地雷番付表 [救急医療]
これまで、当ブログで、医療者が地雷的と感じる疾患をネタとしてさまざな記事を書いてきました。 本日は、何名かの医師の協力も得て、独断的ではありますが、地雷疾患の番付表を作成してみました。さて、ここで非医療従事者の方々のために、医療者が考える地雷疾患とは、どのような疾患をいうのかについて説明しておきます。
地雷 (ウィキペディアより引用)
地雷という語は、「うっかり踏むと爆発する・踏んではいけない」という連想から、色々な場面で「触れてはいけないもの」「禁忌」を表す喩えとして用いられる。巧妙に偽装され爆発するまで気付かない・仕掛けられてから長期間放置されていたものが突如爆発し、相手に被害をもたらすといった地雷の特性による喩えもある。
さて、この比喩の通り、患者さんが、ある自覚症状を訴えて病院へやってくるも、医療者側にとって、その疾患特性から診断や緊急治療が困難なことがあり、その結果、突然死として患者を失ってしまうリスクの高いの疾患のことです。しかも、昨今の、医療への過剰ともいえる安全・安心を希求する社会背景ゆえに、いったん悪しき結果が医療の現場で生じると、一転してあくなきまでの医療者の責任追及という形で、訴訟を代表とする医事紛争まで発展する可能性の高い疾患のことでもあります。
つまり、そのような疾患で患者を失うことは、患者側のみならず、医療者側にも大きなダメージを与えうる可能性があるのです。
こういう性質の疾患を「地雷疾患」という印象的な名称で、医療従事者の間で注意喚起を共有しておくことが、患者側、医療者側、双方のメリットとなってくれればというのが、ささやかながらのブログ主の願いでもあります。
さて、その地雷疾患の番付表です。 いかがでしょうか?
東 | 西 | |
横綱 | 肺血栓塞栓症(26点) | 大動脈緊急 (解離または瘤破裂)(24点) |
大関 | 急性冠症候群(心筋梗塞を含む)(18点) | 心筋炎(17点) |
関脇 | くも膜下出血(13点) | 急性虫垂炎(9点) |
小結 | 絞扼性イレウス(8点) | 急性喉頭蓋炎(5点) |
<方法>
各医師に30点の持ち点で、自分が地雷的と考える疾患を点数化してもらい、それを集計したものです。なおその際に、点数の絶対値のみならず、複数の専門の異なる医師が指摘しているということも重要な視点としました。例えば、一人の医師のみが20点とつけた疾患と、5名の医師が指摘しその合計が20点となる場合は、後者の方をより地雷的と判断し、ランキングは上としています。
<疾患別関連エントリーです>
肺血栓塞栓症 :
肺塞栓症という地雷、医者を欺く肺塞栓
大動脈緊急:
脳梗塞というふれこみ、「左肩痛」という地雷、尿路結石?に潜む地雷(その1)、 消化管出血に潜む地雷、答えは一つとは限らない、怖い失神(1)
急性冠症候群:
たった一枚の心電図、初回検査異常なし≠緊急性なし、AMIの転送を遅らせないために、看護師の機転が救った命、待ち時間に潜む地雷、妻の力にはかなわない、消化器疾患?実はAMI
心筋炎:
小児地雷:心筋炎の2例、たかが風邪なのに・・・、たかが風邪なのに(続編)
くも膜下出血:
警告出血、アルコール中毒という地雷、肺水腫をみたら、肺水腫をみたら(続編)、髄液検査の明と暗、怖い失神(2)
急性虫垂炎:
意外な虫垂炎、たかが盲腸、されど盲腸
絞扼性イレウス:
イレウスって悩ましい
急性喉頭蓋炎:
もっとも当たりたくない地雷
こうやって、自分のエントリーを整理してみると、やはり循環器系が多いですねえ・・・。 救急専属の時期以外は、循環器病棟業務が多かったですから・・・・。
もし、よろしければ、皆様の地雷疾患をお教えください。 コメント欄にいただければと思います。
あなたが考える地雷疾患ベスト3を挙げていたただればと思います。 その際に、ご自身のご専門などの背景もあると助かります。
中年男性が、タンスの引き出しを勢いよく引き出そうとしたら引っかかっていて開かず、反動で首を思い切り反ってしまい、後頚部を傷めた、と言ってすたすた歩いて救急受診。研修医が頚椎Xp撮影し異常ないから帰したいが、念のため確認してほしいと私をcall。Xpは異常なし、痛みも鈍痛程度とのこと。が、Xp異常なきことを本人に告げると、「いやー、私の母はくも膜下出血で亡くなったのでそれが心配で来ちゃいました。大したことなくてよかった。」とおっしゃる。何となく嫌な予感がして頭部CT撮影(看護師や技師にはえ~?この程度の人に撮るの?と嫌な顔されましたが)、立派なSAHでした。やはりSAHは怖いです。研修医には尊敬されましたが実は一番冷や汗かいたのは私でした。
ちなみに、まだ皮疹が出る前の、上肢の帯状疱疹は頚椎神経根症とそっくりなので(時に神経根症を示すsignも出てしまう)トラブルの元だなあ、と思います。
by Dr. Angry (2007-07-30 20:40)
>Dr. Angry 様
貴重なご経験をありがとうございます。いやあ、すばらしいですね。後頚部のシナリオのワーストは、SAH(特に解離タイプ?)ですよね。
患者の解釈モデルに引っ張られることなく、診療を遂行するのはとても難しいと思うのですが、お見事です。
ACSの触れ込みのひとが結局VZVであったことは私も数例経験があります。VZVのムンテラも現場で私はよくしています。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-30 21:53)
なんちゃって救急医様へ:とんでもない、冷や汗ものの偶然の危険回避だったんですよ!でも一応お誉めに預かりまして有難うございます。
ちょっと話が脱線して申し訳ないんですが、私最近このブログを見つけ、7/29?辺り(モンスターPt.の項)に初めてコメントを書かせて頂きました。
貴殿のこのブログ、我々医師がどれ程の理不尽なストレスと闘っているかを、時にコミカルに、時にaggressiveに展開されていて、共感することしきりです。是非続けて下さい!
また理不尽なクレーマーとの闘いのこともやって下さいね。自殺していった私の周りの若い医師たちのためにも。非医療者の皆様にも(マスコミが黙殺している)この異常な実態をもっと知って頂きたいですし。
応援してます。
by Dr. Angry (2007-07-31 12:47)
第一位 心筋炎
若い患者の発熱倦怠感。心電図とって全誘導でST上昇あり、あれよあれよとarrestからsterben。IABPかPCPS行えていればと今もトラウマ。
後から必ず「前医が風邪と誤診した」というクレームが来る。完全な地雷。
第二位 急性重症膵炎
若い男性飲酒後に腹痛。データー上もWBC、Amy軽度上昇程度。が、CTでpancreasの腫脹と腹水あり経過観察入院に。症状がそれほどでもなく平気なので、何故入院が必要なのか不思議そうな患者を横目に、胸部聴診音が悪化している事にハラハラしている私。そうこうしていると見る見るSaO2低下し呼吸不全。で、さっきまで軽口を叩いていた患者が人工呼吸管理に。初診時の臨床症状やデータからは想像できない全身状態の悪化が待っているので地雷。
第三位 急性上腸管動脈閉塞症
暑い時期に高齢者で見られる腹痛。単なる脱水からくるイレウスなのか動脈閉塞を伴うものなのか初診で区別困難。腹部症状も軽度腹痛とわかりにくい事が多い。造影CTが診断に有用だが、脱水が進んで腎機能が低下している例も少なくないので躊躇しがち。そして遅れることなく緊急手術へもっていかないと救命できないので地雷。
by doctor-d-2007 (2007-07-31 14:36)
>Dr. Angry 様
応援ありがとうございます。がんばりまあす。
(でも、今週は、更新きついかな・・・)
>doctor-d-2007 様
地雷投票ありがとうございます。
言われて納得、二位、三位ですね。たしかに、この両疾患もいつも私の引き算の対象疾患となっています。
by 元なんちゃって救急医 (2007-07-31 22:05)
こんにちわ。循環器疾患が並んでしまいましたね。ただ、自分にとってみれば他科の救急疾患の方がやっぱり怖いです。
by skyteam (2007-08-01 11:49)
>skyteam 様
コメントありがとうございます。ご指摘の件、私も思いました。専門外はほんとつらいですね。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-01 20:32)
3歳ぐらいだったかな。。
子供で
ぜいぜいしてくるしそうで
ちょっと吸入したらよくなって。。。
でも、なんだかおかしかったのでレントゲンをとったら
心肥大あり
急性心筋炎だったことがありました。
あとで考えても冷や汗ものでした。
by とおりすがり (2007-08-03 09:30)
「勤務医 開業つれづれ日記」中間管理職です。いつもお世話になっております。
私の恐いものは「看護師さん」、じゃなかった(笑)、
「急性喉頭蓋炎」
です。
ある日、救急外来で呼吸困難の患者さんがきました。
レントゲンで、胸はなんともないけど、CRP8台、かなり喘鳴感はある…。
念のため耳鼻科の先生を呼んだら、喉頭のレントゲンを見るなり、「ファイバー!!」と叫んで、大慌ての様子。
すると急速に呼吸困難が出現し、見ている側もビックリ。
耳鼻科の先生は、次の瞬間にはメスをのどに突き立てていました。
速攻トラヘルパーを入れ、あれよあれよという間に気管切開をしてしまいました。
術後、さわやかに耳鼻科の先生が、
「窒息しなくて良かったですね、中間管理職先生!
もし死んでたら裁判なら99%負けてましたよ」
という姿に後光がさして見えました(笑)。
急性喉頭蓋炎って、恐い。
by 中間管理職 (2007-08-03 17:38)
>とおりすがり様
コメントありがとうございます。ほんとうに小児地雷では一級品ですね。
大多数の軽症者から、これだけを抜き出すのはほとんど無理だと思います。
>中間管理職様
コメントありがとうございます。 耳鼻科の先生、いけてますねえ。
私は、正直これにあたったら、自信がありません。いちおう、JATECとかで練習はしていますが、実地経験がないのは痛いです・・・。
by 元なんちゃって救急医 (2007-08-03 21:08)