待ち時間に潜む地雷 [救急医療]
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救急外来というところは、時に非情なところだと思う。それは、患者にとってはもちろん、その場で懸命に医療を行う医療従事者にとってもだ。救急外来は、アクセスフリーであるがゆえに、ときにovercrowding(混雑)という問題に直面することがある。そんなときに限って、ここであげたようなことが起こりはしないだろうか?
私は、この病院を知っています。救急病院としては非常にレベルが高い病院です。スタッフの先生の何人か存じ上げていてます。正直、この判決をみて、なんでここまで責任を問われないといけないのかと疑問に思いました。心筋梗塞という病気は、病気の性質がこんなものではないのでしょうか? 皆さんはいかがお感じになりますか? (固有名詞は伏字にしました)
○○○病院に賠償命令 診察待ち急患容体が急変「経過観察怠る」 △△地裁 裁判 2003.09.26 朝刊胸痛で○○○病院(K市)の救急外来を受診した同市内の女性=当時(46)=が処置室で意識不明の重体に陥ったのは、病院側が容体の急変を見落としたためとして、女性の遺族が○○○に約八千四百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、△△地裁(N裁判長)は二十五日、病院側の過失を認め、約四千百万円の支払いを命じた。
判決によると、女性は一九九X(平成X)年y月、胸の痛みを訴えて夫に連れられて同病院の救急外来を受診。看護師による問診や心電図検査を受けて処置室で診察の順番を待っていたところ、急性心筋こうそくで心肺停止状態になった。
最後の問診から約十分後、診察しようとした医師が心肺停止に気づいて蘇生(そせい)術を施し、女性の心拍は再開したが、脳障害の後遺症で意識は戻らず、五年後に死亡した。
判決理由でN裁判長は「看護師らは、容体の急変を早期発見できるよう家族に付き添いを依頼するなど経過を観察する注意義務を怠り、カーテンで外部から遮断した処置室に女性を一人で待機させていた」と指摘、病院の過失を認めた。
判決について、女性の遺族は「救急病院は常にしっかりした対応を心掛け、二度と同じことが起こらないよう強く望む」と話している。
これに対し、○○○病院は「判決文を読んで今後の対応を検討したい」としている。
もちろん、医療者側は、このようなことをできるだけに回避するために、トリアージシステムを考えることは大事です。努力をしている病院も多いでしょう。しかし、それでも限界はあるのです。
この事例も、新聞記事から、断片を切り取って、
・・・たら、・・・れば、で論じることは可能ですが、私はそれをあえてここではやりません。
病気だからあきらめよう・・・・・ 医療者を責めても仕方がない・・・・・・
このように考えることはできないでしょうか? しかし、いざ事が起きてしまった後で、医療者側のほうから、こんなことを口にすれば、かえって、家族側の感情を悪化させてしまうような気もします。
やはり、
病気には人間は勝てないものなのだ
という悟りにも似た感覚を、普段から世に啓蒙しておく必要があるのかもしれません。
心筋梗塞の急変は、ある意味、病気の成り行きなのです。医療者は、それでも救命できる努力はしないといけないと思うのですが、助からないときは助からないのです。
私は、この病院のスタッフの方を存じ上げているだけに、きっとこのときも、救命に全力をかけて懸命な努力をされたに違いないと信じています。
医療者が努力し、助かる人が増えれば増えるほど、皮肉なことに結果が悪い場合がかえって目立ってしまい、医療者と患者側の対立構造が浮き出てしまうような気がしています。
残念な判決です。
コメント一覧
これは厳しいですね。
プライバシーの問題とかいって、カーテンを開けっ放しにしたら文句言ったりするのにね。
病気が悪くて病院に来てるのに、病院に来たら不死身になる。
もしくは、病院で何か起こったら病院のせいだ。
って安易な考えは止めてほしいですねー。
written by Dr. I / 2007.06.07 00:14
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Dr.I先生
そうですね、プライバシーの問題と紙一重ですね。
それと、やはり当時の混み具合がどうだったが気になるところです。記事からうかがい知ることはできませんが・・・・
by なんちゃって救急医
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いつもいろいろいと勉強させていただいております。
誠にありがとうございます。
正におっしゃるとおりですね。日本の医療を質を保つシステムがうまく機能していないという状況はあると思いますが、それによる医療過誤などがマスコミにあおられたことと権利意識の上昇で老人の方が寿命のため病院でなくなっても何か「医者が悪いことしたのでは?」
といわれることが多かったのを覚えています。なんだか悲しい社会状況ですね。
written by しへい / 2007.06.07 08:18
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マスコミの影響はほんとに大きいと思います。
by なんちゃって救急医
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私もI先生と同感です。しかし、日本人は少し前まで病気には人間は勝てないと悟っていたと思うのですが、社会情勢の変化で日本人の考え方、倫理観も変化してきているのでしょうね。この案件、アメリカだと裁判にさえならないように思うのですが、、、
written by Tai-chan / 2007.06.07 08:51
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そうですか・・・・・
アメリカでは裁判にさえならない・・・・・
考え方の変化がおおきいのでしょうね。
by なんちゃって救急医
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こんにちは。
いつも読ませていただいて、ありがとうございま
病気は病院を受診する前に発症しているわけで、病院を受診してから状態が急変したから病院の責任、というのは医療側には納得しかねます。
Patient's Delayの部分もあるでしょうし、病院側に明らかなミスがあるとも思えませんし。
原告の家族にもともと悪気がないのはわかりますが、こういう判決がまかり通るのなら「倒れる時は病院の敷地に行ってから倒れろ」ですね。
written by rinzaru / 2007.06.07 09:34
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コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりだと思います。
小松先生が、「医療崩壊」の著書のなかで書かれているように、弱者救済の論理が働いているのかもしれません。
by なんちゃって救急医
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病院に行けば助かるという幻想 (天国へのビザ)
http://blog.m3.com/Visa/20070609/1
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