謎の腹痛(続き) [救急医療]
本日のエントリ-は、前日のエントリーの続編です。
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皆様、たくさんのコメントをありがとうございます。 こちらもずいぶんといろんな病気を教えてもらいました。
では、さっそく続きに入ります。
F先生は研修医の病歴を聞き、諸検査の結果をふまえて、CTをじっと見た。 そして、ある部分のスライスのある箇所を指差した。じつにピンポイントの箇所だ。
「これじゃないの?」
「Urachal cystの感染じゃねえの?」 とF先生は一言。
http://www.qqct.jp/seminar_answer.php?id=93 より引用
文献考察:尿膜管遺残.urachal remnants
戸谷拓二. Ⅶ.尿膜管遺残. 小児外科Ⅴ. 新外科学大系30E. 中山書店. 東京. 86-88,1992
要旨:胎生期の尿膜管urachusは腹膜と腹横筋膜との間を膀胱底部より臍部へ走行し,尿嚢allantoisと連絡している.出生後は閉鎖し結合組織性の索条物すなわち正中臍索median umbilical cordとなるが,この過程の障害によりいろいろな尿膜管遺残urachal remnantsが形成される.1)尿膜管開存.patent urachus:尿膜管は閉鎖せず完全に遺残する.臍部から膀胱底部まで瘻管で開通しているので臍から間欠的に尿が流出し,尿膜管瘻urachal fistulaとも呼ばれる.2)尿膜管洞.urachal sinus:瘻管は膀胱と連絡しておらず,臍部にのみ開口する.尿漏出をみないが,臍部から粘液や膿を分泌する.3)尿膜管嚢胞.urachal cyst:臍と膀胱底部の中間で,腹壁正中に嚢胞を形成し,臍部に瘻孔をみない.乳幼児に多く,極めて感染しやすい.膿瘍を形成すると尿膜管化膿pyourachusと呼ばれる.感染により嚢胞が膀胱または臍部に自潰して膿尿,臍からの膿排泄をみることがある.4)尿膜管性膀胱憩室.urachal diverticulum:尿膜管洞とは逆に臍部と連絡がなく,瘻管は膀胱にのみ開口する.感染により膀胱炎症状が出現する.
簡単に言うと、本来は、無くなるはずの解剖学的構造物が、遺残物として体内に残っていて、それが感染を起こすってパターンですね。はっきりいってレアケースだと思います。 私は、確診例を2例、疑診例1例の経験があります。泌尿器科の先生方に症例が集まると思うので、泌尿器科の先生方の間では、よく知られているのかもしれません。
この症例は、入院後、抗生剤を行きながら、泌尿器科にコンサルト。やはり、腹痛の原因としては、Urachal cystの感染でいいだろうということで決着がついた。 感染が落ち着いた時点で一旦退院し、後日、泌尿器科に再入院して、遺残物の摘除術が行なわれた。
しかし、けっこう痛がるものですね。これは、事前知識がないと、いくらCTをみていもピンとこないと思います。
腹部CTに関して、とても勉強になるサイトをご紹介します。 急性腹症のCT の著者の一人である堀川先生が運営するサイトです。http://www.qqct.jp/
このサイトから、尿膜管遺残に関する症例です。(堀川先生より引用の許可をいただいています)
http://www.qqct.jp/seminar.php?id=1039
http://www.qqct.jp/seminar.php?id=93
僻地外科医先生のコメントです。
「じゃあ、WBCが上昇してる、臍周囲ってあたりで尿膜管遺残症とか?
でも、それなら臍炎とかあってもいい気が・・・。」
いやあ、お見事ですね。 ちなみにこの症例には、臍炎はありませんでしたが、私が経験した他の2例には臍炎またはその既往がありました。
いかがでしたでしょうか? 今回は、ちょっとマニアックなケースでした。 一般の方々は、少し引いてしまうエントリーだったかもしれません。 まあ、基本的にはよくある疾患を、ブログの基本コンセプトとして、たまに、マニアックものを混ぜ合わせるという形で、今後もブログ書いていこうかと思います。
なるほど尿膜管遺残でしたか。
難治性の臍炎では、必ず鑑別にあげないといけない疾患ではありますが、これ単体の炎症はあんがい経験しない、レアな疾患だと思います。
この病気の恐いのは発癌の母地になることです。
腹壁腫瘍ということで紹介され、開けてみたらどう考えても悪性で、とてもエンブロックに取れるものではなく、病理結果で尿膜管腺癌と診断され、泌尿器に化学療法目的で転科した症例を経験しています。
by みさき (2007-08-21 23:30)
こういう問題形式のブログというのは珍しいし面白いので、ぜひ、これからもこの路線でお願いしたいものです。
お願いばかりで恐縮ですが、ネタ(疾患)選びにあたっては、前に使ったものでも、繰り返し出題していただけるとありがたいです。外来で患者を診るときに、直前に診たのとまったく同じ疾患であったって、ぜんぜんおかしくないですから。
そのほうが臨床感があります。
以上、勝手な個人的希望ですが、ご検討ください。
by moto (2007-08-22 00:37)
おぉ~。当たってましたか。小児外科にいた頃はよく見てますけど、成人例は1例しか当たってないですね~、これ。私の経験例ではすべて臍炎を伴ってるもので、みさき先生がおっしゃるように臍炎を伴わない単独感染はすごくレアだと思います。
by 僻地外科医 (2007-08-22 06:51)
経験するとUSでもわかるようになりますが、稀な疾患なので難しい。
by hama (2007-08-22 09:04)
以前、同じような症例を
10歳の男の子で見つけたことがあります。
感染を起こしていましたが
Ctをとったら大きな嚢胞が。。。
by デック (2007-08-22 09:27)
全然分かりませんでした,というか,地雷から離れるというので,その意味を取り違えて,とってもポピュラーな疾患が回答なのかなと思っていました.
それは,さておき,病歴で「鉛曝露なし」は,すばらしいっ!「急性腹症」の 場合は,鉛曝露歴は必ずきいて欲しいと思っている私ですが感動いたしました.
by ミチバ (2007-08-22 13:27)
皆様、コメントありがとうございます。
レアもの、たまにですが、エントリーしていきたいと思います。
ネタが尽きるのも早そうですが・・・・・
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-23 16:28)
管理人様おつです。自分とこの疾患なので出てきました。たまにはこういうのもいいですね。
我々もそうはお目にかかりません。以前勤務していた病院(約900床、地方都市の中核病院)での泌尿器科入院患者一覧で検索すると、尿膜管関係疾患は年1人平均ってとこでした。
by おしっこのお医者さん@ (2007-08-23 19:53)
>おしっこのお医者さん@様
そうでしたか、泌尿器科でもそうは多くないのですね。
やっぱりレアなんですね。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-24 23:23)
たしか柔ちゃんがこれで手術した記憶が・・・。
by 参加医 (2007-08-25 15:57)
>参加医様
そうですか。それは知りませんでした。 ネットで検索してもヒットせず・・・でした。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-26 19:00)
"Urachal cyst"の誤字では?
Urachal cyctでググったらグーグル先生に怒られました(笑)
by bg (2007-09-18 16:37)
>bg様
ご指摘ありがとうございました。訂正させていただきました。
by 元なんちゃって救急医 (2007-09-18 18:56)