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ある高齢者の頭痛 [救急医療]

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時間外診療の患者で、頭痛を訴えてやってくる患者も多いものです。その多くは、緊張型頭痛や片頭痛です。これらの頭痛は、機能性頭痛と言われ、CTやMRIなどの画像的な検査ではとくに所見を認めません。 頭痛を訴える患者で、最も多い疾患群です。一方、頭痛を訴える患者で、最も怖いのは、クモ膜下出血(SAH)による頭痛であることはいうまでもありません。SAHは、このブログを通して繰り返し述べ続けているので、本日はこれには触れないことにします。 

しかし、前エントリーで、腹痛の患者を例にとり、救急初期診療の難しさを説明しました。つまり、救急初期診療の位置に属する医師の診療は、往々にして「前医」の立場に立たされる難しさであるということです。幅広い可能性を予見しながら診療をすることがいかに難しいことであるかを私は力説しました。さらに、結果だけを知った人たち(=「後医」、患者自身、家族、裁判官など)から、いかに理不尽な批判を受けやすい立場にあるかも述べました。

本日は、同様のスタンスで、頭痛患者の症例を通して、救急初期診療の難しさを、多くの人々(医師、患者を問わない)に感じてとってほしいと思います。

症例 84歳 女性 頭痛。

高血圧で当院内科かかりつけ。降圧剤を内服中。内耳性のめまいで何度か当院耳鼻科で診療を受けたこともある。22時ごろ、頭痛を主訴に時間外を受診。めまいはない。担当したN医師は、その際重症患者の対応に忙しく、この患者には、十分に問診に時間を割くことが出来なかったとのこと。 しかし、突然発症でないことと最悪でないことの二点だけは、カルテに記載があった。意識は、クリアで血圧は160/96。脈は78整。体温は36.1。呼吸数は19回。高血圧による頭痛だろうということで、自宅で安静の指示と痛み止めの頓服をもって帰宅してもらった。頭部CTは、本人とその家族からの特段の希望もなかったことから、施行しなかったとのこと。

もちろん、ここで提示した情報だけでは、確定診断はできません。 さて、この患者には今後何が起きる可能性があるのでしょう? 

どんなことが予見できるのか? この予見の幅を考え、それぞれの回避策を考えるのが、どれだけ大変なことか?いかがでしょう? けっこう大変ですよね。

それでも、N医師の対応は、時間外の最低限のチェックは行われているかとは思います。その意味では、適切な対応でしょう。 私が思うに、地雷炸裂のリスクが高い最悪の対応は、病歴が甘く、CTだけをよりどころにして、「クモ膜下出血は大丈夫です」と説明して帰宅させることであると思います。(この説明がピンと来ない方は、このエントリーをご参考ください⇒ 警告出血 )

ところが、この患者は、頭痛が改善しないということで、翌朝、救急車で再来しました。担当したのが私でした。 再来時の意識は清明でした。まさに、後医は名医。このときは、確定診断ができる状況になっていました。

この患者には、何が起きていたのでしょう? (続きは後日  10月26日 記)

(10月27日 追記)

皆様、たくさんのご意見をありがとうございます。 あらかじめSAHははずしているという前提で、緑内障、小脳出血、帯状疱疹、TIA、側頭動脈炎、高血圧性脳内出血、視床出血、慢性硬膜下血腫、脳梗塞、椎骨脳底動脈系の脳梗塞などの予見可能性をコメントとしていただきました。

まあ、ランダムに挙げるだけなら、後は、髄膜炎、脳腫瘍、脳膿瘍、静脈血栓症、副鼻腔炎、低髄液圧性頭痛、群発頭痛、三叉神経痛、大後頭神経痛、狭心症、うつ病などなど・・・・・・

これまた、たくさ~~~んなんです。

これらをいちいち微に入り細に入り、予見可能性を説明してもどうしようもないので、経過観察の重要性と再受診のポイントをよりわかりやすく患者本人と家族に的確に伝えることを考えるのが現実的でしょう。

で、再受診する間もなく死ぬ可能性のある疾患で現実的な疾患存在確率を有する疾患のみにターゲットをしぼって診療しておくのが、目指すところになるでしょう。 

そういう意味において、SAHにターゲットを絞った問診をしたうえの経過観察という判断をした初療医の対応は、まずまずでしょう。(忙しくさえなければ、もう少し丁寧に抑えておきたかったところはあるが・・・・、例)血圧の再検など)

で、翌朝患者は再来しました。

患者 「先生、頭痛が続きます。嘔吐もありました。 目を見えにくくなりました

と到着一番に患者が訴えた。

患者の右目は、高度充血。右瞳孔拡大(4.5mm)、右瞳孔反射消失の状態であった。

まあ、こんな感じである。

(引用サイトはhttp://homepage2.nifty.com/KatoEyeClinic/glaucoma2.htm

そう、くらいふーたん先生が、コメントで速攻でご指摘いただきましたとおり、緑内障の発作でした。

(上記の画像を引用したサイトより一部引用)

1.緑内障発作
正式には急性閉塞隅角緑内障といいます。
急激な眼痛または頭痛、吐き気、目の充血、視力低下が主症状です。頭痛を主に訴える場合もあるため、眼科以外で見逃され、CTスキャンなど頭部の検査を受けているうちに高度の視力障害を残すケースもありますので、注意が必要です。この疾患の可能性さえ頭に浮かんだら、診断は簡単です。目は明らかに充血していることが多いですし、器械で眼圧を測らなくても、まぶたの上から眼球を触ってみれば、片目が異常に硬い(=眼圧が高い)のが誰にでもわかります。この場合は緊急の薬物治療とレーザー治療、場合によっては手術が必要ですから、少しでも早く眼科の治療を受けられるように手配する必要があります。

ブログ主追記:目の硬さなんて、誰にもわからんと思います。現場の人間の感覚として述べておきます。

私は、速攻で緑内障発作と診断しましたが、念には念をいれて、眼科へ緊急コンサルトする前に、頭部CTを急いでとりました。10分程度でCTが取れる状況であったこと、診断の確率を100%に収束させるためには、複数の情報があったほうが有利であること、そんな現場の判断です。 結果、CTには特記すべき所見はありませんでした。 (こんなCTいらんだろ!とCT異常なしの結果を知ったものが批判するのも後知恵バイアスに基づく批判です)

で、眼科にコンサルト。右目眼圧>60mmHg、左目眼圧14mmHg でした。
直ちに、ピロカルピンの点眼やマンニトールの点滴が開始され、その日のうちにレーザー周辺部虹彩切開術が施行されました。翌日の状態です。眼圧 右9.5 左 9.0  視力 右 0.15 左 0.5。 

患者がよその病院へいかずにちゃんと続けてうちに来てくれたので、救急診療と専門診療の連携が大変上手くいったわけです。

まとめます。

本日の教訓
頭痛患者 緑内障発作も忘れずに!

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コメント 13

コメントの受付は締め切りました
くらいふたーん

たまにはコメント一番乗りで・・・

とりあえず SAHはさらには触れませんが
緑内障発作とかどうでしょうか?
by くらいふたーん (2007-10-26 21:25) 

moto

緑内障、いいと思うですが、翌朝「確定診断できる状況になっていた」ですからねえ・・
「内耳性」とありますが「めまい」がキーワードと読んで、めまい+頭痛→小脳出血はどうでしょうか?翌朝意識は清明だが、失調症状があらわれていたということでどうかな?
by moto (2007-10-26 21:56) 

泌尿器レジデント

たぶん、椎骨脳底動脈など脳幹付近の血管がonsetであると思われます。
基本的に、というよりCTでは診断の出来ないもののひとつです。

頭痛の伴っためまいは絶対に病院から出してはいけないと認識しております。

TIAなども可能性はありますが、基本的に脳梗塞などは頭痛は伴いませんので、やはり血管系の可能性があるのではないでしょうか。
もう少し病歴を聞きたいですね。
今現在はめまいがあるのでしょうかね???
by 泌尿器レジデント (2007-10-26 21:57) 

元なんちゃって救急医

>今現在はめまいがあるのでしょうかね???

なしとお考えください。 追記しました。
by 元なんちゃって救急医 (2007-10-26 22:04) 

くらいふたーん

つい 答を読み過ぎてしまって せっかくの教育的症例呈示から
趣旨逸脱の危険性も多々ありますが・・・・・

緑内障の発作の初診の経験はあまりないですが
頭痛のみの訴えで 目の痛みやかすみ感 光輪が見えるなど
具体的に聞かないと診断しづらい場合があると思います。
翌朝にはかなり かすんで視力が低下していたという経過なら
当てはまるかなあと考えた次第です。

で それ以外考えるのが意外と難しいですね。
側頭動脈炎が翌日すぐにわかるとも思えませんし。
by くらいふたーん (2007-10-26 23:08) 

moto

教育的症例呈示として、いろいろ挙げてみろと言われれば、たとえば、帯状疱疹だっていいわけですけどねー。>頭痛先行して翌朝皮疹。
翌朝「救急車」だからなあ。麻痺とか出てきて1人じゃ来れなかったってことだと察します。前夜は来れたけど。
めまい無しですかあ。じゃあ、逆に、小脳以外のどっかの脳出血ってことで(^^;。
by moto (2007-10-26 23:50) 

僻地外科医

イチオシはmoto先生がおっしゃるように高血圧性脳内出血かな。
視床出血なんかが一番ありがちかと。

ん??それより帯状疱疹ってすごいありかも。あれの痛みも人によってはひどいですからね。
by 僻地外科医 (2007-10-27 07:51) 

勤務医です。

高血圧による頭痛は どれくらい あるのかな と思っています。
昔から
殆どは 頭痛による高血圧か 頭痛も高血圧も生じる病態か と考えていました。

高血圧性脳症 というのは 妊娠などに伴い まれに生じる、高血圧も頭痛も起きる 大脳白質などにしっかり病変も生じる病態と考えています。

ところで SAHも 脳室内出血などで 緩徐進行性に悪化した経過の患者さんをみたことがあります。最初だけは 突発だったようですが。
by 勤務医です。 (2007-10-27 10:32) 

地方医

高齢の方というだけで、慢性硬膜下血腫を疑ってしまいます。
ただし救急車来院時にすぐ鑑別できるようなものではないですので、たぶん違うのでしょう。もしかして、病歴を聞いて数ヶ月前に転んだことが分かったとかでは。
by 地方医 (2007-10-27 11:25) 

元脳神経外科専門医

前日には所見が来院時にすぐ鑑別できるとなると。前日なかった麻痺が出ている・・・とか考えられますね。この際、脳梗塞、頭痛を伴うというとであれば特に椎骨・脳底動脈系の脳梗塞を疑いますが。

私も高血圧による頭痛には懐疑的です。頭痛のせいで血圧が上がっている、あるいは他の原因で血圧が上がっているのではと常々考えています。

少なくとも頭痛の原因を安易に高血圧のせいと考えるのは地雷を踏むもとになるかと思います。
by 元脳神経外科専門医 (2007-10-27 11:48) 

moto

うわー、緑内障ですかあ。恐れ入りました。
ちなみに、閉塞隅角の有無を確認するには、「ペンライト法」というのが、役立つそうですよ、って、患者の視野が狭窄しちゃってから、いくら言ってても後の祭りですが。
http://homepage2.nifty.com/uoh/rinshou/80ganka.htm#glaucoma
早期に発見すれば打つ手があるだけに、見逃せないポイントですねえ。ありがとうございました。
by moto (2007-10-27 21:39) 

moto

ちなみに、わたし、元皮膚科医ですが、勤務医時代は、ポララミンとか、抗コリン作用のある痒み止め処方する際は、全例眼科に依頼箋書いて、眼圧測ってもらってました。ヒスマナールとか、QT延長症候群に禁忌と添付文書にある痒み止めは、全例至急でECG取ってから処方してたし・・返ってくるレセプトにコメント書くのが大変だったなあ。

なんだか、自分が緑内障発作見落とした気分になりますね(^^;。ちょっとへこみます・・
by moto (2007-10-27 21:49) 

Tai-chan

私も救急病院で一側瞳孔散大傾向で眼痛の時、緑内障と鑑別する意味で同側のIC-Pc、BA-SCA動脈瘤を考えますから頭部MRI(FLAIR)とMRAを撮ってから眼科へ紹介しました。これは脳外科医からのオーダーですから緊急で撮ってくれましたが(放射線科技師にお願い)、通常は頭部CTでOKでしょう。
by Tai-chan (2007-11-03 21:58) 

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