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ある怒りの電話 [救急医療]

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クレームというものはある。クレーム対応っていやなものだと思う。救急外来という場もその例外ではない。現場のスタッフ医師や看護師がその初期対応にあたる。当然、私もスタッフ医師の一人として、多くのクレームに対応してきた。クレームに対応するために、いくつかの本も読んだ。「社長をだせ」、「それでもお客様は神様ですか」、「断る技術」、「病院のクレーム対応マニュアル」などなど・・・・・・
突然のクレームは、私たちスタッフにとって、仕事上の地雷ではないかと思っている。

症例を提示する。

26歳女性  主訴 腹痛と頻回の水様性下痢

夜間の4時ごろ、一人で26歳女性が、時間外外来を受診した。 昨晩から始まった間欠的な腹痛と頻回の水様性下痢だった。虫垂炎の既往は中学2年のときにあるという。妊娠の可能性も否定。担当した研修医は、ウイルス性の腸炎と考えて対症的に点滴を行い、整腸剤の処方をして帰宅させた。 

同日の日勤帯の勤務はたまたま私だった。 電話が鳴った。

おい、おまえのところの病院はどないなっとんのや!!
効かん薬をだしたんかあ!!!

電話を取るや、いきなり男性の怒鳴り声・・・・・・。

「あの、ずいぶんとご立腹のようですね。もう少し事情を聞かせてもらえませんか」
まず事情を聞くのが、クレーム対応の最初の鉄則だ。

どうやら、夜間帯に妻が受診した(上記症例)ものの、いっこうに薬が効かずに、家事もままならないため、だんなの職場に電話をかけてきたというのだ。手のかかる小さな子どもが二人もおり、どうにもこうにもならないとのことであった。

だんなにしてみたら、病院をわざわざ受診をしていて、薬までもらっているのに、ちっとも症状が良くならないとは何事だ。薬を医者が間違えたのでないかとかんぐったようだった・・・・・・

そんなに怒鳴られてもねえ・・・・というのがこちらの心境ではあるが、

電話の途中にカルテも届き、それを見ながら対応する。カルテ記載上、まったく問題がない。医学的な対応としては申し分ない記載であった。
カルテを参考に病状説明もおりまぜながら、適当に相槌を打ちながら、相手の怒りのエネルギーを放散させた

時間にして10~15分程度であっただろうか? まあ、何とか収まり、事態は収拾した。

その後、担当した研修医を呼び寄せて事情を聞いてみた。
相手の家族背景までは、思考が及びませんでした。」
「薬がすぐ効かないなんて、当たり前だからわざわざ説明していません」

なかなか難しいかもしれない。しかし、患者の家族背景や社会背景を配慮に入れながら対応することは、こういうクレームを予防する第一歩となるかもしれない。 最近、私が、研修医達によく尋ねることがある。

「家族の状況は? 今だれと来てる? 家には誰かまってるの?」

小さな子ども抱えている患者には、積極的に
「育児のサポートは、大丈夫ですか?」
と私は聞くようにしている。

患者の家族背景を考えながら診療する・・・・・大事な側面だと思う。

最近出たばかりの邦訳版の本がある。ER・救急のトラブルファイル 監訳 太田凡先生  この本は、救急外来のトラブル事例から様々な教訓が述べられている本だ。大変勉強になる。この本のP11から引用する。

教訓 
救急医は、患者やその愛する人たちの心の状態に敏感でなければならない。要するに、彼らもまた”患者”であるということだ。

コメント一覧
・私もクレーム処理を考え「社長を出せ」と「社長を出せ、また来たか」といった本を読みました。ほかにも色々本がありますね。
・今日の「教訓」よいですね。「ER・救急トラブルファイル」という本、読みたくなりました。
written by ミチバ / 2007.05.14 22:29

頭痛くなりますね。こういうクレーム対応の仕事は、先生方救急医の仕事ではありませんよ。
自分は以前国立病院に長く勤務して、今、美容外科を標榜して開業していますので、このへんのことは、明確に見通せます。
この手のクレームというか、変な電話は、事務受付、庶務とかが、一次的に対応すべきです。先生のところは、国公立なのでしょうか?なんでも医者に押しつけようとする、公務員システムの甘さの一環です。
くれぐれも、こういうことに労力を取られて、気力体力の消耗することのありませんように。
written by moto / 2007.05.14 22:35
電話を取るといきなり怒鳴られるのって、本当にいやですよね。初診で一人で受診してきて家族背景を知るのは困難です・・・。TB送りました。

written by 春野ことり / 2007.05.14 22:56
(続き)うちのような美容外科では「お客様は神様です」ですが、先生方のような救急外来においては、先生方こそが神様です。その誇りを失っちゃいけません。誇りを奢りだと先生方に勘違いさせるような職場にいてはいけません。だんだん精神がおかしくなります。
もっとも、私の場合は、そういう職場で鍛えられたおかげで、今、よほどのことにも、ひとりで対応できるんで、何が幸いするかわかりませんけどね・・・
わたしが管理者だったら、救急外来の回線には、「こちらは救急外来です。緊急性の高い患者様のための回線ですので、手短に要領よくお話しください。なお会話はすべて録音記録されますのでご了承ください。」と最初にメッセージいれますね。勤務医の先生方、ボイスレコーダーなど、常に携帯して、会話をすぐに録音できるような体制にしておくといいですよ。いざというときに、役に立つかもしれませんし、録音していると意識することによって、自分自身の言葉も、冷静にわかりやすく話せるはずです。
・・つい熱くなっちゃいました。スミマセン。
とにかく、人間としての謙虚さは美徳ですが、医者が変に謙虚になると、かえってはなしがおかしくなります。
written by moto / 2007.05.14 22:57
私もまず相手の言い分を聞きながら、カルテにそのまま書き込みながら、心を静める努力をしています。
が、あまりにも相手の身勝手な話に、怒りでだんだん文字が大きくなってくる事もしばしばです(^^;
written by doctor-d / 2007.05.15 20:35
皆様、コメントありがとうございます。

クレームは精神衛生上よろしくないですよね。

どうしても初期対応だけは医師もやらないといけないと私は思っています。初期対応で鎮火できないものを組織ぐるみでの対応に切り替え、医師はそこから解放するというのが理想かなと思います。
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.15 22:19
ウィルス性の急性胃腸炎の患者に対して、ムンテラとして、多くの場合2~3日で治ること(長い場合短い場合についても)と、薬は大して効かないこと、がっちりした治療を希望するなら入院しかないこと、無理に食事をとらないこと、水分制限は好ましくないことを、素人はよくこんな勘違いをするという話を交えて(こんな簡単な病気でも素人は思い違いをしていることが多いということを理解させるための暗示を狙っています)私はいつも説明します。
クレームに対する対応は、権威が重要な医療においてどうかなとちょっと思います。各医療機関から匙を投げられたクレーマーが、私のところに来て散々論破されたあげく、ここまで話してくれる医者はいないと逆に定着するってことがよくある(3分の2くらい)んですよね。
written by 元行政 / 2007.05.16 12:56
アメリカでは電話がよく掛かってきますが、電話交換手からでコンサルト料を請求されますからこのような怒りの電話をしてくる患者は経験しません。TBさせて頂きました。

日本も患者から医師に繋ぐ時に交換手がお幾らです?とか言うと火に油を注ぐことになりますかね。(笑)

アメリカで本当に苦情があるなら弁護士を通してでしょう。
written by Tai-chan / 2007.05.16 23:27
元行政様

コメントありがとうございます。私も先生と同じような感じの説明をしています。同じですねえ・・・・・
written by なんちゃって救急医 / 2007.05.16 23:30

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クレーム処理 (天国へのビザ)
http://blog.m3.com/Visa/20070226/3

電話コンサルト (マイアミの青い空)
http://blog.m3.com/Neurointervention/20061226/1

打つ手なしでも有難う (マイアミの青い空)
http://blog.m3.com/Neurointervention/20070519/1

 


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