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90%の生存率って? [医療記事]

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医師の某掲示板からのネタを拾ってきました。下記のような報道記事です。

http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/0000298041.shtml

加古川市に賠償命令 市民病院で転送遅れ死亡 神戸地裁

加古川市民病院で心筋梗塞(こうそく)の男性=当時(64)=が死亡したのは、医師が適切な対応を怠ったのが原因として、遺族が加古川市に約三千九百万円の損害賠償を求め た訴訟の判決が十日、神戸地裁であり、橋詰均裁判長は市に請求通り全額支払うよう命じた。判決によると、男性は二〇〇三年三月三十日午前十一時半ごろ、息苦しくなり同病院で心筋梗塞と診断された。医師は、転送の措置を取らずに血管を拡張するための点滴をした。 午後一時五十分ごろ、医師は専門的な治療ができる高砂市民病院に転送を要請したが、午後二時半ごろに容体が悪化。約一時間後に心室細動で死亡した。 判決理由で、橋詰裁判長は「医師は早期に転送する注意義務があったが、措置が遅れた。義務が果たされていれば、約90%の確率で生存していた」と指摘した。 加古川市は「厳しい判決で、内容を検討し対応を考えたい」としている。


医師側、完全敗訴ですね。ざっと目を通して、私は、納得のいかない記事だと思いました。

2003年3月30日(日)

11:30am   心筋梗塞と診断 (0時間)
13:50pm    転送を要請(2時間20分後)
14:30pm   急変(3時間後)
15:30pm頃 死亡(4時間後)

 

別ソースを追記しました(4/13)

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200704100041.html

時間的経過が少し異なるようです。このソースによると

12:15pm    来院(徒歩?) 発症まもない時点
12:40pm   心筋梗塞と診断
13:50pm頃 転送を要請
15:35pm  死亡(結局転送は行われていない)
裁判官のコメント
 判決は「約70分も転送措置が遅れており、医師に過失があると言わざるを得ない」

いったいどのような心筋梗塞であったのでしょうか? 保存的にいくかカテをすべきかすぐには決めかねる状況もあるのです。この記事からでは、その辺りのことがわかりません。転送の際には、転送元のマナーとして、転送先が困らないように、キーパーソンを特定し、キーパーソンへの連絡の段取りなども必要です。そういうことに時間を取られ、要請までに結果として2時間程度かかってしまうこともありえます。そのあたりの事情も記事からはわかりません。まして、追記したソースのほうを信じて話を進めると、転送までの70分くらいあっという間です。これを過失と断罪されると転送の可能性のある患者はもう最初から診れないということになります

新聞記事ですから、所詮、ことの真偽なんて怪しいものです。よって、医学的な妥当性をこれらの記事だけから深く論じることはできません。詳細な判決文を見てみたい気はしますが。

もうひとついえば、これらの記事からでは、医師側がベストをつくしたかどうかはまったくわからないのです。つまり、ベストをつくしていたにもかかわらず、残念な結果になっただけかもしれないのです。もちろん、その逆の可能性もありますが・・・・。個人個人がその両者の可能性に気がついたうえで、記事を冷静に判断してほしいのです。

ぜひ、多くの方々に、マスコミに振り回されないニュートラルな目で新聞記事を解釈する心をもっていただきたいと思います。私は、マスコミの記事による医療不信の弊害を懸念しているのです。

さて、裁判官は、

約90%の確率で生存していた 

と言い切っています。

 

これは、私個人の医師の感覚からすると、奇異としか感じえません。どうしてここまで、公の場で人の生死を厳密に数字で言えるのでしょうか?不思議でなりません。

この裁判官の判決は、見方を変えると

10%の確率で死ぬひとが、医療の中で死んだ場合には、
100%医療者側に責任がある

となりませんか。

どこかおかしくないですか?人の死は100%訪れるものだという絶対的真理をどこか忘れていませんか?

医師が、こんなことをいってはいけない。医師たるもの救命に全力をそそぐべきだろ!という批判もあるでしょう。批判をなさるのはかまいませんが、その批判が大きくなればなるほど、多くの医師の心が折れていくであろうということは、ここであらかじめお伝えしておきたいと思います。

ぜひ、今の訴訟社会が、どれほど医療者の心に影響しているか、多くの人たちが少しでも気がついてくれれば幸いです。

私は、自分の医学的知識を総動員し、自分の知力と体力をつくして、救命できる人には、適切な医療を提供し、救命が不可能な人とその家族にも、適切な医療を提供したいと思っています。

私の医療感は、救命するのも医療、死を受け入れてもらうのも医療という感覚です。そういうわけで、上記のような文面となるわけです。

そして、ネット社会を通じて、少しでも私のつたない経験が、多くの医療者とシェアできたらという思いで、このブログを始めました。しかし、私の気持ちが、こういう報道を通して、ひとつひとつ削られていくことも、事実です。

報道される医療訴訟記事について、裁判官自体の判断の問題、記事を作成するマスコミの問題など複雑な点があるでしょうが、せめて、医師側にもこれならば仕方がないなという納得のできる医療訴訟記事だけが報道されてほしいものです。

(4月25日追記)
Dr.I先生のブログで事情の詳細がアップされました。 こちらから

このブログの内容から、わかることは、医師はベストをつくしていた
ということです。

にも関わらず、どうして訴訟になるのでしょう?
そして、どうして敗訴になるのでしょう?

救命のために全力をつくそうという気持ちが萎えてしまいます
多くの医師たちをこんな気持ちにする訴訟です。判決です。

医療崩壊に大きな貢献をする判決ともいえると思います。

悲しい世の中になりました・・・・・・

コメント一覧
判決理由で、橋詰裁判長は「医師は早期に転送する注意義務があったが、措置が遅れた。義務が果たされていれば、約90%の確率で生存していた」と指摘した。 加古川市は「厳しい判決で、内容を検討し対応を考えたい」としている。

2003年3月30日(日)
11:30am  心筋梗塞と診断 (0時間)
13:50pm 転送を要請(2時間20分後)
14:30pm  急変(3時間後)
15:30pm頃 死亡(4時間後)

裁判官、原告代理人弁護士、被告代理人弁護士ともども、医療には全くズブの素人たちが机上の空論を戦わしたのが、この裁判ですね。

橋詰裁判長は「医師は早期に転送する注意義務があったが、措置が遅れた。義務が果たされていれば、約90%の確率で生存していた」と指摘した。

「転送の遅れ」というのは、「転送したら、転院先で死亡したので、もう少し早く転送したらということであり」、本件は、転送を要請したが転送できなかったのである。転送もしないで、90%の確立での生存の判決は、こんなもの判決ではない。これはあくまでも心筋梗塞の診断から、治療、死亡までの医療裁判を行うべきであり、これは問題なかったのか。

医療過誤というのは、過失があること、損害があること、その因果関係の3点セットである。本件は医療過誤ではない。
このような裁判と裁判官がこの日本には満ち溢れている。例えば、転送の義務違反だけであれば、生存の可能性など有るわけない、100万円でもでき過ぎである。
加古川さん、弁護士を変えなさい。

 


written by やま / 2007.04.12 12:44
やま様も納得のいかない判決ということですね。
ぜひ、控訴の上、勝訴を勝ち取ってほしいものです。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.12 13:03
こんばんは
トラックバック及びコメントをありがとうございました。
こちらからもトラックバックさせていただきます。
written by いなか小児科医 / 2007.04.12 21:48
いなか小児科医様

コメント、トラックバックありがとうございます。
ほんと、この判決、納得いかないですよね。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.12 22:03
救急車を良く使う我々としては、1時間はすぐですよね。オペ室準備に30分、全麻導入に15分かかるし・・。ありえないっす!
会議中に急にしゃべられなくなった→脳梗塞疑いで救急車要請で来るまでに20分、受け入れ先決定まで15分、病院搬送まで搬送15分でしょうか?(患者移動が時間かかりますよね)
搬送後、脳出血か脳梗塞か確認するために頭部CT20分なり・・・の前に、ルート確保、全麻のための採血・心電図とってたら20分!
ここまでですでに90分かかってますが。麻痺が残ったら訴訟ですかねぇ?tPA使うにしても、NIHSSとって適応見なきゃいけないし。そして、tPA使用時に脳出血の合併で死亡するかもって話す(IC30分以上、配偶者と親戚がけんかしてプラス20分)。もうだめだっ功労省の「3時間以内」を過ぎちまった。
親戚「さっきまで仕事していたのにどうしてくれるんだ?」
こういうヒトに限って数日後に出血性梗塞になっちゃう・・。
written by 脳外科見習い / 2007.04.13 15:21
脳外科見習い様

先生のコメントは、AMIにしろ、Strokeにしろ、いわゆる血管緊急の治療に対する社会的要求が医師にとって酷すぎるという意味に感じられました。

がんばりたいという使命感も訴訟が一つ出るたびにほんと削られていきますよね。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.13 16:43
判決理由で、橋詰裁判長は「医師は早期に転送する注意義務があったが、措置が遅れた。義務が果たされていれば、約90%の確率で生存していた」と指摘した。 加古川市は「厳しい判決で、内容を検討し対応を考えたい」としている.

もう一度、書かせてください。
「医師は早期に患者を転送する義務があるか?」、医師に転送義務はありません、裁判長のデタラメ、捏造判決です。

じゃ何があるか?医師には転送勧告義務があります。転送勧告義務して、行く、行かないは自由です。元々医療過誤裁判は、「過失、損害、その因果関係」があるかないかを裁判をするものです。医療過誤の要件なくして、転送義務違反は法律にありません。

このような裁判長は法曹から、削除するべきです。

written by やま / 2007.04.17 08:35
やま様

ご批判のお気持ちには共感できます。
裁判官そのものを批判しても、我々の気持ちの不全感は解消されないと思います。同業者で、批判的な鑑定なりをした人もいるかもしれないと思うと、やりきれないものがありますね。また、後だしじゃんけん的な批判というものは、悪意がなくても、「認知のバイアス」というメカニズムである程度発生します。
ただ、各裁判官は、自らの出す判決の社会的影響にどれほど敏感なのかは疑問です。

このあたり問題は、先の見えない真っ暗闇ですね。

だからこそ、撤退を決める医療者も多いのでしょう
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.17 10:07
先生のご意見に全く同感です。
一つお願いがありますが、壁紙の桜がじゃまになって非常に読みづらいので無地の壁紙にされた方が読みやすくなると思いますのでご配慮下さい。
written by Dr.藤井 / 2007.04.30 20:56
Dr藤井様

ありがとうございます。ご指摘を受けてデザインを変えてみました。
written by なんちゃって救急医 / 2007.04.30 21:04

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