SSブログ

胎盤早期剥離の事例に思うこと [医療記事]

?↓ポチッとランキングにご協力を m(_ _)m
???

5月3日13時40分を持ちまして、このエントリーに関するコメント受付を中止する措置をとらせていただきました。今回の事例に関してあまりに具体的な情報と思われるコメントが関係者と名乗る方から投稿されたためです。大淀病院の先行事例がございますため、自分のブログ管理方針としてコメント受付中止とさせていただいた次第です。私は、自分のブログ上で、あまりに具体的なことをやりとりをしたくないのです。ご理解の程お願いします。(5月3日 13:40記)

本日、こんな報道がなされました。

http://www.shizushin.com/news/social/shizuoka/20080502000000000064.htm    魚拓

大量出血の妊婦死亡、胎児も助からず 静岡の病院
05/02 14:52
静岡厚生病院(静岡市葵区北番町、玉内登志雄院長)は2日、陣痛を訴えて来院した静岡市内の妊婦(24)が大量に出血し、死亡する医療事故があったと発表した。胎児も助からなかった。病院と遺族はそれぞれ、静岡中央署に届け出た。同署は司法解剖するなどして過失の有無について任意捜査を始めた。同病院によると、妊婦は分娩(ぶんべん)予定日を3日すぎた4月27日午前0時ごろ、陣痛が始まったと同病院に電話連絡。対応した看護師、助産師は問題がないと判断し、自宅待機を伝えた。妊婦は約6時間後に再度電話で訴えて来院し、同日午前8時すぎに医師が診察したところ、既に胎児の心拍は無かった。母体は、胎児がまだ子宮内にいるのに胎盤がはがれてしまう症状「胎盤早期剥離(はくり)」が確認された。緊急帝王切開を行い、子宮内から死亡した胎児を取り出した。母体は3リットルを超える大量の出血があり、輸血を含む5リットル以上の輸液で対処したが、けいれんや意識レベルの低下が起こり、妊婦は同日午後1時40分ごろ死亡した。妊婦は昨年9月に同病院を初めて受診し、死亡2日前の4月25日の診察では母子ともに異常はなかったという。玉内院長は「母子ともに亡くなった結果について遺族におわび申し上げます」と述べた上で、「現段階では医療過誤との認識はない」と話した。病院の届け出を受けた静岡中央署は病院関係者から任意で事情を聴き、カルテなどの提出を受けた。胎盤早期剥離 通常、胎児が生まれた後で胎盤が子宮壁からはがれるが、胎児がまだ子宮内にいるにもかかわらず胎盤がはがれてしまう状態。胎児への酸素供給が止まってしまうため、緊急に帝王切開して胎児を取り出す必要がある。重症だと母体は大量出血に見舞われ、生命の危険に及ぶ。妊娠中毒症患者らに発症の可能性が高いと指摘されているが、正常な経過をたどっていた妊婦が突然発症するケースもあり、予測は難しいという。

わが子を自分の胸に抱くことなく旅立たれた妊婦の方と名前を授かる間もなく旅立ったお子様に心からご冥福をお祈りします。それと、ご家族のご心痛はいかばかりかとお察し申し上げます。 しかし、常位胎盤早期剥離・・・本当に恐ろしい病気ですね。 私の経験では、その怖さを、自分の実体験をもってお伝えすることができませんので、ブログからの引用とさせていただきます。 

ある産婦人科医のひとりごと: 常位胎盤早期剥離について  これは2006年1月24日のエントリーです。 そこから一部抜粋します。

常位胎盤早期剥離は母児の命にかかわる非常にこわい病気ですが、いつ誰におこるのかは全く予想ができません

いかに医学が進歩したとはいえ、この病気の発症を予測することは未だに不可能です。常位胎盤早期剥離は全妊娠の0.44~1.33%程度に発症すると言われてます

常位胎盤早期剥離の母体死亡率は4~10%児死亡率は30~50%といわれています。

このような医学的な背景をもって、新聞記事を普通に読むと、病死なんだろうなあと私は思います。

さて、こういうまれな死亡事例に遭遇したとき、社会の向かうべき方向はいったいどこなんでしょうか?

1)「悪人はどこかにいないかっ?」 「いないかっ?」 「探せっ?」 という発想で、加害者を探しに行くいくことでしょうか?
上記記事においては、 司法解剖するなどして過失の有無について任意捜査を始めた の一文がそれに該当します。これは、今の社会の法体系そのものだと思います。 私は、おかしな社会だなあと個人的に思っています。全力で行う医療行為に対しても、こういう色眼鏡で社会から見られてしまうことが、多くの医療者の心を折っているのだと思います。この報道事例は、今後どのように進展していくのでしょうか? まだわかりません。今はただ、見守るのみです。

2)再発予防を最優先に、人・もの・金・時間を徹底的に費やすことでしょうか?
これをイエスと思う人は、大自然からみれば、ごくちっぽけな存在に過ぎない人間が、人の生死という自然現象をコントロールできるという幻想に犯されてはいないでしょうか?だから、私は、この2)もおかしいなあと個人的には思っています。 一見、最も正論にみえると思いますが、社会全体がこのことに対する気づきがなければ、どんどん泥沼にはまるばかりです。イメージとしては、Xをリスク値、Yをリスク回避に要する総資源量とすると、その関係はY=1/Xのようなものになるという感じです。 このグラフでは、X→0のとき、Yはどうなるでしょうか? わたしが言いたいのはそういうことです。 言い換えると、社会として、どこかでリスクを容認するという姿勢が必要というわけです。 そして、死に関して、リスク容認の心を持ちえるためには、そのような死生観を個人個人が持ちえることが重要だと考えています。

3)この死亡事例にかかわりのあるご家族や医療関係者へのグリーフワークが必要ではないでしょうか?
私は、これこそが最も必要だと思います。少なくとも私の知る限りでは、確立された社会システムとしてグリーフワークが現在行われているとは思えません。(ボランティア活動等はあるかもしれません。私が知らないだけだと思います。)もっと社会に普及されるべきだと考えます。そのためにも、メディアが、その必要性を広く報道すべきだと私は思っています。

産婦人科医療崩壊を少しでも回避に近づけるためには、産科リスクをどこかのラインで社会が容認することがきわめて重要だと私は思います。

とても残念な続報です。 ゼロリスク社会を背景とした重大な社会問題だと私は考えます。 つまり、死が受け入れらないという重大な社会問題です。


以下、5月3日 追記です。続報がでました。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shizuoka/news/20080502-OYT8T00771.htm


病院 「急変予測できず」
妊婦・胎児死亡 
遺族は提訴検討

模型を使いながら事故について説明する玉内院長(中央)ら(静岡厚生病院で) 静岡厚生病院(静岡市葵区北番町、265床)は2日、同病院で4月27日に手術を受けた静岡市駿河区の妊婦(24)と10か月の胎児が死亡する医療事故があったと発表した。玉内登志雄院長は「典型症状ではなく、急激な悪化を予測できなかった」と述べ、想定外の事態だったことを強調したが、遺族は病院の対応に不信感を募らせている。同病院によると、妊婦は初めての妊娠で、昨年9月から同病院に通院。妊婦は、死亡する約14時間前の27日未明、陣痛が出たため同病院に電話したが、応対した看護師や助産師が「痛みは強くない」と判断、いったん自宅待機となった。同日早朝、再び陣痛が強くなり入院。胎児の心音が確認できず、呼び出された産婦人科医が、分娩前に胎盤が子宮内ではがれる「胎盤早期剥離(はくり)」と診断、帝王切開したが、胎児は死亡していた。手術後、妊婦も血圧が急激に低下し、大量出血を起こして死亡した。胎盤早期剥離は妊婦の1%程度にみられ、胎児に酸素が供給されないため、胎児死亡率は30~50%と極めて高い。妊婦も出血を起こすことが多いが、死亡率は一般に10%未満で、妊婦、胎児とも死亡するのは「妊娠5000~1万例中に1例」(玉内院長)とまれだという。玉内院長は「胎盤早期剥離は予防できず、早期発見するしかない」と言うが、「死亡2日前の診察では異常は見られなかった」ともしている。
妊婦の父親(55)は読売新聞の取材に、「事故当日、病院は『出血はさほどなく、(死亡の)理由はわからない』と言っていたのに。今の時代に、母子ともに死亡するなんて信じられない。提訴も検討したい」と話した。

(2008年5月3日 読売新聞)

ご遺族の医療者への感謝の念を伝える続報を、期待していた私だけに、とても失望感が大きいです。

提訴を匂わせる報道がなされました。本当に残念という一言に尽きます。 ただ、ご遺族のお気持ちを否定する気は、私にはありません。これが日本社会の一面であり現実なのでしょうから。

(ただし、記者が、「訴訟はどうしますか!」等の意図的な質問をし、ご遺族側の言質を無理やり引き出した可能性も私達は考えておく必要があります。 記事というものは、メディアが加工した一つの料理にすぎません。そこには、記者の意図や誘導が入ります。だからこそ、読者自身が、記事からいろんな可能性を自分で考える必要もあるといことです。)


今の時代に、母子ともに死亡するなんて信じられない

このご遺族のご発言が、まさにゼロリスク社会ならではの感覚からのご発言といえるでしょう。
(メディア側が、ご遺族の発言の一部のみを切り取ってこういうニュアンスをあえて出している可能性もあり、これがご遺族の本意のご発言ではない可能性があることも併せて併記しておきます。)

産科医療に携わる方々が、一生懸命になって、産科医療のリスクをものすごく下げ続けてきたことによって、逆に、こんな感情が発生してしまう。実に皮肉なことではないですか

メディアは、医療の悪い結果の場合は、社会全体の影響を十分に思慮することなく、個人の感情を、マスコミ情報として、いっせいに日本全国にばら撒いてしまう。
一方、メディアは、医療の良い結果の場合は、積極的に報道する姿勢が欠落しています。

そのメディアのあり方は、医療者の心に、確実の「負」の印象をもたらし続けています。そして、それは、社会の中での医療資源のパワー不足につながります。今現在、もう表在化しています。 そして、このような事例とその報道のあり方一つ一つが、確実に悪化の道へと突き進んでいます。そういう意味ではこの事例も程よい効果のある崩壊促進事例といえると思います。

メディア報道と社会のリスク感覚とは、リンクしていると私は思います。

最近の硫化水素自殺の事例をみれば、明らかなように、メディア報道と社会風潮がリンクしているのは明らかでしょう。

社会資源としての医療を守るには、

1)個人個人の感情を慰撫する社会システムの確立
2)社会システムとしての提訴抑制の確立
3)社会的見地から見た場合の有害報道の抑制システムの確立
4)生と死は対立ではなく共存という心のあり様を社会的に普及させるシステムの確立

こんな視点必要ではないしょうか。あくまで、私見にすぎませんが・・・・・・・


コメント(7)  トラックバック(3) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 7

コメントの受付は締め切りました
peipeiisya

奈良の未検診妊婦死産事件、マスコミのいわゆる、たらいまわし事件、では搬送をことわった奈良県立医大病院では2名の産科医が不眠不休で救急対応中でした。その日常位胎盤早期剥離の救急患者さんが母子ともに救命されました。未検診死産妊婦をうけいれていれば不幸な結果になったこともおおいに考えられますが、マスゴミは奈良県立医大病院をたたいてましたね。りっぱな犯罪ではないでしょうか。

by peipeiisya (2008-05-03 06:47) 

GYNE

 早剥後しばらく時間がたっての帝王切開は、DICがやっかいです。
 輸液と輸血、DICセット(FOY,AT-3,ミラクリッド)を投与しながら手術するのですが、あちこちから、(縫合する針の穴からまで)血が噴きだしてきたりします。凝固因子はとっくに使い果たされているので、MAP8、FFP20とかいっても血がとまらないこともあり、生血(血液型があう病棟やオペ場のスタッフからとることもあり、放射線をあてて、クロスして入れる)が凝固因子込みなので投与することもあります。結局、噴き出す血の量と、確保できる輸血量の物量戦になったりします。
 手術後、術野の覆布をとると、手術台は血の海で(DICで膣から大量の血が流れ出す)床やスタッフのスリッパまでべとべとになっていたりします。
 手術が終わっても、出血と血圧のコントロールの戦いです。脳出血や腎障害がおこってくることもあります。
 お産のほとんどは、なんともなくハッピーに終わりますが、一定の確率で、必ず、早期剥離などがおこってくるので、そういう点もマスコミが報道して、そういうことが起こったときは、患者さんも医療者もマスコミも、病気に対して共に闘おうと思えるようになるといいですね。病院では母親教室などで、あまり怖くなく、でもしっかりアピールしていますが。
by GYNE (2008-05-03 09:30) 

眠らせ屋

私も、産科麻酔では早期胎盤剥離や前置胎盤で何度か腰の力が抜けるような経験がありますが、早期胎盤剥離の母体死亡率が4~10%もある事は知りませんでした。私は一般の方に死亡率を説明する時に、あえて「死亡率4%」とは言わずに、「25人中1人が亡くなる可能性がある」と生々しい表現を使う時があります。本当は、患者を脅すような表現は使いたくはないのですが、どうしても手術や麻酔のリスクを今一つ御理解願えないときは使っています。

ご遺族の方は不信感が残っているようですが、できれば訴訟へ話しが向かない事を願うばかりです。
by 眠らせ屋 (2008-05-03 10:38) 

遺族関係者

遺族は警察にも医療ミスがあったとして届けています。
適切な処置がされていれば母親が死ぬことはなかったのです!
出血はそれほどでもなかったので、子宮を残すことにしました。脳出血の可能性もあるのでCTを取ってみましたが脳出血もありませんでした、なぜ母親が死亡したのかわかりません。と言っていたのです。

出血多量ではなかったのですね?と何回も確認しているのですこれは警察関係者の前でも医師ははっきりいっています。

出血多量で死亡したとの説明があれば遺族も普通に納得していたでしょう。なぜ医師は死亡の原因がわからないと言ったのでしょうか?
by 遺族関係者 (2008-05-03 12:40) 

なんちゃって救急医

>適切な処置がされていれば母親が死ぬことはなかったのです!

このコメントには、私は否定も肯定もできません。

これだけは、だれにもわからないこと。

これは私の自論です。 

ただ、こう思い続けることが、遺族も医療者も不幸な道の第一歩だと思います。
by なんちゃって救急医 (2008-05-03 13:31) 

なんちゃって救急医

>関係者様

事例に関するあまりに具体的な情報提示は、ブログ管理上問題が判断しましたので、直ちに削除させていただきました。ご理解の程をお願いします。
by なんちゃって救急医 (2008-05-03 13:38) 

なんちゃって救急医

なお、私自身、直ちに削除しました情報はいっさいほぞんしておりません。

申し訳ございませんが、以後当エントリーに関するブログコメントは、管理保守上、中止といたします。
by なんちゃって救急医 (2008-05-03 13:41) 

トラックバック 3

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。