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合併症を算数する [医療記事]

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ある手術やある検査を行ったとき、不幸にも何らかのトラブルがあったとしよう。 そんなとき、患者側は「医療ミスだ!」と、医療者側は「合併症だ!」とそれぞれの主張がまっこうから対立し平行線に終わることもある。 患者側は、たとえ合併症のことを事前に聞いていたとしても、そんな低い確率のものが自分に起こるはずがない、だから、きっと何か医療者側がミスを隠しているのかもしれないと思いがちだ。特に、事前の両者の信頼関係が不十分のときは、なおのことそうなりやすい。一方、医療者側は、同じことを日々の業務の中で繰り返し同じようなことをやっており、たとえ合併症がおきたとしても、いつもと同じようにやっていたのに起きてしまったとしか言いようがない場合が多い。

つまり、合併症の発生についての感覚に関して、両者の間に次のような違いがあるような気がする。
患者側=めったに起らない、
医療者側=そう珍しいことではない 

本日は、この感覚の違いについて数学的考察を行い、一般の方々に「合併症」なるものの医療者側の考えについて少しでも理解していただければと思う。

本日のエントリーでは、この問題が理解できることを目標とする

当院の循環器科では、冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)を施行するにあたり、脳血管障害など重篤な合併症が生じる確率は、1/1000(=0.1%)と説明して患者の同意を得ている。さて、当循環器科で、1000例の検査を施行したとき、重篤な合併症が少なくとも一件は生じる確率は何%であろうか? また、いったいこの施設で何例くらいを施行した場合に、少なくとも一件は合併症が生じる確率が99%にまで到達するであろうか?

患者さんにしてみれば、造影検査なんて一生にせいぜい数回うけるくらいでしょう。 たとえば、3回受けても、いちども重篤な合併症が生じない確率Pは次のようになります。

P=(1-1/1000)^3 = 0.999^3 = 0.997 = 99.7%  いいかえれば、合併症に巻き込まれる確率が100%-99.7% = 0.3% となります。

患者側の視点で眺めれば、確かに、まあ、私は大丈夫でしょう とう感覚でもうなずける数字です。

ところが、医療者側の視点で眺めると、話が変わってきます。 何が違うのでしょうか?

医療者側は、検査が日常です。つまり、繰り返し同じ検査を施行します。 検査の施行回数が決定的に患者側とは異なるのです。
試行回数が増えれば増えるほど、たとえ一回あたりの確率が小さくても、結果的には、合併症発生の確率は著しく高まるのです

私はこのことを、算数を通して、多くの人に実感してほしいのです。そして、医療者側の話を、信頼をもって理解できるようになってほしいのです。

ですので、
医療者側からすれば、一つので合併症で、やれ訴訟だの裁判だの賠償だの、大騒ぎされたら、正直たまらんのです。


では、皆さん、まずは、各自で計算をしてみて確認をしてみてください。

算数の土台を以下に準備しておきます。

合併症の発生する確率をpとする。 ただしp<0.05
検査の試行回数をNとする。
このとき、すくなくとも一回は合併症が発生する確率をf(N)とする。

すると  f(N) =1-(1-p)^N となる。

ここで、p → 0 のとき (1-p)^(-1/p)  → e  なる極限の関係を上式に利用することを考えるべく、式変形を行えば、次のようにできる。

      f(N) = 1-{(1-p)^(-1/p)}^(-pN)
          ≒ 1- e^(-pN) ・・・・・・・・・・・・①

①式を使えば、問題の計算は比較的容易にできるであろう。

続きは、続編で。


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共通テーマ:日記・雑感

コメント 8

コメントの受付は締め切りました
moto

「p → 0 のとき (1-p)^(-1/p)  → e」のところで、何じゃこりゃ?とビビりましたが、単にeの定義「n→∞のとき e=lim(1+1/n)^n」のnを-1/pに置き換えただけの式なんですね。あせりました(^^;。
さてf(N) =1- e^(-0.001×N)計算してみると、
N=1のときf(N) =0.001
N=10のときf(N) =0.010
N=100のときf(N) =0.095
N=1000のときf(N) =0.630
ですね。f(N) =0.99となるのは、逆算してN=4605になりました。
p=0.001なら、1000回やれば一回くらい起きるだろう、と思うんですが、直観では数字まではイメージできません。面白いものですね。
by moto (2007-08-23 19:29) 

moto

ところで、このf(N) ≒ 1- e^(-pN)の確率を増やさない方法をひとつだけ思いつきました。
それは、pをNの関数としてしまうことです。すなわち、p(N)=q/Nとしてしまえば、f(N)は永遠に一定値です。
術者の手技の向上やリスク回避の努力によって、二回目には2倍、1000回目には1000倍、合併症出現率が下がるように、ノウハウの蓄積がなされていけば、いいわけですね(笑。
by moto (2007-08-23 20:46) 

moto

医者「この検査による合併症の確率は0.001%、すなわち千分の一です」
患者「この病院ではこれまでに何例の検査がなされて、合併症は何例あったのでしょうか?」
医者「これまでに999例行って、合併症は一例もありません」
患者「とんでもない、それじゃ、僕が1000例目で合併症が起きると決まったようなものじゃないですか」
-----
(別の病院へ行って)
患者「この病院ではこの検査はこれまでに何例なされているのでしょうか?」
医者「あなたが初めてです」
患者「それじゃあ、正真正銘、合併症の起きる確率は1000分の1で、まず起きっこないということですね。ぜひお願いします」
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てな患者は・・さすがにいないか(^^;
by moto (2007-08-23 20:57) 

元なんちゃって救急医

>moto先生

コメントありがとうございます。
ちなみに、患者の立場からは、つねに0.1%です。
一回目であろうが、1000回目であろうが関係ありません。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-23 21:05) 

NATROM

>moto先生

-----
(またまた別の病院へ行って)
患者「この病院では合併症は何例あったのでしょうか?」
医者「実は、ここ最近、三例ほど合併症が続いています」
患者「1000分の1が4例続くことなどまずありえない、1000の4乗分の1ぐらいの確率なので、私はまず大丈夫ですね。この病院で検査を受けます」
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とかなったりして。

確率の話を正確に理解できるような方々ばかりであれば、我々の苦労も少ないのでしょうが。
by NATROM (2007-08-23 23:45) 

元なんちゃって救急医

自分で偶然気がついたのですが、このエントリーは、ポアソン分布と大いに関連があるようです。①式の第二項は、一度も事象が起きない場合の確率をポアソン近似で求める方法と一致してます。 
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-24 08:38) 

moto

そういわれてみればそうですね。
eで近似させた時点で、二項分布からポアソン分布に近似しちゃってるということですね?
なんちゃって救急医先生は、数学できそうだし、医者以外に適職があったんじゃないでしょうか。
少なくとも基礎とかでも良かったかも。
産業医も統計使うから意外と向いてるのかな?
by moto (2007-08-24 11:53) 

元なんちゃって救急医

>moto先生

>産業医も統計使うから意外と向いてるのかな?

う~~ん、するどい・・・・・ 心揺れる毎日ですう。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-24 19:53) 

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