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いけてる問診(1) [救急医療]

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時間外診療(特に内科系)においては、検査体制に制限があるところも多いだろう。エコーが出来ない、CTができない、MRができない・・・などなど。 バイタルが落ち着いており、問診が可能な患者に対しては、やはり、問診が重大な鍵となることも多い。時間外診療に携わる限りは、問診にこだわり続けたいと思っている。そんなわけで、今日のタイトルを考えてみました。いったいくつお出しできるかは、わかりませんが・・・(^^;  とりあえず、今日は第一弾ということで。その後は、気が向いたとき、ネタを思いついたときにまた書いてみます。

症例  42歳女性  胸が気持ち悪い

事務系の仕事で、本人曰く、ストレスが多い職場であることのこと。数ヶ月前から、時に胸が気持ち悪くなり、のどの奥にボールが詰まっているような感じを自覚するようになったため、近くのクリニックを受診をしたところ、不安神経症と診断され抗不安薬を処方された。その後も、週に一回程度、数分から数時間続く同様の症状が見られたため、昼間に仕事を休んで、I市立病院内科を受診したところ、同様の診断をされ、別の抗不安薬を処方された。いずれの薬も満足の行く効果はなかった。そして、また夜の19時ごろより、いつもの症状が起き、21時頃でおさまりはしたものの、夜間にまた起きたらという不安が高じて、22時I市立病院、時間外来を受診した。

「どうしまたか?」とN医師は尋ねた。
(目を医師かそらし気味に、神経質そうな感じで)
「胸が気持ち悪くなって、薬も効かないんです・・・・・」

N医師は問診を続けた。
結果、症状出現時の状況も様々であり、特定の日常行動で誘発されているわけでもなかった。症状の始まりや終わりは明確でなく、気がつくと不快感を感じているというものであった。

<各検査所見>
 身体所見 問題なし 心電図、胸部レントゲン、甲状腺機能を含めた採血、心エコー すべて異常なし

結果がでそろい、N医師は説明をしようとした。そう、前のドクターと同じことを・・・・・

しかし、N医師は、ふと思いついて、患者にこんな質問をした。
症状が見られたときに、トイレが近くなるようなことはありませんか?
すると患者
「ええ、そういえば、胸が気持ち悪くなるとよくトイレに行きます。

N医師は、心の中で 「来た!」と思いながら質問を続けた。
「それは、単にトイレに行きたくなるような気分になるだけですか?それとも、実際にたくさんの尿が出るのですか?
患者は答えた。
「まるでビールをたくさん飲んだ後のようにたくさん出ます。 ええ、ほんと今晩もそうでした。」

もちろん、患者はビールやお茶などを多飲しているわけではなかった。

N医師は、確信をもって、患者に次のような説明をした。
「わかりました。おそらくあなたには心臓の不整脈があると思われます。今までは、検査でまだそれがつかまっていないだけだと思います。」

患者の声が少しだけ元気になった。
「私は、絶対に心臓が悪いと思います。」
N医師はやさしく答えた。
「私もそう思います。 今日は、今後の具体的な計画を考えましょう。」

N医師は、症状出現時には、症状のあるうちに、どこでもいいから医療機関にとびこんでその時の心電図をとってもらうこと。 明日、循環器科を受診して、外来での検査計画をたててもらうことなどを説明して、今晩のところは帰宅してもらった。

その後、ほどなくして、仕事中にいつもの症状が出たときに近くのA循環器内科クリニックに飛び込んで受診して、心拍数120程度の心房細動がつかまった。
診断がついてからは、循環的な専門評価を行い、発作時に薬を頓服で対応する方針で様子をみることになった。 患者は、自分の訴えを信じてもらって診断がついた安堵感から以前ほどつらくなくなったとのことである

いやあ、こんなことやってみたいなあと思うブログ主でございます。同じご経験のある先生はぜひ教えてください。ネタ元は、不整脈診療のコツと落とし穴の2Pからでした。 お書きになられたのは、東大の循環器内科の先生のようです。上室性不整脈がおきたときに、心房性のナトリウム利尿ペプチドが分泌されるためと医学的な説明がなされるが、まあ、なんとも見事な美しい問診ではないですか。 私も動悸の患者さんに、これは、どしどし聞いてみようと思う。「おしっこがたくさんでますか?」と。

本日の教訓
不整脈の問診の際に、「尿」のことを尋ねてみよう。

 コメント一覧
ありがとうございます。
勉強になりました。
僕もどしどし聞こうと思います。

written by 脳外科見習い / 2007.06.10 18:28

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さっそくありがとうございます。
ぜひ、効果があったら教えてください。

by なんちゃって救急医
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えええっ!!!
のどの奥にボールといわれると、反射神経的に「前医と同じ」説明が出てきます!あなたは更年期ではありません!みたいな。

かなりやられました。
しかし、そんなにおしっこが出るくらい違いますか!?
おそるべし、ペプチド!ですね(>_<)!!!!

written by 僻地の産科医 / 2007.06.10 19:44

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いやあ、私もわかりませんわ。とにかく、今後自分でも聞いてみて、この先生のおっしゃる効果の程を試してみたいと思います。

本には、PAfの患者の1/3程度、その他の上室性はそれよりも少ない印象をもっていると書いてあります.もちろん、多尿がないからといって不整脈を否定しうるほどのものではないとも書いていますが。

by なんちゃって救急医
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逆の経験があります.
夜中に尿意と胸部の蟻走感のような違和感で目が覚めるのですが,眠いので我慢して寝ているとどんどん症状がひどくなり,脈を診ると飛んでいます.
トイレに行って排尿するとウソのように不整脈が消失し,胸部の蟻走感も消失します.
過度の尿意による自律神経のバランス異常で不整脈が起きるようにも思うのですが,今ひとつ説得力に欠けるような気もします.
ちなみに私自身の話です.

written by 田舎の一般外科医 / 2007.06.10 22:55

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ご経験をありがとうございます。私自身、これから自分の診療でプロスペクティブに問診効果をためしてみたいとおもっているところです。

ちなみに、メドラインで引っ掛けてくるとそれなりにリサーチされてる話のようです。 その一例・・・

J Am Coll Cardiol. 1987 Mar;9(3):509-14.Links
Atrial natriuretic factor during atrial fibrillation and supraventricular tachycardia.

by なんちゃって救急医
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はじめまして
透析に関わっていると時にDW評価のためにhANP測定します。たしかにAfの人は200-500とかなり高く出ます。すごい尿の量なんでしょうね。

written by HDsurgey / 2007.06.11 09:00

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コメントありがとうございます。
なるほど、そうでしたか。
本文の話を裏付ける間接的なお話をありがとうございます。

by なんちゃって救急医
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いやあ勉強になります。
あまり言いたくないですけど、精神科という「箱」に入れられた患者は、なかなかそこから出して貰えない傾向がありますね。
いちど精神科で診断のついた患者を、身体科医はどうしても色眼鏡で見てしまう。
もっともそれを助長しているのが身体の勉強を忘れた精神科医なんですけどね。

written by 某P医 / 2007.06.11 09:44

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コメントありがとうございます。

>精神科という「箱」に入れられた患者は、なかなかそこから出して貰えない傾向

いやあ、的を得たよい表現だと思いました。
自分も気をつけたいと思います。

by なんちゃって救急医

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はじめまして。循環器内科医です。
時々見ますよね。上司がいつも冗談のように、強調しています。私の診た症例は、不整脈の診断がついてから、話を聞いていたら、、でしたけど。
問診で診断をつけると気持ちいいですよね!

written by Yumi / 2007.06.11 21:26

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はじめまして。専門的立場からの貴重なコメントをありがとうございます。先生のお話を拝聴して、ますます、今後の自分の問診が楽しみになりました。

by なんちゃって救急医

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いつもお世話になっております。
ANPのはなし・・・本当でしょうか?
腎血流量は心拍出量の影響を受けるので、「有効な」心拍出量が無ければ尿量が増えるかどうかは不明な気がします。
私の経験ではAfでは一回拍出量が激減するので、心拍が上がってもCOが保てない場合が多く、亡尿になりやすい傾向のほうが多いと思います。それが証拠にガンツで測ってみるとCOは明らかに減少し、CVPばかり上昇します。
もちろん尿量とANPの関係はあると思いますが、Afは疑問です。

それから、例えばHANPを使うと血圧がむしろ下がって、上手く尿量を稼げない経験がしばしばあり、心不全や肝硬変がある場合などむしろイヤな記憶が多いです。

written by Atsullow-s caffee / 2007.06.12 21:36

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コメントありがとうございます。
本当かどうかは、自分の経験でものがいえません。
ここで紹介した本以外でも、不整脈の古典的著書にも記載はありました。先生が提示されている状況は、af心不全の状況と推察します。教科書で書かれている話は、安定している発作性の心房細動のときではないかと推察します。
私自身、pafの患者にはよく遭遇するので、これから、自分の経験でほんとのところどうなのか、楽しみながら検証する予定です。

by なんちゃって救急医

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追記
たびたびすいません。
つまり、心臓の機能が良い人・・・という条件ということになりますか?
しかし、CVP低く、心不全が無くとも発作性Af時に亡尿になる経験はしばしばあります。ただし、外科の手術後・・・ですが・・・。
後学のためにお聞きしたいのですが、心機能の良いpafで、ANPが分泌されて尿量が増えるのか、脈拍が増えてCOが増えるのかを検討した研究はあるのでしょうか?それともpafになる患者は初めからANPが分泌されているのでしょうか?
pafの前後で「本当に」ANPの濃度は変化するのでしょうか?

written by Atsullow-s caffee / 2007.06.13 03:35


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記憶だけで私がお答えできるレベルを超えています。もうしわけございません。medlineで ANP tachycardia などで調べてみると何かわかるかもしれませんね。

by なんちゃって救急医

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排尿と関連する不整脈/高血圧というと、異所性褐色細胞腫が思い浮かぶのですが、エピソードの中の先生は調べられたんでしょうかねぇ?
いつか見つけてやるぞと思いながら、なかなか症例に巡り会えません。
投稿されている”いなかの一般外科医”先生自身のエピソードなどを聞くと、検査したくなりますが。。。笑

written by Med_Law / 2007.06.13 11:45

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コメントありがとうございます。異所性褐色細胞腫はなかなか難しいですねえ。ひづめを聞いてシマウマばかりをかんがえるわけにはいきませんから。でも、みつけられたら、うれしいですね。

by なんちゃって救急医
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透析患者では、時にドライウェイトの設定のために透析終了後にhANPを測定することがあります。同じ患者で、いつもと同じくらいのDWのきつさと思っていましたが、hANPが時々異常高値になる方がいました。普段のECGでは異常を認めたことなく特に無症状でした。hANPを測る時にモニターをつけてみるようにしたら、paf時のみ異常高値でした。これからいうとpafの前後で「本当に」ANPの濃度は変化すると思います。もちろん透析患者なので尿量はわかりませんが。

written by HDsurgey / 2007.06.15 14:46

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貴重なご経験をありがとうざいます。説得力ありますね。

by なんちゃって救急医

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コメント 2

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コラレス

いけてる問診(2)を見てやってきました。
いつも興味深い話題をありがとうございます。大変勉強になります。
若い人の場合、発作時に自分で脈を測ってもらうようにお願いすることで、ある程度推測が出来ますが、ご高齢の方で、病歴が取りにくく、他にもいろいろと症状があって、発作の頻度もそれほど頻度の多くない人の診断には役に立ちそうですね。どんどん訊いてみて、ヒットしたらご報告します。

ちょっとPUBMEDを見てみたら
Increased plasma levels of atrial natriuretic peptide (ANP) in patients with paroxysmal supraventricular tachyarrhythmias.PMID: 2951966 では
22人の上室性頻拍の患者のベースラインと発作時のANPを較べて、倍以上に上昇していたとありました。
ベースライン(55.9 +/- 4.7 pmol/l)
発作時(125.3 +/- 11.4 pmol/l)
実際に頻尿を認めた人は50%だったそうです。別の文献では5.9%となっていました。
Atrial natriuretic peptide in spontaneous tachycardias.
Br Heart J. 1987 Aug;58(2):96-100.
PMID: 2956981
by コラレス (2007-07-05 01:17) 

元なんちゃって救急医

コラレス様

文献からの情報提示ありがとうございます。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-05 06:43) 

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