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誤診(?)だけど感謝 [雑感]

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私は、誤診という言葉が嫌いです。なぜならば、診断プロセスは確率に依存している一面があり、我々は同じ医療行為を正しく適切に粛々と行っていも、ある一定の確率で、想定外の結果は確実にあり得るからです。

診断の確率論のエントリーはこちらです ⇒ 診断とは確率にすぎない
繰り返し行う医療行為の確率論のエントリーはこちらです 
⇒ 合併症を算数する  合併症を算数する(続編)

ある想定外の結果が現実のものとなったとき、例えば、最初の診断と異なる診断が事後に判明したとき、つい、「あの医者に誤診された」と感じてしまう人も多いと思います。医師の対応の印象が悪ければ悪いほど、その感は、増大するでしょう。それは、「誤診」という言葉の響きの中に医師患者関係の「不信」というニュアンスが含まれているからだと思います。

少しでも多くの人に、私たち医療者の思考プロセスや、医療の不確実性(確率依存性)の概念を理解してほしいと思います。

一方、我々は、そのような不確実性を現場の中でどのようにわかりやすく患者側に伝えていくかを考えねばなりません。

日ごろ、私はこのような考えで日常診療に当たっているのですが、つい先ごろ、大変うれしいことがありました。今日は、そういう私のささやかな出来事をお伝えしつつ、医療の不確実性にも理解が伝わればと思います。

そういう立場から、今日はあえて、私の嫌いな誤診という言葉を使ってみます。
症例 32歳女性  漫然とした下腹痛

いきなり下腹部からしだいにはじまった腹痛の患者が来院。熱はない。
WBC6800 CRP1.2 妊娠反応(-)。婦人科的病歴(-)

お腹は、マックバーネーに限局する圧痛なし。圧痛点は非特異的。
リバウンド一切なし。腹エコーでもよくわからず。

患者と母親に私が最初にいった台詞
「虫垂炎には、十分気をつけて今診療しています。私の第一印象では、虫垂炎である可能性20%以下です。」

その後、もう少し情報がそろっていった台詞
「よかったですね。私の印象ではさらに低くなりました。10%以下です」
「さあ、どうしましょう。少なくとも慎重に経過をみる余裕はありそうです」
「もちろん、CTという武器を使って今さらに詰めることもできます」

こんな話をした。患者側の選択は、CTは今はとらずに自宅経過観察だった。

「わかりました。注意するポイントは、右下腹部痛に限局する腹痛に変化してきたとき・・・、軽くジャンプしたり、お腹に響くような痛みに変化してきたとき・・・・・云々」とたらたらと説明。続いて、「で、万一該当する症状が出現したときは、夜でも来て下さい。変わりがなくても、明日もう一度かならず診察の必要がありますので、内科へ来て下さい」 こんな説明をした。
翌日、患者はちゃんと内科へ来てくれました。
担当医は悩みました。まだ所見がはっきりしなかったからです。
そして、再び、明日の外来フォローの方針の下、患者を帰宅させてました。

その患者が、その日の時間外、救急外来へやってきました。腹痛が強くなったのです。このとき初めて、腹膜刺激症状が明確になっていました。 今度はCTをとりました。虫垂炎でした。緊急手術となりました。

その患者が退院しました。その折、なんと初診の救急外来まで来て、私達へお礼の挨拶をしてくれました。 それは、私たちにとって大変珍しいことでした。

救急外来や時間外外来では、患者と時間的継続性をもって診療することが少ない診療の場です。
一期一会の場みたいなものです。だから、患者からお礼の言葉をいただく機会が少ない場なのです。
それだけに、余計にうれしく感じるものです。私と一緒に、この患者を診たY研修医も大変喜んでいました。

私は、虫垂炎はまずちがうだろうと思っていたが、見事に外れました。自虐的に言えば、誤診です。
ある意味、これが医療の不確実性、確率的分散だと思います。
しかし、患者は私達の初療を評価してくれていました。そうだからこそ、わざわざお礼に来てくれんだと思います。

やはり、こういう出来事を通して、私が改めて思うことは、医療というものは、「その結果」だけなく、良好なコミュニケーションを通して作られる「プロセス」が重要なんだということです。

良好なコミュニケーションは、医療者側だけがんばっても成立しえません。患者側にも良好なコミュニケーションができる素地が必要です。その両者がうまくかみあったときに、「結果」に依存しない「良い医療」が可能になるんだろうなあと思います。

この患者さんは、医療者をうれしくさせることができる方で、いわゆる「患者上手」な人なんだろうと思います。

患者さん側が、今の医療崩壊の進む厳しい医療情勢の中で、できること。

小さな感謝の気持ちを勇気を出して表明すること

かもしれません。 ネットからの参考記事を引用して、本日のエントリーを終わります。
http://tanba.jp/modules/bulletin6/article.php?storyid=252 より一部引用

ちょっとしたけがや病気で昼夜を問わず病院で受診する 「コンビニ受診」 を控え、 医師の負担を減らすことで地域医療を守ろうと活動する県立柏原病院の小児科を守る会(丹生裕子代表) が8月29日、 医師への感謝の気持ちを目に見える形で表そうと、 「ありがとう」 のメッセージを寄せ書きにし、 同病院に持参した。 同会は近く、 同病院の許可を得て小児科の待合に 「ありがとうポスト」を設置する。 「感謝の輪」 が広がることに期待している。 (足立智和)

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コメント 6

コメントの受付は締め切りました
doctor-d-2007

確かに初診時のデータでは、急性虫垂炎の診断は付きそうにないですね。

いつもいい記事を、ありがとうございます。(^^
by doctor-d-2007 (2007-10-30 16:59) 

メイ

いつも拝見して医学的、社会的勉強をさせてもらっています。

ありがとうポストという存在ははじめて知りました。

確かに患者さんからのちょっとしたメッセージというフィードバックがあると医者をしていてよかったという気になります。

医療は結果を出すことはもちろん大切だけど、それが全てでなく、人と人とのコミュニケーションだと思います。
by メイ (2007-10-30 19:52) 

mayako

なんちゃって救急医さま、こんにちは!
患者はよくなれば、もうよくなったと
報告にさえ行かないことが多いですね!
でも、自分が“くも膜下出血”になって、
医師、看護士、技士その他多くのスタッフが
どんなに大変な仕事をしているか目の当たりにして
すっかり考えが改まりました。
“感謝、感謝”です。
「ありがとうポスト」いいですね!
感謝を伝えるのにこういうものがあれば、患者も感謝を伝えやすいですもの!
by mayako (2007-10-30 20:51) 

あつかふぇ

外科医です。
うーん。むずいですねえ。
患者上手である患者が来る可能性が高い地域と低い地域があります。
これは、教育で解決できる問題ではないような気もします。
アッペの診断ひとつとっても、よく体感します。
by あつかふぇ (2007-10-31 16:10) 

悲観論者

999人の感謝があろうが、1人のモンスターの前では霞んでしまう。
by 悲観論者 (2007-10-31 19:11) 

元なんちゃって救急医

>doctor-d-2007様  
ありがとうございます。先生の記事も鋭く斬られてて、私は好きです。

>メイ 様
ずいぶんと前から、救急ネタをおやりになっていたのですね。
私も参考にさせてください。

>mayako 様
患者側の立場からいつもありがとうございます。患者側のご意見、お考えは自分にとって大変貴重です。今後ともよろしくお願いします。

>あつかふぇ様
患者上手に地域差があるのは、私も感じます。そういう意味では、私の今の場所は好きです。

>悲観論者様
まったくですね。
人のモンスターの前では霞んでも、999人の感謝があるから・・・・
と考えたいものです。難しいけど。
by 元なんちゃって救急医 (2007-11-01 19:50) 

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