも大事なんですよ」というニュアンスのことをよく患者さんに伝えている。

たかが風邪で、なんでこいつはこんなことを言うんだろう?と怪訝に思われる非医療者の方もおられるかもしれない。

世の中には、こんな恐ろしい病気があるということを知ってしまえば、私の言うこともわかってもらえるかもしれない。

心筋炎(特に劇症型)という病気だ。 

子どもについては、こちらのエントリーを小児地雷:心筋炎の2症例 をご参照ください。
ネット上ではこちらのサイトを天使からのメッセージを届ける会 をご参照ください。

症例を提示する  心筋炎訴訟の判決文を元にして作成

33歳男性

5月1日 朝       38.5の発熱あり。39.5まで上昇。
5月2日 午前2時   K医療センターを受診。 感冒と診断。投薬開始。
5月3日 昼       40.0の発熱あり。K医療センター再診。レントゲン施行。
              感冒の処置として、輸液、解熱剤追加が行われた。
5月4日 昼       H病院受診。心窩部痛の訴えあり。輸液+胃薬の点滴。
      午後8時   H病院再診。過呼吸あり。入院を薦めれるも、K医療センター受診中だからと拒否。
5月5日 午前8時   K医療センター再々診。発熱、痙攣、呼吸困難認めたため、入院決定。
               外来でレントゲン、採血、頭部CT施行。
      午前9時   急変。心停止。
      午前10時30分   死亡。

           剖検にて、ウイルス性心筋炎と診断

某判決文に記された事実関係を元に作成した臨床経過です。若くて元気な人の平凡な身体不調にも関わらず、たったの五日で死亡されています。これが、ウイルス性心筋炎(劇症型)の怖さなのです。

ちなみに、裁判官の判断は、医療側に一切の過失なしと認定しています。つまり、医療行為としては、妥当であると裁判所は認識したのです。 適正な医療行為より病気の勢いが強かったわけです。 ご本人、ご家族の無念の気持ちは、いかばかりかと察するものはありますが、病院が責められる事案でなかったのです。ちなみに、「胸痛」は言った、言わないの争点があったようですが、裁判所は、胸痛の訴えはなかったと家族の主張を退けています。

ところが、この訴訟が提起されたとき、某新聞社は、次のような報道をしています。この報道をしていたのは、一社だけでした。どこの社かは、皆様のご想像にお任せします。

風邪と誤診し死亡」、賠償求め病院を訴える--遺族
1999.05.20 地方版
病院で「単なる風邪」と診断されたために適切な治療を受けられず、急性心不全で死亡したとして、K市内の男性会社員(当時33歳)の遺族らがXX日までに、H市内の病院を相手取り、計約1億1000万円の損害賠償を求め、U地裁に提訴した。訴えによると、男性は199X年X月XX日に高熱を出し、K医療センターとH市内の病院に行って
胸痛を訴えたが、いずれも「風邪」と診断された。しかし、男性は回復せず、同XX日、心筋炎による急性心不全で死亡。誤診により治療を怠った--と主張している。遺族は昨年X月、同センターを管理するK市に対しても、同様の訴訟を起こしている。H市内の病院は「担当者がいないので、コメントできない」と話している。

何も知らない人が、これを読んだらどう思いますか? 病院が悪いように印象付けれられませんか
これが、報道の偏向性なのです。おそらく、病院を悪く言いたいという意図をもっているのでしょう。しかも、
この新聞社は、無責任なことに、これを報道しておきながら、訴訟結果の報道は行っていません
報道しっぱなしであったのです・・・。 これを書いた時点では、まだ家族の言い分という主張もまだ通るとして、
真実は誤診ではなかったです。しかし、その真実を新聞社はスルーしたのです。。
こういう報道姿勢を、決して私は許すことが出来ません。

今回は、心筋炎という病気の怖さとマスコミの偏向報道の一例を皆様方に知ってほしくて書きました。まとめます。

本日の教訓
風邪症状の最悪のシナリオの一つして、心筋炎の存在を想定しよう。
マスコミの報道は、常に報道されていないものは何かを考える癖をつけよう。うのみが一番いけない。

コメント一覧
心筋炎本当に怖い病気ですね。頻脈くらいしかヒントになる臨床所見がなさそうですが、まったく非得意的だし、熱でも頻脈になるしで困ってしまいます。(解熱剤を使っても頻脈が残るようなら注意したほうがよいのか。。。)

あたったことはないですがいつかあたると思いながら備えていたいと思います。それにしも怖い。
救急外来に二回目の受診には気をつけようと思います。

風邪という触れ込みなのに、咽頭痛・鼻水・咳などがあまりそろわない場合には気をつけようと思っています。
直接経験ではないですが、これらそろわなかった若い患者さんで髄膜炎菌による死亡・急性白血病の見逃しを友人が経験しています。

教育的な症例を先輩から教われることは修行中の医師にとって何よりの財産です。いつもありがとうございます。

written by しへい / 2007.06.09 00:01written by しへい / 2007.06.09 00:01

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コメントありがとうございます。
白血病、私も経験あります。
髄膜炎菌、疑い例は経験あります。
いずれも翌日死亡しました。・・

ああ、おそろしい。。。。

by なんちゃって救急医
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確かに怖いですよね。風邪の症状。先日、脳外科の先生が当直をしていた時の話を聞きました。30代女性が発熱、頭痛を主訴に来院しました。日中に近医で風邪と診断され治療を受けたが、症状が良くならないとの事で深夜に来院されました。項部硬直なし、もちろん意識障害、四肢麻痺ありません。CT,MRI異状なし。が、髄液検査で細胞数が異常に増加しており、髄膜炎と診断されました。もし、私が診ていたら、点滴で脱水補正をして「後は家でゆっくり休んでね」と返してしまうと思います。「脳外科の先生は発熱と頭痛のみで、髄液検査をするのですか?」と質問をしたところ、「脳外科医が髄膜炎を見逃したら格好悪いからな」って笑ってました。この話を聞いてしまった私は次回の当直の時から風邪症状を訴える患者に髄液検査をすべきかどうかで悩みそうです(笑)。ちなみに私は脳外科病院の麻酔科医です。

written by 眠らせ屋 / 2007.06.09 08:51

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眠らせ屋先生
症例提示ありがとうございます。たしかに悩みそうですね。理学所見よりも頭痛の程度が病歴からどう取れるかが、ルンバーるまで行くかどうかの決断の分かれ目かと・・・
また、勇んで検査をしたものの、はずれ・・・・そして低髄液性頭痛の合併症だけが残った・・・・
こんなクレームも、数回耳にしました。
大多数のウイルス性髄膜炎は、一日ぐらいはwait出来ることが多いので、合併症のことも十分すぎるぐらい説明してルンバーるに望んでもいいのではないかと個人的に考えています。

by なんちゃって救急医

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心筋炎ではありませんが、だいぶ昔のお話。
正常産後一ヶ月の女性、ちょっとしんどい、便秘勝ちということでまずお産した産科受診。下剤だけもらって様子見。(かぜ症状なし)

その日の夜、呼吸困難感で当院救急外来受診。胸水貯留、心不全疑いで緊急入院が決まったとたんに心停止。当直医が必死で蘇生措置を行いました。何とか蘇生して入院したものの、重症の心不全で入院3ヶ月でお亡くなりになりました。(私は入院中にお乳の状態を見てくれといわれただけなので、詳しい状況がわかりませんが大体こんな感じ)

病理解剖をやったんだったかなあ。確か心エコー上は特発性心筋症(拡張型心筋症類似)というような結果だったと思います。
きわめて珍しい例ですが、産後に拡張型心筋症のような症状を急性発症することはあると文献で読みました。病理的にはウイルス性心筋炎に類似しているが、感染兆候が何もないところが違うらしいです。

written by 山口(産婦人科) / 2007.06.09 09:48

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症例例示ありがとうございます。
これは、産褥後心筋症ではないですか!
私は、大学病院時代、31歳女性を担当したことがあります。
LVADが入り、心移植待機リストAにまで乗りました。

残念ながら脳出血の合併症をおこし、リストから脱落し、ほどなくお亡くなりになりましたが。

by なんちゃって救急医
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なんちゃって救急医先生御机下
眠らせ屋先生御机下

度々失礼いたします。
以下既に存知かと思います。正に釈迦に説法と思われ恐縮です。マッシー池田先生ご紹介の旭中央病院の研究が参考になりませんでしょうか。

Jolt accentuation of headache: the most sensitive sign of CSF pleocytosis. Headache. 1991 Mar;31(3):167-71.

http://64.233.167.104/search?q=cache:Z-5on8uSQAYJ:square.umin.ac.jp/~massie-tmd/anamne.html+jolt+accentuation+headache&hl=ja&ct=clnk&cd=8&gl=us

追伸
先生のブログを私のブログでご紹介させていただけませんでしょうか。
しへい 拝

written by しへい / 2007.06.09 12:53

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しへい先生
文献のご紹介ありがとうございます。ご指摘の通り、池田先生や生坂先生が発信した情報などを元を私のところでは、Jolt accentuaionとneck flectionが陰性であることをmenigitisをR/Oするに足るphycial examとしてカルテに書くようにと研修医達に申し伝えております。

ブログの紹介よろしくお願いします。

by なんちゃって救急医

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いつも大変勉強になる記事をありがとうございます。
ところで・・・
この症例、どうすれば助かったのでしょう?

written by Atsullow-s caffee / 2007.06.09 16:09

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コメントありがとうございます。

一般論として申し上げておけば、循環動態の保てない心筋炎はPCPSで循環サポートして、「待ち」の医療を行うしかないでしょう。この「待ち」の間が、種々の合併症との闘いで、CCU管理の技術を最も問われるところではないでしょうか?

あとは、いつ気がつくかの問題?
これも一般論でいうと、血圧、脈拍、呼吸数などのバイタルサインの以上を手がかりに、ECG、UCGなどでさらにチェックするしかないということになります。

以上は、レトロに見てるからこそいえること。

プロスペクティブに見るときは、心筋炎は、one of themに過ぎず、しかもその確率は非常に小さい・・・ 
他の可能性を並列して考えていかないといけない。いいことも悪いことも含めて。しかも、時間的制約、金銭的制約、体制的制約などさまがな制約があり、大変困難な作業である。これは、先生には釈迦に説法だと思いますが・・・・
そういう意味では、この判決は、妥当な判決の一つとして私は評価しています。

by なんちゃって救急医

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すいません、たびたび。
心筋炎でPCPS?どのくらいの期間持ちこたえればいいのでしょうか?
COが保てない場合上半身へのアウトプットは保てるのでしょうか?
COが保てるなら、不要ですよね。とすると、肺が悪くないことを考えるとVAD?それともVADへのブリッジ?心移植?
移植できた場合、グラフトへの感染は?
不勉強で申し訳ないのですが、教えて頂ければ幸いです。

written by Atsullow-s caffee / 2007.06.09 22:29

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治療の専門家ではないことを始めにお断りしておきます。

1人の医者の個人的経験でのみでいいますと、
PCPSで数日から数週間程度の間に、自然に心臓が動き出し、ウィーニングに成功するような気がします。自検3例では、一例が約10日でPCPS離脱。もう2例では装着3日でいずれも死亡でした。地方会で一ヶ月くらいで離脱できた症例の報告もあったように思います。VADに切り替えた例は、産褥後心筋症で、私は一例のみ経験しました。確かにCOが全く違うので、入れた翌日に劇的に状態が改善し、感動した思い出があります。
私のイメージとしては、PCPSで数日をのりきれるかどうかが最大の山ではないかと思っています。

by なんちゃって救急医

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ありがとうございます。
実際の経験例の貴重なお話、本当に勉強になります。
しかし、PCPS数週間ってのは大変ですね。
管理するのも大変だし、うっ血性の肝障害を起こしている患者などでは、すぐに膜型人工肺がダメになってしまうので、交換は2日程度。となると15回くらい交換??
天文学的請求になりますね。

written by Atsullow-s caffee / 2007.06.09 23:47

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そうなんですよ。失った一例は、膜型人工肺のトラブルというか・・・、よくわからないというか、すぐだめになって、交換を2回くらいしました。MEさんは、患者ベッドサイドからまったく離れることができなった3日間でした。

医療費のことは、・・・? 考えるだけで恐ろしい・・

by なんちゃって救急医

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離れて久しいのですが、PCPS導入されるクラスの心筋炎は回復するものとしないものがありました。
回復しないものはPCPS下での死亡、NYHAIV~LVASで移植待ちまでいきますね。
回復するかしないかわからないのですが、IABP+PCPSに薬物治療を乗せることになります。
免疫機序関与と言われていますがステロイドは無効。
γグロブリン大量療法を加えてほぼ完全回復した例もあります。
医学書院から「劇症型心筋炎の臨床」
というそのものずばりな本が出てましたがもう5年経ちましたか…
(心筋炎 γグロブリン で検索すると症例発表がかかります)

written by 匿名 / 2007.06.09 23:55

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専門的な観点からのコメントをありがとうございます。
ガンマグロブリンですか。勉強になります。
ほんま、そのまんまの本ですね。
買ってみようかな??

by なんちゃって救急医

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