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脳梗塞というふれこみ [救急医療]

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 昨日は、地雷疾患の横綱として、くも膜下出血を挙げたが、もう一つの横綱がある。それは、大動脈緊急疾患だ。血管がこぶのようにふくらみ破裂するタイプと、血管の壁が裂けてしまう解離するタイプの2種類がある。どちらも教科書的には激しい背部痛や腹痛などであるが、診断の現実はそう甘くない。様々な症状があるため、この疾患を想定すらできない場合も多々ある。診断が遅れると死亡と直結することも多いため、診断ミスとして訴訟に発展することも多いのだ

医者の世界では、それぞれの立場、専門に応じて、患者を紹介することは、ごくごく当たり前の日常である。そんな場合、通常、電話や手紙で、前医より事前情報をもらったうえで、紹介を受けた側の診療がスタートする。しかし、そんな紹介の中にも容赦なく地雷は存在する。

人を見たら泥棒と思え

という諺がある。簡単に人を信用してはいけないことの例えだが、これを、診療の現場風に若干モディファイすれば・・・

前医の話はうそと思え 
救急隊の話はうそと思え

俺の話が信じられないのか!とお怒りを買うようなフレーズになってしまった。もう少し柔らかいフレーズでいいのがあれば、どなかかご提案ください。

要は、前医と自分たちが誤診というそしりをうけないためには、自らそれだけ慎重にならなければならないということだ。決して、前医を批判しているわけではない。


紹介の電話がなった。脳外科医宛であった。続いて、救急部に簡単な紹介状のファックスが届いた。

「60代女性の患者、意識障害、構音障害、左上肢の不全麻痺があります。CTをとりましたが、出血はありませんでした。発症間もない脳梗塞と思われます。」

脳外科は、まだ手術中なので、手術が終わるまでに、救急部で、MRIまでとっておいてほしいとの依頼を受けた。

「診断ついているんじゃ、俺らの出る幕はないな。ああ~、つまんねえ」なんて、レジデントがぼやいている。

患者が先方の病院車にて到着した。

意識レベルは、JCSⅡ群。

「さあ、酸素、点滴、モニタ装着」が完了したら、地下のMR室まで行くぞ。

行こうとしたそのとき、看護師が、声をかけた。

「先生、血圧が・・・・・・」

「ん、血圧が、高いのか? いいんだ梗塞だから、そのままで・・」
と私が言おうとするのを遮るように

低いんです! 70しかありません!」

「え・・・・・」
しまった。バイタルチェックがなおざり(等閑)になっていた。

紹介元の情報のために、自分たちが視野狭窄に陥っていたのだ。

ようやくここで、

ショックバイタル+意識障害 

                → ショックの原因から攻めろ

という救急の鉄則に立ち戻ることができた。

急いで、心電図や心エコーを行った。

なあんと、心のう液貯留!!!!!!

解離だぞ、これは! 急いで心臓外科を呼べ~~~

専門家も集まり協議。画像的確定診断を得るため、ショックバイタルではあるものの、やはり造影CTがほしいとのことになり、CT施行。

急性大動脈解離+心のう液貯留

の診断が確定した。

心臓外科医3名が、救急処置室で心のう開窓術を施行。ドレーンで心のう内の血を引くと、バイタルがあっという間に改善した。そして、そのまま緊急手術となった。

後日、患者は後遺症なく退院した。

もし、脳梗塞という診断のまま、MR室で急変してたら・・・・

想像するだけでおそろしい。

なんとか軌道修正することができた私は
「患者の命は心臓外科医が見事に救ってくれたが、私は、紹介元の医師を誤診というトラブルから未然に救ったかもしれない」
とこっそりと心の中でつぶやいていた。

この症例の教訓
紹介元の情報が、かえって視野狭窄を生み出してしまう場合がある。常に、自分の頭を意識的にニュートラルにする努力が必要。

 コメント一覧
うおー。こわいですー。こわすぎ。
ほんとに診断できてよかったですねー。
えらい!!
written by pyonkichi / 2007.03.25 10:55
>pyonkichi様

コメントありがとうございます。
脳梗塞として対応されてしまう大動脈緊急はぼつぼつとあるようです。ほんと、こわいっす。
written by なんちゃって救急医 / 2007.03.25 11:20
 私も経験有ります。

 BP100/60ぐらいで「なんか調子が悪い」と来院した患者さん。その日の当直の先生はECG,plane CT(ここポイント)を撮り、特に問題なしと一旦返した後、救急車で再来院。
 私はその時たまたまふらっと医局に顔を出しただけだったんですが、救急車が入ったので覗きに行ったらBP80/60と明らかな異常。本人に聞いても背部痛はなし、特に力を入れたとか咳をしたとかもなしで・・・・(一応この時点でも解離はちょっとだけ疑ってました)。anginaやAMIを疑ったんですが心電図にも異常所見無し。
 で、胸部X-Pで・・・「ん?これ、ちょっと左第2弓が突出してない?」
 造影CTを取ったところ見事なDeBakeyⅠ型の解離で・・・はい、当直医じゃない私が大学病院までくっついて搬送してきましたわ。

 血管外科やってる私でも分からないⅠ型(StanfordA型)解離はあると言う事例でした。幸い助かって元気に私の外来に通ってます。
written by 僻地外科医 / 2007.03.29 00:20
ちなみに私の師匠の教えは

「人のやることは信じるな。自分のやることはもっと信じるな」です。
written by 僻地外科医 / 2007.03.29 00:22
僻地外科医様

貴重なご経験をありがとうございます。助かった人は本当に運がよかったと思います。

>自分のやることはもっと信じるな

ずいぶんと厳しい教えだなあと思いました。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.29 01:18
 で、私の場合も心タンポナーデのある症例でしたが、心嚢穿刺はしませんでした。

 私の事例では痛みもありませんでしたし、血圧は低いものの80台は確保してましたので。逆に恐ろしいのはここで血圧を上昇させて解離が進行(場合によってはrupture)することでした。一応、救急車内で心嚢(非エコー下)穿刺が出来るような準備はしていきましたけどね。

 同じような症例でも病院によって対応の仕方は異なる、異ならなければならないという事例だと思います。
written by 僻地外科医 / 2007.03.29 10:35
僻地外科医様

この症例で、心のう開窓術を即効で行ったのは、もうそのままオペ室直行というストーリーが出来上がっていた中での、心臓外科医での処置ですので、ある意味当然だったのかもしれません。

先生の症例では、転送ですので、先生と同じご判断を私もするだろうなあと思いました。

とにかく、こういう微妙な判断を我々は、即座に要求されるという過酷さを多くの人に知ってもらいですね。

結果悪ければ「医療ミス」と後出しじゃんけんてきな批判が多い世の中を憂う今日この頃です。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.29 10:58

 

 


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