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肺炎という触れ込みの続きです。長くなりそうなので、新エントリーとして立てました。 いつもながら、たくさんのコメントをありがとうございます。 今回提示した症例を通して、私が言いたいことズバリをコメントの中でご指摘くださっている先生がおられます。レントゲンも出さないという症例提示でありながら、すごいなあ・・・と思いました。

一般の方々に私が誤解してほしくないと思うのは、提示した症例からは、論理的に決してただひとつの答えが導きだされるわけではないということです。つまり、今回提示したものとの類似症例を100症例も集めれば、その最終診断はきわめて多様であるということです。 これは、医療の不確実性のひとつです。だから、○○○という診断結果から、時間をさかのぼって、「あのとき、×××をしていたら、わかったはずだ。だから、誤診だ。」という批判のやり方は適正ではないということを医療を受ける方々には理解してほしいと思います。もちろん、時間をさかのぼって議論するのは、次の診療に役立てるためであればいいとは思いますが・・・。

では、ある診察の診断プロセスの経過が適正な医療行為であったか否かを推し量るにはどうしたらいいのでしょうか?すでに私は個人的な提唱をしています。 このエントリーです。 
結果と考察-ネットで診療評価-

つまり、私の主張の核は、こういうことです。その部分だけここで引用します。

私は、適正、公平な診療行為の判断というのは、複数の医師がその結果をまだ知らされていない段階で行うことが重要と考えます。

さて、今回の症例からは、どれだけ医師の判断がばらつくのでしょうか? 
複数回答も含めて集計してみました。(10月4日午前8:30現在)

今回は地雷疾患があるという前提で述べてますので、そのバイアスがかかった回答群です。実際の臨床の現場では、地雷疾患でない結果に終わることのほうが圧倒的に頻度としては多いので、地雷疾患の存在を前提として言わなければ、またぜんぜん違った回答群にはなろうとは思います。そういうこともご理解の上で結果をご覧ください。

9票・・肺塞栓、消化管穿孔  
7票・・大動脈解離  
2票・・膵炎、心不全、食道破裂、異物誤飲、敗血症、化膿性脊椎炎
1票・・胸膜炎、誤嚥性肺炎、気胸、肺癌、心筋梗塞、縦隔腫瘍、気管腫瘍、腎盂腎炎、
       結核、壊死性筋膜炎、多発性リウマチ性筋痛症、感染性心内膜炎、間質性肺炎

さて、回答はこのようにばらつきました。

では、この症例はどんな経過であったのでしょうか? 続けます。

I医師:「先生~、この患者さんの胸部レントゲン・・・・・。何かおかしくないですか?」

I医師と私はレントゲンを見た。
図1.jpg

私:「肺炎はないなあ・・・。大動脈弓の石灰化と大動脈辺縁の陰の間がいやな感じだな・・・・・」
   (写真矢印部分)
I医師:「え、まさか解離? 熱発しますかあ?解離で?」
私:「それはとりあえず、いい。 解離として合う病歴がとれるかどうか聞き直して来い。」

こういうやりとりで、I医師は再び、患者の問診を行った。それがこの結果であったのである。

・・・体全体がしんどいを繰り返すばかりでいまいち的を得ない・・・・

高齢者の場合、病歴はあてにならないことは多々ある。だから、病歴をもとに考えることは早急にあきらめた。

私:「病歴は無理か。CTしかないな・・・・」

ということで、撮ったCT。
図2.jpg

なんと肺炎の触れ込みの患者の最終診断が、大動脈解離(Stanford B) だった。 
急遽、この人のために押さえておいた一般内科病棟をキャンセルし、循環器科の病棟に入院先を変更した。

患者は、他臓器虚血の合併が出現することなく、降圧中心の保存的加療で後日無事退院した。

病歴から想定しにくい大動脈解離の一例でした。

紹介状の情報のみの情報から、どんな思考が可能なのでしょうか? 検証してみましょう。

X日(金)のイベント・・・発熱・下痢がない嘔気が出現しています。よって緊急地雷疾患のすべての可能性はあります。もちろん、それ以上に軽症である疾患のほうが確率的には圧倒的に高いと思います。後知恵で見れば、おそらくこのときに解離を発症していたと思います。しかし、だからといって、その可能性だけで、高次専門病院に送るか?と言われるとこれだけの情報では送れないと思います。ただ、診療所でも、できれば12誘導心電図は撮るべきだとは思います。

X+1(土)、X+2日(日)  38度の熱発あ

X+3日(月)  SpO2(RA) 89%。

X+4日(火)  WBC12500 CRP 18.3

皆様のご指摘のとおり、SpO2の低下は、解離よりも肺塞栓を想定して行動を起こすのが現場的には妥当だと思います。今回は心エコーをちら見した程度でそれ以上、肺塞栓の除外はやりませんでしたが。

今回言いたいことは、赤線アンダーラインの所見についてです。ここだけの部分を疾患頻度のものさしで見れば、何らかの感染症がまず考えられます。しかし、地雷疾患を回避するための思考回路に、頻度のものさしだけでは考えてはいけないということがあります。つまり、地雷疾患のものさしも同時に考える必要があるということです。

この症例を地雷疾患のものさしで見るとすれば
大動脈解離という疾患に、炎症所見や発熱は合うことなのか、合わないことなのか?

という疑問に対する答えがどうなのかということが重要です。 「合う」ということになれば、赤線アンダーラインの所見を、地雷疾患のものさしで考えたときに、「もしかしたら、大動脈解離の所見かもしれない」と発想することになるからです。

今回のエントリーの目的は、この疑問に対する医学的見解を提示することにありました。

お二人の先生がコメントで次のようにご指摘くださっています。

まーしー先生のコメント

大動脈解離ですかね。
解離おこした人って、SIRS状態になっているためなのか、けっこう炎症反応が上昇したり、低酸素血症になりますよね。
胸部単純写真で縦隔の拡大が疑われたのではないでしょうか。

pulmonary先生のコメント

あとは血圧、背部痛から大動脈解離
これも少し時間が経つと発熱を伴う事が多いです。

私の言いたかったことです。すばらしいコメントをありがとうございます。

日本胸部血管外科学会のHPから記事を引用します。急性大動脈解離(病態) より引用。

全身の炎症反応(SIRS):血管の炎症反応や凝固線容系の活性化により惹起される。発熱呼吸障害を呈する。

まさに、まーしー先生のご指摘と同一です。これで、SpO2の低下も一元的に説明できそうです。

もうひとつおまけに、有名芸能人の病歴から・・・・。
http://kenkobiyodietyasiki.livedoor.biz/archives/51464032.html から改変して一部を引用。

加藤茶 さん(65歳)。

2006年秋
  仕事先の地方のホテルで。
  ・胃に刺し込むような痛み。今まで経験したことがないような、強烈な痛み。
  ・背中の痛み。(痛みが移動)
  ・肩の痛み。
  ・痛みは治まらず、一睡もできずに朝を迎えた。

  ・痛みは薄らいだが、身体がだるくなった

   ・発熱38.2度
      ─>(1週間後)熱は下がらず。 長引く風邪と思った
      ─>(発熱から半月後)熱が下がらず、病院へ。CTで心臓を検査。
      ─>大学病院へ入院。すぐに集中治療室へ。「大動脈解離」

解離発症時の症状の違いはありますが、その後の経過は、私が提示した症例とそっくりですよね。まさに、SIRSという病態で説明できそうです。

では、そろそろまとめます。

本日の教訓
発熱・炎症所見は、地雷のものさしで見れば、「大動脈解離の所見かも?」と考えることができる

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