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破傷風という地雷 [救急医療]

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今回のエントリーは、こんな症例から入ってみたい。 あるサイトからの引用症例であることをお断りしておく。 (引用元は、後日提示予定)

症例1  56歳男性 食欲不振、腰痛
2、3日前よりの咽頭痛、耳の痛み、食欲不振、腰痛にて来院。上気道感染、腰痛症の診断で入院となった。患者は、その9日後、入院中に心肺停止。その後死亡した。

症例2  88歳男性  腰背部痛、歩行傷害
2日前より頚部痛、背部痛、腰痛を自覚するようになった。本日より歩行障害を認めて来院。

症例3  63歳男性  排痰困難、呼吸困難
3日前より自己排痰困難となり、次第に腰背部痛、開口障害を自覚。排痰困難、呼吸困難にて来院。

とりあえず、部分引用で提示してみました。 3症例とも同じ疾患です。  では、続きは後日に。

早いですが、続きを書きます。

moto様、僻地外科医様、春野ことり様、すばやいレスをありがとうございました。情報を意図的に抜いて分かりにくくしたつもりでしたが、まさか、引用元まであてられてしまうとは・・・・ すごすぎです。恐れ入りました。
皆様のご指摘どおり、これらの症例は、破傷風でした。
有名な名前だから、誰しもが聞いたことがあると思います。。 
参考URL⇒ http://www3.johac.rofuku.go.jp/infection/bacteria/tetanus.html
厚生労働省のURL ⇒ http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-12.html

破傷風菌は、土壌中に棲息する。傷口から破傷風菌が体内に侵入した場合、深部で嫌気性発育する。体内で増殖した破傷風菌が破傷風毒素を産生すると、この毒素が全身の筋肉を麻痺させる。これが破傷風 Tetanus である

moto様のご指摘の通り、症例の引用元はhttp://www.tokushukai.or.jp/media/dnet/d-net6_hasyoufu.html でした。 

そこを見ると、もう少し詳しい病歴が記載されています。

開口障害は、特異性の高い病歴となりえるかもしれないが、他の症例にあるような、腰痛、背部痛、呼吸苦だけからでは、あまりによくある症候で、いきなり、「しまうま」的な破傷風を想定できるはずもないし、想定してもいけないと思う。

やはり、鍵は、先行する外傷の病歴であろう。 患者側が積極的に申告してくれれば、診察する側も破傷風を疑いやすいかもしれない。 医療者側も、病歴聴取の際に、この重要情報を引き出せるかどうかが、初期診療における腕の見せ所といったところかもしれない。

さて、破傷風の頻度はどれくらだろう。ちなみに、私には、経験がない。 それほど、頻発しているとは思えない。調べてみた。http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-01.html

感染症報告数(5類感染症【全数把握】)

疾病年次 破傷風 
1999      66
2000      91
2001      80
2002     106
2003      73
2004     101
2005     115

日本全国で、たったこれだけである。未申告分もあるであろうから、実数はこれよりも多いであろうが、それでもレアであることには変わりないと思う。一般に平均的な医療水準として、頻度の低い疾患は、初期症状の段階で的確な診断、的確な対応をするのは、正直困難である。

それでも、我々は、できるだけのことをやりたいから、日々勉強し、日々努力している。それが平均的な救急医療の姿である。残念なことに、マスコミは、その現実を世間に伝えていない。これは明らかにマスコミの過失である。マスコミの報道ミスであると私は考えている。

こんなレア疾患の初期対応が残念ながら出来なかった場合に、それを医療ミスなんて、責められたら、だれも医療をやる人なんかいないだろう。

そこで、過去の医療の報道を検索してみた。 なんと、破傷風で医療ミスとして、医師の責任にさせられている事例が見つかってしまった・・・・・・。
脱力である。まさか、本当にヒットするとは思わなかっただけに、悲しい気持ちである。 本日、破傷風を、地雷認定とさせていただきました。

さて、その報道記事である。

5300万円支払い、和解へ H市が医療ミス認め--H病院訴訟 /19XX .02.YY 地方版
◇破傷風治療で対応遅れ
 H市立H病院で1989年N月、治療を受けた女性(当時60歳)が、気道閉そくによる窒息から低酸素脳症を引き起こし、重い後遺症が残ったのは病院に過失があっ
たとして、本人と家族が8984万円の損害賠償を求めた訴訟で、市は24日、医療ミスを認め、5300万円を支払い、和解する方針を示した。関連議案を5日開会の3月
議会に提案する。94年M月、知多郡南知多町の主婦と夫がXX地裁に提訴した。
 訴状などによると、主婦は、
あごがはずれ、口の開かなくなる症状を訴え、同年N月8日、紹介状を持ちH病院で診察を受けた。担当医師は破傷風と疑いつつも、気道確保の緊急手術の必要はないと判断し、経過観察の入院の措置を取った。ところが、翌朝、患者の容体は急変し、のどにたんが詰まって呼吸困難の状態に。応急措置を試みたものの、低酸素脳症のために重い後遺症が残った。
 和解に合意したことについて、H病院のR院長は「破傷風と疑いつつも断定できなかったため、対応が遅れた。のどを切開するのは患者を傷つけることになり、ためらいがあったのだろう。
結果的には医療ミスであり、担当医師の判断に誤りがあった」と説明している。H病院は、医師賠償責任保険に入っており、和解金は同保険から支払われる。保険料として、市は年間642万円を負担している。H病院では、91年11月に胃がんの手術を受けた女性が医療ミスのため死亡。このため、市は95年12月、遺族と和解し、損害賠償金3100万円を支払った。その際、院長や外科部長ら4人を減給処分などとした。毎日新聞社

>あごがはずれ   ???ですが、ご愛嬌ということで許してあげましょう。

所詮、新聞記事ですから、情報操作が入っていることを考えておかなくてはなりません。院長が本当にこのように言ったのでしょうか? 私には、にわかには信じられません。
>結果的には医療ミスであり、担当医師の判断に誤りがあった

これは、後知恵バイアスに基づいた典型発言です。 
※後知恵バイアスに関する参考エントリー ⇒ 本当に腸炎でいいですか? 

>結果的には医療ミスであり・・・
病院管理者が、決して言ってはならない禁句です


まあ、新聞社が適当に捏造した可能性も十分すぎるほどありますがね。

積極的にやりにいって、合併症がでても、医療ミスで叩かれ、このケースのように保存的にみようとして、結果的に残念結果に終わっても、医療ミスで叩かれる・・・・・

病気という自然現象の進行に伴う残念な結果の責任を、医療者に押し付けるような社会風潮が続く限り、今の医療は決してよくなることはないでしょう。


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コメント 14

コメントの受付は締め切りました
moto

これは、当てに行きますよ。
ズバリ、破傷風。サイトはこちらでしょう!
http://www.tokushukai.jp/media/dnet/d-net6_hasyoufu.html
by moto (2007-09-16 11:20) 

春野ことり

開口障害と来たら破傷風ですね。馬鹿の一つ覚えですが。
でも、このキーワードがないとわかりません。
by 春野ことり (2007-09-16 11:33) 

僻地外科医

どうみても破傷風ですね
by 僻地外科医 (2007-09-16 11:39) 

Med_Law

後からは症状が幾らでもでてくるけれど、患者さんが入って来たときには、自分から上手く説明できない、説明しない人が多いんだよね。

重症化してから、問いただすとそういえば。。。。ってことも

上の3つも患者が一つ二つキーワードを逃せば、ただの上気道炎

●●で説明できる。というレベルと、●●であるというレベルの違いを意識しないで謝る医療関係者が多いのでビックリする。

後だしジャンケンというのは、あとから辻褄合わせることでも強化されるので、信頼ならない(Recall Bias!)

Case Study、Case Series Studyの限界ということでしょうね
Case Seriesごときで雄弁に物語る先生が学会で多いので、ビックリします。指導者も信じているんでしょうか?
by Med_Law (2007-09-16 18:46) 

Med_Law

ついでに
『担当医師は破傷風と疑いつつも、気道確保の緊急手術の必要はないと判断し、経過観察の入院の措置を取った。』
と言うのは、自白(=自己に不利な証拠の提出・容認)になります

正しくは、破傷風など予見できなかった(≠確率が非常に低いと思っていた。≠創部汚染を考える理由がない)と言うべき。

過失は、予見可能性を前提とした結果回避義務と、二段階で認定されます
破傷風は予見できなかった。予見できる症状が揃った時には結果(=死亡、後遺症)が回避できなかった、とするのが正しい態度でしょうね

この例では、後遺症が残ったのは、病気が悪いのであって、非常に稀な病気に気がつかなかった過失によるものではないでしょう。
胸を張って、患者の言い掛かりを跳ね除ける気概がなくては、医療訴訟には勝てないでしょうね
(ましてや、この院長のように後ろから撃たれるような事態ではね)
by Med_Law (2007-09-16 19:01) 

moto

こういうクイズとしてなら、正答できるけど、実際に患者診断できるか?というと、まったく自信ないです。
そもそも、破傷風の患者なんてみたことがないし。
僻地外科医先生なんかは、経験多そうですが、みたことありますか?
それから、破傷風トキソイドって、みなさん自分に打ってらっしゃいますか?わたし、医者になって20年以上たちますが、そういえば打ったことない。何があるかわからんし打っとこうかなあ。
by moto (2007-09-16 22:10) 

moto

Yosyan先生とこで、日本脳炎ワクチンの話がでたときにも、そういえば自分にも打っとこうと思いました。
それで、ちょっと思ったのは、こういうワクチンで、免疫つけるのはいいけど、ヒトのリンパ球って有限なんだから、どれかが活性化すると、残りのどれかが非活性化していったりはしないものだろうか?。。
日本脳炎や破傷風には強くなっても、ほかの何かに対する免疫(腫瘍免疫とか)が弱くなったりしないのかな?
by moto (2007-09-16 22:21) 

デック

小さい子供だったら
三種混合ワクチンですね。

小学校 中学校だと2種混合ワクチン

でも、あんまり受けに来ないんだよなぁ。。。。
by デック (2007-09-16 22:21) 

moto

デック様、ご自分には打ってます?
百日咳はともかく、ジフテリアなんか、ロシア東欧じゃ流行することもあるみたいだし、二種混合くらい、この際自分に打っとこうかと思うんですが、どう思われますか?
by moto (2007-09-16 22:33) 

眼科医

眼科医ですが、わかりました!しかし、これは端的に症状が整理されて書かれているからですが・・・
ところで私はアメリカに留学した時に、動物実験するなら打った方がいいと言われて、予防接種しましたよ。
by 眼科医 (2007-09-16 23:18) 

僻地外科医

私、どかどかトキソイドやらテタノブリンやら使ってますもので・・・。

初診で診た患者さんでの破傷風は経験無いですね。
3次救急病院にいたときに見たことはあります。
ですが、開口障害を問診できちんと把握できる先生はおっしゃる通り少ないと思います。
by 僻地外科医 (2007-09-17 00:20) 

Dr. I

やっぱり、破傷風って実際に見た事ある人は、ほとんどいませんよね。
明らかな外傷の既往がなければ、診断できる自信は、全くありませんね、私は。

医療訴訟の話も、破傷風を疑った、とかって言うのが逆に悪い、というか。
全く原因不明でなくなった、って事でカルテにも何も書かない方が、結果的には良い事もあるのかな、って思っちゃいました。
by Dr. I (2007-09-17 00:29) 

勤務医です。 

破傷風は 一例しか経験がありません。初めは まさか破傷風ではないよね と思った患者さんです。

海老沢功先生の本が 読みやすい と思いますが、初版しか持っていません。第二版が出ているようです。
外傷歴は 不明のことが多かったと思いますので、鍵にはならない と思います。
口を開けにくい という症状をいかに早くとらえるか だと思っていました。
脳梗塞と間違えた とか いろいろな症例報告がありますが、
よくきけば ないし よく診察すれば 典型的な症候はあったそうです。

引用されましたうちの2例からは ギランバレ症候群とか 脳幹や頸髄障害とかの鑑別疾患として 忘れてはならないものになるでしょうか。
by 勤務医です。  (2007-09-17 18:15) 

勤務医です。

追加です。

破傷風の約1/4の患者さんでは 外傷歴は明らかではない 
と書かれていました。

縮瞳と、筋緊張亢進、高CK血症に注意
と書かれています。
by 勤務医です。 (2007-09-22 00:26) 

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