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苦情対応力って必要? [救急医療]

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以前のエントリーで、診療クレームについて述べてみた。 → ある怒りの電話
今回のエントリーでは、医師とクレームについて考えてみたい。

となりのクレーマーという本を読んだ。西武百貨店に勤務し、数多くの苦情処理に当たってきたという、いわばクレーム処理のプロとも言える人が書いた本だ。 医師と関係のある興味深いところを一部引用する。

さて、医師の世界に目を転じると、そこにも形こそ違え、苦情が横行し始めてきたようです。私が担当しているのは、主に歯科ですから、そこの例で申し上げます。
(途中略:入れ歯のクレーム例が紹介される )
しかし、そのように常識的に考えてくれない人たちが、増えてきていることは心しておかねばなりません。平行して、医師に対しても、
クレーマーらしき人間が増えだしてきました
(途中略:クレームの具体例がいくつか紹介)
医師もこういうクレーマーにぶつかると思考回路が止まるようです。どうしていいのか、わからなくなる。学校の教師と同じです。その結果、どうなるでしょうか。教師については、前に述べたとおりですが、歯科医師も同じように精神科の門を叩いています。その原因は、
苦情への対応が未成熟、つまり、「苦情対応力欠如」の問題となるでしょう。
(途中略)
教師と医師は、現代社会において、あるいは
「気の毒な人」なのかもしれません。
(一文略)
解決の道はやはり、経験とともに、対応に必要な「知識」を得ることです。
(途中略)
次に、今までは、教師・医師ともにいわば聖職で、立派な人が多かったのでしょうが、最近では、悪人も出現しているということです。教師であらば、平気で「いじめ」に加担したり、わいせつ行為で捕まったりしています。また医師であれば、不正な保険請求やカルテの改ざん等
医療法規違反をするものがあとを絶たなくなっています。そうしたことから、世間の信用を落とす結果になっているのです。クレームや苦情が平気で寄せられることになった背景には、これらを含めた「権威の失墜」があるのでしょう。
(途中略)
しかし、彼ら(=医師、教師)は不勉強であることも事実で、
苦情と苦情の対応というものをもっと学んでほしいと痛感せざるを得ません。

この著者からは、医師もずいぶんと気の毒だと思われているようです。そして、もっと、苦情を勉強せいということのようです。 それにしても、「医師法規違反をするものがあとを絶たない」とは、言いすぎだと思います。この著者もマスコミの過剰な医療バッシングの影響をもろに受けているのだなあと思います。

この著者の考えと私の考えをミックスしてみました。

マスコミによる過剰な医療バッシング

世間の信用が落ちる

権威の失墜

クレームの増加

医師はもっとクレームについて勉強するべきだ

という流れでしょうか?

次は、私が苦労したクレーム症例です。

「おまえの病院は、セクハラするんか!」  20代女性 腹痛 および 付き添いの男

ある忙しい救急外来。私はその日のスタッフ当直だった。 多くの徒歩患者の初期対応は、研修医たちの仕事だ。 ある男性研修医が、ある若い女性を診察したようだった。 軽い腹痛で帰宅の方針としていた。そして、会計のところで突然、上記のようないちゃもんをつけ始めて、スタッフ当直の私へ話がきたというわけだ。

初期対応としては、相手の話を聞く。そして医療側当事者の話も聞く。私としては、明確なセクハラが在ったとは思い難かった。ただ、なにぶん相手がセクハラと感じてしまえば、相手の感情を否定することは論理的に不可能なので、私は、現場の責任者として、相手の感情に対しては謝罪の意を示した。しかし、男は納得しなかった。 延々と話に付き合うこと、数時間を要した。そのうちに、ついに相手からでた言葉。

「病院としての誠意をみせてくれ」

であった。 私も相手するのが疲れてきたことに加えて、この言葉が出た時点で、相手をクレーマーと判断し、相手との話を強制的に打ち切った。罵声や怒号を浴びまくったが、もう、お構いなしだ。暴力をくりだせば警察を呼ぶまでだ。かなり冷徹に話を打ち切った。この態度の切り替えにはかなりの勇気がいった。そして、院長への報告を経て、この男女への対応は、病院として事務方が一手に引き受けることになった。数日間の交渉を要した。相手もどうやら慣れたもので、「病院としての誠意をみせてくれ」以上のことは、一向に具体的に言ってこない。当然、病院としては、相手の言う誠意から、相手の「金」という言葉を引き出す努力をした。そのせめぎあいに数日を要したというわけだ。 最終的に、病院は、「法的にでたければどうぞ、こちらも法的に対応しますという方針に、ついには連絡をしてこなくなった。あきらめてくれたようだった。

最初の謝罪が適切であったどうかは私にはわからない。ただ、この男女は、結果的にクレーマーであったと思われた。もしかしたら、すでに同様の手法で、どこかの病院から金をせしめていたかもしれない。だとすると、こういう輩には、決してびた一文払ってはいけないのだ。払えば払うほど、その病院は狙われるだろう。よいカモとして

ただ、トラブル発生の初期段階では、相手が本物のクレーマーなのか、本当に被害にあった普通の人なのかの鑑別が大変難しい。私のこの事例では、どこで、その線引きをするかの判断に、上記のように時間がかかってしまったのだ。それにしても、筋金入りのクレーマーと戦うのは本当に大変であると身をもって感じた一例であった。 決して一人で戦ってはいけない。組織ぐるみで対応すべきなのだ。

正直、苦情対応なんて、好んで学習したいとは思わないが、我々も医師も、ある程度は学習しておかざるを得ない世の現実は、認めざるを得ないような気はする。 ただ、それは何も医師に限ったことではなく、だれでも、いつでもクレーム被害にあうかもしれないという点では、すべての人に苦情対応力は必要といえるのではないでしょうか?

医師には、苦情対応力って、もっと必要でしょうか?  みなさんは、どうお考えでしょうか?


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共通テーマ:日記・雑感

コメント 6

コメントの受付は締め切りました
moto

勤務医と開業医とで、かわってくるでしょうね。
勤務医は、おっしゃるような、自分の管轄(医療)かどうかの見極めが大切だし、開業すれば院長ですから、最後まで相手せざるを得ないから、医療以外の苦情対応力も必要です。
もっとも車の接触事故の相手との交渉術みたいなもので、事前に勉強しようたって、むつかしいでしょうね。
場数。年の功みたいなものじゃないかな?
by moto (2007-07-11 20:09) 

moto

開業してる40代後半のわたしからのアドバイスとしては、変に落ち込んだり、感情(怒り)に引きずられたりしないこと、気持ちを早く切り換えて、忘れる訓練をすること、でしょうか。あのとき、どうしたらよかっただろう?と考えても、感情が蘇るだけです。気持のきりかえがキモです。
スポーツで点取られたときみたいなものです。
by moto (2007-07-11 20:18) 

おけやんやん

私はクレーム対応に時間をかけないことを心がけています。
「少しお待ち下さい・・・」等と相手に考える時間と怒りを熟成させる時間をあたえると、その後の処理に数倍の時間と精神的ダメージを負うから。
気持ちを不快にさせたことについては、すばやく謝罪し、相手の言うことを復唱して共感することにしているのですが、クレーマー(プロ)にはたちうちできません!motoさんのおっしゃるように気持ちの切り替えは、とてもとても大切だと思っています。だけど、実際にはかなり努力がいります。
そんな私は、普段あやまることが多いせいか、レストランや営業窓口でムカつくとすぐにクレームを言ってしまう。私は、クレーマーと呼ばれているかも?
by おけやんやん (2007-07-12 07:56) 

pyonkichi

苦情をうまく処理する対応を覚えたら、らくになるかも、という気はします。自己防衛のためですよね。
by pyonkichi (2007-07-12 18:25) 

元なんちゃって救急医

>moto様
コメントありがとうございます。勤務医と開業医の違いはなるほどなと思いました。ありがとうございます。

>おけやんやん様
コメントありがとうございます。確かに時間をかけないという行動も大事ですね。

>pyonkichi様
コメントありがとうございます。そうそう、結局、自己防衛で覚えざるを得ないってところだと思います。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-12 20:06) 

ミチバ

私も先生の紹介の本買いました。まだ、読んでないけど。他のクレーム処理の本は何冊か読みました。やはり、クレーム処理の学習は必要だと思います。これは、個人のみでなくチームの士気を低下させるからです。
by ミチバ (2007-07-13 21:30) 

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