左肩痛の女と老女 [救急医療]
救急外来というところは、急な症状が出現したときに、患者が来院するところだ。 従って、急に○○が痛くなったというのは、救急外来を訪れる適切な理由といえる。 さて、その痛がり方は、まさに百人百様・・・・・・。 我慢強い人、大げさな人 という性格に起因する問題、 疾患上の性質そのものに起因する問題などいろいろだ。患者側からすれば、激しく痛がってる場合こそが重症で緊急性が高いのではないかという認識をもつのも無理はないかと思う。しかし、それは違う。 我々が真に緊急事態(生命の危機)と判断するのと、今、目の前での痛みという状況は、我々にとっては、あまり相関がないのだ。 だから、「こんなに激しく痛がっているのに、なんで早く診ないのか!」というクレームは、我々にとっては、時に的外れな物言いで、困ってしまうことがある。
どちらが緊急性が高そうか考えてほしい。
症例1 80歳女性 左肩痛。
糖尿病で通院中の患者。入浴後に、漠然と左肩の違和感が生じた。 肩こりかなと思って様子をみたが、一時間も持続するため、来院した。 来院時、症状はほぼ消失。うっすらと違和感が残っている。
症例2 40歳女性 左肩痛
うつ病で通院中の患者。入浴後に、突然激しい左肩の痛みが生じ、まったく我慢が出来ないほどの激痛。左肩を動かすことすら出来なくなった。夫が救急車を呼び、来院。「痛い」「痛い」と悲痛な叫び声が、救急外来に響いている。 夫が、早く診ろといわんばかり、怖い顔をしてこちらをにらんでいる。
今、時間外外来には、医師はあなた一人です。この二人が同時に来院しました。さあ、あなたは、どうしますか?
続きは、後日。
では、続きです。 症例1、2ともすでに的確なコメントをいただいております。お見事ですね。
結論は、症例1のほうが緊急性が高そうということです。
症例1を何もせずに漫然と待たせていると、こんな地雷を踏むかもしれません。
エントリーNo48 待ち時間に潜む地雷
高齢、女性、糖尿病の方は、たとえ心筋梗塞を発症しても、明確な胸痛を訴えてくれないことがあります。ですので、横隔膜より上の漠然とした身体症状は、常に心筋梗塞を想定する必要があります。当然、症例1は、何よりも先に12誘導心電図が必要です。ただ、心電図で異常がないということだけで、心筋梗塞をすぐにあっさりと否定してはいけません。( 12誘導心電図のST上昇の所見は、心筋梗塞に対して、特異度は高いが、感度はそう高くないということです。)
では、症例2はどうでしょうか?突然発症の肩の激痛です。内科の時間外でもたまに遭遇するかもしれません。知っておいて損はないかもしれません。
こんな画像でした。画像はここから引用させていただきました。http://www.tokyoeisei.com/shinryou/shinryou-seikeigeka_topic04.html
関節内に、何か石灰化のようなものが見えます。 実は、こんな病気です。レントゲンで一発診断が可能な疾患です。内科の先生方には意外と知られてないかもしれません。
(整形の先生は常識だと推察しますが)
参考URL 石灰沈着性腱板炎
この病気は、本当に痛がるのですが、少なくとも、夜間に緊急に整形外科の先生を呼び出すほどの生命にかかわるような緊急性はありません。
ただ、気をつけておきたいのは、生命の危機がないからといって、痛がる相手やその家族に共感する態度をまったく出さなかったら、それはそれでトラブルのもとであるから気をつけて。
多くの医師が大変不愉快に感じるある弁護士さんのブログがあります。(あえてここでは引用はしませんし、コメントでURLを掲示されれば、管理者判断でそのコメントは削除いたします。)その方は医師に対する共感さがまったく欠けていることがその理由だと私は考えています。だからこそ、彼と同じことを、我々医師が、患者に行ってはいけないとおもいます。
まとめます。
本日の教訓
生命の緊急性とその場の痛みの度合いは相関しない。しかし、痛がる相手には共感を示すことも忘れずに。
症例1はAMIっぽいですね。
症例2は後回しにしたいですね。
by ER (2007-08-26 01:41)
症例2は石灰沈着性腱板炎ですね。
by じゅn (2007-08-26 09:28)
>ER様、じゅn様
お見事です。完璧です。 ありがとうございました。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-26 18:49)