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いけてる問診(5) [救急医療]

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内科診療において問診は、一つの技術である。 だから、的確にそれを行えるようになるには、相当の熟練を要するものなのだ。時に、診療は、アートと称されることもある。絶妙の問診が決まったときなんかは、まさにアートといってもいいのではないだろうか? ということで、私は、絶妙の問診を日ごろ決めてみたいと思っているのが、いかんせん、空振りのほうがはるかに多い。まだまだ修行が足らない。いや、これからもずっと修行は続くのだと思う。

いけてる問診シリーズとして、これまでこんなことを書いてきた。

いけてる問診(1)
いけてる問診(2)
いけてる問診(3)
いけてる問診(4)

さて、本日は、久々の第5弾とする。シンプルに短い症例エントリーとしてみたい。

症例  75歳男性。  主訴 唇が急に腫れた

ADLは自立の男性。当院は初診。夜、安静にてTVを見ているときに、突然唇が急に腫れてきたため、受診した。呼吸苦なし。来院時、バイタルは安定。

こんな感じです。

対応したのは、当時、ER後期研修中の3年目レジデント。彼は、レジデントの中でも知識量は豊富なやつと評価されていた。そんな彼が、バイタルが落ち着いていると確認した後、速攻でこんな問診をした。

○○○をお持ちではないですか? (病名)

患者の答えは、イエスだった。

さらに、彼は続けた。

XXXXXXというお薬を飲んでいませんか?

患者は、お薬手帳を彼に手渡した。

ビンゴだった。

単なる偶然かもしれない。しかし、見事な問診だと思う。

ここまで、自分で決着をつけたあと、彼は私の所へ報告に来てくれた。

患者には応急処置を施して、かかりつけ医に手紙を渡して帰宅してもらった。

知識として頭に入ってたら、速攻でわかる質問だし、知識がなければ、けっして出来ない問診ですよね。

皆様方、いかがでしょう?

(1月25日 記)

(1月26日 追記)

またまた、たくさんのコメントをいただきました。 moto先生、専門家としてのご意見ありがとうございました。
とりあえず、続きです。


高血圧をお持ちではないですか? (病名)

患者の答えは、イエスだった。

さらに、彼は続けた。

ACE阻害剤というお薬を飲んでいませんか?

患者は、お薬手帳を彼に手渡した。

ビンゴだった。患者は、レニベースを飲んでいた。

患者には一般の蕁麻疹と同様の処置を施して、かかりつけ医に、ACE阻害剤(レニベース)の副作用によるクインケ浮腫(angioedema)の可能性を記述した手紙を渡して帰宅してもらった

皆様のご指摘の通りです。
この症例は、ずいぶん昔の出来事でしたが、もし今のご時勢なら、 Masa 先生のおっしゃるように、最低一泊は入院させて気道緊急が起こらないことを確認するかもしれません。(エビデンスではありません、単なる感覚です)

もちろん、これは、遺伝性の場合もあるので、家族歴も聴いておかねばなりませんね。

ACE阻害剤に関しての参考URLです。ACE阻害薬による血管浮腫  血管浮腫とは

遺伝性のものは、遺伝性血管神経性浮腫 (hereditary angioneurotic edema, HANE) と呼ばれるものがあります。

薬剤性であれ、遺伝性であれ、気道緊急となってしまった場合は、地雷です。しかも、この両者で、使用薬剤が異なるというのは超やっかいです。後者は、ステロイドなどの一般アレルギー対処ではダメで、ベリナートPという特殊な製剤がキーとなります。

私達は、こういう情報を日々吸収し、使える知識としていかねばなりません。ただ、情報は増えることはあっても減ることはありません。ということは、情報収集を怠ると、すぐに浦島太郎になってしまうわけです。正直言って膨大な負担ですし、永遠にゴールはありません。 しかし、そういう我々の努力目標を逆手にとって、訴訟という形で叩かれるとその学習意欲を、激しくくじかれます。 この前のこのエントリーなんかがいい例です。⇒ AED訴訟がついに発生!

我々が、意欲を持ち続け、学習し続けられるためにも、今の訴訟社会がなんとかならないか・・・・。そう思います。

 


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共通テーマ:日記・雑感

コメント 15

コメントの受付は締め切りました
moto

うーん、自分は、皮膚科専門医でありますから、こーゆーのは、さすがにわかるわけでありますが・・一般皮膚科診療15年携わっていて、「XXXXXXというお薬」が原因の唇は、皮膚科には回ってこなかったなー。循環器で患者診てるとけっこうあるものなんですか?咳なんかは有名でしょうが。
もし、けっこうあるなら、原因がはっきりわかるんで、内科の先生との相談・お薬変更で対処されてて、皮膚科には回ってこないのかもですねー。
皮膚科で相談受けるのは、食事性の原因のことが多かったですね。カニとか。ただ食べただけじゃなく、運動負荷すると出る、とかもあります。
まあ、原因わかっても、食事性の場合は、カニ好きなひとは、抗ヒスタミン剤内服しながら、カニたべてるみたいですけどねー、喉頭浮腫の危険とか説明しても。
by moto (2008-01-25 23:19) 

おが

初めて書き込みさせていただきます。臨床を離れて5年になる者です。この状態はクインケ浮腫でしょうか。だとすると質問の病名が高血圧で、薬がACE阻害薬というのもありかと思いました。
by おが (2008-01-25 23:25) 

moto

続き)あと、皮膚科としては、この唇みたら、「アボガド食べませんでしたか?」って最初に聞くでしょうね。最近じゃ、和食のサラダなんかにも入ってるし。
エントリーで示唆されてるやつのほうは、左右非対称なことが多いです。それと、唇っていうよりか、唇から頬にかけて、って感じに腫れるのが典型かと思います。
by moto (2008-01-25 23:30) 

海外研究留学中脳血管内科医

現在、海外に研究留学中で臨床を離れて3年になる内科医です。
いつもブログを拝見させて頂き大変勉強をさせて頂いています。
今回の御症例ですが、写真を一見しますと左鼻唇溝が右に比して弱いかな(おそらく画像解像度の問題なのでしょうが)、口角下垂はないけどもしかしたら軽い抹消性顔面神経麻痺はないかな?。口唇腫脹があるので、さらに口腔内の診察でひだ状舌をを認めましたらMelkersson-Rosenthal症候群をちらっと考えてしまいます。
ただ、文脈からしますと違いますね。
by 海外研究留学中脳血管内科医 (2008-01-26 06:36) 

子育て中内科医

初めてコメントさせていただきます。とってもシンプルな答えなのですが、
「不整脈はお持ちでないですか?」
「ワーファリンという薬をおもちでないですか?」
でしょうか?
by 子育て中内科医 (2008-01-26 08:40) 

503

高血圧にレニベースかな?
上にも出てますが、Quincke's edemaに一票。

ちょっと前に風邪で御来院の患者さん、喉に傷があるので既往を聞いたら、以前血圧の薬を飲んだ後苦しくなって救急病院へ。咽頭浮腫で気管切開して一命を取り留めたとか。ACEIだったそうで。
by 503 (2008-01-26 09:15) 

ある町医者

実際見たこともなく知識でしかしらないクィンケ浮腫なんですが、これだったとしたら1日経過をみるとかしないでいいのでしょうか?
外来にこういう患者が来たとき、503さんが書かれているなことが起こるとしたら怖いです、特に町医者の身では。
それと、「応急処置」って何なのでしょう?
by ある町医者 (2008-01-26 10:11) 

とび

高j血圧にカルシウム拮抗薬,ACEiが思い浮かびました(文字数は商品名で適当に).けれど,前者は下腿浮腫が有名ですね(3例経験).後者のクインケ浮腫は未経験ですが,ACEiは頻用するので副作用がいつも気に掛かりますね.
食事メニューの問診も必須と思います.マンゴー,パイナップル,スイカ,キウィ,アボカド…けれど,急性の蕁麻疹ということが分かり,その原因を探って,薬,食べ物,を探れば,時間の長短はあれ,おのずと診断は出てくるものかと思います.
by とび (2008-01-26 11:26) 

moto

>ある町医者様
クインケ浮腫は、限局性の深在性蕁麻疹なので、口回りにどんなに大きく出ていても、その時点で呼吸困難なければ、それ以上進展はしにくいかと思います。出始めのときは別ですが。
患者はたいてい、出てから数時間以上経過後に外来に来ますからそれ以上進展することはありません。気道緊急きたすのは、救急車ではこばれてるのかも。
だから、普通の外来でクインケ浮腫をみたときには、心配はいらないです。次に同じような腫れがあって、呼吸苦しくなるようなことがもしあれば、救急車呼びなさい、と助言するくらいでしょうか。
(しかし、繰り返す場合は、たいてい、同じところに出てくる気がします)
by moto (2008-01-26 11:49) 

Masa

いつも興味深く拝見しております。
ある地方病院で救急に携わっております。

私自身は2例ほどACE阻害剤でAngioedemaを起こした症例を経験したことがあります。気道緊急の可能性があるので経過観察のため入院して頂きましたが,大事に至らずに症状は一日程度で軽快した覚えがあります。

C1エステラーゼ阻害の欠損が関与していることがあるようです。
by Masa (2008-01-26 12:28) 

moto

ACE阻害剤のクインケ浮腫は、咽頭・喉頭におきやすいんだそうですね。エナラプリルで、気道緊急起こした症例の概略が書いてあるもの見つけました。
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb13GS40.nsf/0/8feef04ec7f6a31a492573b50002930c/$FILE/20071218_1shiryou2-8_2.pdf

判例で、クインケ浮腫+気道緊急のキーワードで調べてみましたが、見当たらないみたいですね。
関連で、喉頭蓋炎で、診療経過一覧が別表となっている判決みつけました。生々しくて、一見の価値ありです。
http://www.courts.go.jp/tenpu/pdf4/0B464F85AD33CA2D49256E2F0029EF75-1.pdf
(判決文はこちら↓
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/0B464F85AD33CA2D49256E2F0029EF75.pdf
by moto (2008-01-26 20:11) 

moto

続き)蛇足ですが、喉頭蓋炎は、やっぱり裁判になってるの多いみたいですね。こんなのもありました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/228525B3D5EC070349256B88002AC605.pdf
by moto (2008-01-26 20:17) 

ある町医者

口唇部に初発した場合は、喉頭浮腫にはならないってことですね。
motoさん、ありがとうございます。

口唇部の浮腫が、「初期症状」でその後で喉頭浮腫も起こりえる、可能性があるとしたら、訴訟では「見逃した」と言われる。そして間違いなく何千万円かの賠償と、時には「見逃した」として業務上過失致死あるいは致傷として刑事裁判にかけられる可能性もある。
町医者として、勤務医以上に防衛医療に徹していないといけないですから、こういうことには敏感になります。

それにしても、いやなご時世になりましたねぇ、、、
by ある町医者 (2008-01-27 09:33) 

tomopons

昨夜の当直で早速、クインケ浮腫らしき患者が来ました。すぐ内服薬をチェックしました。ACE阻害薬がやっぱりありました。その人は10年ぐらい内服しているそうですが、今回が初めてでした。それとは別件で近くの開業耳鼻科から喉頭蓋炎も紹介になり、耳鼻科Drを呼び出しました。その本人はいたって元気でしたが、経過観察目的に入院になってました。他にもアル中、薬中などたくさん来て疲れました。
by tomopons (2008-01-27 20:16) 

組長(2年目研修医)

いつも勉強させて頂いています.

私が研修している病院のある地域にHANEの家系がいらっしゃるのですが,私が診た3人の患者さんの主症状は腹痛,腹水,腸管浮腫でした.
その内1人は初発時に浮腫無しの上記3症状のみで来院され,すわ急性腹症かと緊張しましたが,まだ卒後数ヶ月だった私はお行儀通り「同じような症状になられたご家族はおられませんか?」と家族歴を聞いたところ「母と妹が遺伝性の浮腫になる病気でここにかかっている」と言われたので,もしかしてと思って採血デ−タにC3,C4を追加したところビンゴでした.

でも,クインケ浮腫とACEIの関係はすっかり忘れていました.
ホント,毎回勉強になりますm(__)m
by 組長(2年目研修医) (2008-01-27 22:01) 

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