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たった一枚の心電図 [救急医療]

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時間外を受診する患者たちにとっては、自分の身に生じた急の事態に、多くの不安を抱えて病院を訪れることだとは思う。そんな患者さんたちとっては、目の前の医師を頼るしかないのだ。

一方、時間外外来を担当する医師たちにとっては、自分の専門外の対応を行わざるを得ない診療に、多くの不安をかかえているといっても過言ではない。

時間外診療の特徴は、つなぎの診療であるということだ。つまり、患者の訴える症状から、生死にかかわる緊急事態が発生しているか、またはその予兆がないかを考えることが、不幸な結果に終わらせないために、非常に大切なことだ。

我々、医療者は、「地雷」という表現を良く使う。患者さんたちからみれば、ある意味失礼な表現かもしれない。それはどうかお許しいただきたい。

患者の訴える症状と実際の疾患が教科書的でなく、かつその疾患が致死的な疾患である場合、それを上手く診断に結び付けられるかどうか・・・。診断まで到達せず、不幸な結果に終わってしまったときが、まさに地雷を踏んだと称されるのだ。

その診療プロセスは、まさに地雷を散りばめられた平原の中を、自分の地雷探査機を頼りに、地雷を踏まないように慎重に歩くようなものだ。

今、我々は、地雷を踏むことを極度に恐れるようになってきている。それは、今の社会が、リスクというものを容認せず、悪しき結果へのあくなき責任追及をおこなうからだ。つまり、民事訴訟のみならず、業務上過失致死、送検、あげくのはてには逮捕など・・・。懸命に努力をするよりも、現場撤退するほうが、自分の人生のリスクマネージメントにおいては賢明な選択と判断する医師たちも急増しているのだ。

もう少し世の中がリスクに関して寛容でないと医業はやってられないと思う。

それでも、私は、地雷の現状を、このブログを通して伝えていきたい。

 

さて、数年前のある冬の日、嘔吐下痢症、いわゆるノロウイルスが猛威をふるい、夜間の時間外来診療は、嘔吐下痢の患者で混雑していた。

そんな中、ホットラインがなった。 54歳男性 アルコール中毒です。

なんでも、職場の忘年会で、飲めや歌えやの大騒ぎの中、気分が悪いということで、周りの人が救急車を呼んだとのこと。しかし、呼んだ人たちも、忘年会の続き状態・・・
まるで問診にならない・・・・。本人からも、周りの人たちからも・・・・複数の筋から情報をとりたいと思ってもそれさえできない。困った。

 

本人へ声をかけてみた。
「ん、どうもない。ただ、少し気分が悪い」
一応、胸痛、頭痛、背部痛などは聞いてみるものの「ない」と答えるのみ。

とりあえず、いつものくせで、なんとなく心電図をとってみた。

なんと、ST上昇!!!!! わお~、心筋梗塞や~~

慌ててエコーを当てる。たしかに心臓の一部の動きが悪い。まちがいない。

この心電図のおかで、速攻、循環器当直にコンサルト。

緊急の検査となり、そのまま、閉塞した右の冠動脈を治療。
後日、無事退院となった。

たった一枚の心電図がなければ、アルコール中毒として点滴帰宅の方針をとり、心筋梗塞を見逃すことになったであろう。

さいわい、私は、この心電図に、今回は救われた。

しかし、新たに潜む今後の地雷に私もいつ当たるかどうかわからない。ひやひやの毎日は、これからも続く・・・・・・・

本日の教訓 


たった一枚の心電図があなたを地雷から救ってくれるかもしれません

 コメント一覧
こういう時は心電図を取るものでしょうか?
酔っていることは心電図に影響しないのですか?
たまたま取ったにしても、医師の経験と本能のなせるわざでしょうか。
ずいぶん丁寧な対応で、この患者さんは幸運でしたね。
written by psq / 2007.03.21 23:15
psq様 コメントありがとうございます。

たしかに教科書的ではないかもしれませんが、病歴ではよくわからない心筋梗塞の方はおられますので、見逃しを予防するという視点では、とりあえずとっておくという考え方は容認されると考えています。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.22 08:44


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コメント 1

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アクセル

日々お疲れ様です。

私は某消防の救急隊で救急救命士をしております。
初めてブログを拝見させて頂きました。やはり先生方のブログは大変勉強になります。

さて、ホットラインで救急隊は何故アルコール中毒と判断されたのでしょうか?

まさかこの患者がMIだとはいきなり考えないでしょうが、明らかな所見があるにしろないにしろ、念のため疑うなどしてなかったのでしょうか?

明らかに観察不足、勉強不足だと思います。

救急医療が好きで、日々勉強している救命士と、とりあえず運べばいいといった考えの救命士もいるのが現実です。

先生の中には「救急隊にはそこまで求めていない」と考える方もいらっしゃるとおもいますが、患者の命を預かる以上、救急隊は日々勉強していくべきだと考えております。

今後も拝見させて頂きます。

長文失礼しました。







by アクセル (2009-09-19 18:11) 

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