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泌尿器科領域の地雷疾患 [救急医療]

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泌尿器科領域の地雷疾患がある。急性陰嚢症である。
急性陰嚢症について

急性陰嚢症とは“突然おちんちんの袋の部分が痛くなる”病気です。原因は色々あるのですが重要なのは緊急手術が必要となる精索捻転症かそれ以外であるかを判断することです。当然熟練した泌尿器科専門医や小児外科専門医でないと判断できません

というわけで、時間外診療にあたるものにとっては、急性陰嚢症を見つけたら、これ以上の確定診断(精索捻転症か?そうでない か?)に時間を費やすよりも、即刻、泌尿器科医にアクセスすることを要求されるのだ。たとえ、深夜であっても朝まで待っていようというスタンスは許されない。もし、夜中に来ちゃったら、泌尿器科の先生ごめんなさい。でもよろしくお願いします。 引用例を一つと、自検例二つを紹介します。

症例1 8歳男児

午前6時   下腹痛(+)
午前9時30分 某クリニック受診(内科)
       腹部所見とくに問題なし。Xp問題なし
       男児より「金玉が痛い」と訴えあり。 
        陰嚢診察時にも「痛い」とベッド上方にずり上がるほど。
      担当医師
      「陰嚢に現時点では所見はない。痛みが強くなったらすぐ来院するように」
同日夜   同クリニック再診。       
       精索捻転症を疑い、市立病院泌尿器科へ転送。       
       精索捻転症と診断されたが、左睾丸の摘出を余儀なくされた。

症例2 19歳男性
午前10時X分  左下腹部痛を主訴に内科午前診を初診。
             担当医が診察、腹部はリバウンド(+)。       
                  「限局的だが激しく痛がるので緊急CT検査が必要」と判断       
                 そのため、救急外来での診察を依頼した。
午前10時50分 救急外来ブースに患者入る。       
                  すぐにベッドに横になってもらい腹部診察。      
                 左下腹部を痛がる。      
               最強点は?腹膜刺激は?なんて考えてると      
                 え?そけい靭帯の辺りも痛い?      
              え? と思ううちに、一気にパンツまで脱がした。     
             おおお! 左陰嚢がでかい!!!!!     
           ぽんぽんと軽くタッチ       
              「うおおお、いてええ~~~~」
午前10時5X分 「泌尿器科を呼べえ~~!」
              と即効でコンサルト依頼。       
               秒殺の救急外来診療でした。


以後、泌尿器科サイドは、オペ準備を平行しつつ、専門的評価。結果、急性精巣上体炎の可能性大との判断。保存的治療方針で入院。

症例3 29歳男性
午前0時 就寝中、突然の下腹部痛と睾丸痛
午前3時15分 内科時間外を受診。
                 腹部の圧痛と睾丸の腫脹の所見
                 泌尿器医へ緊急コンサルト
午前4時XX分 来診。睾丸エコーその他で左精索捻転と診断。     
               徒手整復に成功。     
             後日、固定術の必要性を説明の上帰宅となった。      
             夜間、ありがとうございました。     
             こういうときの専門医は、スーパーマンに見えます。
        ほんと助かりました。


以上、3症例の紹介でした。

実は、症例1は訴訟に発展しています。判決は、初診医は診断義務までは負わないが、泌尿器科医への転医を勧告し、その専門医 療水準の下の診断と治療を受けさせるべき注意義務を怠ったというものでした。(名古屋地裁2000年9月18日判決 参考図 書:50の医療事故・判例の教訓 日経BP社 P98)

急性陰嚢症は、時間的緊急性が高いという知識をしっかりと入れておくべきだということが伝わってきます。

 症例2は、患者自身から、まったく睾丸痛の申告がありませんでした。そこが地雷的だと思います。本人がほんとに気がついてな かったのか、恥ずかしい場所だから申告をためらったのか? それは、定かではありません。しかし、パンツを下ろすことなくCT をとったりして時間を無駄に過ごしていたら・・・・、結果論は、精索捻転ではありませんでしたが、もしそうであったら・・・この二つの要因が重なったときに、我々も地雷を踏んでいたことでしょう。恐ろしいことです。

症例3は、本人の申告もあり、担当した医師は3年目の内科医師でありながら、完璧な対応をしてくれました。そして、深夜にも 関わらず泌尿器科の医師が2名も来院してくれました。患者さんにとっては、これとない幸運であったと思います。医療崩壊が進めば進む程、たとえ、夜間に診断がついたとしても、それを治療してくれる専門医にアクセスできなくなるかもしれ ないのです。私は、直接3例目の患者さんのことは知りません。でも、患者さんは自分に関わってくれた医療者たちに心から感謝してくれていることに期待したいと思います。

最後にまとめです。

教訓
男児~若い男性の下腹部痛はパンツを脱がせよう!もし、怪しければ、即刻、泌尿器医に相談!。

コメント一覧
こちらのブログ
http://genkinomoto.blog78.fc2.com/blog-date-200611.html
の2006.11.10に睾丸捻転の体験談が載っていますね。
2ちゃんねるの「痛い医療措置」にも出ていて、
http://cocoa.2ch.net/hosp/kako/982/982757270.html
「今は普通全麻下>睾丸捻転の徒手整復 」だそうですが、慣れた人が上手にやればうまくいくものなんでしょうね。
慣れないまでも、整復試みてもいいものなのか、絶対触るべきでないのか、どっちなんでしょうね?
written by moto / 2007.04.21 00:32
 acute scrotumはいやですね~。これが大人ならまだ良いですが、1歳ぐらいのこどもだと本当に恐いです。赤ちゃんは全身くまなく見ろと言われるのが良く分かります。

 うちは当然ですが泌尿器科の常勤医がいないのでacute scrotumも私が診ることになりますが、夜中に来られると転送するにしてもある程度情報を把握してから送らなければならないのでドップラーエコーは必須です。
written by 僻地外科医 / 2007.04.21 08:14
moto様

コメントありがとうございます。
徒手整復ってどうするんでしょうね?
少なくともここであげた症例は、エコーで血流はあったようです。徒手整復も容易だったみたいです。ただ、泌尿器科医にアクセスできない状況の人は、徒手整復のスキルが必要かもしれませんね。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.21 08:57
初めまして。
千葉印旛沼のほとりで診療を続けている小児科医です。

10年前に一度だけ精索捻転の男児を経験したことがあります。それ以来腹痛や嘔吐で子供達が来院すると、必ずたまたまを診ることにしています。

先生のブログは、自分がやってきたことややらねばならぬことを再確認できるので重宝しております。楽しみにしておりますので、頑張ってください。
written by kudelmudel55 / 2007.04.21 08:59
僻地外科医様

そうですか、エコーなさるのですね。すごいですね。
私は一歳の子どもの経験はありませんが、まず、自分で金玉が痛いとは言わんので、ますます全身を良く見る必要がありますね。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.21 08:59
小児科医先生

コメントありがとうございます。
かならず、たまたまをみる先生の診療姿勢すばらしいと思います。

応援ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.21 09:02
チンチン、キャンタマが痛いの嫌です。
専門外にとっては、このブログ読みたくもあり、読みたくもなくあり(知らぬが仏)、でも読んでしまいます。
医療従事者の間では有益貴重なものに間違いないでしょうね。
written by psq / 2007.04.21 11:43
psq様

コメントありがとうございます。つい、医療者側の視点のみからで文を書いてしまいがちになります。医療を受ける側の方々の目も忘れないようにしたいと思います。ありがとうございました。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.21 11:48
若い男性の下腹部痛患者、パンツまで脱がさないといけないんですね。大変勉強になりました。(ところで、無知で恥ずかしい質問ですが、若い患者さんしか捻転を起こさないんですか?精索捻転の患者さん、私は一度も遭遇したことがありません)
written by 春野ことり / 2007.04.21 23:05
ことり先生

コメントありがとうございます。
捻転は確かに思春期までの男性というのが、教科書的な記載のようです。理由は何なんでしょうね?
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.22 07:03
初めまして、いつも興味深く拝見させていただいています。
精索捻転は主に高齢者を相手としている、わが泌尿器科での最大の地雷ですね。
殆ど小児にしか発生せず(歳をとると陰嚢内で癒着し、回転しなくなるみたいです)、6時間以内に整復しないと完全に血流が遮断された精巣は救えないので、診断の遅れが致命的になります。
疑わしきは、例え精巣上体炎や精巣垂捻転という診断に終わり、無駄な浸襲を子供に加えることとなったとしても、全麻をかけて手術するしかありません。
しかし、私の病院のように常勤の麻酔科がいないところでは
手術ができないため、さらに転院させる必要があります。(自分で子供の全麻を行なう勇気はありません)
訴訟を避けるためにも、疑わしきは転院ですね。
written by うろうろドクター / 2007.04.23 00:17
うろうろドクター様

始めまして。コメントありがとうございました。

>歳をとると陰嚢内で癒着し、回転しなくなるみたいです

ご専門からのアドバイス勉強になります。高齢では捻転の人がいない理由付けがわかりました。
今後ともよろしくお願いします。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.23 06:38


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コメント 3

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しま

ぼんやりとなんとくなく思うのですが、陰嚢が痛いのであれば、最初から泌尿器科へ行くべきなのでしょうね。

一応、精巣上体炎(副睾丸炎)の経験者ではあるので、偉そうにぬかしてみました。あのときは、尋常ではないだるさがあり、尋常ではない熱っぽさもあり、陰嚢を見てみると腫れているので、泌尿器科へ行ったものですが。
by しま (2007-06-30 23:02) 

しま

あぁ、そう言えば前日に、陰嚢が痛かったので、先ほどの書き込みとは別の総合病院の内科だか泌尿器科へ行きました。そのとき、陰嚢を触られて、痛みがあったのに異常なしと言われました。で、翌日腫れてきたものですから、病院に対しては不信感を持ったものですが。

患者は痛みとか違和感があるのに、所見がないと言うことは、よくあることなのですね。
by しま (2007-06-30 23:04) 

元なんちゃって救急医

しまさま

引越し途中ではありますが、引越し先での初コメントありがとうございます。
そうですね、最初から泌尿器科がいいと思います。
by 元なんちゃって救急医 (2007-06-30 23:05) 

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