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救急外来で仕事に没頭する老婆 [救急医療]

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救急外来は、社会の縮図だ。医学的な事情だけでは、解決がつかないこともままある。日ごろの生活の知恵や機転に救われることもある。

今日の救急外来、忙しかった。朝から忙しかった。

 ホットラインが鳴った。 “70代女性。

路上で倒れていた。目撃者なし、発見者は通行人。今は、意識クリア。顔面打撲痕あり” よくあるパターンだなと、診療開始。

当然のごとく、血糖とECGからチェック。 ECGはSTEMIのみならず、long QTやSⅠQⅢTⅢなどにも注意を払うが、WNL。次に、過去のカルテ記載を参照しながら、いろいろ内科的な検索をdo。頭部打撲としての外傷のアセスメントも同時進行。

結果、医学的には緊急性無しと判断。

普通なら、家族にここまでの流れを説明し、帰宅ということで、ちゃんちゃん!! はい!終了! となるところだが、ここからがいつもとちがう。

患者は、どうやら筋金いりの認知症。しかし、なんと一人暮らしをしていた。キーパーソンの家族は、連絡はついたものの、患者よりも完全に仕事優先のモード。埒が明かない。 救急外来が忙しいさなか、徘徊を何度も試み、そのたびに連れ戻され、ベッドに寝かされる。十分もたたないうちに、またベッドからの逃亡を企てる・・・。 家族には、家族の事情があるのだろうが、介護認定は受けていなかった。そのため、介護の一環として自宅に送り届けることを頼めるヘルパーも見つからず、苦戦を強いられる羽目に。

そんなとき、ある看護師より機転の効いた実にすばらしいアイディアが出た。 なんと、患者に、ベッドサイドでの事務作業を命じたのであった。

患者は、これに大喜び v(^^)v ・・・・。

満面の笑みを浮かべて、事務作業に没頭し始めた。

抑制をしたり、薬で鎮静をする医療行為より、はるかに人間的だ

 夕方、仕事を終えた家族が迎えに来て無事帰宅となった。まだ、仕事をしたそうであったが・・・・・。 私は、看護師の機転に感心した。さすがだなあ~と思った 。

この症例の教訓   

救急外来での徘徊には、事務作業が有効かも?

 専門用語解説

ECG:12誘導心電図

STEMI:ステミと呼称することが多い。ST上昇型心筋梗塞のこと

long QT:心電図におけるQT時間が長いことを指す。重症不整脈のきっかけとなる。

 SⅠQⅢTⅢ:肺塞栓症にみられることがある古典的な心電図所見のこと。Ⅰ誘導の深いS波とⅢ誘導のQ波と陰性T波を意味している。

WNL : within normal limits の略。正常範囲内を意味する医学用語。

コメント一覧
こちらでは初めまして。
認知症には事務作業が適しているんですか?
この場合に限らず、時々考えることがあります。
それは昔の偏屈な職人、普段は喋らず、喋れば怒る、人付き合いが下手(ステレオタイプですが)・・・。
現代では何かのメンタルな病名が付けられるのではないかと(失礼かもしれませんが)。
もしかしたら、現代社会はそういう人たちを受け入れる場所を失っているのではないかと思うことがあります。
written by psq / 2007.03.20 08:51

psq様 コメントありがとうございます。

>認知症には事務作業が適しているんですか?

あまり、オープンな場でええかげんなことを言うのもなんですので、

http://www.chihou.net/shiru/chiryou/index.html から引用してみます。

「残存機能に働きかけ、精神機能を刺激し生活にうまく適応できるようにすることと、いろいろな活動を通して、人間関係を促し、情緒の安定と人間性や社会性の回復を図ることです」

という視点に立った具体的事例とお考えいただければよいのかなと思いました。


>現代社会はそういう人たちを受け入れる場所を失っているのではないか

現場で、私もよくこれを感じることがあります。自分たちの仕事は、医学的評価と割り切って仕事をしようと思っていますが、なかなかそういうわけにもいかず・・・ という感じです。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.20 10:46

病棟では結構見かける風景ですよね。うちは産婦人科・内科・外科混合なので、内科の認知症のばあちゃんが注射針を一本ずつにばらしていたり、汚物をふくぼろ布をたたんでいたりという風景をよく見かけます。仕事がないと徘徊が始まってしまうので、やることを見つけるのが看護師の仕事だったり。
written by 山口(産婦人科) / 2007.03.22 18:11

山口(産婦人科)さま

コメントありがとうございました。

ご指摘のとおり、今回の事務作業を提案した看護師は、自分が病棟勤務のときの経験を応用してみたといっていました。

written by なんちゃって救急医 / 2007.03.22 19:27

重めの自閉症の方も自由時間はかえって持て余して徘徊・奇声などの問題行動に直結するのでよく繰り返しの単純作業を「自立課題」(障害児教育ではこう呼びます)としてやってもらいます。子ども達が小さい頃よくその場しのぎにビーズの色分けや紐通しなどやらせてました。材料を仕入れによく100円均一に走ったのが懐かしいです。
written by み・みず / 2007.03.22 20:40
み・みず様

コメントありがとうございました。

そうですか。知りませんでした。ありがとうございます。
いろんなところで共通点があるものですね。
written by なんちゃって救急医 / 2007.03.22 21:24


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