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意外な ○○(=解離)の症例 [救急医療]

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専門外の方にとっては、ちとマニアックかもしれませんが、こんな雑誌があります。私の知り合いの先生もたくさん登場する雑誌です。下記写真の号(画像をクリックするとリンク先に飛びます)は、特にお勧めの一冊です。短いプレゼンテーションでクイズ形式で、多数の地雷チックな症例も含めて、総数67症例も提示されています。 非常に楽しませていただいた一冊です。私も初めて教えていただいたことがたくさんありました。

ちなみにP417には、当ブログの書籍版(今年6月出版)の書評を載せていただいています。この雑誌をお持ちの方はついでにご覧いただければと思います。 この雑誌に提示されている症例と当ブログで紹介した症例に、当然ながらオーバーラップする部分が多分にあります。一部紹介します。

症例11・・・・ ついに麻疹患者がやってきた
症例16・・・・ 血圧が高い!という患者
症例25・・・・ 夏、皮膚科地雷にもご用心
症例34・・・・ 尿路結石?に潜む地雷(その2)
症例36・・・・ 消化管出血に潜む地雷
症例44・・・・ いけてる検査
症例46・・・・ もっとも当たりたくない地雷
症例50・・・・ 高齢者の腹痛に潜む地雷 
症例51・・・・ 悩ましい若い女性の上腹部痛
症例57・・・・ 肺塞栓症という地雷 、 医者を欺く肺塞栓

という感じです。雑誌をお持ちの方は、上記該当症例の当ブログの記事もあわせて目を通していただき、より多角的に地雷疾患学習ができればと思います。

さて、本題です。 本日はこんな症例を提示します。

56歳 男性   背部痛

ある背部痛の患者。以下の通り、何人ものDrがこの患者を診察している。

一人目のDr(開業医)
(X-1)日晩より、嘔気、下痢、発熱(37.5)にて、X日来院。整腸剤等処方。(X+2)日、嘔気下痢は改善したが、急に左希肋部から背部に抜けるような痛みが出現。(X+2)日夕方、当院を再診。 ブスコパン筋注とガスターなど処方で帰宅。膵炎(疑い)の紹介状を作成。

二人目のDr(総合病院、消化器内科医)
(X+3)日、上記紹介状をもって来院。本日普通便有り。来院時 BP157/100(左右差なし)、HR 75整、KT36.3、SpO2 98、RR 18。痛みは持続していると言うが自制内。腹部に特記すべき所見なし、背部叩打痛なし。WBC7500、CRP2.3。P- AMYを含めて他の生化学データに異常なし。ボルタレン座薬を使用したところ、症状の軽快傾向が得られた。内科的疾患は否定的と考え、整形外科を紹介。

三人目のDr(総合病院、整形外科医)
診察、背部痛は左側と診察。圧痛は無い。前後屈などで背部痛の誘発なし。診察時は、症状軽減していた。担当医のアセスメントは、詳細不明だが筋・筋膜由来の背部痛か? 対症療法で帰宅。

四人目のDr(総合病院、当直医(その日の当直医は泌尿器科医))
(X+4)日AM2時、左背部痛の増悪を認め、時間外受診。痛みは持続的、WBC9400、CRP1.7。担当医は、大動脈解離を疑い、造影CT施行。
「大動脈は大丈夫そうだな・・・、やはり、筋・筋膜性の痛みかな?」 と判断。帰宅を進めたが、患者家族の希望で、救急外来に待機、朝を待って整形外科医の再診をうける方針となった。

五人目のDr(総合病院、整形外科医(3人目の医師とはまた別))
(X+4)日朝、診察。画像的には、問題はなさそうと判断。ただ、筋・筋膜性にしては安静時での痛みが強すぎると感じた。本当に整形外科か?と疑問に感じた。

六人目のDr(総合病院、放射線科医)
夜間に撮られたCTを読影。 ■■■■の○○でないの? と実に鋭いコメントを診察中の整形外科医に報告。これで流れが変わり、緊急対応を要すと判断され、救急外来に患者が運ばれてきた。 (伏字は、漢字4文字と漢字2字)

いやあ、さすが放射線科医だなあと思いました。私も時間外にこれを一人で独影できる自信はありませんでした。そして、へええ、こんな疾患もあるんかいなと思いました。 

所見があるかないかわからないという前提と所見があるという前提とでは、圧倒的には前者の方が読影には不利ですが、今回は所見ありの前提とします。その前提で、放科の先生がするどいコメントを入れてきた所見のある部分のスライスです。

図1.jpg

さて、どんな疾患なのでしょう? ほんと病気って難しいですね。 ■■■■は名称、○○は病態です。 よろしくおねがいします。

(10月12日 記  コメント欄はまとめて後日に開放予定)

(10月13日 追記に合わせて、それまでいただいたコメントオープンにしました。)

皆様、コメントありがとうございます。今回は、かなり難しかったのではないかと思います。 

沼地先生、pulmonary先生、DM医先生、僻地外科医先生にご指摘いただきましたとおり

■■■■=腹腔動脈
○○=解離

でございます。ネット上では縮小された画像でわかりにくくて申し訳ないのですが、直の画像では、腹腔動脈にflapを認めることができました。

この患者は、放射線科医から指摘を受けた後は、救急外来でさらに腹部エコーを行いました。そしたら、腹腔動脈の血流はキープできつつ(ドップラーにて確認)、腹腔動脈内にflapを認めることができました。

患者は循環器科に入院となり、血圧管理の保存療法で後日元気に退院の運びとなっています。

今回この症例を選んだのは、腹腔動脈解離の症例が、がクイズとして上記雑誌に出されていたからです。(症例45 P491)
この症例の解説部分(P525)には、こんな記載があります。 

突然発症の激しい腹痛を考える場合、大動脈解離も鑑別の一つとして考えながら各種検査を進めるが、大動脈が正常であった場合、分枝の評価をせずに終了してしまうことはないだろうか?

まさに、本症例がその通りだったといえます。 放射線科医の的確な介入がなければ、もっとさらに多くの医師が診断に苦慮したと思われます。 

「解離は大動脈本幹だけでなく、分枝も解離することもある」

この知識を頭に入れておいて初めて、そういう読影が可能になると思います。 

まとめます。

本日の教訓

解離?と思うCT画像は、大動脈本幹だけでなく動脈分枝(腹腔動脈、上腸間膜動脈など)にも注意を払え!


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コメント 15

コメントの受付は締め切りました
GYNE

十二指腸の穿孔
by GYNE (2008-10-12 11:39) 

沼地

画像が白いですね〜。
もとの画像はもっと鮮明ですよね、きっと。
腹腔動脈がやや太く変縁が不明瞭で中に見えてる構造がintimal flapだとすると「腹腔動脈」の「解離」かな?

by 沼地 (2008-10-12 11:47) 

まーしー

うーん、難しいですね。

左横隔膜のラインが途中で追えなくなっているように見えるので、「左横隔膜」の「断裂」かなぁ。

横隔膜ヘルニア起こすほどsevereじゃなさそうだけど。
by まーしー (2008-10-12 13:15) 

moto

膵臓の裏側にあって、大動脈と同じ造影濃度の腫瘤だから、脾動脈瘤かなあ?・・しかし二文字が出てこない。出血でしょうか?大出血じゃなくて、ゆっくりと血腫が増大しているって感じの。
自信ありません(^^;。
by moto (2008-10-12 13:21) 

救命T

十二指腸の膿瘍ですか?
壁肥厚があるような気がします…。
難しいですね。
by 救命T (2008-10-12 13:24) 

ビビりの研修医

うーん、難しい!!これは分からないですねぇ…。

まず最初に考えたのが尿管結石の嵌頓かな、と思ったんですが、経過がどうも典型的じゃない(だからこのブログで紹介されるということもあるんでしょうが、それにしても。)し、何よりなんちゃって救急医先生の、「こんな疾患もあるんかいな」という言葉が気になりました。

病変部はおそらく、胃の背側、左腎の腹側にある、造影効果を受けている部分なのではないかと思うんですが、ここにある病変で、かつ緊急処置を要するものというと…なんだろう?全く浮かんでこないです。ただ、どうもこのあたりで血管がぷっつりと切れているような印象を受けました。

というわけで、いささか不完全な解答ではありますが、このあたりに走っている動脈(に該当する漢字四文字が作れませんでした。)の、閉塞ということでひとまずの結論としようと思います。
腰痛の鑑別診断に、AAAはもちろんですが、腎梗塞もありますから、今回のエピソードも梗塞による腰痛ではないか、と考えました。
by ビビりの研修医 (2008-10-12 13:43) 

REX

いつも勉強させていただいております。
肝の左方、胃や結腸にしては何か違和感が…
十二指腸の重積でしょうか?
by REX (2008-10-12 17:29) 

もと救急医

データーぱっとしない
→血管系

ということで、梗塞に一票。
臓器はどこでしょうか。腸間膜?脾臓?腎臓?
by もと救急医 (2008-10-12 20:00) 

pulmonary

学会前で時間がないのでピンポイントでスミマセン
腹腔動脈の解離でないの?
でいかがでしょう。
私は見たことがありませんが。
by pulmonary (2008-10-12 23:42) 

元外科医

左腎静脈の血栓でしょうか
腰静脈が怒張しているように見えます
by 元外科医 (2008-10-13 11:26) 

DM医

「腹腔動脈」の「解離」でしょうか?
by DM医 (2008-10-13 12:19) 

僻地外科医

突然の発症、嘔気を契機にしている、そう滅多にない疾患、画像で読み取るのが困難、緊急疾患にもかかわらず発症後4日目に至るも重症化・死への転帰がないという条件から

■■■■:腹腔動脈
○○:解離

と考えます。

Celiacであれば解離・真腔閉塞でも即死に至ることはない(胃がんや膵がんの手術にAppleby手術という腹腔動脈を結紮する手術があります)ですが、閉塞初期には肝・胃・膵・脾などの臓器虚血による痛みが生じます。
でも正直言ってこの画像所見だけからは読めませんw
上下の情報があればもうちょっと分かるかも。
by 僻地外科医 (2008-10-13 14:30) 

東京の透析医

懲りずにお邪魔いたします。
はっきりいいまして、今回、答えが書けません。
今回は自分の考えたなりのことを備忘録のように記載すること、
お許しください。

病歴上、嘔吐、胃腸障害で発症。それも比較的急性。
背部痛が出現で、開業医先生のところで膵炎疑いはうなずけます。
私も診療所レベルでの医療ですから同じことすると思います。
ただ、この方の体形は痩せ形でしたでしょうか?
(供覧のCTでは肥満体形ではなさそうですが)

さて、内科としては何もせずに経過を診るという一番嫌~な仕事にも
慣れておりますので、その後の経過を追うとすると、
>前後屈などで背部痛の誘発なし (@整形外科外来)
まあこれはあるとして
>安静時での痛みが強すぎる(@X+4の整形外科外来)
なのだそうなので、急性膵炎は否定的かなっと考えます。
まあ、急性膵炎で4日も経てば、生化学検査にも引っ掛かるでしょうし。
で、比較的急性で、ACSでも無いような背部痛というと、深部血管
の問題かなぁーと。

実は、ここまで考えて頭に上ったのが上腸間膜(動脈)症候群;SMAS
なのですが、論理的思考の結末ではなく、何となくポッと浮かんだところが
お恥ずかしいところ。

で、その下のCTでちょうどスライスがその辺りですよねー。
やったー、と思ったところで、ここで、思考停止してます。
SMAは問題ないように思いますし。

得意の腎梗塞は左腎上極はエンハンスされてますから、この問題
の解答としては不正解ですか。

さーて、もう一枚くらい下のCTスライス見せてください。というのは
反則でしょうか。










by 東京の透析医 (2008-10-13 15:43) 

moto

うーん、そうすると、わたしが所見だと思った右下の白いのは、腎臓だったですかね?恥ずかしい(^^;。
intimal flapは、起始部から縦上に伸びてるのでしょうか?それとも上から「く」の字型にぶら下がってるやつでしょうか?回答出されてもまだはっきりとはわかりません。これで所見ありかー。キビシイ。
しかし、このスライスを出された時点で、4文字といえば「腹腔動脈」と推理できても(邪道ですが)しかるべきだったよなあ、残念。
勉強になりました。ありがとうございます。
by moto (2008-10-14 00:17) 

僻地外科医

おぉ、当たっていたw

 分枝の解離だと腹部大動脈瘤の手術で下腸間膜動脈を再建しようとして解離に泣くことはよくあります。あと、カテで冠動脈が解離することがあるのは有名ですよね。カテや手術以外で分枝の解離が起きているのを見たことはまだ無いですけど。

>moto先生

>回答出されてもまだはっきりとはわかりません。これで所見ありかー。キビシイ。

 多分flapは先生のおっしゃっている「く」の字のものだと思います。あと、大動脈に比べて「若干」エンハンスが薄い感じがするなと思ったのが腹腔動脈解離を思いついたきっかけでした。上で書いた理由はかなり後付です(爆)。まあ、疾患を思いついてそれが論理的に当てはまるかどうか検証していくというのは診断技法の一つですから許されるとは思いますがw
by 僻地外科医 (2008-10-14 08:45) 

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