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尿路結石?に潜む地雷(その1) [救急医療]

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尿管結石の疝痛発作というものがあります。これは、時間外診療で遭遇することがとても多い疾患です。急におきる激しい痛みだからであることが一番の理由でしょう。正確な理由は知りませんが、経験上、未明から早朝にかけて発作を起こす人が多いように思います。そんな時間帯であることも、時間外診療で遭遇しやすい一因となっているのかもしれない。痛みで苦しむ患者さんを目の前にして言うのは、はばかられるが、時間外診療に携わる医療者は、尿管結石の発作と確定できたとき、正直ほっとするのです。尿路結石では、急死することはないからです。我々が最も恐れるのは、尿路結石と症状が似ている血管緊急の病態なのです。

毎日の記事を引用する。2001年2月7日 夕刊地方版。 (固有名詞部分は改変してある)

「医療を問う」 A市立病院の救急患者が帰宅中に急死 「尿路結石」と診断された後

A市立病院で昨年X月、みぞおちの痛みなどを訴え救急車で夜間に運ばれた男性(53)が尿路結石と診断されて帰宅途中、「解離性大動脈りゅう」などで急死していたことが7日わかった。画像検査で大動脈りゅうを思わせる影はあったが、診察した研修医が見抜けなかった。同病院は「現在の常勤医の数では、ベテランの医師が研修医にずっとついて指導する体制はとれない。男性は、救命救急センターで手術できれば助かったかもしれない」と説明。遺族は「救急病院はどんな患者にも対応できなければいけないはず」と反発している。
同病院によると、男性は昨年X月Y日午後8時半ごろ、救急車で病院に到着。当直の1年目の研修医が、CTで尿路結石と診断した。研修医は帰宅を勧め、男性は同11時40分に家族とマイカーで病院を出た。
ところが、帰宅途中の午前0時半過ぎ、男性は車内で意識を失った。救急車で別の病院に運ばれたがすでに死亡。死因は解離性大動脈りゅうからの出血がたまって心臓を圧迫する「心タンポナーデ」であった。

(中略)

遺族は「入院させてほしいと頼んだのに、せきたてられるように帰宅させられた。専門病院なら助かったと言われても納得できない。診断が無理なら、最初から患者を受け入れるべきではない」と話している。


著者による注釈:解離性大動脈りゅうという表現は、急性大動脈解離のほうが適切と思われる。CTは造影ではなく単純。後日、この病院の医師たちがCTをレトロに検討した結果、解離を確診できる所見をその単純CTから得られるかどうかについては意見が割れている。

これは、後日、民事訴訟が提起されました。その提訴も新聞報道されています。しかし、その裁判結果は、報道されていないようです。まあ、派手なところだけ報道して、最後まで自分たちの報道に責任を持たない姿勢を私は感じてしまいます。この無責任な報道姿勢が、医療不信感の世論形成にどれだけ貢献していることかと思いませんか?Atsullow-s caffee先生のブログで示されたデータを見るとそのことが大変よくわかります。新聞関係者は、自分の心に手をあてて真摯に考えてほしいものです。 

まあ、報道姿勢や報道の内容のバイアスをここでこれ以上突っ込むことはやめにしましょう。大動脈緊急を見逃さないための医療者としての戦術を考えておくことのほうが、前向きだと私は思います。

似たような症例です。
45歳男性。救急隊が「尿路結石」です!第一報を入れて腰背部痛を主訴に来院した患者。
担当したのは、3年目のレジデント。過去2年に数多くの尿路結石を診断した経験がある。患者到着後、バイタルがおかしいこと(血圧が左右とも200以上)や、痛みの移動が尿路結石としては??という疑念を抱き、すぐに造影CTを施行してくれた。 結果は、ビンゴ!(下図参照) 急性大動脈解離(スタンフォードA)でした。直ちに当院で緊急手術となりました。
尿路結石という第一報に惑わされずに、実に的確な仕事をしてくれました。すばらしい救命例ではないかと思いませんか。

さて、尿路結石かもと思える患者から、大動脈緊急(急性大動脈解離+大動脈瘤(切迫)破裂)の患者をピックアップするポイントは何であろうか? いくつか私見を挙げてみたいと思います。皆様方のご意見、ご批判をお待ちしたいと思います。

※ まず、大動脈緊急かもしれない と思うこと。 (年齢、性別、既往歴などを参考として)
※ バイタルサインを、患者観察中、時間軸の点ではなく線で見続ける
※ 可能な限り、エコーで、水腎症を確認する → なければ、大動脈緊急を下手に否定しない
※ 潜血反応陽性に喜んでとびつかない
※ 痛みの移動や部位をできるだけ詳細に問診する (migrating pain は大動脈緊急の特異性の高い所見です)
※ (CTが取れる施設の場合) 結石として合わないところがあれば、CTの閾値を下げて対応する。

要は、尿路結石にルールインするにしろ、大動脈緊急をルールアウトするにしろ、複数の所見を組み合わせて考える心が重要かと思っております。 なんでもかんでもCTという論理を主張する気はありません。また、どんなに気をつけて診療しても、見つけてあげることができない難しいケースも存在すると思います。

最悪疾患を想定し(= Thinking the worst scenario)、その医療現場の能力に応じて、真摯に診察している医療者も当たり前に存在していることを多くの皆様にわかってほしいと思います。それは、マスコミが進んで報道をしようとしない側面だから。だからこそ、自分たちで、声をあげるしかないと思っています。失われた医療への信頼を少しでも回復するためにも。

本日の教訓
尿管結石の発作と考えるとき、その前に、大動脈緊急は?と自問自答してみよう。

 コメント一覧
 確かに大動脈解離と尿管結石の鑑別は怖いですね。実際、当院でも同様の症例(stanford Bで、早期血栓閉塞型でしたが)を経験してます。これがCTを撮れる施設でならばまだ良いですが、CTを撮れない施設に運ばれた場合に確実に診断しろと言われれば自信がありません。先生の上げられたピックアップポイントは私も全く同意です。

 なお、急性大動脈解離というタームは比較的新しいもので、ある程度定着したのはせいぜいこの7~8年のことだと思います。私が卒業した頃はまだ解離性大動脈瘤でした。教科書を見ても2001年出版の「標準外科」や2002年出版の「標準病理学」ではまだ解離性大動脈瘤です(こういう学生向けの教科書もstandard discussionや学生相手に教えるときには便利(笑))。
written by 僻地外科医 / 2007.05.05 17:16
僻地外科医先生

いつもありがとうございます。先生の支持をいただけると私もうれしくなります。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.05 19:02
今まで喜んで尿潜血陽性に飛びついていて、地雷を踏んでいなかったのは幸いでした(^^;
CTを撮るにしても、造影が必要ですね。そこに躊躇を感じると結局踏みそうな地雷で、気を付けたいと思います。
written by doctor-d / 2007.05.05 19:18
doctor-d先生

そうですね。確かにCTやるなら造影でしょうね。
ただ、あまり慌てると腎機能チェックを忘れちゃいますから、その点も気をつけないと・・・・
ああ、造影剤アレルギーのリスク説明も・・・・
ほんと、大変ですよね。現場は。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.05 20:02
管理人様
いつもためになるお話をありがとうございます。勉強させて頂いております。ずっとROM専でしたが、おらがとこに関係するのでコメント投稿させて頂きます。(急性陰嚢症の時もコメ入れようかと思いましたが、考えてる内にたくさんコメついてたのでやめました)
尿路結石に症状の似た血管病変、怖いですよね。今回挙げられた大動脈解離の他に、腎梗塞って地雷もあるので我々もほんとにビクビクします。
自験例では、始め尿路結石の触れ込みで、造影CTで片側腎の造影がほとんどないため腎梗塞が疑われ、よくよく読影したら腎動脈起始部を含んだ大動脈解離だったというのもありました。
なんとか医療焼野原後も生き残りたいと思っていますので、今後とも色々ご教示下さい。
written by おしっこのお医者さん@ / 2007.05.06 15:11
こんにちは。僻地の産科医と申します。
いつも楽しみに勉強させていただいております。

CTがあまりに美しいので、ほれぼれ見ほれてしまいました。
腎動脈!腎機能!!おお。気をつけます。ありがとうございます。

アレルギーのチェックは年々無駄に面倒になってきましたね。
抗生剤テストがなくなったのがいいのか、
それともそれに関する問診表と説明が楽なのか、かなり疑問な感じになってきましたし、(抗生剤テストがなくなった時にはとても「楽になるに違いないっ!!!(涙)」と思ったのに。。)
造影剤チェックはもっと大変です。忘れがちになりますし。
時間は割かれますし。手間がかかります。
written by 僻地の産科医 / 2007.05.06 20:02
おしっこのお医者さん様

コメントありがとうございます。腎梗塞編はつぎにしたいと思っています。

written by なんちゃって救急医 / 2007.05.06 20:17
僻地の産科医様

コメントありがとうございます。リスクの説明、急いでいるとき、ほんと面倒です。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.06 20:27
CT室が近いというのが前提ですがまず単純CT撮ってました。
本来血管内腔のはずの部位に石灰化が見られたら、造影に移るストレスがかなり軽減されます。
(胸部大動脈、冠状動脈の石灰化ではわずかに軽減されました。笑)
相対的に若い人だと石灰化乏しい大動脈が解離していることもあるので、negative predictive valueは全然アレですが。
written by KKR / 2007.05.07 00:33
ピックアップポイントに追加。

「大動脈緊急は我々が思っている以上に頻度が高いと認識しておく」

 私が人口1万2千ちょっとの今の町に赴任してほぼ丸6年になりますが、この間に町内で発生した大動脈緊急は私が把握しているだけで11例もあります。

 急性大動脈解離はStanford A4例(1名生存、3名死亡)、Stanford B2例(全例生存)、腹部大動脈瘤破裂4例(1名手術直接死、2名生存)、胸部大動脈瘤破裂2例(同じ患者で初回破裂時は生存、2回目破裂時は死亡。極めて特殊な症例なので参考にならないですが・・・)

 当町に赴任するまでの経験から考えてもうちの町の発生頻度は異常ではありますが、決して希な疾患ではないと覚えておくことは有用です。

 また、大動脈緊急による死亡は我々が「心筋梗塞にてDOA」としている患者の中にも相当数含まれているであろうことも指摘しておきます。
written by 僻地外科医 / 2007.05.07 11:04
>大動脈緊急による死亡は我々が「心筋梗塞にてDOA」としている患者の中にも相当数含まれている

同意です。戻らなかったCPA症例で、解離の人結構みてきました。しかし、確認のCTが取れない施設では、多くがAMIとするでしょうね。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.07 21:42
KKR様

コメントありがとうございます。
単純であってもその限界性をわかったうえであれば、ないよりましだとは思います。

written by なんちゃって救急医 / 2007.05.07 21:44


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コメント 2

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さんた

僕の場合はお昼すぎだったけど、確かに急になるから、、そして死ぬほど痛いから、。。
今は治ったけど。
水だけは飲むようにしている。体質かなあ?
http://santa21.air-nifty.com/blog/2007/04/post_e464.html
by さんた (2008-05-03 13:55) 

なんちゃって救急医

>さんた様

この度は、つらい思いをされましたね。
おそらく、エントリー内でおっしゃっている麻薬とは、いわゆるモルヒネではなく、ペンタゾシンという鎮痛剤だと思います。


by なんちゃって救急医 (2008-05-04 13:04) 

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