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アナフィラキシー? [救急医療]

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救急外来で、遭遇する緊急疾患のひとつにアナフィラキシーというものがある。これは、即時型アレルギー反応の一種で、じんましん、呼吸困難、腹痛、嘔吐、下痢、および血圧低下を伴うショック状態などの症状を呈する。一般の方向けの参考サイト→こちら。スズメバチに刺された直後から症状が出始めた、抗生物質の点滴を始めたら、症状が出始めたなどで救急外来に患者がやってくることはそう珍しいことではない。

典型例としては、ハチに刺されたなどのきっかけが病歴としてはっきりとしており、その直後より、全身真っ赤で、低血圧で呼吸困難を訴えて来院といったところであろうか。こういった場合は、直ちに大量輸液、アドレナリン筋注、ステロイド静注、H1およびH2受容体拮抗薬静注などと粛々と初期治療を行っていくわけだが、喉頭浮腫の進行、つまり気道確保を脅かす最悪の事態には、常に厳重な監視をしておく必要もある。

幸いにも、自分の経験上では、多くの場合は、この初期治療に患者が反応し、来院して1時間もすれば、バイタルも安定し患者も楽になっていることが多い。

そんなアナフィラキシーであるが、え?と思うパターンはないのであろうか? 本日は、そんな症例を提示してみたい。今回の症例は、自験例ではなく、ある雑誌に報告された事例をもとに一部脚色を加えたものである。引用先は、後日明示することとする。

症例 32歳男性   アナフィラキシーショックの対応依頼

ある民間企業内診療所より、受け入れ要請の連絡が入った。 「32歳男性、アナフィラキシーショックの男性です。昼食後より、気分不良とめまい、および全身紅班著明で、血圧70台です!」 との要請。その患者が救急車で来院した。 患者はこんな感じであった。 
図1.jpg
(引用先:後日明記します → 8月6日 追記欄参照)

アナフィラキシーショックと考え、直ちに型どおりの初期治療を開始した。 「 いまいち、アドレナリンの反応が悪いな? 血圧があまり上がらない?」 そこで、アドレナリンの持続点滴静注が始まり、患者は集中治療室へ入院となった。そして、程なく、また同じ診療所から、対応依頼の連絡が入った。「先生、今度は重症蕁麻疹の23歳女性です!」と。 「え、また?」と担当医は何か変じゃねえと思い始めた・・・・・。 ちなみに、社員食堂、今日の昼の定食は・・・・・だったとのこと。(あえて抜きました。)

さて、いったい何が起きているのでしょう?

(8月2日 記。  次回更新は、都合により8月6日以降になります。 コメント掲載もそれ以降になりますことご了解ください。)

(8月6日 追記)

たくさんのコメントをありがとうございます。 簡単ですが、続きです。

担当医は、二人に聞いた。「昼何を食べましたか?」
二人は答えた。「昼の定食です。」
担当医は、定食のメニューを尋ねた。
二人は答えた。「カジキマグロの照り焼きです。」

これで、担当医は、ヒスタミン中毒を最も強く疑った。

結局、その後も、患者搬送が続き、軽症者も含めて、合計13名の患者が搬送されてきた。いずれの患者も、翌日までには、症状は消失し、後遺症なく退院となった。後日、中毒量のヒスタミンが食材中に含有されていたことが確認され,今回の事例はヒスタミン中毒であったということが××県健康局より正式発表された。

いかがでしたしょうか?
この症例は、ヒスタミン中毒の症例でした。すでに、多くのコメンテーターの方がご指摘してくださったように、一見、アレルギーのように見えるけれども食中毒なのです。

今回、写真も含めて引用させていただいた論文は、「カジキマグロの照焼きによる集団ヒスタミン中毒」 日本救急医学会雑誌、 2004;15:636-40 です。日本救急医学会会員の方は、ネット上で閲覧することができます。この論文をもとに、一部脚色して症例提示させていただきした。この論文で私自身も勉強させていただきました。発表者の先生方に御礼申し上げます。

なお、最初に運ばれてた重症例の患者に関する考察としては、論文中で、次のような推論がありました。

今回はおおむね血清中ヒスタミン濃度の高い患者ほど,より強い症状を来しており,ヒスタミン中毒の重症度はヒスタミン摂取量に依存するものと思われた。

アドレナリンに対する反応が悪いような低血症例が、ヒスタミン中毒では起こりえるということを、この論文は報告してくれているとも言えるわけです。

この論文から一部引用。

Mackerel (サバ)、Tuna(マグロ)、Saury(サンマ)、Bonito(カツオ)などこれらヒスタミン中毒魚といわれている魚は新鮮であっても,室温で 4 時間放置すると魚のヒスタミン濃度は50mg/100g 相当になることが報告されており,さらに保存温度が20℃以上であると,ヒスタミン生成の反応が急速に進行するといわれている。また注目すべきは,ヒスタミンは熱で分解されず,加熱調理による中毒発生リスクの減少は望めないため,ヒスタミン中毒の予防は漁獲直後より調理直前に至るまでの一貫した適切な冷蔵に尽きるとされる点である。即ち,漁獲・輸送・流通のどの過程であっても,不適切な温度管理によって一度ヒスタミンが生成されてしまうと,その食材はその後の品質管理・調理の方法に関わらず,ヒスタミン中毒の原因になってしまう。また,原因菌とされる菌も冷凍過程では死滅しないため,解凍時や解凍後の取り扱い次第では食材中のヒスタミン含有量が急激に増加する危険があるといわれている。

ということです。この時期気をつけないといけないですね。 過去にもヒスタミン中毒の事例はいくつか報道されていました。

ブリの切り身で、23人が中毒--横浜 /神奈川
1996.09.29 地方版/神奈川 (全320字) 
 横浜市緑区のスーパーマーケット「ビッグヨーサン十日市場店」(本田洋二社長)が販売した
ブリの切り身が原因で、23人がヒスタミン中毒にかかっていたことが分かり、同市衛生局は28日、同店を営業禁止処分にした。9人が病院で手当てを受けたが、いずれも軽症という。患者のうち17人は切り身が使われた仕出し弁当を食べたことが原因のため、弁当を販売した「望月商店」(同市旭区、望月勇社長)も同日から営業を自粛している。ヒスタミンは、鮮度の落ちた魚に発生する化学物質で、じんましんのような発しん、腹痛、下痢などの食中毒症状を引き起こす。同局の調べによると、このスーパーは21日にブリ140匹を仕入れて切り身にし、26日までに5~6切れ1パックで販売していた。毎日新聞社
社員24人がヒスタミン中毒  大阪市の製薬会社
1999.01.29 共同通信 (全434字) 
 大阪市に二十九日までに入った連絡によると、同市中央区にある製薬会社の社員食堂で二十八日昼に定食を食べた社員二十四人が、胸や腹のじんましんや顔に赤みがさすなど化学物質ヒスタミンによる食中毒症状を訴えた。全員症状は軽く回復に向かっているという。市は焼いた状態で残っていた
マグロを検査した結果、ヒスタミンを検出。定食を提供した給食業者「友愛産業」(本社中央区道修町)が同製薬会社の社員食堂で営業することを三十日から二日間停止した。社員食堂は二十八日の夕食から営業を自粛している。ヒスタミンは、背の青い赤身の魚などのタンパク質に含まれるヒスチジンと呼ばれるアミノ酸がプロテウス菌などの微生物によって分解されて生成される化学物質。ヒスタミンによる食中毒は、一九九四年から九六年までの三年間で、全国で計九件の発生例がある。共同通信社
国体県選手ら食中毒 サッカー関係3人 静岡のホテル  きょう試合
2003.09.13 朝刊 30頁 社2 (全393字) 
 静岡県で十三日開幕する第五十八回国民体育大会(わかふじ国体)に出場予定のサッカー成年男子本県代表の選手ら四人が十二日、湿疹(しっしん)や頭痛などの症状を訴え、食中毒と診断された。同日のホテルの朝食が原因とみられる。静岡県健康福祉部によると、四人のうち本県の患者は二十三歳と二十四歳の選手二人と二十三歳の女性マネジャーの計三人。全員が快方に向かっており、選手の試合出場に支障はないという。十二日に朝食に出された
サバのみりん漬けを食べたことによるヒスタミン中毒とみられる。ヒスタミン中毒はマグロやサバなど赤身の魚が多く、食材を室温で放置するとヒスタミン生成菌が増殖し発生。加熱調理しても予防できないという。成年男子チームの福富和平治総監督は「試合には支障がないと思うが、直前の調整ができなかったのは痛い」と話している。 同チームは十三日の一回戦で大阪代表と対戦する。高知新聞社

また、日常診療のピットフォールを回避せよ 日本医事新報社 P4には、ヒスタミン中毒は食物アレルギーと誤診されやすいとして、警鐘を鳴らしています。

まとめます。

本日の教訓
ヒスタミン中毒の診断には、魚摂取の問診が大きなきっかけとなる


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共通テーマ:日記・雑感

コメント 20

コメントの受付は締め切りました
dappi_sitai

サバとかの青魚のヒスタミンによるアレルギー反応でしょうか?

by dappi_sitai (2008-08-02 09:55) 

暇な研修医1

さばの定食・・・ですか?

 しかも、くさってた。
by 暇な研修医1 (2008-08-02 11:35) 

bamboo

ヒスタミン食中毒に一票。
定食は赤身魚料理。
by bamboo (2008-08-02 12:09) 

ミヤテツ

チャイニーズレストラン症候群でしょうか。
定食は、八宝菜、野菜炒め、かに玉のどれかでしょうか。
by ミヤテツ (2008-08-02 13:13) 

医者もどき

お昼は…サバの塩焼き!
by 医者もどき (2008-08-02 14:25) 

moto

皮膚科専門医なんですが、どこが地雷なのか検討がつきません・・
視診上、膨疹で、蕁麻疹であることは間違いなさそう。。まあ、15分くらいで、形が変化することは、念のため押さえとか無くてはいけませんが・・(一日以上同じ形なら、血管炎的なもの考える必要があるので)
食物中に、ヒスタミン類似物質が含まれると、アレルギー体質の有無にかかわらず、蕁麻疹とかでます(仮性アレルゲン)。タケノコとか、鮮度の落ちた魚介類なんか・・蕁麻疹(アナフィラキシーショック含む)が多発しておかしいときは、仮性アレルゲン含む食物性原因考えましょう、っていうお題かなあ?・・
by moto (2008-08-02 18:28) 

DYP

久々の問題提示型の記事ですね。

同じ診療所から2件の依頼というと、
1:多くの人がアレルゲンとしている物質が定食に混ざっていた
小麦・蕎麦等。
2:同じ社員食堂でハチ刺虫症やアリ刺虫症にあっていた
3:集団食中毒関連?(だとすれば、起因菌は??)
4:抗生物質やNsaidの混入???
5:アニサキスアレルギー?→だとすれば定食は鯖やイカ?

ちょっと頭の堅い私には難しい問題です。
ボスミンの反応が悪いのもなぜでしょうか・・・。
by DYP (2008-08-02 19:46) 

hagi

同時発生するはずのないアナフィラキシー。
つまり、ヒスタミン症候群ですね。
私も経験があります。

そして、同時発生ではありませんでしたが、100円ショップだかの生魚でアナフィラキシーを起こした患者がおり、病態はヒスタミン症候群と考えたこともありました。
by hagi (2008-08-02 23:01) 

しへい

平素先生のブログを通して多くの若手救急医の教育まことにありがとうございます。Scombroid food poisoningではないでしょうか。
今後ともご指導どうぞよろしくお願いいたします。
by しへい (2008-08-03 05:11) 

もと救急医

一点予想で、
しめたり、焼いたり、味噌煮にしたり
するとおいしいやつではないですかねぇ。
by もと救急医 (2008-08-03 07:48) 

GYNE

 昼食後に起こったアレルギー反応で、アドレナリンに対する反応が不良(持続的に抗原に暴露され続けている?)なので、医動物的なものを考えたくなるのですが、腹痛、下痢、嘔吐などの消化器症状がない点が不思議です。
 現場ならなんとしても昼の定食の内容を問い合わせるところですが。… 
 なんだかおなかがむずむずしてきました。
 治療はどかんと輸液・ステロイド・抗ヒ、それから血圧維持(ドパミンをシリンジポンプ)、必要に応じて挿管以外にないとおもいますが…。あと、胃洗浄もしたいですね。
by GYNE (2008-08-03 09:56) 

いなかの小児科医

いつも拝読させていただいております。
ヒスタミンによる食中毒でしょうか(アレルギー様食中毒)?
 小生の近くでも、中学校の学校給食で出されたフライ(カジキマグロだったと思いますが)が原因食品での事例がありました。食後1時間ぐらいして、口の周りの熱感や、じん麻疹様発疹などのアレルギー様症状を認めましたが、腹痛や下痢などの胃腸炎症状はほとんどありませんでした。
 

by いなかの小児科医 (2008-08-03 13:27) 

Level3

あてずっぽうですが,夏ということですので「蕎麦」定食とか...

うどんと蕎麦を一緒に作ったりすると,蕎麦アレルギーの人がうどんを食べただけで蕎麦アレルギーが出たりしますし.
by Level3 (2008-08-03 15:32) 

SATE

定食が魚でヒスチジンが考えやすいでしょうか。

それとも空調?
by SATE (2008-08-03 16:27) 

pulmonary

久しぶりの症例提示なので登場です。
同一箇所でのアナフィラキシー多発。
しかも同じ食堂でとなると決まりですね。
ヒスチジン(ヒスタミン)中毒ですね。
治療は通常のアナフィラキシーと同じでよいと思いますが、反応が悪いとするとβblockerでも飲んでいるのでしょうか。大穴で抗結核薬INH?するとグルカゴンも登場でしょうか。

カジキマグロや青魚で起こりやすいと記憶しております。
いつぞやの救急医学会雑誌にあったような・・・

よくERでサバ・カツオなどに当たった。と言って蕁麻疹で来る人が多いですが、今まで同じ魚を食べても大丈夫だったという人が多いです。そんな時はサバアレルギーよりもヒスタミン中毒も考えています。
by pulmonary (2008-08-03 16:58) 

こんた

サバなどの青魚による ヒスタミン中毒ですか?

青魚は新鮮なうちに召し上がれとは昔の人の知恵ですね。

http://seibutu.zzkt.com/yudoku01/chudoku/chudoku01.htm
http://www2.nkansai.ne.jp/com/kamaboko/situmon_r_63.htm
http://www.chiba-u.ac.jp/message/prs/koho126/kenko.htm

by こんた (2008-08-04 17:16) 

doctor-d

アレルギーは怖いですよね。
特に背の青い魚はキツイみたいですね。

以前にTVで鶴瓶が鯖アレルギーで苦手だというのに、番組内で無理やり食べさせて見る見る目が充血して顔が真っ赤に膨れ上がるというシーンが流れていました。命に関わる事なのに、食わず嫌いとアレルギーの区別も付かないのには呆れてしまいました。
by doctor-d (2008-08-05 12:52) 

なんちゃって救急医

只今、すべてのコメントを承認させていただきました。二日留守にしている間に、たくさんのコメントをいただいていました。ありがとうございます。いつもながらの鋭いコメントばかりです。
by なんちゃって救急医 (2008-08-06 08:16) 

パラ吉

はじめてコメントさせていただきます。救命士のパラ吉と申します。

貴重な事例ありがとうございます。

プレホスピタルの私からもたいへん勉強になります。また来させていただきます。
by パラ吉 (2008-08-16 10:36) 

なんちゃって救急医

>バラ吉様

訪問ありがとうございます。過去エントリーもどうぞご覧下さい。
by なんちゃって救急医 (2008-08-20 21:34) 

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