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地雷遭遇確率 [救急医療]

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このブログは、救急初期診療や時間外診療における地雷疾患について語ることをメインにしている。では、救急診療をやっていて、一体どのくらいの確率で地雷疾患に遭遇するのだろうか?そんなことを考えてみたい。

本日、救急医専門医セミナーを聴講した。その中の講師の一人に、私が尊敬してやまない箕輪先生がいらっしゃった。 箕輪先生はたくさん本を書いていらっしゃるが、特に私のお気に入りの2冊といえばこれである。
救急総合診療Basic20問 、 医療現場のコミュニケーション

そんな箕輪先生の講演タイトルが、「ERディジーズ-ハイリスクである致死的疾患を見逃さないために-」であった。

そのご講演の中で、大変興味深い具体的なデータが提示された。

自施設の徒歩来院患者で、トリアージナースによるトリアージはかからずに、夜間救急センターで通常の外来診療をおこなった患者群を母数として、一体その中に、致死的疾患(Killer Disease:まさに、このブログで言うところの地雷疾患といっていよいだろう)が、どれくらいまぎれてくるかというstudyの結果だ。

結論は、0.3%であった

先生の施設は、聖マリアンナ医科大学病院である。この施設において、2005年9月~翌3月の間に徒歩来院し、トリアージナースによって併設の救命センターにトリアージされることなく夜間救急外来に来た患者4229名のうち、Killer Diseaseが13名まぎれていたというのである。その13名の内訳には、AMI2名、SAH2名、脳内出血2名、DKA1名、SMA血栓症1名、喘息発作2名、外傷3名となっていた。なお、このデータは、聖マリアンナ医科大学の田中拓先生がおまとめになったデータです。

なるほどである。

会場からある先生が質問をした。2次の施設で勤務される先生であったようだ。
「私の感覚では、0.3%よりもっと多い気がします」 
ということであった。

箕輪先生は、大学病院という性質と、じつはもっと見逃しがあるのかもしれないというご返答だった。

私は、0.3%・・・そんなもんじゃねえかなあ?と思いながら、じっと聞いていた。
(会場で発言はしませんでした)

さっそく、自分のその感覚を確かめるべく、ある病院のデータベースを調べてみた。7年間で約10万人の徒歩来院患者の転帰や疾患名などがすべてそこに残されているのだ。

徒歩来院患者全数101721人。その中から、緊急カテや緊急手術となりICUに収容された患者数を調べてみた。多くは、SAH、AMI、PTE、緊急開腹手術を要する急性腹症などの疾患がそれに該当する。
327名だった。 つまり、その比率でいえば、0.32%である。

なんと、箕輪先生のデータと一致した。恐ろしいまでの一致である。

今の施設ではどうだろうか? 記録はアナログで集めているので、客観的統計的データをすぐには出せないが、体感でいくと、自分が関わる徒歩来院患者1000~2000名/年くらいとして、記憶に残る地雷的疾患の数が10人いるかいないかという感覚なので、大体1~0.5%くらいということになる。

ということで、本エントリーの結論

急性期病院の夜間診療で、地雷疾患が隠れている確率は、0.3%くらいなのかもしれない。

では、これをふまえて、算数を一つ。 

あなたの施設では、時間外(当直帯)診療一回当たり、14名の徒歩来院患者を診察します。
あなたは、その施設で、毎月2回の当直が回ってきます。

さて、あなたは、この施設のこの勤務状況で、一年間で少なくとも1回は地雷疾患に遭遇する確率は、大体どれくらいになるでしょうか?

なお、地雷疾患が徒歩来院患者群に紛れ込んでくる確率は、箕輪先生のデータをそのまま用いることとする。つまり、地雷疾患存在確率P=0.003(0.3%)とする。

いかがでしょうか? このブログとお付き合いの長い方はピンとくるかもしれませんね。

(3月29日 記)

(3月30日 追記)
physician先生ありがとうございました。 正解でございます。 「少なくとも一回は・・・・」を見たら余事象を考えて見ましょうという確率問題における定石を使うことで、比較的簡単に立式できます。後は機械計算あるのみです。

一回あたりの試行で、ある事象が発生する確率P(Pは十分に小さい)が与えられたとして、そのPの値から、何回くらい試行すれば、すくなくとも一回はその事象がどれくらい起こりやすくなるのかということを、もっと気軽に体感できる方法はないでしょうか?

あります。私はある計算式をこのブログ上で発表していました。

合併症を算数する  、 合併症を算数する(続編)

です。

要点は、以下の通りです。

確率がp(十分に小さい値)である事象(合併症など)を繰り返し試行(検査など)する場合において、その試行回数と発生確率の関係についての公式

1) 1/p回試行(検査など)した場合、
63%の確率で、少なくとも一回はその事象(合併症など)に遭遇する。

2) 5/p回試行(検査など)した場合、
99%の確率で、少なくとも一回はその事象(合併症など)に遭遇する。

これをこの問題に適用してみます。P = 0.003ですから、1/P = 333、5/P = 1667 です。

つまり、330回程度当直すれば63%の確率で一回は地雷にあたります。1700回程度当直すれば99%の確率で一回は地雷にあたります。

そんなことを上記式が教えてくれます。

本問での年間当直回数が、14x2x12=336回ですから、地雷に一回は当たる確率は約63%とわかるわけです。付け加えて言えば、5年も続けたら必発であるともいえます。

夜間の時間外診療を継続業務として、お持ちの方は、やはり、日ごろから地雷疾患対策を練っておく必要があるという結論としてよいように私は思います。

地雷疾患存在確率のデータは、ほとんどないと箕輪先生が講演の中でおっしゃっておりました。
今後、データがもっと蓄積されれば、またいろんな新たなことがいえるかもしれませんね。


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コメント 1

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physician

1-0.997^(14x12x2)なので、63.6%ですか...
結構高いですね。
by physician (2008-03-29 23:01) 

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